ほほぅ、対照的な二人
「え、どうしてカール様が城を出なくてはいけないの?」
カミュウ殿下と二人で説明しにカロリーナ嬢の部屋に訪れた私は、まず彼女の奇抜な服装に目を見開いた。
ここはカール殿下が与えたカロリーナ嬢の部屋。
最初はカール殿下の部屋に入り浸りだったのだが、流石に邪魔になったのか殿下が王族の居住区に部屋を与えようとしたため慌てて止めた結果、それならばと城でも一番良い客室を貸し与える事になってしまった。
そこに好きな物をバンバンと運び込み、こちらが気が付いた時には部屋中がピンクの異様空間となり果てていたのだ。
カミュウ殿下と共に目を押さえる私は、ピンクのクッションだらけのピンクのソファに座りながら、ピンクのドレスに身を包んだ、ピンクのリボンを髪やドレスにこれでもかと巻き付けたカロリーナ嬢と対面した。
そこでクレイン様の部分は飛ばしてカール殿下の今後の話をしたのだが、カロリーナ嬢はキョトンとした表情で事の重大さを全く理解しなかった。
「ですから何度も申しました通り、カール殿下はエイワード国に無礼を働き続けていたのです。その結果、今回の処分となりました。これは日頃の行いの結果です」
「そう。仕方ないわねぇ、カール様も。それで、いつ頃戻って来るの? 一か月後? それとも二か月後?」
「……話を聞いておりましたか? 謹慎ではないのですから、このままそちらで暮らす事になります」
「え、どうして? カール様は王太子よ。王太子が城に居なくてどうするの?」
「ですから……」
カール殿下以上に話が通じない。
王太子ではなくなったと何度言っても伝わらないのだ。
頭を抱える私に、カミュウ殿下がキッと眦を上げた。
「君はわざと分からないフリをしているのか? 兄上は馬鹿な事をして、もう王族ではなくなったのだ。だから城から出る。君も早くここから出て行け」
「え、待って待って。どうして私までここから出なくてはいけないの?」
「君は兄上の愛人だろう。相手がここに居ないのに、居座るつもりか?」
「じゃあ、貴方の愛人になるわ。そうしたら、ここに居ていいのよね?」
「「は?」」
カロリーナ嬢というのは、一体どういう思考の持ち主なのだろう?
先程クラウディア嬢にも話をしに行ったのだが、彼女は早々に自分の状況を理解していた。
その上で、ついて行く事を決めたのだ。
「今更、カール様と離れても私には何も残らないわ。この年ですもの。カール様が他の愛人を次から次へと作っているのに、私が何も思わなかったと思う? それでもこの年でカール様に捨てられたら、もう私には帰る場所もないのよ。実家はもう没落寸前だもの。それが分かっていたから何も言わなかった。ある意味、これでカール様は私一人のものになるかもしれないわね。あの小娘が本気で不便な土地に行く彼に、ついて行くとは思えないもの」
そう言ったクラウディア嬢は諦観していた。
とっくに諦めていたのだろう。自分の人生を。
「少し前に、侍女から聞いたわ。あの女、カール様に色々物を強請っていたようね。同じ愛人なのに、このところ私には何もくれなくなっていたわ。部屋に呼び出される事すら減ったのよ。カール様は自分の服を我慢してでも、あの女に服を買っていた。前の私ならそんな話を聞いたら怒りに身を任せて、あの女を殴りに行っていたわね。けれど、もうそんな事すらどうでもよくなっていたの。賞味期限の切れた女がどうすれば一人にならずに済むか。それは諦めてカール様の側に居るしかないという事だとね」
寂し気に微笑むその姿は、以前の男の欲を一身に受けていた女性とは思えないほど弱々しいものだった。
「罰が当たったのよね。カール様の相手は十二歳のお子様だと。あんなガキから男を奪うのなんて簡単だと私は安易に手を出した。だけどその子供が年を取って美しくなれば、私は反対に年を取って醜くなる。十二歳も離れているのだもの、当然よね」
今度はクレイン様に対する気持ちを吐露している。
そして、ふっと口元に笑みを浮かべた。
「それに、この場所は簡単なものではなかったわ。王太子妃という重圧も、カール様という女好きの夫に対する嫉妬も、価値のない女に対する周囲の無関心という恐怖も、言い表せられない負が萬栄している。こんな場所にあの子は二年とはいえ、子供の身でよく我慢していられたと心底感心したわ。だって私には無理だったもの。だからある意味、カール様がこうなって私はホッとしているの」
彼女の表情からは強がっている訳でもなく、本気で安堵しているのが分かった。
「我が城は、そんなにも居所の悪い場所だったのか……」
クラウディア嬢の部屋から退出したカミュウ殿下が青い顔で呟いたが、私は聞こえないフリをした。
何をどう言っていいのか分からなかったからだ。
確かにクレイン様が困っていたのを、私は知っていたにも関わらす手を差し伸べなかった。
処遇を変えたのは、彼女が実は力のある令嬢だという事が分かってからだ。
そんな私だから、力のないクラウディア嬢にも手を差し伸べなかった。
体でカール殿下を篭絡したのだから自業自得だと思って……。
これも、私の罪の結果だろう。
クラウディア嬢は、半ば想像通りカール殿下について行くと言った。
では、もう一人の愛人カロリーナ・ナロス男爵令嬢はどうするのか⁉
彼女も一緒について行くのならば、クラウディア嬢も気の毒にと、その時は少しばかりの同情心もあった。
だが蓋を開ければ、カロリーナ嬢はあっさりとカール殿下を捨てて、カミュウ殿下に乗り換える発言をしたのだ。
目を丸くするカミュウ殿下の座るソファの肘掛けに、カロリーナ嬢は尻を置き殿下の体にまとわりついた。
まだ十四歳の少年とも呼べる王子に、兄の愛人であった二十歳の女性が身を寄せてきたのだ。
カミュウ殿下の顔色が変わる。
「まあ、カミュウ様ったら初心で可愛い。そんなに照れなくてもいいのよ。お姉さんが色々と教えてあ・げ・る♡」
フフッと笑って自分の胸を押し付けるカロリーナ嬢にカミュウ殿下は……キレた。
「離せ、この売女! 気持ちが悪い‼」
「きゃっ!」
ブンッとカロリーナ嬢を腕で払いのけ、その勢いのまま立ち上がる。
ソファから転げ落ちたカロリーナ嬢は、ドスンと盛大に尻もちをついた。
「お前の何が良くて、兄上は王太子妃の予算まで貢ごうとしたのか分からない。お前などクレイン様の美しさの足元にも及ばないし、クラウディア嬢のスタイルにも及ばない。頭も悪いし育ちも悪い。性格は尻軽ときてる。ああ、もう本当に何が良かったのか心底分からない」
頭を抱えるカミュウ殿下に、カロリーナ嬢は呆気に取られた表情をする。
うむ、十四歳の潔癖君にはこういう痛い女性が良いという男の気持ちは分からないだろう。
私は冷静にカミュウ殿下に返答した。
「甘え上手だったのでは?」
「それならクラウディア嬢もそうだろう⁉」
キッと眦を上げて睨むカミュウ殿下に、私はノンノンと人差し指を横に振る。
「いえ、あの方は年上なので甘えさせていた方ではないかと」
「その方がまだマシだろう。それは心の安らぎを与えてくれる。だが頭の悪い女が甘えてきて何の需要があるというのだ? 鬱陶しいだけだろう」
「まあ、そこはもう少しカミュウ殿下も大人になれば分かるかもしれませんよ」
「一生分からなくて結構だ!」
「ちょっと、それって恋愛談議に見せかけて、ただ単に私を馬鹿にしているだけでしょう!」
カロリーナ嬢が気付いた。
うむ、そういう事は理解できるのか。




