第27話 大魔女マーベラ対策
久しぶりの更新です。おまたせしました。
第27話 大魔女マーベラ対策
月の中の国、ラムゼリア共和国の首都エルザードの街並みはまるでヨーロッパの古い街とそっくりだった。それもそのはずでここにいる住人はおよそ500年前のフランス北部から逃れてきた人々の子孫であるからだ。
「にしても目につくのは女性ばかりなのは何か理由があるのかしら」
昨日の大魔女マーベラ対策会議は夜遅くまで続き、床についたのは午前2時を回ったところだった。起床もお昼近くになり王宮ではすでに昼食の準備をしているとのことだった。まだ1時間もかかるとのことで王宮での昼食はキャンセルし同じように朝食を逃したキランと食事を早急にとるべく外出したというわけだ。
そして王宮から出てキランと一緒に街並みを歩く俺は違和感を覚えたのであった。そう、街中には女性しかいないのだ。キランに尋ねると、
「ええ、ここの人工重力のせいかなぜか女性しか生まれないのです。地球とはゲートで繋がっているので子孫の繁栄には精子バンクを使っているのですが。なぜか生まれるのは女性ばかりなのです」
「精子バンクか。でもそれがなかった時代もあるでしょう。なにしろここは500年も続いているのですから」
「それは察してくださいとしか言えませんね。ゲートで地球と繋がっているということです。女ばかりになったこの世界に男を連れてくるわけにもいけませんし」
ゲートを通って地球で子作り。見たところここには美女ばかりなのでワンナイトで問題なく子種をゲットできたのであろう。まあそこはそんなに詮索はしないことにした。
キランによると200年前くらいまでは男性もいたそうだが病弱なものばかりでここの生活には適応できないものがほとんどだったそうだ。ここの人工重力のせいであるらしいとのことだが詳しくはわからないそうだ。
にしても将来、地球人類が宇宙に進出した際には人工重力下での生殖には問題が起こるということになるのだが、はるか未来のことなのでそれまでには解決しているだろう。
そんなことを話しながら俺たちは目抜通りにあるごじゃれた喫茶店に入る。昼に近いせいか結構混み合っている。雰囲気はフランスのカフェと言った方が良いだろうか。店の外にもテーブルがあるいかにもヨーロッパ風のカフェである。メニューにあるマルゲリータピザとコーヒーを頼む。キランはキッシュとダージリンの紅茶である。
「好みはアスモデウス時代と変わらないのですね」
「キラン自身も元々好きみたいですよ。まあ、紅茶はレモンティの方が好みだったみたいですけど。今はミルクティです。食の好み自体はアスモデウスの方に分があります」
コーヒーもブルーマウンテンなのか、かなり美味しい。専門店にも負けない美味しさにびっくりする。そういえばピザのチーズもかなり本格的なものだ。
「驚くことはありませんよ。ここには食物を育成するのに最適な環境がありますからね。第3リングには広大な農地と牧場もあります。そこでは各植物や家畜に最適の環境になるように気候や地質が科学的にコントロールされています」
「巨大な温室みたいなものなのね」
「ええ、そうですね。そしてゲートを通じて地球にもそれらを輸出しています。セレブ向けの食材となるので高級食材スーパーとか、あとは通販ですね。昔と違い楽に稼げるようになりました」
日本ではセレブ向けや業務用スーパーなどでここの高級食材が買えるそうだ。
食事を終えると俺たちは王立魔法学院に寄ってみることにした。本日の目的の一つである。
昨夜の会議ではここの学院生に対魔獣戦闘をさせることに決定している。残念ながらこの国には軍隊というものがない。元々、この魔法学院は突発的に現れる異世界ゲートによって召喚された魔獣に対応するために作られたと聞いた。
魔獣出現のいざという時には各地にある魔法学院の学生が対処にあたることとなっている。
次回の対魔獣、対マーベラの戦いでは戦闘力が最も優れている王立魔法学院の生徒が主体となることが決定された。すでにひっ近の第1リングの戦闘では7校ある魔法学院の生徒500名が参戦し100名以上が負傷している。そのうちの1人がキランでもあるのだ。
メイン通りをしばらく歩く。結構な数のお店があり、特にファッション関係のものが多い。流行は地球と大差ないようだ。スウィートが売りのカフェ。あと美容室もそこそこある。やはり女性の国といった印象だ。ウインドショッピングを終え通りの端までくる。すると大きな公園のような所に出た。
「セントラルパークよ。もちろんニューヨークにあるのを模したもの。この奥に魔法学院はあるわ」
人工的に作られた青天の清々しい気候で緑も豊かだ。イングリッシュガーデンになっている場所や日本庭園もあり散策するには飽きることがなさそうだ。
何だかピクニック気分。もう少し歩いていたかったがすぐに学院に着く。
煉瓦造りの立派な建物だ。何となく日本のアトレリア女学院と似ている。ただ所々に尖塔のようなものがありお城のようでもある。
ここにも門のようなものはなくいきなり学院の敷地であるようだ。行き交う女生徒はみんな学院の制服である紺のブレザーにグリーン基調のタータンチェックのプリーツスカート、そして黒いタイツ。そこにいかにも魔法使いというような赤いケープを羽織っている。前の方から歩いてくる2人の女学生が少し驚いたような顔をしている。そしてその1人が話しかけてきた。
「ソフィアお姉様。ご、ごきげんよう。あの、もうお加減はよろしいのでしょうか」
「ごきげんよう。生徒会長のミラね。おかげさまでね。あなたも無事だったのね」
「ええ、ありがとうございます。今のところ戦線は膠着状態ですので今は束の間の休暇といったところです。幸いなことに最前線ではソフィアお姉様が発明した半物理結界が効いているようです。ただ、マナの貯蔵量が急減しておりあと1ヶ月が限界とのことで今は決戦に備えて主力の学生は休養中です」
「そうなのね。私も明日には復帰する予定です。すでに決戦が間近という情報は伝わっているのですね。その新たな作戦が近く中央戦術委員会から伝達される予定です。それまでしっかり休んでいてちょうだい」
2人学生はおじきをすると街の方に向かっていった。お昼なので食事にでも行ったのだろう。
「にしてもソフィアと呼ばれていたけど、キランではないの?」
ちょっと不思議に思い尋ねてみる。
「キランはこの国では王女という意味合いを持つミドルネームですね。私の名前は正式にはソフィア・キラン・ラムセスです。王宮以外ではソフィアと呼ばれるのが普通ですよ。私が女王に即位するとソフィア・アステリア・ラムセスとなります。アステリアが女王という意味ですね」
なるほどと思いながらさらに詳しく聞くと現女王の正式名はカミラ・アステリア・ラムセスというそうだ。王女にはミドルネームは多数ありキランの他にはサリア、シリカなどがあり一般人にはつけられることがない名前だそうだ。
「あ、でも500年前に出会ったキランは女王だったと思うのですが?」
「突然の戦乱で女王が亡くなり、正式な即位式がないまま当時のキランが暫定女王になったためですね。正式な名前はマリア・キラン・ラムセスですね。この国の建国史では割と有名なお話ですよ。ファーストネームを教えなかったところを見るとアーク、つまりあなたにはあまり気はなかったみたいですね。大魔王アーク・ラッセル・サタンの活躍の割には袖にされていた訳ですね」
あー思い出した。今思えばそんなこともあったなというくらいの印象だが。にしても簡単に言えばフラれたという訳だな。
「そう言う訳でここではソフィアと呼んでくださいね。敬称は入りません。あなたも形式上、ここでは大魔導士ユリカとして登録していますので。今回の作戦中は地球の日本から来た留学生としての扱いです。生徒会室にここの制服の予備があります。それに着替えた方が良いでしょう。今のドレスでは目立ちますからね」
王宮で用意されていた衣服はいかにもお貴族様といった華美なドレスで普段着には程遠い。街中でかなり視線を集めていたのもそのせいだろう。ソフィアも王族のドレス。一緒に着替えるつもりだろう。ちなみにこの国ではいまだに貴族制度が残っており王族が頂点であるのは言うまでもない。
俺は留学生で大魔導師か。大魔導士とは何かとさらに詳しく聞くとこの魔法学院の教授と同等レベルの魔法を使える魔女の称号であるそうだ。まあ、俺としては大悪魔なんだけどな。そしてソフィアも大魔導師であり魔法学院の前生徒会長で、今は教授見習いとなっているそうだ。
生徒会室には書記と会計の2人の生徒がおりソフィアの帰還に驚いていたが、その無事な姿に喜びが溢れ出ていた。ソフィアはかなりの人気者なのだろう。
しばしその2人と今の戦況や学院の状況などを歓談していたが雑務が溜まっているとのことでソフィアは俺との打ち合わせに入ることとなった。
「さあ、時間もあるし、せっかくですから明日の予定を前倒しでしておきましょう。この魔法学院の生徒のファイルから今回の作戦に参加する人を選んでくださいね。物理攻撃主体の作戦となるので私の専門外だから。ユリカは現状の地球の軍備にも詳しいのでしょ」
ユリカと呼ばれて俺はちょっと襟を正す。いや、この場合は膝を正すだろう。すっかり男性モードとなっていた。ソフィアの中身がアスモデウスという油断もあったのだろう。ちゃんと足を閉じて姿勢を正す。
目の前にはノートパソコン。地球製のリンゴのマークのついたかなり高性能なものだ。ソフィアの個人のものらしいが、そこにはメリダから送られてきた今回の作戦の概要と使用武器についてのメールがあった。あらかじめメリダにはソフィアにメールで送ってもらうように頼んでおいたのだ。
ソフィアと一緒にそのメールを閲覧する。ソフィアがちょっと困惑した表情で俺に尋ねる。
「米軍のミニガンとロケットランチャーね。これって女の子でも扱えるのかしら」
「問題ないと思うわ。ミニガン、つまり多銃身マシンガンね。M556の改良型でかなり軽量化されているの。毎分500発で5.56ミリ弾を撃てる性能を持っているわ。重さは約15キロね。弾倉は千発のものでこちらも15キロ。身体強化魔法はマジックキャンセラーの対象外なので女の子でも問題ないわ。
射撃手と弾倉手、それに指揮手兼通信手。3名でワンチームの構成になるわね。ロケットランチャーは先制攻撃用ね。各チームに3発。遠距離からの攻撃である程度、敵の戦力を削ぐことができるわ」
「その3名の人選をこれからするのね。体力、反射神経、視力、身長、体重、もろもろのデータを考慮するとものすごく時間がかかるんじゃないかしら」
「それは問題ないわ。AIを使って瞬時に終わるから。まあ元のデータさえしっかりしていればの話はだけど」
「元のデータは毎月更新されているので問題ないわ」
「なら安心ね。とりあえず魔法学院生のデータをダウンロード。基礎データを入力完了。さてAIの出番よ」
AIによって最適なチーム編成が瞬時に提示された。その時間、わずか3秒。
「すごいわね。私もかつて人工知能を考えていたけれども地球の方がよっぽど進んでいるわ」
今使っている人工知能つまりAIの名前はYURIKA。つまりユリカである。俺の名前だ。
開発は花菱財閥の一角、元の清友麻衣子、今は勇者花菱剛毅の妻となった花菱麻衣子が率いるストラトロックという会社だ。先日、上場して麻衣子は数兆円の資産を手にしたと経済新聞が報じていた。もちろん俺も上場前の株を一万株持っていたので1000億円ほどの資産となった。実は今回の作戦はこの資金を米国に担保することで行われる。武器に弾薬、そして地球上での地上戦まで見据えた作戦だ。この作戦で敗れた大魔女マーベラは地球のどこかにある拠点で必ず次の作戦を実行に移すと見ているからだ。
「実戦用の銃器と弾薬は明日には届くので訓練スケジュールも立てないとね。これはソフィアにまかすわ」
なんと言ってもソフィアことアスモデウスは天才である。ミニガンのスペックなどをあっという間に理解すると適切なスケジュールを立て魔法学院の時間割に落とし込んでいく。これは小一時間ほどかかったが完璧なスケジュールが出来上がった。今回の作戦趣旨や人員割、さらに訓練スケジュールはすぐに学院の電子告知版にアップロードされる。もちろんミニガンなどの取説も一緒にアップしたので基本的な使い方は明日までには理解してくれているだろう。やることを終え、少しくつろいでいるとソフィアが、
「あっ、今日は第二木曜日でしたね。ソフィアつまり私が所属しているサークルの活動日でした。午後二時ですね。今からちょうど始まるところです。これから第二体育館に向かいますね。ユリカも一緒に来ますか?」
「予定がないのは解っているでしょう。付き合いますよ。にしても何のサークルなんでしょう」
「魔王召喚の儀式ですよ。もう五百年近く続くこの魔法学院の伝統行事みたいなものです。魔王召喚自体も目的なのですが、実際にはこの儀式によりこの月世界のマナの総量がわかるという目的もあります。そしてわかったマナの総量は女王に報告する義務があるのです。なのでこの儀式には必ず王族が1人付き添う必要があるのです。今日は私がその役割という訳ですね」
「マナの総量か。どうしてわかるのでしょうか」
「魔王を呼び出す魔法陣の発光具合と色ですね。この世界のマナの総量が多いほど明るく、そして白に近い輝きとなります」
「それは面白そうね。ぜひ立ち会わせてもらうわ」
魔王召喚の儀でマナの総量がわかるのか。何だか面白そうだ。聞くと現在はマナの総量自体は世界各地にあるモニタリングポストによってかなり正確にわかるそうだが、テロなどによりそれが破壊された時を想定し今も昔ながらの方法で測ることが義務付けられているらしい。それを魔法学院のサークル活動として行なってるのが何ともこの世界らしい。
俺たちは第二体育館に向かう。どうやらこちら側の校舎の反対らしくグラウンドを横切って進む。グラウンドではすでに午後の授業が始まっている。どうやらアイスランスの魔法実践授業中。先生らしき人が危ないからと端を通るように腕で指示を出している。が無視する。アイスランスごときで俺がどうなるというものでもない。
「危ない!」
ソフィアが叫ぶ。案の定、目標を外れたアイスランスが飛んできたが俺のデフォルトの魔法結界で無効化された。
「何気に優秀なのね」
「いや、こんなの風に煽られた木の葉程度でしょ」
遠くでは呆気にとられた先生と生徒達。関わると厄介そうなので早足でその場を去る。
グラウンドを横切ると古びた大きな教会のような建物があった。
「これが第二体育館よ。教会みたいだけれど大魔王サタンを祀る神殿ね。ここで魔王召喚の儀が毎月第二木曜日に行われているの」
中に入るとかなり暗い。結構天井は高くステンドグラスを通した明かりはわずかだ。奥の方には大魔王サタンの禍々しき彫像が飾られている。
「我ながらあの姿はあまり好きではないな」
「この国では英雄なのよ。建国史では人の姿をしたアークが理不尽な魔女弾圧に耐えかねその姿を本来のサタンに変え敵軍を一瞬に焼き尽くしたとあるわ」
「今ではそんなこともあったかな、くらいだけど。せめて人の姿のアークにして欲しかったかな」
「今回の作戦が成功したらユリカの彫像に代えておくわ」
「是非ともそうしてもらいたい」
体育館の中央部分はずらりと円形に並べられた燭台の蝋燭の灯りで照らされていた。練り込まれた香のせいか甘ったるい匂いがあたりに充満している。
床は板張りでバスケットコートが二面設けられていることで普段はここが体育館として使われていることがわかる。
その円形の燭台の内側には全身を覆う白い頭巾を被った学院生が5人。人相はすっぽり被った頭巾でわからない。俺たちがいることに気づいているが意に介していないようだ。そこにソフィアも加わる。どうやら儀式に加わるようだがソフィアは学院の制服のままだが良いのだろうか。
床には8畳ほどの黒いシートが敷かれそこには黄色いチョークで魔法陣が描かれている。そしてソフィアを含めた6人の昌和が始まる。
「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム、我は求め訴えん。この地に再び大魔王サタンが降臨することを」
「エロイムエッサイム・・・・・・・」
しばらく昌和が続くと魔法陣が光だす。かなり強い光だ。色も白に近く発光というよりフラッシュのように明滅し出した。
魔法陣を取り囲む6人は唱和をやめてその輝きと色を負懐から取り出したノートに記しているようだ。どうやらこれがマナの総量を推し量るためのものになるようだ。
ソフィアが、
「すごいわ。これまでにない輝きと色。マナはこの地に溢れかえっているわ。マーベラのマジックキャンセラーさえなければ圧勝できるのに」
ちょっと悔しそうな表情。
「しかもあと少しで魔王が召還できるレベルまでいったというのに」
俺はその魔法陣を見ているとあることに気づく。
「あの、ソフィアさん。この魔法陣、ちょっと間違ってますよ。魔王サタンのサタンですけど、頭はSAではなくS U Aですよ。ちょっと描き直しますね。このチョークでチョチョイと」
俺は魔法陣をちょっと手直しする。このままでは魔王は召喚できないからだ。五百年も何やってたんだろう。
「えっ、意外と気づかないものなのですね。もう五百年も前のことなので誰も覚えていないのでしょう。ではもう一度召喚の儀を行います。皆さん宜しいですね」
残りの5人は無言で頷く。そして再び唱和が始まった。
「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム、我は求め訴えん・・・・」
再び魔法陣が明るく輝きだす。なんとチョークで描かれた魔法陣は宙に浮かび上がり回転し出す。明るさも先ほどのものを上回る。もう眩しくて直視できないくらいになっている。
そして俺、いや私ユリカの体が輝き出す。
一瞬のフラッシュのような輝き。
気がつくと俺は魔法陣の真ん中に立っていた。
「あっ、そうだったわね」
「そうでした」
魔法陣で呼び出そうとしていた大魔王サタン。私でした。
いよいよ最終局面に突入です。大魔女マーベラの手は地球に伸びてくるのか?
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