生ゴミ爆誕-7
「はぁ~……さっぱりした」
冷たいミルク瓶を片手に、火照った身体を冷ましながら俺は再び部屋へと戻る。
まさか、風呂が王都一の巨大な大浴場に繋がっているとは思わなかった。
わざわざ「男風呂」と性別をキーワードにしていた理由も、入ってからわかった。観葉植物が並べられた広大な浴場内の人気のない場所に直接ゲートが通じているからだ。
通ってきた者しか戻ることができないようにもなっているらしく、他の誰かが見つけて入って来る心配もないらしい。通ってきたもの以外が入ると、中はただのサウナになっているのだとか。
毎日こんな凄い風呂に入れるなんて、羨ましいとしか言いようがない。
「ちょっとあんた……どれだけ長風呂なのよ。この私を待たせるんじゃないわよ!」
再びゲートを通って部屋の中へと戻ると、ターゴンとメイプルだけではなく、さっき半裸で逃げ出した美少女も席に着いていた。
今度は半裸の姿ではなく、ちゃんと黒い魔道のローブに身を包んでいる。
「お、痴女じゃん」
「ち、痴女じゃないわよ!」
そして始まる罵倒合戦。こういう輩は際限なくマウントを取ろうとするので、黙っていても永遠につけ上がって来る。そのため、俺は一歩も引かない。
「あんたが勝手に覗いてきたんでしょ!? 最低! この変態! エッチ! スケベ!」
「あれれぇ~!? おかしいぃぞぉ!? 俺が入ったのは誰かが出入りする可能性もあり、なおかつターゴンが着替えるのを控えるように言っていた普通の場所だったと思うんだけどなぁ!? どっちが悪いのかなぁ!?」
「で、でも! すぐに出て行かないで私を舐めるように見てたじゃない!」
「このドアの使い方もわからない、ここに来たばかりの俺より、この部屋を知りつくしているお前がさっさと出て行けばよかったんじゃないの? はい論破」
何も言い返せないのか、バーニャは無言で顔を真っ赤にして悔しそうに手をぶんぶんと振る。
ふははは! 俺に口喧嘩で勝てると思ったか? リューネとディーチとかいう正論で殴ってくるいじめっ子たちを相手に、俺がいったい、何年戦い続けたと思っている?
「……先が思いやられるな」
俺たちのやりとりを見て、何故かターゴンが深い溜め息を吐き出した。
「先ってなんだよ? ……風呂にも入ったことだし、そろそろ色々と教えてもらうぜ?」
すかさず俺は、席に着いて問いかける。
「あんた、随分と貧民街の連中に慕われているんだな? 浮浪者のおっさんは守ってくれているとか言ってたが……どういう意味だ?」
「どうってことはない、食料などの配布を定期的に行い、支援をしている……それだけだ」
「本当か? 俺はどうにも、それだけじゃないように感じたけどな」
俺がそう言うと、ターゴンは何故か嬉しそうに不敵な笑みを浮かべた。
「……なに、こうやって隠れながら生活をしているんでな。身を隠すのには、ああいう身元不明の連中を利用するのがいざという時にも便利なのさ。恩を売っておけば……従うだろ?」
どうにもそれも、嘘くさかった。根拠はなく、俺のただの直感だが、この男は貧民街を支援する一番の理由を隠して話している気がする。
これまで得た情報が脳内で整理され、俺に違和感を与えているのだ。貧民街で会った浮浪者が見せた表情と、この男の支援は別物だと。
とはいえ、今は話すつもりがなさそうだ。
「他にも聞きたいことはあるけど、とりあえずはこの王都に来た目的……強くなる方法とやらを教えてもらおうか? ソウルジュエルの効果を失った俺のレベルの上げ方を教えてくれよ」
「レベル0の者が、レベルを上げる方法なんてない」
「はい?」
答えが信じられず、俺は拍子抜けして聞き返す。
「お前のレベルはどうあがこうが、永遠に0のままだ」
そして再度、厳しい現実を叩きつけられる。考えたくはなかったが、嘘を言っているようにも思えず、俺は口を開けたまま固まってしまう。
「落ち着け、強くなる方法が何もレベルを上げることだけじゃない」
「いや……まあそりゃそうだけどさ、それってつまりあれでしょ? リューネと一緒のあれだろ? トレーニングして肉体的に無理やり強くなろうぜ! 的な感じ……でしょ?」
「まあ……その通りだ」
そして俺は落胆してしまう。メイプルが「この人わかりやすいですねぇ~」とケタケタ笑っているのも相まって、徐々に怒りがこみ上げてきた。何笑ってんだこいつ。
なんのために苦労してここまで来たのか? それがオチなら俺は畑仕事をしていたというのに。
「お前の言う強さとは、随分と視野が狭いのだな? それだけ良い観察力を持っている割に気付けないとは……もしくは、習慣的にやっていたが故に、当たり前なことすぎて気付きにくくなっているだけか?」
だがターゴンは、そうやって落ち込む俺を蔑んだ目で見てきた。
「そういうお前はレベルいくつなんだよ?」
「レベル30だが?」
「レベル30のやつにそんなこと言われてもっっっ! ていうかレベル高っ!」
俺はテーブルを叩きつけて、人生で一、二回あるかないかくらい心の底から叫ぶ。
だがレベル30なら、貧民街の連中に支援するだけの資金を稼ぐのも、背後のゲートを作りだすだけの力があるのも納得だ。納得しただけだが。
「お前はレベルを勘違いしている」
「勘違い?」
「レベルは所詮、ソウルジュエルに溜め込んだ魔素量だ。人体そのものが変わるわけじゃない」
そう言われ、俺はリューネのプニプニの白い腕を思い出す。
あいつもそれなりに筋肉はある方だが、俺ほどじゃない。レベルは人体に力を与えるが、人体そのものを作り変えているわけじゃないと言いたのだろう。
「だがお前はその魔素を取り込むことができない。なら強くなるのにやれることは一つだけだ」
「だから、トレーニングをして身体を強くしろって言うんだろ?」
「少し違う。ソウルジュエルの力ではなく、人体で本来できることをできるようになればいい」
言葉の意味がわからず、俺は少しだけ首を傾げる。
「意味がわからないか? ならここにいるメイプルとバーニャと戦ってみるといい。二人ともレベル0だが……お前より確実に強いはずだ」
ターゴンに言われて二人に視線を向けると、メイプルは「えへぇ~」と照れくさそうに、バーニャは得意気に鼻息を荒くしてふんぞり返った。どっちも顔面殴りてえ。
とはいえ、ここがレベル0でないと来られないという話から、薄々この二人も同じ境遇のレベル0だとは予測していたが、さすがに俺より強いとは思えなかった。
二人とも、リューネ以上に白いプニプニの腕をしているから。




