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白い結婚のまま、さようなら ~女好きな夫との離婚は決定事項です  作者: 白まゆら


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うぐぐ、それぞれの反応

「宰相、ロレント公爵家へ出向いて詳細をクレイン嬢に伝えて来てくれ。あやつの愛人たちにも説明を」

 陛下に命令されたので頭を垂れようとした私の前に、カミュウ殿下がスッと手を上げた。

「父上、その役目、私ではいけませんか?」

「愛人たちに会いたいのか?」

「そちらではなく、クレイン様の方です」

 陛下のボケた発言にムッとしたカミュウ殿下ではあったが、その意図は何となく皆が察した。

 夫であるカール殿下がこうなった以上、クレイン様がこの国に縛られる必要はない。

 説明したと同時に、母国に帰ってしまう恐れもあるのだ。

 クレイン様に淡い恋心を抱いている殿下が今一度、会いたいと願うお気持ちも分かる。


 生暖かい目で見守られるカミュウ殿下に、陛下の眼も優しくなる。

 だが、それに厳しい言葉を投げつけたのは王妃だ。

「カミュウ、兄の二の舞を踏むつもりではないでしょうね⁉」

「わ、私は兄とは違います!」

「では、貴方はクレイン様のお気持ちを少しでも得ているのかしら? この国に留まっていいと思うほどに。その可能性があるのならば、宰相の代わりにロレント公爵家へ行く事を許します。得ていないのならば、このまま諦めなさい。会っても辛い思いをするのは貴方なのですよ」

「で、ですが、こんないきなり会えなくなるとは思ってもいませんでしたから……」

「何を言っているの? 彼女は四年も前から国に帰ると豪語していたでしょう。諦められない気持ちがあるのなら、どうして今まで行動しなかったの? 今更ジタバタしても遅いのです」

 十四歳の子供に容赦のない母。


 唇を噛み締めるカミュウ殿下を見かねた私は、つい王妃に苦言を呈した。

「恐れながら申し上げます。カミュウ殿下は聡明なお方です。いくらカール殿下とは形だけの夫婦だったとしても、兄の妃であるクレイン様にあからさまに思いを打ち明けては醜聞になると我慢されていたのです。王家が兄弟で醜聞を広げる訳にはいきません。それにカミュウ殿下はまだ子供です。手練手管の成人男性のように口説けません」

 私の言葉に重鎮たちが、うんうんと頷く。


 だが、それにも王妃の一喝が飛んだ。

「周囲を気にして大胆な事が出来なかったと言うのであれば、それは本気ではなかったという事です。我が国の王族なら欲しい物は奪ってでも手に入れなさい。それが王という者です」

 いや、絶対に違う!

 全員が内心でそう突っ込みを入れただろう。

 その思考はカール殿下と似ているのでは?

 半眼になる私たちは、間違いなくカール殿下は王族の子だと認識した。

 まともな思考の持ち主であるカミュ殿下が哀れになる。


 そこへ陛下がコホンと咳払いをした。

「王妃、それは些か乱暴だ。カールと違ってカミュウは思慮深い性格だ。己の立場やクレイン嬢の立場を考慮した上で、己のできる範囲で接していたのであろう。年下という事でクレイン嬢には気付いてもらえなかったかもしれないが、それでも間違いなくこの国で唯一彼女に思いとどまらせる者がいるとしたら、それはカミュウだけだ」

 どうやら陛下には、カミュウ殿下の気持ちと行動は筒抜けだったらしい。

 陛下はカミュウ殿下に視線を向けた。

「カミュウ、宰相と一緒にロレント公爵家へ行くがよい。クレイン嬢を引き留めるなら、それ相応の覚悟で伝えよ。ただ一目会いたいだけなら、気持ちを整理してこい」

 そう命令した陛下の表情は、とても穏やかだった。

 カミュウ殿下はコクリと頷く。

「お心遣いに感謝いたします」




 翌日、私はカミュウ殿下を連れてロレント公爵家へ向かう事になった。

 そしてロレント公爵家へ到着した私たちが目にしたのは、ジアス様との距離が近いクレイン様の可愛らしいお姿だった。


 応接室に通された私とカミュウ殿下が座るソファの前に、ジアス様のエスコートで現れたクレイン様は、城では一切身に着けなかったオレンジ色のドレスを纏っていた。

 それだけでも優しい雰囲気になるが、サイドに寄せて緩めに結んでいる髪型は顔の輪郭をハッキリとさせ、クレイン様の美しい顔を隠す事無く晒している。

 そして何より、クレイン様自身がここに居て安堵した様子がハッキリとうかがえるのだ。

 城から出てカール殿下や使用人などに会う心配がなくなり、信頼できる者だけが側に居る空間に、クレイン様の本来持っていた柔らかい美しさが現れているのだろう。

 私たちは、これほどまでに可愛らしい少女から感情を奪うほど無理を強いていたのだと、改めて自責の念にかられた。


「わざわざお越しくださり、ありがとうございます、カミュウ殿下」

 ジアス様の紳士の挨拶に合わせて、カーテシーをとるクレイン様。

「宰相、報告に来てくれたのでしょうか?」

 そう言って微笑むジアス様の横で、クレイン様が私を見た。

「ご苦労様です」

 ニコリと微笑むクレイン様に、ああ、もう彼女は他国の人間なのだと急速に理解した。


 当然のようにジアス様と二人掛けのソファに腰を下ろす様子に、カミュウ殿下が青い顔をする。

 ああ、可哀想に。

 これならば、王妃が言ったように連れて来なければ良かったかもしれない。

 私がチラリとカミュウ殿下を見ていると、先に席についていたロレント公爵が口を開いた。

「カール殿下の処分は決まったのかな?」

 こちらの気も知らないで、ハッキリと口にするロレント公爵にジト目を向けそうになったが、これ以上粗相をする訳にはいかないのでグッと堪えて報告を始めた。


 まず、カール殿下は廃嫡の上、王都から離れた小さな領地の伯爵位を授かり、そこにクラウディア嬢もついて行く事になったと話した。

「なかなか思い切ったな」

 ロレント公爵がニヤニヤと笑いながら、私に話しかける。

 ふん、当然だと思っているくせに、そんな事を口走るな。


 ロレント公爵とは昔から気が合わない。

 奴は地位も名誉も全てを手にしていながら、何故か中枢から離れているのだ。

 王都に屋敷があるにも関わらず政には口を挟まない。

 豊かな領地の経営だけで、高みの見物のようにこちらを見ている。

 だが、決して隠居している訳ではない。

 ちゃんと高位貴族との繋がりは保ち、発言権はしっかりと手にしている。

 必死で宰相職に食らいつく侯爵位の私とは違うのだ。


 半眼になりつつも、伝える事だけは伝えないと来た意味がないと私は言葉を続けようとした。

 だがその前に、クレイン様がコテンと首を傾げた。

「一緒に行くのはクラウディア様だけですか? カロリーナ様は?」

 その質問に、カミュウ殿下の眉間に皺が入った。

「あの人は……普通じゃない」

「え?」

 カミュウ殿下の呟きに目を開くクレイン様。

 ジアス様と首を傾げ合う姿も、様になっている。

 カール殿下ではないけれど、二人の仲を疑ってしまう。

 それほどまでに、二人が寄り添う姿はしっくりしているのだ。


 そんな二人の姿に見て見ぬフリをして、カミュウ殿下が苦虫を嚙み潰したような表情で答える。

「彼女は、兄上の話をすると次に私に狙いを定めた」

 驚く二人とニヤニヤ笑いを続けるロレント公爵。

 ああ、こんな話をしなければならないなんて本当に嫌になる。

 だが、カロリーナ嬢というのはクラウディア嬢よりも桁違いに質が悪かったのだ。

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