生ゴミ爆誕-8
「ほら、かかってきなさいよ? 恥をかかせてあげるわよ?」
「おいおい常識的に考えて、こんな狭い部屋で戦うわけにはいかないだろ? しかもいきなり戦えって言われても抵抗あるし、あ! 君の中の常識だと、どこでも好き放題に暴れていいことになっているのかなぁ!? ごむぇんごむぇん!」
「くぅぅぅぅ……! 後悔しなさい!」
直後、俺の目の前に信じられない光景が広がる。
突如炎の球体が出現し、俺に向かって真っ直ぐに飛んできたのだ。
「っと!?」
俺はすかさず身体を捻り、座りながらギリギリのところで回避する。
後方に飛んだ炎の球体はゲートの扉へとぶつかると四散し、そのまま消滅した。
ゲートが燃えなかったことから、ただの幻覚かとも一瞬思ったが、俺の頬が熱を帯びていることからすぐにそれが幻覚じゃないことを悟る。
「お前たちがいくら暴れたところで、俺が魔法で保護しているこの空間は傷一つつかん」
「いやいや、待って? レベル0って嘘かよ、明らかに今の魔法じゃん!」
「嘘じゃない、バーニャは正真正銘、レベル0の魔法使いだ」
「レベル0が魔法使いって……レベル0に魔法は使えないだろ?」
「それは魔素を利用した魔法のことだろう? 彼女が使っているのは魔素を利用した魔法ではない。精霊術式……四大元素をつかさどる精霊の力を借りて発動する古の魔法だ」
聞いたこともない名称の魔法に、俺は思わず息を呑む。
「もしかして……あんたも?」
「はい~! 私も精霊さんの力を借りて魔法を使えますぅ~! 私が使えるのは治癒とか、身を守る魔法に片寄っていますけど、精霊さんの力を借りられますよ!」
視線をメイプルに向けると、メイプルはさも当たり前のように笑顔で答えた。
「もしかして……俺にも!?」
期待を籠めてターゴンに視線を向ける。
「どうだろうな? 使えるのかもしれないが、精霊術式は才能が必要だ。バーニャは攻撃に特化し、メイプルは防御に特化しているように個人差がある力だからな」
はっきりと可能性がないと言われなかっただけでも、俺は心を躍らせた。
「精霊術式は魔素を持たない者にしか扱えない力だ。魔素を体内に保有する者に、精霊は力を貸さない……故に俺も使えん、教わるなら二人に教えてもらうといい」
「……ん? どうして魔素を持っていると、精霊は力を貸してくれないんだ?」
「魔素は元々モンスターが放出する力の源だ。魔の力を、精霊は嫌うのさ」
どこか寂しげな顔で、ターゴンはそう言った。
何か引っかかる言い回しだったが、今はそんなことはどうでもよかった。
「俺に精霊術式を……教えてください!」
子供の頃から憧れていた力を使えるようになるかもしれないという事実を前に、俺の興奮が止まらなかったからだ。恐らくは精霊術式以外にも、ターゴンは強くなるための力を知っている。
つまりは魔素以外にも、俺の知らない強くなるための力があると伝えたかったのだろう。
「はぁ? あんたさっき私になんて言った?」
「とても素敵で可憐な女性だな…………って」
「息を吐くように嘘をつかないでもらえるかしら?」
俺が下手に出るや否や、最初に懸念した通り、バーニャはこれでもかとふんぞり返る。
「あんたみたいなゴミ臭い男に扱えるような力じゃないのよ、精霊術式は? 子供の頃から精霊と仲の良い私とメイプルだから使える力なの、おわかりかしら?」
「……調子乗んなカス」
「なんか言った?」
「いえ、何も言ってません! 本当、どうしてこんな素敵な人に舐めた口を利いてしまったのか、自分でも不思議だと思っています!」
内心、目から血が噴き出るほど屈辱を感じていたが、耐えてでも教えてもらいたかった。
ようやく掴んだ強くなる糸口を簡単に捨てられるほど、俺の強くなりたいという気持ちは半端ではないということだ。
「良かったら私が教えますよぉ?」
そこで、メイプルが快く笑顔でそう言った。その瞬間、俺はかつてないほど明るく優しい光に照らされたかのような晴れやかな気分になる。
お前、良い奴だったんだな、さっきアホとか思ってごめんな。
「ちょっとメイプル! こんな奴に教える必要なんてないわよ! どうせ教えたところで使えるようになんかなれやしないわよ!」
「おい、そのうるせえ口を閉じろ」
「はぁ!? さっきまでへこへこしてたくせに、何を生意気言ってんのよ!?」
「へこへこしても教えてくれないのに、どうしていつまでもへこへこしてると思ったの? あ! そっかぁ!? おつむが足りないからいつまでも女王様気分でいちゃうのかなぁ!? ごめんねぇ!?」
「な、な、なぁぁぁ!」
俺に煽られて相当悔しいのか、バーニャは顔を真っ赤にして手をぶんぶんと振り回す。
メイプルが教えてくれるなら、もうお前に用はない。消え失せろ。
「清々しいほどにクズですよね、ユンケルさん」
「そうかなぁ? 俺はそう思わないんだけどなぁ? みんなおかしいよ」
「おかしいのはあなたですけどね」
手のひらをくるくる返す俺を、メイプルとターゴンがドン引きしながら見てくるが、俺は全く気にしない。
「いい加減にしろ……これからパーティーを組んで戦っていくことになる仲間だ。もう少し仲良くできないのか?」
そこで、ターゴンは呆れながらそう言った。
何を言っているのがわからず、俺だけではなく、バーニャまでもが「え?」と耳を疑う。
「言葉通りだ。お前たちにはこれからパーティーを組んでもらい、俺が出すクエストをこなしてもらうつもりだ」
「な、な、何を言っているんですか師匠!」
納得がいかないのか、バーニャはテーブルに前のめりになってターゴンへと訴えた。
「こんな精霊術式も使えない足手纏いと一緒だなんて……私はお断りです!」
そんなこと言ってくるお前を俺は断りたいんだが?
とはいえ、ターゴンが何も考え無しにそう言っているとは思えず、俺は黙って耳を傾ける。
「この男はミノタウロスを倒した経験がある」
「え? えぇぇぇえぇ!?」
「ほぇぇぇ~! 本当ですかぁ!?」
俺がミノタウロスを倒したのが信じられないのか、バーニャは引きつった顔で汚物を見るような視線を、メイプルは尊敬しているかのような明るい顔を俺へと向ける。
「個人の強さとしてはお前たちの方が上だが、モンスターの戦闘においてはこの男の方が上手のはずだ。強くはないが、戦いには勝つ……そういうタイプであると俺は見込んでいる」
「ちょっと待った。そう褒めてくれるのは嬉しいけどさ、なんで俺がお前の掲示するクエストをこなさなきゃならないんだ? 俺は強くなるための方法も含めて、お前に質問しに来ただけだぞ」
「……別に構わないが、お前、生活していくための仕事があるのか? 下水道のルートを通ってきたお前にあてがあるとは思えないが? ちなみにクエストというからには報酬は出すぞ?」
「よろしくお願いします」
「変わり身早っ!」
再び手のひらを熱く返す俺に、メイプルがすかさず叫ぶ。
「それに、真実を知りたいのであれば、お前にそれしか道はない。強くなるためにもな」
「……真実」
それを言われて、俺はターゴンが村で残していった気になる言葉を思い出す。
「あれは……どういう意味だったんだ?」
故に、俺は問い詰めるような真面目な顔を向けてそう言った。
「あれとは?」
「しらばっくれんな、レベル1以上の者を信じるなとか……リューネがミノタウロスの止めを刺したせいで、村にミノタウロスが復讐しにきたみたいな言い回しをしてたことだよ」
問うと、ターゴンは不敵な笑みを浮かべる。
「それはまだ話せんな。お前が……本当に俺の見込み通りかを確かめるまでは」
そして、話す気がないのか席を立ち上がり、部屋から出て行こうとする。
「おいおい、王都に来たら話してくれるんじゃなかったのか?」
「すぐにとは誰も言っていない。教えてもらいたかったら強くなることだ。強くなるための方法であれば……俺の知っている限りのことはいくらでも教えてやる」
「なんでそんなに隠そうとするかね……? 色々とさ」
貧民街の人たちにしている本当の支援を含めて、ターゴンには秘密が多い。
だが、文句を言える立場でもなく、今は付き従うしかないのも事実だ。
とはいえ、そうやって秘密にする理由を察せないわけでもなかった。
つまりは、それだけ漏れてはいけない秘密なのだろう。俺が信用に足りる人物であることを確かめるまでは決して言えず、レベル0でなければ知ることすら許されない秘密。
恐らくは知るだけでも、俺が不幸になる危険性すら孕んだ……何か。
「まあいいや、じゃあ代わりに一個だけ教えてくれよ?」
部屋から立ち去ろうとする前に、俺はターゴンを呼び止める。
「なんだ?」
するとターゴンは振り返らず、歩を止めた。
「さっきさ、強くなるのに人体で本来できることをできるようになればいいって言ったよな?」
「それが……どうした?」
「まるでさ……レベルを上げることが、人体で本来できることじゃないように聞こえたんだが?」
ターゴンは、その問いにすぐに答えなかった。
部屋は静まり返り、数秒の間、静寂に包まれる。
「やはりお前は察しがいい。……期待している。この部屋の使い方は二人に聞け」
何が嬉しかったのか、ターゴンはそう言って小さく笑うと、そのまま部屋から出て行った。
「……結局それも教えてくれないのかよ」
結果的に、強くなる以外の情報は教えてもらえず、俺は肩をすくめる。
少なくとも、秘密を知るには強くなる必要があることだけは理解できた。




