2話
「……」
水玉模様の男の子は無言で理紗ちゃんを見た。頭上の真っ赤なランドセル、朱色のほっぺた、衣服に付いた水滴、水によって色が変わっている靴をじ〜っと見た。
「あの、私がそんなに珍しいかな? 白黒がキュートなパンダよりかは珍しくないんだけれど」
理紗ちゃんは、水玉模様の男の子が変な人だと思ったのか、一歩後ろに下がり少し警戒しているようだ。
そりゃあそうだ、水玉模様の男の子と理紗ちゃんは初めて会って、しかも、雨は自然のシャワーだから傘なんて差しちゃイケないよ! 地球が僕達のために雨を降らしてくれているんだから感謝しないと! ほら、雨って恵みの雨って言うでしょ? って言いそうな感じがするし。その笑顔が、それを物語っている。
「あっ、ゴメンなさい。別に珍しくないですが、じ〜っと見てしまいました」
頭を下げて謝った。理紗ちゃんは、さらっと失礼な事を言われたような気がして、困った顔をしている。
「それで私に何か様?」
急かすように早口で言った。水玉模様の男の子は、あーそうでした忘れてました最近物忘れが激しくて悩んでるのでどうすれば忘れないか良ければ教えてくれませんか? と逆に疑問符。会話は不成立だ。
「……ママが心配するからもう帰るね。珍しくない普通の私に貴方の捜し物を聞くより、警察官に聞いた方が見つかるかもよ」
言い終わるとじゃあねと軽く手を振り、お家に向けて歩きだす。歩道橋には靴音が響き、ついでに雨音も響く。何だか切ない。
「なんなのよアイツは。私は超急いでるっていうのに、アイツは私の事を考えずにマイペースでさ」
口をとがらし一人ごとの理紗ちゃん。通り掛かる人が一人もいないから、声が大きい。
「マイペースといえば弟のケンちゃんだよね。ヤツは時間が制限されているバイキングのお店に食事に行った時、何で食べる時間が決められてるんだ! ゆっくり食べないと噛めないじゃんって言ってたな」
フフフ。口元をゆるめて、やわらかな表情になった。コレは思い出し笑いだろうか? もうちょっとで下り階段という所で歩を止め、肩を落とした。
「一人ごとって何だか寂しい。思い出し笑いってもっと寂しい……」
歩道橋の下を走る軽トラックや大型車は、ワイパーを左右に振りながら減速していく。道路の信号機は赤色で、歩道の信号機は青色。横断歩道を渡る人は誰もいないけど、信号を無視して交通違反をするようなドライバーはいない。全国のドライバーがこの様な人達だったら、交通事故は減るだろう。
理紗ちゃんは、雨空を見上げ直ぐに目線を前に戻し再び歩く。その後ろの方では、あっちを向いて座り込んでいる水玉模様の男の子がいた。頭が少し左右に動き、右手が顔の方へ。
「うわ、危な! 誰だよこんなところにバナナの皮を捨てたのは。ゴミはゴミ箱に捨てなさいよー」
雨によって滑りやすくなっている階段にバナナの皮はあって、理紗ちゃんはトラップにハマらないよう慎重にまたぐ。向こうの方では、水玉模様の男の子が雨に打たれ横たわっていた。
「ゴミ箱に捨てたいのは山々なんだけど、私は早く帰らなければならないの。だから、そこでおとなしく待ってなさい! 明日捨てちゃうから」
バナナの皮にウインクをして、階段を下りる。
――寒いよ。冷たいよ。こんな時は温かいスープを飲みたい――
「えっ」
理紗ちゃんは驚いた表情をしながら左右に首を振る。しかしそこには誰もいなくて、雨が降っているだけだった。
「声が聞こえたような……気のせいかな?」
――どうせ僕は独りぼっちなんだ。誰も手を差し伸べてくれない――
「また聞こえた」
歩道にある信号機が点滅して青色から赤色に変わった。車道にある信号機は青色に変わり、ドライバーは一斉にアクセルを踏む。エンジン音を響かせ水を弾き飛ばし、車は目的地へと向かう。
「この声って……最近聞いたような」
何かに押されたのか、理紗ちゃんはランドセルを右手で持ち、走りだした。
先程下りてきた階段を上る。バナナの皮に注意しながら、ほどけている靴ひもを気にしながら。
「私に助けを求めたのは君なの?」
階段を上りきり、水玉模様の男の子へと駆け寄りながら言った。




