うぬ、できる男に労わりを
「どうやらカロリーナ嬢は、平民時代にあのお頭と呼ばれていた男と付き合いがあったようです」
宰相の報告に、私たちは驚きました。
「いくら平民だったとはいえ、どうしたら山賊と接点を持つ事になるのですか?」
ジアス様の問いに、宰相は歯切れ悪く答えます。
「それはまだ調べ中なので詳しくは分かりませんが、どうやら彼女は貧民街に出入りしていたようです。その頃の知り合いなのかもしれません」
それではカロリーナ様とは、古い付き合いとなりますね。
そんな昔から付き合いがあったとしたら、彼女の罪は今回だけではすまないかもしれません。
私は二人の馴れ馴れしい関係性を思い出します。
今までにも何かしらの犯罪を、山賊と行った可能性が出てきました。
「余罪はこれから調べますが、とにかくこうなった以上、修道院に送るだけではすまされません。また詳しい事が分かり次第、お知らせいたします」
「分かりました。護送は明日の朝になるのでしょう? 部屋は取ってあります。宰相もゆっくり休んでください」
ペコリと頭を下げる宰相に、ジアス様が労わりました。
なんてお優しいと、さぞ感動しているだろうと宰相を見ますと、とても胡散臭そうな顔つきをしています。
「……何ですか、その顔は?」
「はっ、すみません。思わず素が出てしまいました。疲れているみたいです」
疲れていたらそんな顔になるのでしょうか?
首を傾げる私と笑顔のジアス様に宰相は引きつりながらも「では、遠慮なく休ませていただきます」と、そそくさと部屋から出て行かれました。
余程お疲れなのでしょう。
宰相が部屋から出て行くと、急に眠気が襲ってきます。
ふわっと欠伸が出そうになるのを、必死で堪えます。
そんな私の様子に気付いたジアス様が、頭をポンポンと優しく触れました。
「お疲れ様です。皆疲れているので、出発は明後日にしましょう。明日はゆっくりしてください」
「よろしいんですか? 日程が大幅に狂ってしまいますよ」
「構いません。ここ数日の天候は変わりありませんし、急ぐ理由もありませんから。それに無理をすれば、どこかで支障をきたします。クレイン様はのんびりとお過ごしくださればいいのですよ」
ニッコリ笑うジアス様にキュンとします。
ご自分が一番疲れているはずなのに、皆に気を配られるジアス様はなんて立派な方なのでしょう。
見習わなければと思いながらも、やはり眠気には勝てません。
私が頷くと、ジアス様はお休みなさいと言って、サッと部屋から出て行かれました。
モナとリックにもお休みの挨拶を交わして、やっと私はふかふかの寝台に潜り込む事ができました。
はあ、本当に今日は疲れましたね。
翌朝、は起きれませんでした。私がちゃんと目覚めたのはお昼前です。
慌てて飛び起きましたが、モナはニッコリと笑っています。
「ごめんなさい。寝過ごしてしまったわ」
「構いませんよ。お疲れだったのでしょう。それにジアス様から、ゆっくり寝かせてあげてほしいと言われましたので」
「そうなの? ジアス様は?」
「早朝に宰相と共に山賊が捕まっている牢に行かれました。お昼頃には戻るそうなので、起きられたら昼食をご一緒しましょうと言付かっております」
「……………………」
ジアス様が立派過ぎて、自分の不甲斐なさが身に沁みます。
どうしたらあんなに己を律する事ができるのでしょう?
悩む私にモナがフフフと笑います。
「ジアス様と同じようになろうとしなくていいんですよ。ジアス様はきっと、クレイン様のために頑張っておられるだけでしょうから。甘えていいんです」
「でも、私何もしてないわ。殿下の時も今も、全て頼り切ってしまって情けない」
「何言ってるんですか。クレイン様に頼られて喜ばない男はいませんよ。ジアス様も一緒です」
リックは私の専属騎士だからそう思うのですよ、と力説するリックに眉を八の字にします。
「でしたら、お帰りになられたジアス様を労わってください。喜ばれますよ」
モナにそう言われて労うのは当然だと頷く私は、言葉だけでいいのだろうかと考えました。
すると外が騒がしくなったと思うと、部屋の扉を誰かが叩きました。
「クレイン様、只今戻りました」
ジアス様です。
返事をしますと、お戻りになったジアス様が室内に入ってきます。
「ごめんなさい。すっかり寝入ってしまいました」
開口一番、謝罪いたしますとジアス様は微笑まれました。
「よく眠れたのなら良かったです。カロリーナ嬢と一緒に居た山賊に話を聞いてきました。昼食の後にでもお話させていただきますね。お昼、食べられそうですか?」
「はい。あの、あの、その前に……」
「はい?」
私が下を向いてもじもじしますと、ジアス様がうっすらと赤くなります。
「こちらに寝てください」
「え?」
ドンッと思いっきり寝台の上へと、ジアス様に体当たりします。
しかし、しっかりとした体つきのジアス様には、私ごときの小さな体で体当たりしてもびくとも動かないどころか、そのまま抱き留められてしまいました。
普通に抱き着いたようにしか見えません。
「あの……」
困惑するジアス様にぷーっと膨れた私は、うんうんとジアス様の体を押します。
私の行動を不思議に思いながらも、リックが私に問うてきます。
「ジアス様を寝台に寝転がせたいのですか?」
「そう、な、の」
うんうんと押しながら、そうだと頷くと、リックはジアス様の足元をヒョイと引っかけました。
「え?」
パフンッ!
私と共に寝台の上に転がったジアス様は、疑問符を飛ばし続けます。
そうして今の体勢に気付くと、顔が真っ赤になりました。
仰向けで寝台に寝転がるジアス様の上に私が抱き着いて乗っかっている状態です。
うっ、私も恥ずかしくなりました。
慌ててジアス様の上から降りて、横に座りなおします。
「マッサージをさせていただきます」
私は腕まくりをするとジアス様の右腕を掴み、肩からにかけて揉み解していきます。
「何度か継母にさせられた事があるんです。意外と上手らしくて、この時だけは継母も何も言わずに大人しくしていました。ただ私は子供だったのであまり長くはもたなくて、途中で力尽きてやめてしまうと叩かれてご飯を抜かれました。フフ、何でも経験はしておくものですね」
上手でしょうと笑うと、ジアス様は驚いた顔をしたものの、黙って私の気のすむようにさせてくれました。
「……確かに、上手ですね。気持ちがいいです」
「本当ですか? 良かった。では反対の手もいいですか?」
「お願いします」
私たちの視界から消えたモナとリックは、扉の前で控えます。
「これは、あれですか? 先程の〔労う〕というのを形にしたものですか?」
「そうでしょうね」
「寝てもらう意味、あります?」
「小柄なクレイン様の力が入りやすいからじゃないですか」
「ソファで良くないですか?」
「……………………」
何やらヒソヒソと話していますが、一生懸命マッサージを行う私の耳には入ってきませんでした。
ただジアス様には聞こえているらしく、目を瞑りながらもうっすらと赤くなっています。
マッサージ効果で血行が良くなったのかもしれませんね。
満足した私がジアス様と食堂に向かうと、宰相が座っていました。
「おや、ジアス様、顔が赤くないですか?」
「あ、私のマッサージ……」
「いえ、気にしないでください」
宰相の疑問に私が答えようとすると、何故かジアス様が言葉を被せてきました。
どうしたのでしょうか?
やっぱり貴族令嬢がマッサージなんて、いけない事だったのでしょうか?




