3話
しかし返事はない。頬を赤くして荒い呼吸をして、とても苦しそう。コン、コン、と咳き込み手足を震わせている。とてもじゃないが返事ができる状態ではない。この間にも冷たい雨によって、体温を奪われているかもしれない。
「大丈夫なの? ってそんな訳ないよね……」
理沙ちゃんは、目の前でぐったりとしている男の子の濡れているおでこに右手を添える。次に自分のおでこに左手を添える。すると口を少し開き、目をしばたたせ、ランドセルそこに置いて真剣な表情になった。
――雨やんでよ、晴れたら少しはマシになるからさ。お願いだよ――
深呼吸をしている理沙ちゃん。大きく息を吸って、ゆっくり吐く。
「多分、てか絶対そうだと思うんだけど、ちゃんと確認しないと分からないしね。こんな事するのは恥ずかしいけど、ママが、コレをすると確実に分かるって言ってたし」
意を決したのか、理沙ちゃんは水玉模様の男の子の顔へ唇を近付ける。
えっ、今から何するの? 恥ずかしいって何? ひょっとしてこんな時にキッス?
「あつい。やっぱり熱ね、どうやら私の予想は見事的中していたようだ」
おでことおでこをくっつけている。遠くから見たら、二人はキスをしているように思われるだろう。
水玉模様の男の子の鼻息がかかり、理沙ちゃんはくすぐったいと言っておでこを離した。
「君熱あるから私の家に運ぶからね」
「……ありがとう」
理沙ちゃんは水玉模様の男の子を、おんぶ。ランドセルは降りしきる雨に打たれながら寝転んでいるが、今はそんな事を気にしていられないだろう。苦しんでいる水玉模様の男の子を、一刻も早く家に連れていかないと、暖をとらせないとイケない――理沙ちゃんはそう思っているだろう。
「男の子って重いな、でも私はいつも男の子と遊んでるし力はあるんだよ」
「そう……なんですか?」
震えた声で理沙ちゃんの耳元で囁いた。
「耳元で喋られたらこそばゆいね。苦手だ」
「ごめんなさい……」
咳き込みながら謝った。バナナの皮に注意しながら、階段を下りる。
「謝らなくていいから、もう喋らないで。こそばゆいから」
笑顔で言ったが水玉模様の男の子には見えない。理沙ちゃんはバナナの皮がある位置を確かめるために下を見た、するとそこにはバナナの皮はなかった。さっきまでここにあったバナナの皮はいずこ?
「自らごみ箱へと歩いて行ったのかな。これだと面白いよね」
トン、トン。肩を軽く叩かれ、後ろから人差し指が。右を指している。
「耳元じゃなかったら喋って良いよ。でもキツかったら黙ってても良いよ。で、右に何があるの」
右、そこには手摺りがあってその上には何故かバナナの皮が。
「何故手摺りに?」
『アンタが滑って転んだら危ないでしょ、だから私様はわざわざ手摺りにしがみ付いてるのよ』
「危ないって分かってるんだったら初めからしがみ付いてなさい、もしくはごみ箱へ直行しなさい」
『そんな事言われても。悪いのは歩きバナナをしていた人間よ! 食べ終わったらポイッて捨ててさ』
「歩きバナナって何?」
『歩きながらバナナを食べるの略語』
「貴方は誰?」
『だから、アンタが滑って転んだら危ないと思ったからわざわざ手摺りにしがみ付いてるバナナの皮よ』
理沙ちゃんは苦笑い。しかし、水玉模様の男の子はニコニコしている。
「気のせいね。私疲れてるんだ、疲労困憊なんだ」
「ふふ」
水玉模様の男の子はおんぶされている。とても幸せそうな表情でゆっくり目を閉じ、寝息をたてた。理沙ちゃんは、今日は半身浴をしようとかお香をたこうとか呟いている。
――あたたかい。人ってあたたかいな――




