4話
テーブルには湯気が出ているマグカップがあった。こどもに人気のキャラクターである、にゃんクンとにゃんチャンが仲良く手を繋いでいるデザインが可愛い。商品名、にゃんクンとにゃんチャンの仲良しマグカップ〜二人は公園を歩く〜、五百八十円(税込み)。
「ハクチュッ」
ストーブの前で毛布に包まっている理沙ちゃんがくしゃみ。ドンドンドンと大きな足音を響かせ階段を下りてきたのは、メガネをかていて厚化粧の理沙ちゃんのママ、エリザベス。本当の名前は里香子なんだけど、何故エリザベスなのかはのち程。
「あらまぁ理沙ちゃんくしゃみして〜、寒くない? だいじょうぶ? お医者様呼んだ方が良い? あの男の子は誰?」
「今ストーブであたたまっているから寒くない! 大丈夫じゃなかったら風邪薬飲んでる! お医者様は患者様の診察でお忙しい! あの男の子は実は私も知らないの!」
あっ、理沙ちゃんは声を上げて口を押さえた。
「私も知らないの、私も知らないの、私も知らないの、私も――」
少しずつ理沙ちゃんに満面の笑みで近づく、同じ言葉を言い返しながら。
「違うのよママ、あの男の子を知らないんじゃなくて、ワタシモ・シラナイノって名前なの」
苦しい言い訳だ。理沙ちゃんは恥ずかしくなって、顔を真っ赤にしている。エリザベスは眉を動かし回れ右をした。
「そうなの、ワタシモ・シラナイノ君ってお名前なの、変ちくりんね」
そう言ってキッチンの方へ歩いていく。時計の針は六時十分をさしている。冷蔵庫を開けて、少しして閉め、腕組みをして何かを考えている。理沙ちゃんが
「とりあえずセーフ」と呟いた後、お腹がなった、
ぐぅ〜。
「理沙ちゃんお腹ぺこぺこでしょう?」
「ママだって。大きな音だったよ」
二人は目を合わせ笑った。次の瞬間、エリザベスの頭の上にピカーンと光る電球が、出たような感じがした。待ってて理沙ちゃん今直ぐ作るから! 厚化粧奥様は素早くエプロンを着て、素早く石けんで手を念入りに洗い、素早く調理開始。目にも留まらぬ包丁さばきはまるで職人技。
「ハクチュッ」
理沙ちゃんはテーブルに置いてあるマグカップに手を伸ばした。取っ手を持ち、マグカップを鼻に近付けて香りを楽しむ。コーヒーの香りが漂う。
しかし、香りを楽しんでも全然あたたまらない。さあ早く飲んで、少し苦いかもしれないけど我慢して飲んで、大人になったらこの苦さが美味しいんだと分かるけど飲んで、ホットなコーヒーは芯まであたたまるから。
「香りは好きだな」
フーフー、と息を吹きかけ冷ます。そして、飲む。
「でも苦いから不味いよ」
舌を出しながらキッチンへと走る。ダダダダ、その足音に
「何事なのよ?」と振り返ったエリザベス。理沙ちゃんは
「飲み物! 飲み物!」と大声。エリザベスは調理を中断し、冷蔵庫から天然水が入った五百ミリリットルのペットボトルを取り、水を求める理沙ちゃんへ投げた。
「ゴメンね、またコーヒーとココアを間違ってしまったわ。オホホ」
「苦いよ〜、水なんかじゃ苦味がどこかに行かない〜、牛乳かなっさんかファンタンはないのー!?」
「私は夕食作らないとイケないから、自分でしてね」
調理再開、隠し味にマヨネーズを混ぜて蓋をした。五分、五分ピッタリに蓋を開けないと美味しくなくなる! エリザベスは鋭い目付きで腕時計を見ている。料理をしている時の厚化粧奥様は、別人になるのだ。
「ママのバカー」
いつもコーヒーとココアを間違う、果たしてこれで何回目なんだろうか。理沙ちゃんはココアが大好き、でもコーヒーは大嫌い香りは好きだけど。ココアは甘いからお好きなんだとか。冷蔵庫を開けて、右から三つ目にココアを発見!
「こここコレは、お天気お兄さんが飲んでいた甘過ぎココア」
二日前の目覚めるテレビでお天気お兄さんが、今朝のティータイムというコーナーで飲んでいた甘過ぎココア。理沙ちゃんは、急いでコンビニへと走ったが時既に遅し、たった今売り切れになりましたスミマセン。店員に頭を下げられた。その後別のお店に走ったが売り切れ。甘過ぎココアは入手困難なココアとなったのだ。
「やっと飲める! ママありがとうね」
ニコニコ〜。ココアでこんなにも笑顔になる女の子は、きっと理沙ちゃんだけだろう。
甘過ぎココアをマグカップに注ぎ、まずは香りを楽しむ。そして飲む――
「甘過ぎーー!!」
とってもニコニコしている。マグカップは空になった。




