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ユリカは覇道を目指す!  作者: 名切沙也加
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第28話 魔女裁判

いよいよ魔女裁判が始まります!

   第28話 魔女裁判


 ラムゼリア王立魔法学院第二体育館。一見すると大きな教会であるが、そこは体育館でありながらラムゼリア建国の父とも言える大魔王アーク・ラッセル・サタンを祀る神殿と言えるものでもあった。


 そして今行われているのは月に一度の魔王召喚の儀式。今はその目的は形式上であり、実際はこの儀式により月の内部にあるマナの総量を推し量るということがメインの理由となっている。

 が、その儀式によって魔王サタン、つまり俺がユリカの姿のまま召喚の魔法陣の真ん中に現れてしまったのだ。

 俺は魔法陣のすぐ横でその儀式を見守り、さらに言えば魔法陣の間違いを訂正していたので移動距離はわずか1メートルといったところだろうか。


 突然、魔法陣の真ん中に現れた俺を見て召喚儀式を行なっていたソフィアを除いた5人が驚きローブを取る。

 いずれもかなりの美少女であるがその中でも特に美人で気の強そうな少女が俺を睨みつけ、


「魔王召喚の神聖な儀式を愚弄する不届きものでしょうか。すぐに魔法陣から退散しなさい!」


 俺は強い口調で咎められる。いや愚弄も何も俺自身が魔王なので普通に召喚されただけなのだが今の姿では納得してもらえないだろう。

 アスモデウスであるソフィアはこの状況をすぐに理解したようで、


「ええっと、ユリカ。どう説明しましょうか」


 そのユリカというソフィアの言葉にすぐに気の強そうな少女は反応する。


「ユリカ? つまりあなたは花菱ユリカなのですね。先ほど学院内メールで確認しましたが、今回の魔女マーベラ討伐の責任者ということになっていましたね。こんなか弱そうな女の子で大丈夫なのでしょうか。それに大事な儀式を台無しにする暴挙。この私、この国の王女であるレイア・ミトス・ラムセスが許しませんわ」


 ソフィアも黙っていない。


「レイア、このユリカ様は大魔王サタンの生まれ変わりなのです。信じてもらえないでしょうが今はこの姿となっているのです。むしろあなたの方が無礼ですわ」


 生まれ変わりも何も、このユリカの姿でも大魔王サタン本人なのだが。


「信じるわけがないでしょう。魔法陣を手直しするとか言っておそらく自分の名前を書き込んだのでしょう。大魔王サタン様を騙る詐欺師としか考えられません。さらに言えば魔女マーベラのスパイかもしれませんわ。この行為はこの国において重大な罪と考えられます。これより魔女裁判を申請します。覚悟しておきなさい」


 証拠となる魔法陣は強大なマナの集積によってふき飛んでしまった。証拠となるものは何もない。

 儀式が台無しにされたと思い込んだレイアを含めた5人の少女たちは急ぎ足で体育館を去っていった。


「困ったことになったわね。私の妹のレイアは意固地で私に対するライバル意識が強すぎるのよね」


 ソフィアによると本来であればレイアが次期女王になる予定であったとのこと。何でもソフィアは現女王が転移ゲートで地球に行った際に身籠った子で、父親が誰であるかは解らないのである。それに対して妹のレイアはこの国の公爵令嬢であるカリナ姫との間に出来た子で法制上はレイアの方が王位継承権があるはずだった。が、現女王であるアステリアが法律を変えてしまったのである。


「レイアの差金で私、ソフィアは最前線に送られ重傷を負ったという経緯があります。本来であれば重症どころか死に至っていたのですがアスモデウスの精神体が憑依することで死を免れました。レイアにしてみれば計画一歩手前で阻止された悔しさもあるのでしょう」


 複雑な人間関係にちょっとドン引き。まるでどこかのチープな権力ドラマである。


「アステリア女王の現在の伴侶は女性の方なのですね。月でも女性同士の婚姻はかなり進んでいるのですね」


 この月世界では今は女性同士の婚姻も認められている。アステリア女王は周囲の圧力もあり公爵家からカリナ姫を娶ったとのことである。


「ここではX染色体を交換することでお互いの卵子を受精卵と同じ状態にする魔法が開発されたのです。これが今から百年前のことですね。精子バンクだけでなく今ではこの方法が一般的になりつつありますね」


 現在の地球でも急激に男性の数が減りつつあり、今では女性同士での結婚が普通になりつつある。しかも染色体の交換による擬似受精卵による受胎の技術もすでに開発されている。人類の考えることはどこでも一緒なのだろう。ただそれが科学的な方法か魔術的な方法かの違いによるだけだ。


 俺たちが体育館を出ると十名ほどの女性警察官が待機しており、そして俺たちは拘束されてしまった。


 王宮内の地下にある小部屋。そこに俺は今、監禁されている。ちょっと高級なホテルのシングルルームといった感じた。窓がない点を除けばまさにそのものでちゃんと小さな冷蔵庫にシャワールームとトイレもある。冷蔵庫の中にはミネラルウォーターがあったので喉を潤す。すでに監禁されてから五時間が経過している。


 この部屋には魔法により魔力封じの結界が施されているが俺の魔力なら簡単に打ち破ることができる。が、今は様子見だ。とりあえず情報を収集、分析して最善の方法を見出すこととする。


・・・王女レイアの正体も見極めないといけないし


 地下のためかWi-Fiも通じないが俺の脳内に構築した量子もつれ通信によってメリダに連絡をとる。

 メリダによると大魔女マーベラ討伐作戦は順調に進んでいるようだが、俺ことユリカはなんとマーベラのスパイの嫌疑をかけられているとのことだ。すでに俺の代わりにバックアップ要員として三島遥香をこちらに派遣しているとのこと。遥香は俺の眷属でもあるのですぐに今回の作戦の概要を俺の脳内と同期して指示を出した。


「これでしばらく私がいなくても作戦は順調に進みますね。にしても今回の件は解せませんね。私からすればレイア姫の方がよほどマーベラのスパイとしか思えないのですが」


 メリダに愚痴とも言える感想を漏らすが、


「やはりユリカもそう思いますか。どうやらマーベラの手のものは王宮内にもかなり浸透していると思われます。気をつけてください」


 魔女裁判は翌日に行われることとなった。俺を第二体育館に案内したソフィアは騙されて案内したとして罪は不問とされていた。何気に王族には甘いのはどの国でも一緒だ。

 その日の夕食は硬いパンに塩辛い野菜スープのみ。流石に食事は囚人並みであった。


 翌日。

 パンケーキにミルクだけの簡単な朝食を摂ると王宮の刑務官らしき者が来て午前9時から魔女裁判が開始されることを告げられた。 

 俺はショーツとスリップのみという下着だけの姿に手枷足枷で王宮の近くにある広場に引っ張られてきた。


 すり鉢状になったその広場の中央には直径2メートルはあろうかという大きな釜が据えられており中でグラグラと湯が煮えたっているのがわかる。釜の下には火の気がないのでおそらく魔法で湯を沸かしているのだろう。


 周囲には大勢の観衆がおり数千人規模であることがわかる。貴賓席らしきところには女王アステリアとレイア姫にソフィア姫。特にレイアは厳しい表情で俺を見つめている。広場の周りには4台のテレビカメラがあるのも見える。この様子はどうやらテレビ中継もされているようだ。あまり娯楽のない世界なのでこれも一つのエンターテイメントなのだろう。


 王宮にある時計台の鐘が午前9時を告げる。

 金の縁取りのある白装束に頭巾を被り金と銀の鎖を斜めがけにしている裁判官らしき人物が魔女裁判の開始を告げる。


「これより、大魔王サタン様を騙る不届きものの魔女裁判を開始する。地球より来訪した花菱ユリカ。罪状はすでに告知した通りサタン様に対する不敬罪、および冒涜罪並びに王族唆訴罪。この者が三つの試練を無事乗り越えれば大魔王サタン様の祝福があったとされ無罪となる。まずは伝統に則り釜茹での試練である。偉大な魔力の加護を賜っているならば問題なくクリアできるはず。さあ、吊るせ!」


 大魔王サタン様の祝福か。つまり俺自身が俺に祝福を与えるということだ。ならば盛大に祝福を与えよう。


 小型の台車に載ったクレーンが釜のすぐ横にあり、俺は紐で括られるとクレーンで吊り上げられた。この後、釜の中で茹でられるのだろう。かの石川五右衛門と同じである。普通の人間であれば一分とたたずに絶命するだろう。

 俺は貴賓席の方を見る。ソフィアはアスモデウスである。俺が大魔王サタンであるのが判っているのか特に表情に心配した様子はない。それどころか俺が両腕を釣り上げられ、おへそがあらわになるとクスリと笑いやがった。うん、後でお仕置きだ。

 アステリア女王は少し不安な表情。そして特筆すべきはレイア姫。ニヤリと笑う。


・・・あ、何か仕組んでいるな


 案の定、釜には魔法封じの結界が張られている。しかもかなり強力だ。この月世界の魔女レベルでは到底解除不可能な魔力による結界。ますますレイア姫が怪しくなってくる。


・・・魔力封じの結界が釜の中の湯にだけかけられている。釜自体はその結界がない。つまり高度な魔法技術を持った者がこれをかけているということか。これはちょっと厄介だな


 グラグラと煮えたぎる熱湯の上にぶら下がる俺。湯気だけでもかなり熱い。いや、これはもう火傷するレベルだ。俺は瞬時に体の周りに熱遮断の結界魔法を発動するがすぐにキャンセルされてしまった。やはり魔力封じの結界はお湯、さらにその蒸気にもかかっている。これはこの世界の魔術レベルを凌駕するものだ。


 クレーンが徐々に下げられていく。湯気と俺の汗でスリップとショーツが肌にピタリと張り付きかなり恥ずかしい状態だ。ブラをしていないので乳首までクッキリと解る。が、幸いにもここには女性しかいない。


・・・恥ずかしさも半分程度か、って何げに乙女な俺だな


 俺の足先は湯に浸かる寸前となる。ならばと結界ごと分子振動停止の魔法を発動する。そこには魔力振動停止の魔法もブレンドしておく。魔力封じの結界は同時に停止したようだ。


 釜の中のお湯は分子振動停止とともに瞬間的に氷となる。俺はその上に着地する形となった。もちろん身体強化の魔法も発動させている。足の裏に落下の衝撃とちょっとした冷たさを感じるが何事も起こらなかった。


 俺は魔法パントリーから取り出したアトレリア女学院の制服を下着の上に顕現させる。ものぐさな俺は衣服を瞬時に纏う練習をしていたのだ。ものぐさも時には役に立つ。これで下着姿の恥ずかしい状態から解放された。


 周囲からおおーという歓声が鳴り響く。見事に第一の試練をクリアしたのだ。王女レイアの悔しそうな表情。俺は地上に降り立ちドヤ顔でレイアを見返す。だがまたそこで不適な微笑み。そして裁判官から次の試練が宣言される。


「見事な対処であった。大魔王サタン様は今のところ祝福を与えていると思われる。では次の試練である。八つ裂きの試練。用意を」


・・・大魔王サタン様の祝福はしっかりと効いているぞ、って周囲にアピールしたけど自分自身で頑張っているだけだがな


 釜茹での釜には台車が付いておりすぐに後方に下げられた。そして次に現れたのは4台のトラック。トラックといってもいわゆる日本の普通自動車のトラックだ。荷台にはなぜか四連装のミサイルランチャーが搭載されている。車体は迷彩が施されており、いわゆる武装組織などがよく使うテクニカルと言われる簡易戦闘車だ。

 すると俺の脳内に三島遥香から念話で連絡が入る。


「魔王様。申し訳ありません。本来は牛によって八つ裂きの刑が行われるそうなのですが、転移ゲートから現れた対マーベラ作戦用の戦闘車がレイア姫に見つかりここに運ぶように言われました。おそらくこれで八つ裂きの刑が行われるのでしょう」


 本来は牛だが今回は自動車。おそらく魔法無効化の結界は無機物にかけやすいというのもあるだろう。これで明確にレイア姫の関与が明らかとなった。魔女裁判終了後には逆に魔女裁判をしてやるぞ。


 俺の手足には鎖が繋がれ、それが四方に別れた武装トラックに結ばれている。刑の準備を終え再びトラックの運転席に戻ろうとする魔法学院の制服を着た4人。このメンバーの顔に見覚えがある。例の魔王召喚の儀式をおこなっていた魔法学院の生徒である。免許を持たない学生がトラックを運転することに違和感を覚える。おそらく彼女らもマーベラの手のものだろう。

 俺は広場の中央に大の字に寝かされると、


「それではこれより八つ裂きの試練の開始である。それでは開始せよ!」


 トラックのエンジンがかかり発車する。少し緩んでいた鎖はすぐにピンと張られ通常なら俺の手足は瞬時にもぎ取られるだろう。俺はすぐにトラックのエンジンを停止させるべく燃料ポンプの作動停止の魔法を発動するが、やはり結界により無効化された。膨大な魔力でトラックそのものを破壊しても良かったのだが、それでは今後の作戦に支障もきたす。

 鎖がピンとなるまであとわずか。周囲の観客がその一瞬を見逃すまいとこちらを凝視しているのがわかる。


・・・ここは鎖そのものを消去しよう


 鎖そのものには魔法キャンセルの結界は張られていはいないようだ。そこで俺は鎖を構成する金属の分子間引力無効化の魔法を発動する。


サラサラサラサラ・・・・


 鎖がまるで砂になったようにその形を崩壊させていく。それは手足の枷まで届き枷は消え去ってしまう。自由になった俺は立ち上がり周囲を見渡す。すると鎖の張力をなくしたトラックは暴走するように観客席に突っ込んでいくのが見える。


「危ない!」


 観客の声に俺は我に返り咄嗟に防御隔壁の魔法を発動。トラックを壊さないようにスポンジのようなイメージでそれを造る。


ボヨンっ、ボヨンっ、


 トラックは壊れることもなく停止した。それを見てホッとする俺。再び周囲の観客から大歓声が湧き起こる。再び遥香から念話が、


「助かりました。観客に怪我人も出ず、さらにはトラックまで守ってもらって」


 トラックが暴走した先の観客席を見るとアトレリア女学院の制服に身を包んだ三島遥香がいた。


 裁判官らしき人物がちょっと困惑した表情で次の試練を発表する。


「ええっと、第二の試練も見事に耐えたようですね。大魔王サタン様のご加護はかなり強力なものと見受けられます。では最後の試練を受けてもらいましょう。魔獣の試練です」


 いよいよ最後の試練か。

 白装束の魔導士と思しき10名の者達が広場に出てきた。そして魔法陣を描き出す。運動会で使うライン引きで石灰によりそれを描いているようだ。直径20メートルはある大きな魔法陣がわずか15分ほどで描き終わった。

 俺はその魔法陣のすぐ横に立てられた直径30センチ程の柱に括り付けられている。

 魔導士達は魔法陣を描き終わるとその周囲に並び立ち何やら呪文を唱えている。


「ローグ、ローグ、サモン、ローグ、サモン、アルバシーラ・・・・」


 突然、魔法陣が光だし、その中央部分にモヤがかかる。そしてそのモヤが晴れるとそこには3体の大きな生命体が現れた。


「さあ、皆様、魔獣の試練の開始です。今回はキングオーガ三体の討伐が課題です。どんな魔法を使用しても良いのでこの三体を倒してもらいましょう。なお、魔法陣から半径30メートルには魔法結界が施されています。物理的、魔法的なものはこの魔法結界から外に漏れることはありません。ご安心してご観覧ください」


 裁判官はもはや司会進行役となっているな。にしてもキングオーガが三体か。俺にかかれば造作もなく仕留めることができる。俺は括り付けられたロープを外そうと先ほどの分子結合無効の魔法を発動する。が、何か違和感を感じる。思ったよりも時間がかかったのだ。今回は瞬時ではなく10秒ほどかかってしまった。まあ最大魔力を出していれば瞬時ではあるが今は魔力を絞って一万分の一程度にしている。司会進行役の裁判官はそれを見て、


「さあ、皆様。実はこの魔力結界の中では魔力は100分の1に低減させる魔法も効いています。か弱い少女ははたしてキングオーガの攻撃に耐えられるでしょうか?」


 いや、普通なら瞬殺で殺されるだろう。が、俺は大魔王サタンそのものである。現在の魔力は200万を楽に超える。100分の1でも2万。ここの大魔導師でもせいぜい魔力は100程度だろう。桁が違いすぎる。いわゆる桁外れだ。

 

 目の前には三体のキングオーガ。いわゆる巨大な鬼だ。体高は三メートルほど。頭には2本の角がある。全身には急所を守るアーマーが取り付けられているが、キングたる所以か黄金に輝いている。アーマーにはそれぞれの部族を表すマークが付いている。さらにはその部族マークが柄に施された大剣をそれぞれ手にしている。


「ドラゴンに鳳凰に世界樹か。あれっ?」


 俺はそのマークを見てあることを思い出す。その大剣はかつて功績のあったオーガの族長たちに俺が下賜したものだ。アマダンタイト製の聖剣、いや俺が下賜したので魔剣か。それでオーガ達の素性が判明。

 俺は周囲にバレないように念話でキングオーガ達と会話する。


「オーガ族の族長、アル、オル、グルではないか。久しゅうのう。元気にしておったか」


 少し戸惑った様子のキングオーガ達であるが俺をじっと見つめると俺の前まで進み出て膝まづこうとする。俺は手をかかげそれを制止する。どうやらキングオーガ達には俺が誰であるか判ったようだ。

 魔力には独特の匂いのようなものがある。特にオーガ族はその匂いに敏感なのだ。俺の発散する魔力の匂い。かつて同胞を救った英雄の匂い。忘れるわけもなかろう。

 膝まづくのを静止した理由。今ここで俺の正体がバレるのは得策ではない。あくまで俺は地球から来た一女子高生である。わずかばかりの魔力を持っているという設定と驚くほどの資産を持っている点は特別だが。

 キングオーク達は俺が制止した理由を察したのか俺の目の前まで来て仁王立ちとなる。いかにも俺に対して牽制しているようでこれは良い。


 族長頭のアルが、


「魔力の匂いでわかりました。アークラッセル・サタン様ですね。お久しぶりです。いつぞやはお世話になりました」


「で、なんでこんなところに召喚されているんだ」


「実はこれには深いわけがありまして」


 アルによると大魔女マーベラに騙されてオーガの一族はこの月世界の第一リングに連れてこられたそうだ。そこには地上の楽園があると唆されて。

 それまでオーガ一族はオーク一族との果てしない闘争で疲弊しきっていた。主に生存のための食料が存在するアークランドの大森林の支配権をかけた争いだ。お世辞にも俺の元いた世界のアークランドは豊かな土地とは言えない。大森林は過剰な搾取により食物連鎖のサークルが壊れつつあったのだ。


 大魔王サタンとしてはオーク一族との和平を取り持ったまでは良かったがそれは根本的な解決とはなっていなかったということだ。オークの一族は繁殖力が強くオーガ一族はジリ貧状態となっていたそうだ。そして魔女マーベラによる悪魔の囁き。いや、この場合は魔女の囁きだ。

 それによって約十万のオーガの一族は一年前にこの月世界へとやってきたわけだ。月の第一リングには豊かな自然があり食料となる動物達も十分に繁殖していた。だが本当に楽園に来たと思っていたのはつい一月前まで。魔女マーベラの軍団に子供達を人質に取られ第一リング攻防戦、そして第二リングへの侵攻作戦を強制されたというわけだ。


「どうか魔王様、この我々を処刑してください。そうしなければ人質となっている子供たちが殺されてしまいます」


 何とものっぴきならない状況のようだ。それにしても子供を人質に取るとか許すわけにはいかない。


「そういう事情であったか。ならばここは一芝居うつとしよう。アル、その大剣で俺をバッサリと切れ。ちょうど胴体真ん中から真っ二つにだ。心配はいらない。俺自身が体を切り離す。といっても魔法でだ。超次元的に体は繋がっているから心配はいらない。ただ血が吹き出ないと怪しまれるな。どうしよう」


 するとグルが、


「私が血飛沫を出しましょう。私が切り掛かり魔王様を真っ二つにします。同時にアルから奪った剣で俺の左腕を切り落としてください。盛大に血が吹き出します。それで誤魔化しましょう。なに子供のためなら左腕の一本くらい惜しくもありません」


 アルが、


「実は人質の中にはグルの一人息子もいるのです。ここは大魔王様。グルの心意気を買ってください」


「わかった、そうしよう。中途半端な芝居は疑念を抱かれないからな。それにグル。心配するでない。ここには我が腹心のアスモデウスもいる。彼は治癒魔法にも優れているので切り落とした腕はすぐに元に戻すことができる。ではかかるとするか」


 念話はわずか3分程度だったが、周囲からは奇異に見られていただろう。キングオーガの実力では魔力のほとんどない少女など瞬殺できるからだ。


・・・疑われないうちに実行に移す


「グォーーーーーー!!!」


 オーガたちは雄叫びを上げ迫ってきた。

 俺は前面に出てきたグルを素早くかわすとアルの剣を奪う。通常なら20キロはある大剣だが身体強化の魔法を自身にかけているので問題ない。周囲からするとあまりの速さにアルは対処できなかったように感じるだろう。

 そして振り向きざまにグルに向かい合うとその剣を下から上に振り上げる。グルも大剣を振りかざし俺の胴体を水平に切ろうとしている。俺の剣がグルの左腕を切り落とすと同時に超次元的に俺の胴体は上下に切り離された。

 その胴体の切れ目にうまいことグルの大剣が通り過ぎる。しかも切り離されたグルの腕からの大量出血がそこに降りかかる。周囲からは俺の胴体が切断されたように見えるだろう。


「キャーーーー!」


 周囲の観客からたくさんの悲鳴が聞こえる。

 俺は胴体を真っ二つに切り裂かれ死んだこととなった。



大魔女マーベラとの直接対決も近いですね。

はたして魔王サタンことユリカは覇権を握ることができるのか・・・

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