表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白い結婚のまま、さようなら ~女好きな夫との離婚は決定事項です  作者: 白まゆら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/63

ぐっ、予期せぬ羞恥プレイ

 ふと、気が付くと寝台の横の床に正座で座り込むリックの姿がありました。

 ぬぼーっと俯いて座り込んでいたので、ビクッとなります。

『リック?』

 声が出ない口をパクパクと動かし、専属護衛の名前を呼びます。

 リックは「クレイン様、申し訳ありません」とさらに頭を下げてしまいました。


「専属護衛という立場にありながら、クレイン様をお守りする事ができずに、申し訳ございません」

 どうやらリックは私が攫われてしまった事に、深く傷付いているようでした。

 しかし、それは致し方がない事。

 私は城に行くのにリックとモナを、このロレント公爵家に置いていったのですから。

 ジアス様とロレント公爵、それに公爵の護衛もいましたので、あまりゾロゾロと城にお供を連れて行くのもどうかと思いましたので、今回は遠慮してもらったのです。

 それにモナとリックはいつも私の側に居て、ロクな休みもとらせてあげられていなかったのも一つの理由でありました。

 たまにはのんびりしてもらおうと思って取った行動でしたが、まさかこんな事になろうとは、誰も想像できませんでした。

 ですから、リックが謝る必要など全くもって、ないのです。


 私はリックに頭を上げてほしいと口をパクパクさせていましたが、リックは頭を深く下げていたので、声の出ない私の様子に気付く事ができませんでした。

 困り果てた私が眉を八の字にしていると、モナがペシッとリックの頭を叩きました。

「リック、クレイン様は貴方の謝罪など求めてはいませんよ。それよりもこれ以上、声が出ないクレイン様に負担をかけないでください」

 モナにめっと怒られたリックは、情けない顔で「すみません」と言いながら立ち上がりました。

 ホッとした私は、身振り手振りであの後どうなったか教えてほしいとお願いします。

 するとモナのお顔がスッと無表情に変わりました。

 驚いてリックを見ますが、視線を逸らされます。


「フフフ、クレイン様があの汚物を気にする必要はないのですよ。それよりもお腹はすきませんか? スープや果物など用意しましょうか?」

 モナはすぐに笑みを浮かべましたが、その額には何本も青筋が浮かんでいます。

 これは、かなり怒っているようですね。

 モナは高位貴族の侍女として礼儀を弁えた立派な淑女です。その彼女が一国の王子を汚物と呼ぶなんて、これは相当お冠なのでしょう。

 ですが、私の身に起きた出来事なのです。知らないでは済まされません。


 ジッとモナを見つめていると、彼女は諦めたようにハアッと大きな溜息を吐きました。

「本日はあれから三日経っています。クレイン様はその間ずっと目を覚まされなかったのですよ。今、ロレント公爵とジアス様が王宮で話し合いをされていますので、帰られたら詳しく説明してくださいます。ですので、もう少しお待ちいただけませんか?」

 どうやら後ほどロレント公爵とジアス様から説明をいただけるようです。

 それならば、と私はコクリと頷きました。

 ですが、あれから三日も眠り続けていたというのには驚きです。

 想像以上に心身に負担をかけてしまったのでしょうか?

 これはモナの言う通り、何事もゆっくりと行動した方がいいかもしれませんね。


 その後、温かいスープと甘い果物をいただいた私は、声が少しばかり出るようになりました。

 これでジアス様がお戻りになられたらお話しできますね。

 私が目を覚ました事を聞きつけたロレント公爵夫人もお部屋に来てくださり、私の元気な様子に安堵してくださいました。

 ロレント公爵家のメイドにお風呂に入れてもらったり身支度を整えてもらったりと、至れり尽くせりしていただいていると、公爵とジアス様がお戻りになられました。

 楽な部屋着に着替えていた私は、お二人がお待ちの応接室にすぐに行こうとしましたが、そこへジアス様が現れました。


「クレイン様……良かった。お目覚めになられたのですね」

 強張っていた表情が私の姿を見た途端、ふにゃっというように緩まりました。

 私の頬は一気に赤く染まります。

 そ、それは反則ではありませんか。

 頬を押さえて俯く私に、ジアス様が近寄ります。

「顔が少し赤いようですが、まさか熱があるのではないですか?」

 そっと額に手を差し伸べて、熱を測ろうとします。

 いや、いやいやいや、待ってください。今触れられると、なんか色々とヤバいです。

 私は慌ててその仕草を遮ります。

「大丈夫です。これはちょっと、暑かっただけで、すぐに治まります」

「……声が、掠れていますね。まだ本調子じゃないのかも。ロレント公爵夫妻にこちらに来ていただきましょうか?」

「そんな失礼な事はできませんわ。私なら大丈夫です。夕食もご一緒したいですし」

「分かりました。では失礼」


 そう言ってジアス様は寝台にいる私を、ひょいと抱きかかえました。

 膝裏と背中を支えて、スタスタと歩きます。

 ひえええぇぇぇ?!?


「ま、や、ジアス様!」

 待って、やだ、降ろしてください、ジアス様! と言いたいのですが、あまりの驚きに言葉になりません。

 後ろでモナとリックがニヤニヤ笑っています。公爵家の使用人たちも生暖かい目で見守っています。

 やめてー、なんかその顔、滅茶苦茶、嫌です~。

 あまりにも驚き過ぎたのか、内心ではあたふたしているのに私の表情筋は死んでしまいました。

 スンッと無表情になる私に、ジアス様はそれは具合が悪いからと思われたようで、ますます心配されます。

 応接室までの道のりがやけに長く感じられました。



 ジアス様に抱えられて現れた私たちの姿を見たロレント公爵夫妻は、一瞬キョトンとしていましたが、すぐにニヤリと口角を上げました。

 その表情を見てチーンと魂を飛ばす私を、そっとソファに優しく降ろしてくださるジアス様。

 いえ、ジアス様が悪いのではありません。全て不甲斐ない私の所為です。

 ジアス様は当然のように横に座ると、私が疲れないようにとクッションを整えてくれます。

 至れり尽くせりです。ううぅ~。


「夕食までには、まだ時間がある。話をしてもいいかな?」

 ロレント公爵がそう訊ねてくださったので、私はコクリと頷きました。

 さっさと本題に入り、食堂に行きましょう。その時には自分で歩いて見せます。ええ、今の記憶を全て上書きいたしますとも。ささ、お話をどうぞ。プリーズ。

 メイドがすぐにお茶の用意をして、部屋を立ち去ります。

 部屋にいるのはロレント公爵夫妻とジアス様、そして私とモナとリック、執事長と侍女頭だけになりました。

 ロレント公爵はコホンと咳払いをして、説明を始めます。


「まずはクレイン嬢、申し訳なかった」

 突然の公爵の謝罪と共に、部屋にいる全員がいきなり私に頭を下げました。

 え、何事?

 隣にいるジアス様まで頭を下げています。

 驚いてワタワタと慌てる私に、公爵が頭を下げたまま説明してくださいました。

「今回の件は一緒に居たのに離れた、私の責任だ。城は安全だと思い込んでいた。護衛もいるしとカミュウ殿下と二人、見送った。その結果、クレイン嬢には怖い思いをさせてしまった事、誠に申し訳ない」

 どうやら公爵は私から離れた事を謝罪されているようです。


「そんな、あれは仕方がありません。殿下が、いえ、ソックス様が監禁されているはずの殿下を逃がしていたなんて、誰も想像できませんでしたから」

 そう、あれは完全に不意を突かれたものです。

 あの時は元夫もクラウディア様も監禁されていて、カロリーナ様は実家に帰って城にはいなかった。

 そして護衛騎士もちゃんといましたし、庭園での人払いもされていました。

 安全を確認した上でのカミュ殿下の最後の願い。

 それを公爵やジアス様が拒否できるはずもないのです。


「頭をお上げください。誰も悪くはないのです。しいて言うのなら、ソックス様の忠義心を甘く見ていただけの事です」

 そう言った私に、全員がのろのろと頭を上げました。

「お気遣いありがとう。確かに君の言う通り、ソックス・バックレスの忠義心があれほど強い物だとは思わなかった。彼はカール殿下の乳兄弟であるが、殿下の行動にはいつも眉を顰めていたからな。まさかクレイン嬢と引き合わせるなんて愚行を犯すとは思わなかった」


 ロレント公爵の説明で、ソックス様が元夫の乳兄弟だと初めて知りました。

 まあ、元夫の身辺なんて興味もなかったですからね。

 ソックス様も私とは、あのアッハンウッフン現場以降、積極的には関わってこなかったですしね。

 しかし乳兄弟となると、彼はどれほど昔から不運だったのでしょう。

 同情に値しますね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ