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ユリカは覇道を目指す!  作者: 名切沙也加
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第29話 三島遙香の奮闘

今回は三島遙香の物語です。三島遙香の秘密も解き明かされます。

第29話 三島遥香の奮闘


 月の内部に存在する国家ラムゼリア。月の内部には3つの巨大なリングがありそのリングに存在する国家だ。

 現在、第一リングはここに地球攻略の拠点を築くべく侵攻してきた大魔女マーベラによってほぼ占拠されておりラムゼリアは抵抗戦を行っている。が、今はこう着状態。

 この膠着状態を打破するために私、三島遥香は大魔王アークラッセル・サタンによって月に召喚された。

 と言っても東京のとある場所にある月転移のための臨時ゲートにより瞬時にやってきた訳だが。


 現在、大魔王サタンはユリカという女子高生の姿に変異してその存在を隠蔽している。そのユリカは魔女裁判にかけられ世間的には死んだこととなった。

 そういう経緯で私は今回の作戦の臨時の指揮を任されたのだ。もちろんそれは念話によるものだが大魔王の眷属となった私には今回の事件というか理不尽な魔女裁判でユリカが体験したことがまるで自分自身が体験したことのように感じられる。


・・・全く、大魔王様が普通の魔女だったらと思うとゾッとするわ 普通の魔女ならとっくにあの世ですものね


 今いるのはラムゼリアの王宮の地下にある医務室。そこのベッドにユリカは寝かされている。魔女裁判で胴体を真っ二つにされ死んだことになっているが魔王は死ぬことはない。が、目の前のユリカはまるで死んだように眠っている。

 突然、脳内にユリカの言葉が聞こえる。念話だ。


「遥香、来てくれたのね。ありがとう。どうやら回復まではあと2日ほどかかるみたいなの。超次元的に胴体を分離したのは良いのだけど分離した部分から莫大なマナの流出があったのよね。これは想定外だったわ。太陽系を二回ほど消し去ることができるほどのマナの流出。今は異次元世界からマナを補充している状況。とりあえずあなたは第一リングに転移して拠点の防衛に当たってね。地球からの武器が通用するかも試してみてちょうだい」


「わかりました。2日後にはユリカ様と指揮を交代することを前提としますか。そうでなければ一つお願いしたいことがあるのですが。地球から補佐の要員を数名連れてくることを許して欲しいのです」


「私は回復後、例の人質となっているオーガの救出作戦を並行して実施する予定です。なので遥香はそのまま指揮を続けて欲しいわ。地球からの補充要員はアトレリアの生徒なら許すわ。私の眷属となっているものを選びなさい」


「了解しました。では一旦、地球に戻り用意をいたします」


「そうして頂戴。作戦は2日後に実施します。うまくいけばそのままマーベラ掃討作戦に移行する予定です」


「了解しました」


 先日、地球から汎用軍用トラックを月に運んできた際にラムゼリアの王女レイアにその状況を見られ結果的にその軍用トラックがユリカの魔女裁判で使われてしまった。王族には秘匿することもないとトラックの性能などをペラペラ喋ってしまった。

 そのことについてお咎めがあるかと思っていたのだが、逆にレイア姫が魔女マーベラの手先であることを炙り出すきっかけとなった。あの魔女裁判の後、レイア姫の行方がわからなくなったと王女ソフィアから聞かされていた。


「気をつけてね。まだ王宮内にはマーベラの手先がいるかわからないから」


 王女ソフィアの言葉に私自身も少し憂鬱となった。


 月から戻るとすでに転移ゲートには田町詩織、花菱麻衣子が待機していた。おそらくメリダからの指示だろう。しかし詩織はともかく麻衣子は大魔王サタン、つまりユリカの眷属ではない。不思議な顔をすると、


「地球にとっての一大事は私にとっての一大事ね。心配しなくて良いわ。私は戦闘には直接参加しないし、それに私の研究室で開発した最新のガジェット型防護具を持参しているので。今の私なら1メガトンの爆発でも耐えられるわ」


 麻衣子の話には一理ある。マーベラの地球侵攻が始まれば麻衣子は全財産を失う恐れがあるからだ。株の暴落どころではない。地球そのものがなくなってしまう。


「事情はわかりますが大魔王様、いえユリカがなんと言うか」


「その辺りは誤魔化しなさい。それに私に逆らうとあなたの秘密をバラしかねませんからね。ね、ハルカ、ああ、確か本名は遥に彼方の彼だったかしら」


 ドキッとした。麻衣子は私の秘密を知っている。私の出生の秘密を。

 私の生まれた時の名前は三島遥彼。これは男の名前である。そう、私は男としてこの世に生を授かった。そしてここに三島家の裏の歴史が関わってくる。三島家は代々、巫女の家系。女子が家を継ぐことがしきたりとなっている。そしてそのことが私の人生を大きく変えることとなったのだ。

 

 私はごく普通の家庭の長男として生まれた。三つ離れた妹と五つ離れた双子の妹がいた。事件が起こったのは私が小学六年生の時。

 すぐ下の妹のバレエの発表会があり両親と妹は隣町の公会堂に向かった。双子の妹の方は保育園に預けられていた。私はソフトボールの練習があるので元から出席の予定はなかった。妹の晴れ舞台を見ることが出来ないのは少し残念だったが、ソフトボールの試合も近い。エースで4番の私は練習を外すことができなかったのだ。

 そして悲報が届いた。練習が終わると父が迎えに来てくれるはずだった。が、父ではなく1台のリムジンが迎えに来ていた。そしてリムジンから降りてきた1人の老婆に辛い事実を突きつけられた。


「あなたの両親は公会堂からの帰り道、交通事故に遭い亡くなったわ。そして妹の聖奈さんは大怪我を負ってしまいました」


 その言葉に私はその場に崩れ落ちた。

 父の運転する車が信号を見落としたダンプとぶつかり両親は即死だったそうだ。妹は内臓を大きく損傷し人工心臓で生きながらえている状態であった。

 両親の葬儀が終わり、これからどうしようかと考えている時に再びその老婆は現れた。


「私はあなたの母親の母になります。つまりあなたの祖母ですね。今は三島グループの総帥でもあります。あなたの母が亡くなった今、あなたにお願いがあるのです」


 その祖母によると母は三島の跡を継ぐのが嫌になり大学時代の同じサークルだった父と駆け落ちしたそうだ。なぜ父の姓を名乗らなかったのか祖母に聞くとなんと父の姓も三島だった。父とは再従兄弟に当たり幼い頃から面識があったそうだ。そして大学で再会し恋に落ちたのだそうだ。

 実は祖母はこのことはよく解っており、父にはこっそりと金銭的、社会的な援助をしていたそうだ。そして父には妹の花梨を将来、三島の跡取りとする約束をしその担保としていたようだ。


「俺にお願いって何だよ」


 その時の私は祖母に対して少し憤りを覚えていた。自分に都合の良いように私たちの家族を支配しているように思えたから。


「お願いはあなたに三島の跡取りとなって欲しいということなの。妹さんは将来、回復したとしても三島を切り盛りするのは難しいでしょう。双子の妹さんは三島を背負うにはまだ若すぎますし。それに怪我をした妹さんを回復させるためには莫大な医療費がかかります。あなたがウンと言ってさえもらえれば最高の治療を妹さんに行いますわ」


 私はイエスと言わざるを得なかった。が、この時、私は一つの重大なことを失念していた。三島の跡取りは必ず女子でなければならないということを。私は女子が跡を継ぐことは聞いていたけど、私が三島を切り盛りするのは一時的なもので、いずれは回復した妹か歳の離れた妹達に家督を譲れば良いくらいにしか考えていなかった。

 しかし500年も続く三島の家系。陰陽師により女子が代々家を継ぐことを条件に子孫繁栄、家督繁栄が約束されていたのだ。家を継ぐものは巫女としての役割と家業を切り盛りする役割を兼ねる。そう、巫女なのだ。女でなければならないということ。たとえそれが一時的なものであったとしても。


「あなたはこれから女子としての教育を受けてもらいます」


 祖母によって北海道の大雪山系にある三島財閥の別荘で私は徹底的に女子になる教育を受けることとなった。中学生になるまでの半年間、完全なる淑女となるべく2人の家庭教師がついたのだ。一人は勉学とピアノ、そしてもう一人は礼儀作法と社交ダンスにクラシックバレエ。盆も正月もなく週に一度の休みを除き中学の入学前日までそれは続いた。


 三島の医学研究所の開発した育毛剤で私の髪は入学前日までに腰までの長さとなった。漆黒の艶やかな髪。そしてホルモン投与で私の胸はすでにBカップとなっていた。体つきは第二次性徴前に去勢されたせいで女の子らしくなっておりどこから見ても完璧な美少女という身なりとなった。


 私の入学することとなったセントアトレリア女学院の入試は特別にオンラインで受けさせてもらった。何でも三島財閥は多額の寄付をしており実は入試は形だけのものだったのだ。それでも入試の合格点はトップとなり入学式では新入生代表挨拶を任された。

 やはり元男の子であったせいか背は170センチ近くあり、凛とした佇まいも相まって私は一躍、女子生徒達の憧れの的となった。まさに女子校の王子様といった人気であり、私自身も元は男であったせいか女子からチヤホヤされるのはまんざらでもなかったのだ。


 アトレリアの高等部に上がる前の春休み、私はその休みを少し前倒しして性別適合手術を受けた。妹と自身の幹細胞から培養された女性器と生殖のための性腺が体内に移植された。月のものも順調に来るようになり私は完全な女性となったのだ。


「おそらく私の黒歴史ってところかしら。にしてもあなたの情報収集力は半端ありませんね。三島家最大の秘密でしたのに。が、今となってはバラされても問題ありませんわ」


「ふふっ、ちゃんと覚悟はできているということね。それなら問題ないわ。ごめんなさいね。ちょっと試しただけなの。なんと言っても三島の財閥は私の大切な投資先の一つでもあるのでね」


「心配されなくて良いわ。私は三島の家を花菱並にするつもりですので」


 まあ今となっては花菱を裏で支配している大魔王サタンの眷属となっている私がそれを言っても何の意味もないのだけど。


 花菱麻衣子と田町詩織には装備品のチェックをしてもらうこととなった。メインウェポンのみならずサイドアームとして小型の拳銃もあると良いのではと麻衣子に提案された。魔王様にお伺いを立てるとすぐに許可された。

 魔物達はマジックキャンセルの結界を自身の周りにも張れる可能性がある。膂力に優れた魔物に対峙した際に不利にならないようにとのことだ。麻衣子は経済アナリストであるが軍事アナリストとしても超一流である。

 月への転移ゲートの前には機動力の優れた小型のSUVも準備されていた。


「とりあえず10台あるわ。荷台を覗いてみよ」


 麻衣子の言葉に私はその車のテールゲートを開ける。そこにはアタッシュケースがたくさんあった。


「開けてみて。びっくりするかも」


 カチリとケースの留め金を外し中を見る。そこには拳銃とホルダー、二つのマガジン。そして銃弾が収められていた。


「グロッグ17ですね。ちょっと懐かしいわ」


 そう、それは私が小学生時代、まだ男の子の頃にサバイバルゲームで使用していた銃だ。日本では本物は所持できないので、当然使っていたのはオモチャの銃であったが。BB弾を使ってのサバゲーはすごく楽しかった思い出がある。


「これは本物なんですよね」


 ケースから取り出した拳銃はずしりと重たい。が、想像したよりも軽いというのが本音だ。


「チタニウムと超強化プラスチック製の特製品よ。要所要所に肉抜きもしてあるので普通に流通しているグロッグに比べて15%ほど軽いわ。装填する9ミリ弾は女の子でも扱いやすいように二割ほど火薬を減らしているわ。いわゆる弱装弾ね。これが全部で500挺。魔法学院生のサイドアームとして活用してちょうだい」


 鈍く光るその佇まいに私はしばしボーっとする。その機能美と人を殺傷するために作られた忌物というギャップにたまらない魅力を感じるのだ。


・・・どうやら私にはまだ男の子としての感性が少しは残っているようね。それにしてもこちらの訓練もしないとね。少し早めに月に戻りましょう


 翌日、私たちは月に転移した。


 第一リングの防衛拠点は先の防衛戦で後退し、現在は元々美術館だったところに築かれている。この美術館には500年前にヨーロッパから持ち込まれた貴重な美術品が収蔵されている。この国の王女ソフィアから聞かされたのだがダビンチの本物のモナリザにボッティチェリのヴィーナスの誕生まである。ソフィアによると地球にあるものは全てレプリカとのことでビックリした。彼女によると戦争ばかりのヨーロッパに貴重な美術品を置いておくわけにはいかないと。しかもそれ以降の有名な作品もかなりある。モネの睡蓮などもあり、かつて東京の絵画展で見たものが実はレプリカだったと知りかなりがっかりした。


「やっぱり本物の凄さは違うわね」


 この美術品の搬送の責任者は田町詩織が選ばれた。アトレリア女学院の美術部に属しており、それなりに美術品に目がきく。次々と梱包され運び出されていく美術品。その数々の絵画に私は魅入っている。


 その中の一点の絵画に目を奪われる。今運ばれているのはブリューゲルのバベルの塔である。宗教画を超えた迫力ある作品である。かつてブリューゲルは3点のこの絵を描いたと言われている。田町詩織によると現存するのは2点だけであり、この絵は現存するものとは異なる構図なのでおそらく幻の3点目ではないかということであった。バベルの塔は大きく崩れ、多くの人々が塔から逃げていくのが描かれている。


・・・神の神罰を描いた絵ですね。かつて神の存在は人類共通の認識でした。そして人類は神から知恵を与えられ文明社会を築きました。しかし今やその神は実体を持つこともなく対極に位置する魔王が人類を支配しようとしています。いえ、魔王は果たして神の対極となり得るのでしょうか。この後、魔王に支配された人類は一体、どこに向かっていくのでしょうか


 およそ半日で全ての絵画を搬出できた。貴重な絵画は時代を超えて今後も伝えられていくのだろう。

 すっかりがらんどうとなった建物はまるで要塞のようだ。


・・・美術品を守るには適切な建物だったというわけね


 元々が頑丈な建物なのでちょっとやそっとの攻撃ではびくともしない造りだったが、それでもここが戦場となると話は別だ。全ての収蔵品は臨時のゲートを通じて東京乙女市にある花菱の美術館に運ばれていった。

 どうせならそこで絵画展をやりましょうと花菱麻衣子が言い出したのにはびっくりした。

 スーパーレプリカ展ということで開催する予定で、目玉は新たに発見されたブリューゲルの幻のバベルの塔。果たしてそれらは本物か偽物か。来たお客は本当に儲け物ですよ。全てが本当の本物なので。それにしても麻衣子は転んでもタダでは起きない女であることを改めて認識した。


 美術館の前には土嚢が二重に積まれ防衛線ができている。ユリカからの連絡によるとこちらの情報は王女レイアを通じてかなりマーベラ側に伝わっているとのこと。つまり地球製の兵器がここに持ち込まれていることを敵も知っているということだ。おそらく様子見でオークとゴブリンの混成戦闘部隊が先遣隊として来るだろうとのこと。


 地球から持ち込まれた兵器の訓練は美術品の持ち出しと並行して行われた。王立魔法学院の女学生450名が朝から訓練をしていた。主にミニガンのM 556の取り扱い方法であるが僅かな訓練の後、いきなり実戦となりそうだ。

 幸いなことにここの女学生は魔女だけあって身体能力強化や情報共有魔法も使える。恐ろしく飲み込みが早く、しかも時間制限はあるが体力は米国の特殊部隊なみ。


・・・たった半日の訓練でベテラン兵士並みのスキル取得ね。これは驚いたわ


 私も根は男なのか血湧き肉躍る状況にかなり興奮している。実はメカオタクでもあり、銃に関しては一家言ある。


・・・このM 556はあのグロッグ同様にかなり改良されているわね。要所要所にチタン合金が使われて軽量化もされているし、精度もミクロン単位だわ。おそらくものすごくお金がかかっているわね


 花菱麻衣子が絡んでいる時点でおよその察しはついている。彼女の研究所で改良されたものだろう。今の地球はかなり平和なので実戦でのデータの取りようがない。今回は絶好のデータどりの機会でもあるわけだ。


・・・でも、オークやゴブリンが蹂躙されている動画なんて地球ではフェイク動画とかしか認知されないんじゃ


 まあそんなところはこっちの知るところじゃないと判断して双眼鏡で敵が拠点としているエネルギー制御タワーを見る。この美術館からおよそ2キロしか離れていない。大通りを介しているのでかなり見通しは良い。そしてそこの入り口のシャッターがゆっくりと開き出したのが見える。


・・・来るわ!


 私は魔法学院生の招集のホイッスルを吹く。今、彼女らは小休止中である。美術館の中から小走りで彼女らは出てきた。彼女らの姿にちょっと違和感を覚える。

 軍服ではなく魔法学院の制服そのままで赤いブレザーと紺色のプリーツスカート。聞くところによると防御魔法がデフォルトで装備されているらしい。私と詩織もアトリレアの制服そのままなのでそれほど違和感はないのだが。

 オブザーバーとして後ろで控えている花菱麻衣子は白ブラウスにジーンズといった軽装に要所要所にプレートアーマーを装着している。そしてバイザー付きのヘルメットも。これが研究所で開発した新兵器というわけだ。どうせなら魔法少女っぽいものを期待していたのだが。ちょっと期待外れ。


 魔法学院の女学生達はガンナーと弾薬補充係、そして指揮役、三人1組となり土嚢の所定の位置に着く。450名いるので150チームが出来上がる。そして50チーム毎に3つの班に分かれ交代で射撃することになっている。つまり信長の三段撃ちそのものである。


 ミニガンは1分に500発の弾丸を撃つ。弾薬は補充係が千発。指揮役が500発携行している。つまり1チーム3分間の掃射が可能だ。が、銃身の過熱を抑えるために1分間の掃射をしたら次のチームと交代するというわけだ。


 二十二万五千発。想像を絶する量の弾丸が敵に襲いかかる。私が一つ懸念するとすれば弾丸が5.56mm弾であるというくらいだ。少し口径が小さい。これがどのように影響するか。今まで実戦で使用されてきたミニガンは弾頭が7.62mm。倍以上に威力が違う。が、今回はこれを補うため劣化ウラン弾よりさらに重いニホニウム弾を使用する。射程距離は通常弾の八割程度となるが威力は桁違いのはず。ちょっと楽しみでもある。いや殺戮に楽しみとはちょっと罰当たりではあるが。


 私は指揮役にインカムで指令を与える。


「敵が500メートルまで近づいたら一斉射撃を開始する。一班、用意せよ」


 ゴブリンたちも飛び道具として簡易的な弓を持っている。が、せいぜい有効射程は200メートル。こちらは完全なアウトレンジで攻撃できる。

 双眼鏡を覗くとゴブリンの数はおよそ500。そしてオークも500といったところか。

 ゴブリンの前衛には盾を持ったものが列をなしている。横一列でその数はおよそ50。その後に弓隊が控えている。そして距離はちょうど500となった。


「射撃開始!」


ゴゴゴォーーーーーー!

 ミニガンの発射音は雷のような轟音となって辺りに響く。そしてゴブリン隊の前列に無数の弾丸が届く。おそらく木の盾であったのだろうか。それはまさに木っ端微塵に打ち砕かれ弾丸はゴブリン達を貫く。前衛のみならず、貫いた弾丸は後衛の弓隊にまで届いた。後に続く弓隊も含めゴブリン達はものの十秒で全滅した。


 双眼鏡で覗くゴブリン達がかつていた場所は青い血の海となっている。体はほぼ原型を留めておらず、肉の塊のようなものが多数あるだけだ。

 その状況に思わず戻しそうになるが、その後ろに控えるオーク達はまだ無傷だ。まだまだ気を張っていなければならない。


「オーク達の前列は分厚い金属製の盾で防御している。もっと惹きつけてから斉射を行う。それでは第二班と交替せよ!」


 実射経験を積ませるために第二班と入れ替える。オーク達はおよそ200メートルまで迫る。この距離なら盾を粉砕できるかもしれない。


「撃て!」


 再び轟音があたりに響く。


ゴゴゴォーーーーーー!

ゴゴゴォーーーーーー!


 流石にオークの金属製の盾は丈夫だ。簡単には貫けない。が、オークの盾と盾の隙間を通して弾丸が貫いていく。盾の後ろのオークが次々と倒れていく。そして盾を持っているものも地面からの跳弾で次々と倒れていく。最後の悪あがきかまだ動けるオークが腰にぶら下げている何かを投げつけてきた。ソフトボール大の投擲兵器のようだ。おそらく手榴弾のようなものだろう。それを投げたオークは体を晒すことになりミニガンによりやはり血祭りとなる。


「気をつけろ!」


 オークの腕力はとんでもなく強いのか、その投擲兵器は200メートルを余裕で飛んできた。ミニガンにより半分は破壊されたが残りの10個ほどが着弾する。


ドガーーン!!

ドガーーン!!



 私の近くにも着弾するが防御結界を近くの魔法学院生が張ってくれたおかげてことなきを得た。

 危ないところだった。大魔女マーベラのマジックキャンセラーはこの一帯にも影響を及ぼしている。身体強化や体にごく近い場所での一時的な防御魔法しか今は使えない。


 驚いたことにまだ数体残っているオークが後方に残っていたゴブリンを力任せにこちらに投げてきた。数はわずか5体であるが陣地の内側に敵の侵入を許してしまったのだ。かなり手負いのゴブリンであったが、それでも魔法学院生に襲いかかっていく。


パン! パン!


 近くでグロッグが火を噴く。ヘッドショットでゴブリンたちは絶命する。マジックキャンセラーで防御魔法しか使えないため確実に屠るにはやはり拳銃が確実だ。


「危ない!」


 振り返ると私に襲いかかる一匹のゴブリンが。咄嗟にホルダーからグロッグを抜き反撃。


パン! パン! パン! カーン!


 3点バーストの一発がゴブリンの頭を吹き飛ばしあたりに血飛沫を撒き散らす。そしてもう一発が狙いを外れ、危ないと声をかけてくれた花菱麻衣子の胸に当たる。大丈夫だろうか。慌てて謝ろうとすると。


「問題ないわ。防御シールドは完璧に機能を果たしてくれたようね。傷ひとつないわよ」

 麻衣子は胸当てのシールドを見ているが、本当に何ともないようで安心した。


 

 戦況から見れば小競り合いと言えるくらいの戦闘が終了。戦果としてはお釣りが来るくらいのものである。美術館前の大通りにはかつてゴブリンやオークであったものの肉塊が累々と続いている。ミニガンの掃射はせいぜい一分間である。それでこの状況だ。


・・・やはり戦術としては正解ということですね。けど、


 懸念されること。それは相手が大量の魔物と大量の物理兵器で飽和攻撃を仕掛けてくればこちらもただでは済まないことが判明したのだ。ソフィアに聞かされた敵の兵力は一万を超える。今の十倍なのだ。


・・・花菱麻衣子が気を利かせて近接戦闘用の拳銃を支給してくれたのは僥倖だったわ。まさか陣地内に敵の兵力が及ぶとは・・・


 ちょっと憂鬱となる私、三島遥香であった。












次回は魔王のオーガ一族救出作戦です。

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