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初めての友達!

放課後、授業を終えたアレンは、机の上を片づけながら隣を見た。

ルナはすでに帰る準備を終えている。

もっとも、鞄の中には朝から持ってきた筆記用具しか入っていない。教科書はすべて滞在先の屋敷に置いてきたままだと言う。


「明日からは時間割を確認して、必要な教科書を持ってこい」


「アレンが見せてくれるのではないのか?」


「毎日見せるつもりはない」


「なぜだ?」


「ルナにも自分の教科書があるだろ」


「二人で見たほうが効率的だ」


「くっついて来るせいで狭い」


「私は気にならない」


「俺が気になる」


ルナはしばらくアレンを見つめた後、静かに首を傾げた。

多分無自覚でやってるんだろうけどあざとい。


「やはり私が近いと意識するのか?」


「違う」


「昼にも同じことを言っていた」


「同じ勘違いをしているからだ」


アレンが鞄を持って立ち上がると、教室に残っていた生徒たちがこちらを窺った。

放課後に二人で菓子店へ行くという話は、いつの間にかクラス中へ広まっている。


「アレン様、本当にルナさんと街へ行くんですか?」


数人が寄ってきて1人の女子生徒が尋ねる。


「ああ。案内役だからな」


「二人きりで…ですか?」


「その予定だ」


女子生徒たちの間に、何とも言えない空気が流れた。

アレンがこれまで誰かと二人で街へ出かけることをほとんどしなかったためだろう。

ルナは周囲を見回した。


「人間の女たちは、なぜアレンと私を交互に見ている?」


「気にするな」


「敵意を感じる」


「気のせいだ」


「10人ほど、私を睨んでいる」


「よく気づいたな」


「殺気には敏感だ」


「殺気ではない」


「なら何だ?」


「説明が面倒だ」


アレンは答えを避け、教室を出ようとした。

すると、ルナが当然のように制服の袖を掴む。


「またか」


「迷子にならないためだ」


「教室から正門までは一度歩いただろう」


「人間の学園は似たような廊下が多い」


「目印を覚えろ」


「アレンを目印にしている」


「俺は動くぞ」


「だから掴んでいる」


理屈が通っているようで通っていない。仕方なくアレンは袖を掴まれたまま廊下へ出た。

その後ろを、二人の生徒がついてくる。

アレンが振り返ると、二人が不自然に足を止めた。


「なぜついてくる」


「え、えっと…偶然帰る方向が同じだけよ!」


ミアが答えたがその隣にはセシルもいる。

この2人がなぜかついて来ていた。


「俺も街へ用事があってね」


「お前の家は逆方向だろう」


「今日は寄り道したい気分なんだ」


明らかについてくるつもりだった。ミアはよく分からないがセシルは恐らく興味本位だろう。

ルナは二人を見て、少し考える。


「同行したいのか?」


「ルナ」


アレンが止めるより先に、ミアが笑顔を見せた。

やはり帰る方向が同じなんて嘘だった。


「迷惑でなければ、一緒に行ってもいい?」


「私は構わない」


「俺は不安だ」


「なぜだ?」


「ルナが何かやらかさないかという不安もあるし、菓子店へ行くだけなのに人数を増やす必要はない」


「人間は大勢で食事をするのが好きなのではないのか?」


「場合による」


「昼は一人で食べるより、誰かと食べるほうが親しいと言っていた」


「そこまで言っていない」


「では、皆で行けば全員と親しくなれる。それに友達を作らねばならない」


ルナにそう言われると、アレンも強く拒否しづらい。

彼女が人間と交流すること自体は、留学の目的に合っている。


「……勝手にしろ」


「決まりだね♪」


ミアは嬉しそうにルナの隣へ並んだ。

セシルも自然に反対側へ回ろうとしたが、その前にアレンがルナの隣へ立つ。


「アレン、そこに立つと俺が入れないんだけど」


「入る必要があるのか?」


「ルナちゃんに街を案内したい」


「案内役は俺だ」


「一人より二人のほうがいいだろう?」


「邪魔だ」


「ずいぶんはっきり言うね」


セシルは苦笑しながらも、結局ミアの隣を歩くことになった。

どうやらミアもルナのことに興味を持っていたらしくセシルに一緒に話しかけるの手伝ってほしいと頼んでいたようだ。


「あ、あのね…ルナちゃんのこともっと知りたいなって思って…もしかしてアレンくんとデートの予定だった?」


「デートの予定だったがデートはいつでもできる。あとルナでいい」


「違う。デートじゃない」


「とうとうアレンにも春が来たならお祝いするよ」


「違うと言ってるだろ。護衛だ」


「まぁ、ルナちゃんは美人だし惹かれないほうが無理な話だよ。俺も仲良くなりたいんだけどアレンが警戒しまくってるからねー」


「当たり前だ。ミアはいいがセシルには警戒するに決まってるだろ。ルナは純粋だからお前から余計なこと吹き込まれないようにな」


「心外だなぁ。俺はアレンをたまに煽ったりはするけど女子には優しいよ」


「俺を煽るな。ルナが真似したらどうするんだ」


「アレン…保護者みたいになってるよ」


そんな話をしながら学園の正門を出てしばらく歩くと、ルナはすぐに立ち止まった。

目の前には王都の大通りが広がっている。

馬車が行き交い、店の呼び込みの声が響き、露店には色とりどりの商品が並んでいた。

ルナは周囲を見回しているが、その赤い瞳は明らかに輝いていた。

ミアとセシルは少し離れた場所でどの店に行けばルナが喜ぶか話し合っているようだが、あの二人はいつからあんなに仲良かったのかは知らないが随分と親しげだ。


「人が多い」


「王都だからな」


「全員、人間か?」


「ほとんどはな。ドワーフとかもいる」


「これだけいるのに、誰も争っていない」


「街中で常に争っていたら国が成り立たない」


「お父様は、人間は顔を合わせれば奪い合う生き物だと言っていた」


「魔王は人間を何だと思っているんだ」


「アレンの父親は、魔族について何と言っていた?」


「……魔族は人間を騙し、隙を見せれば襲うと聞いていた」


「似たようなものだな」


「……そうだな」


互いに、相手を恐ろしい存在だと教えられてきた。それでも今は、同じ通りを並んで歩いている。

和平を結んだだけでは争いは終わっても根本的な問題が解決していなかったらまたいつか争う日が来るかもしれない。

やはりまずはお互いの悪い印象を無くしていくことが大事だ。


ミアとセシルは行く店が決まったのかこちらに戻ってきて案内を始める。

興味深そうにキョロキョロしていたルナは露店の前で足を止めた。

そこには色とりどりの髪飾りが並んでいる。


「これは何だ?」


「髪飾りだよ。こっちは普通におしゃれ用でこっちは特別魔法付与されてる物だよ」


ミアが1つ1つ教えてルナは真剣に頷いている。

ルナは髪飾りもしていないが可愛い物には興味があるようだ。


「髪につけるのか?」


「そう。ルナちゃ…ルナならこれなんて似合いそう!」


ミアが赤い薔薇を模した髪飾りを手に取った。

ルナは受け取ると、じっと観察すると匂いを嗅ぐ。


「薔薇に似ているが、香りがしない」


「作り物だからね」


「偽物を髪につけるのか?」


「飾りだからいいの」


「本物では駄目なのか?」


「本物は枯れるし、茎に棘もあるでしょう?」


「棘は取ればいい」


「そういう問題じゃないよ」


ルナは人間の装飾文化が理解できないらしい。

それでも髪飾りには興味があるようで、鏡の前に立って自分の髪へ当てている。


「アレンどうだ?」


「何がだ」


「似合うか?」


アレンは薔薇の髪飾りとルナの赤紫を帯びた黒髪を見比べる。

赤い薔薇はルナの髪色にも合っているしルナの瞳の色とマッチしているので似合わないわけがない。


「悪くない」


「悪くないとは、良いという意味か?」


「そうだ」


「では買う」


「決めるの早いな」


「アレンが似合うと言ったから。それに紫が無いからな。アレンの瞳と同じ色にしたかったが紫は人気なようだ」


アレンは何とも言えない感情が湧き上がったが気のせいだと思うことにした。

即決でルナは店主へ髪飾りを差し出す。

自分の一言で即決されるとは思ってなかったが何を買うかは本人の自由なので口出しはしない。


「これをもらう」


「銀貨3枚だよ」


店主が答えると、ルナは鞄から革袋を取り出した。

そして中から金貨を一枚取り出す。


「これで足りるか?」


「待て」


アレンは慌ててルナの手を押さえた。

足りてないわけではないがこの金額で金貨1枚は相手が大変だ。


「髪飾り1つに金貨を出すな」


「銀貨を持っていない」


「金貨1枚は銀貨100枚分だ。釣りが大変になるだろ」


「釣り?」


「余分に払った分を返してもらうことだ」


「返してくれるのか?」


「当然だ」


「人間は金を受け取れば、そのまま奪うと聞いていた」


「誰にだ」


「お父様だ」


(魔王に人間の買い物を教えた者は誰なんだ)


魔王の中では人間はそこまで暴漢なイメージなんだろうか。

アレンがため息をつく横で、店主は苦笑していた。


「お嬢ちゃん、金貨1枚じゃ釣りが多すぎるよ。細かい金は持ってないのかい?」


「ない」


「俺が払う」


アレンは銀貨3枚を店主へ渡した。

するとルナがアレンを見て金貨をアレンに渡そうとしたが拒否される。


「買ってくれるのか?」


「後で返せ、金貨ではなく銀貨で」


「贈り物ではないのか?」


「違う」


「親しい男女は贈り物をするのだろう?」


「今のは立て替えだ」


「立て替えも贈り物の一種ではないのか?」


「違うと言っている。あとちゃんと両替はしておけ」


「むぅ」


ルナは髪飾りを受け取りながら、どこか納得していない様子だった。

ミアとセシルは近くで待ってくれていたようだ。


「せっかくだから、つけてあげる」


ルナはミアに髪飾りをつけてもらった。

赤い薔薇が黒髪に馴染み、赤い瞳をより鮮やかに見せる。


「ルナ凄く似合ってる〜!」


「先ほどより似合っているか?」


「すっごく似合ってるよ、可愛い!」


「ルナちゃん凄く似合ってるよ。ルナちゃんに似合わない薔薇なんて無さそうだね」


「ミアとセシルは大好評してるがアレンはどうだ、綺麗か?」


「……綺麗だ」


一瞬、ルナの目がわずかに見開かれたがその後、ほんの少しだけ口元が緩む。


「そうか」


それだけ言うと、ルナは髪飾りへそっと触れて少し嬉しそうにして歩き出す。

薔薇の髪飾りを着けたルナは一層注目を浴びている。

ミアがアレンを見てにやりと笑う。


「アレンくんって、ちゃんと女性を褒められるんだね」


「事実を言っただけだ」


「今まで何人に褒め言葉言ったの?」


「覚えていない」


「俺が覚えてる限りだと多分いないと思うよ。ルナちゃんが初めてでしょ?」


「私がアレンの初めてを奪ったのか」


「言い方をどうにかしろ」


「でもアレンって告白されても、いつも真顔で断っているからね。それでもアレンを諦めきれない女子は割といるけど」


「セシルが告白を断るとたまに俺にクレーム言ってくるやつがいるのはどうにかできないか」


「初耳なんだけど!?それもっと早くに言ってよ」


ミアはルナに「モテる男は大変そうだね」と言うとルナは二人の話を聞きながら頷く。

この二人にとってモテるのは良いことばかりではないらしい。

ミアも可愛いしパステルパープルの髪もふわふわしてて、でも面倒見がいいのが雰囲気で伝わるから何だかんだで男女共に好かれそうではあるとルナがミアをじっと見ながら思ってるとミアが視線に気付き、なんでじっと見られてるのか分からずとりあえず「えへへ〜♪」と笑う。


「ルナみたいな美人さんは憧れちゃうな〜」


「こればかりは遺伝としか言いようがない。お母様が美形だから顔はお母様譲りで髪色と瞳の色はお父様譲り」


「へぇ〜顔のパーツはほぼ母親譲りなんだね。ルナちゃんのご家族にいつか会えるといいな」


「いつかは会える。だがミアは可愛いままでいいと思うが駄目なのか?」


「へっ!?可愛いなんて照れちゃうよ…」


ミアが本当に照れてるようで頬に両手を当てているのを見てルナは真似をする。

それを見たミアがまた笑うという可愛いの連鎖。


「女子の会話って平和だね。俺達も平和な会話しようよ」


「それならよくしてるだろ」


「よくしてるってもしかして剣術の話のことを平和な会話だと思ってる?あれ全然平和じゃないよ。最終的に鍛錬させられるし」


「別にいいだろ」


「ところでその菓子店はまだか?」


「もうすぐだ」


「先ほどから甘い匂いがする」


「よく分かるな」


「嗅覚はとても優れている」


目的の菓子店は、大通りから少し入った場所にあった。白い壁と青い屋根の可愛らしい店で、窓には色とりどりの菓子が並んでいる。

ルナは扉の前で立ち止まった。ガラス越しに店内を覗き込む。


アレンが扉を開けると、甘い香りが一気に漂ってきた。

ルナは店へ入った瞬間、完全に足を止めた。

棚には焼き菓子が並び、ショーケースの中には苺のケーキ、果物のタルト、クリームを挟んだ菓子が並んでいる。


「これが菓子店か」


「ああ」


「すべて食べていいのか?」


「金を払えばな」


「金貨10枚で足りるか?」


「まさか今全部買うつもりか?」


「全部味を確かめたい」


「1日で食べるな」


「50枚のクッキーは食べられた」


「ケーキは同じ感覚で食べるものではない」


王都でも人気な菓子店で死ぬまでに一度は食べておきたいお菓子のお店と言われていて更にはカフェも行っているので食べて帰ることもできる。

値段も高くなくて誰でも入りやすいのでどの層からも人気だ。

するとルナがコソッと小声で訴えてくる。


「アレン」


「何だ」


「人間は恐ろしい」


「今度は何だ」


「これほど多くの菓子を作れるとは聞いていなかった」


「恐ろしさの意味が違う」


「アレン、全部買ってもいいのだろうか」


「言っておくが買い占めは良くない。他にも欲しい人はいるから今日は3つまでだ」


「金貨ならたくさんある」


「金の問題じゃない。それに食べすぎると太るぞ」


「魔族は太らない!国1つ消し飛ばせるのだぞ」


「それを今ここで言うな!それと後の人のことを考えろ」


ルナは仕方がないというように3つ選び始める。

アレンはチーズケーキとコーヒーのセット、ミアはガトーショコラと苺プリン、セシルは焼き菓子と紅茶のセット。

ルナはしばらく悩んだ末、苺のショートケーキとチョコレートケーキ、それから果物のタルトを選んだ。そして持ち帰り用にクッキーを選び、クッキーは缶の柄で選んだと言っても過言ではない。


そしてアレンがまた立て替えてくれてセシルはミアの分を奢っておりミアがあわあわしながらセシルにお礼を言っていた。

ルナもミアの真似をしようとあわあわしている部分を真剣に再現していたら「そこは真似しなくていいんだぞ」とアレンに言われてスッとやめるとちょうど店員が来て4人は個室に案内される。

席につくと、ルナは運ばれてきた3つのスイーツを見つめた。


「どれから食べるべきだ?」


「好きなものから食べればいい」


「全部初めてだから分からない」


「なら苺からにしたら?甘酸っぱくて食べやすいよ。ケーキの定番だね♪」


ミアの言う通りにルナは苺のショートケーキを一口食べた。

その瞬間、動きが止まった。


「どうした?」


「……美味しい」


「そうか」


「これは危険だ」


「何がだ」


「いくらでも食べられそうだ」


「危険なのはお前の食欲だ」


ルナは二口目を食べ、今度ははっきりと目を細めた。

そしてまたコソッとアレンに聞いてくる。


「人間はこれを毎日食べているのか?」


「毎日は食べない」


「なぜ?」


「金もかかるし、甘いものばかり食べると身体に良くない」


「私は魔族だから問題ない」


「本当か?」


「多分」


「多分なら食べすぎるな」


ルナは苺のケーキを半分ほど食べた後、チョコレートケーキへ手を伸ばした。

そして一口食べ、再び動きを止める。


「こちらも美味しい」


「よかったな」


「アレンも食べろ」


「俺はいらない」


「美味しいぞ」


「甘いものは嫌いではないが、今はいい」


「一口だけだ」


昼食の時と同じように、ルナはフォークにケーキを乗せて差し出した。

この状態になるとなぜか引こうとしないので恐らく折れるつもりはなさそうだが今ここにはミアとセシルがいる。


「自分で食べろ」


「親しくなるためだ」


「分かった、親しいと認めるからやめろ」


「む?それならいいか。チーズケーキとやらは美味しいか?」


「ああ、甘すぎなくて食べやすい」


「私にもくれ。代わりに私も分ける。だから口を開けろ」


「結局振り出しに戻ってるぞ」


そのまま一歩も引いてくれず結局食べさせ合うことになった。ルナがパクリと食べるとチーズケーキもお気に召したらしい。

一連を見ていたセシルがクスクスと笑っている。


「やっぱり恋人だよね」


「違う。断じて恋人ではない」


「それにしてもルナちゃんは積極的だね。自己紹介のときにアレンを恋人候補って宣言したのは驚いたよ。学園が修羅場にならなければいいけど」


「私は事実を口にしているだけだ。アレンのことが好きだからな」


「事実ではないし堂々としすぎだ」


「でも凄いなって思うよ…だって普通はもう少し恥ずかしがるものだよ?私は恥ずかしくなっちゃう」


「なぜ恥ずかしい?」


「好きな人に気持ちを知られるのは緊張するでしょう?」


「好きなら知られたほうがいいのではないか?」


「それはそうだけど……」


あまりに真っすぐな理屈に、ミアも返答に困っていた。

ルナは何でも口にする。裏表がないとも言えるが、距離感を理解していないとも言える。


「好きな気持ちは恥ずべきことではない。誰を好いていようがそれは自由だ」


「すごい名言だけど…でも気持ちを伝えて嫌な思いをさせるかもしれないよ。俺は女子の告白を嫌だと思ったことはないけど嫌いな人から告白されて気持ち悪いと思ったなんて話は聞いたことがあるからね」


「それはそうだな。言われたことに対して相手がどう思うかは相手次第だ。だから私はアレンの様子を見ていたが、アレンが好みと言ったり恋人候補と言ったり好きだと言っても嫌な顔はしなかった」


「今日出会ってばかりだというのに驚きのほうが大きいに決まってるだろ」


「だが今日だけで何度も言ったし食べさせ合ったりもしたが嫌な顔はしなかったではないか」


ルナの話を聞いてミアは頬を染めて興奮していてセシルはニヤニヤしている。

さっきの事と食堂の件を思い出して否定できずにいるのにルナは平然と食べている。


「…出会ったばかりの相手に好きとか嫌いとか分かるわけない」


「多少は分かるはずだぞ?なんとなく苦手な者だとか一目惚れという言葉だって存在しているではないか」


「それはまあ、そうだが…」


「アレンのことだから魔族は敵だと思ってルナちゃんのことも嫌いになるのかと思ってたけどそうでも無さそうだし寧ろちゃんと守ってるし嫌いじゃないのはさすがに俺でも分かるよ。アレンは嫌いな相手には露骨に嫌そうなオーラ纏ってるし」


「魔王城にいた頃はルナそんな経験があったの?」


「いや、お父様が男を近付けさせないとしていたから告白すらされたことない」


「へぇ〜ルナって溺愛されてたんだね」


と話しながらアレンはハッとした。

つい流されてしまうところだったがミアとセシルを見た。


「なんでそこで魔族とか魔王城とかの話が出るんだ」


そう言うと今更ルナがハッとする。

するとミアとセシルは顔を見合わせて


「だってルナって魔族だよね」


「とっくに気付いてたよ?周りはどうなのか知らないけど」


「なっ…!」


アレンが驚愕しているとルナが不安気に見つめてくる。

ルナが今頼れるのはアレンだけ。


「お前達はいつからルナが魔族だと気付いていたんだ」


「私はルナが『人間はーー』とか言ってたから言い方が普通じゃないなって思って、さっきルナが魔族は太らないって言ってたのが聞こえちゃった。だって明らかに人間なんて言うのは異種族しかいないもん」


「俺は自己紹介の時から気になってたんだ。ルナちゃんが魔力を抑えてる感じがしたしアレンはやたらと警戒してるし只者じゃないって思ってたしリゼル国にヴァレンタイン家なんて存在しないのも分かってたからミアともしかしたら魔界から来たのかもって話をしてたよ」


「だからやたらと二人でコソコソしてたり二人で少し離れたところで様子を見てたりしてたのか」


「そういうこと。ここの個室もそうだよ。防音魔法はかけてるし俺がお願いしたら快く用意してくれたからこのお店はいい所だね」


つまり二人はルナが魔族だと勘付いていながらも一緒に行動していた。まだルナは今日学園に来たばかりだというのに。この二人がどう出てくるかで和平自体も揺らぐ…そうアレンが身構えるが


「でも魔族って知ってもルナはルナだよ。頑張って人間界に馴染もうとしてるしアレンくんの言う事もちゃんと聞いててルナみたいな魔族がいるなら魔族についてもっと知っておかなきゃね」


「そうだね。それにルナちゃんは敵意はないし寧ろ友達を作りたいんじゃないかな。アレンが恋人候補ならまだ友達はいないんでしょ」


「友達いない。だがお父様とお母様は友達大事だからいっぱい作るようにって言ってた」


「それならわたしルナと友達になりたい!」


「俺もルナちゃんの友達になるよ。それにアレン1人だと負担も多そうだからね」


そう言われてルナは嬉しそうにしてチラッとアレンを見る。

本当に友達になってくれるのか、友達になっても大丈夫な存在なのかという確認で見ているのだろうけどこの二人なら問題ないだろうと頷く。二人とも仲良くなりたいのは本心のようで嘘を言ってるようには見えない。


「分かった。今日から友達だ」


ルナは嬉しそうに微笑みながら言うと二人は「よろしく」と言って笑顔を見せる。

ルナの微笑みに不覚にも可愛いとアレンは思ったが咳払いをして気を紛らわせた。


「ところでルナちゃんは何の魔族なの?」


「魔王の娘だ」


「「えっ!?」」


魔族だとバレたからあっさりと正体を白状したがそこまで言うのは訳が違うとルナを止めようとしたが時既に遅し。こんなに即言うとは思いもしなかった、いや嘘を言わないルナなら言うことも予想できたはずだ。

ここが個室で心底良かった。


「ルナ、なんで魔王の娘のことまでバラしたんだ」


「正体を聞かれたから」


「だからって…他の奴にも正体を聞かれたら話すつもりか?」


「それはない。アレンが信用できる者だけにって言ってたから友達に打ち明けただけで約束は守ってる」


「…不安しかないが確かに俺が言ったことは守っているな」


「勇者が魔王の娘に好かれてるってことだけ見ると平和そのものなんだけどなぁ。でも確かに信用できる相手にだけ正体を明かしたいなら明かしていいと思うけど単独で判断はしないほうがいいかも」


「そうだね、ルナは人間社会の知識がまだそんなにないしピュアだからすぐ悪い人に利用されちゃいそう」


「ほら、二人も俺と同じこと言ってるから気をつけろ」


「うむ。アレンにくっついとけばいいということだな任せろ」


「…まあ大体合っているが、あんまりくっつき過ぎるな」


「恋人はくっついてるものじゃないのか?人間は違うのか?」


「俺達は恋人じゃない。俺のことが好きだからってぐいぐい来すぎだ」


「むぅ、好きなだけなのに」


「その好きの気持ちが強い」


「でもルナは人間と仲良くするのは初めてだし私達も分からないところは教えるよ。だからまずは甘い物の食べ過ぎには注意と相手にも好みのタイプとかあるから相手に合わせることも大事だよ♪」


「分かった。アレンの好みのタイプはなんだ?」


「特にない」


「詰んだ。では嫌いなタイプは?」


「嘘をつく奴は嫌いだな。俺は嘘ついて騙す奴が大嫌いだ。だがルナみたいに事情があって嘘つかなければいけないとか理由があるなら話は別だ」


「ヒヤヒヤしたぞ。私は許された。ケーキが喉を通らなくなったらどうする」


「ルナちゃんのケーキもう無いよ」


そう言われて気付けば皿の上は空っぽになってて「食べた気がしない」と言うルナだがさっきミアに甘い物の食べ過ぎには注意と言われたばかりなので追加注文はしない

アレンが「そろそろ出るか」と席を立ちルナはクッキー缶を大事に抱えてお店を出る。


ミアとセシルはルナに王都のおすすめのお店や近寄らないほうがいい場所を教えたりしてルナは真剣に聞いている。

その時、通りの反対側から大きな声が響いた。


「そこのお嬢さん!珍しい宝石を見ていかないかい!」


一人の商人がルナへ手招きして露店には色とりどりの宝石が並んでいる。

ルナはすぐにそちらへ歩こうとしたとき、アレンに腕を掴まれた。


「待てルナ」


「宝石だ」


「見れば分かる」


「珍しいと言っている」


「客を呼ぶための言葉だ。全部が本当に珍しいとは限らない」


「嘘をついているのか?」


「大げさに言っているだけかもしれない」


「同じではないのか?」


「人間社会では少し違う」


「面倒だな」


それでも興味を失わなかったらしく、ルナは露店の前へ向かった。

商人はルナの服装と容姿を見て、裕福な貴族令嬢だと判断したらしい。


「これは北方の山でしか採れない、非常に貴重な魔石です。お嬢さんの美しい瞳にもよく似合う」


商人が赤い石を差し出した。

ルナはそれを受け取り、しばらく見つめた。


「ただの赤水晶だな」


商人の笑顔が固まる。

ルナは宝石が本物かどうか見抜けるのかと隣で見ているとルナは指摘していく。


「い、いやいや。これは魔力を高める特別な力がありまして」


「魔力がほとんどない」


「素人には分かりにくい力なのです」


「私は素人ではない」


ルナの指先から、ごく微量の魔力が流れ込む。

赤水晶は一瞬だけ光った後、ぱきりと音を立てて割れ、商人の顔が青ざめる。

アレンはすぐに彼女の手から破片を取り上げた


「ルナ、街中で魔力を使うな」


「少し流しただけだ」


「少しでもだ」


「偽物だと証明した」


「壊す必要はない」


「では、どうする?」


「買わずに立ち去ればいい」


商人が慌てて割れた石を回収する。

偽物でも大事な商売道具を壊されてしまったのだから。


「お、お嬢さん。商品を壊されては困ります」


「偽物を売ろうとした」


「偽物ではありません!」


「では、魔力を見せろ」


「それは……」


商人の目が泳ぐ。ルナが只者じゃないとさすがに察したのだろう。

アレンはため息をついた。


「壊した分は払う。ただし、赤水晶としての値段だけだ」


商人は反論しようとしたが、アレンの顔を見て口を閉じた。

現勇者であるアレンのことは王都でも知られている。

下手に騒げば、自分が偽物を売っていたことまで明るみに出ると悟ったのだろう。


「……銀貨1枚で結構です」


アレンが銀貨を渡すと、ルナが不満そうに見上げた。


「なぜ払う?悪いのはあの男だ」


「お前が壊したからだ」


「騙されそうになったのだぞ」


「だからといって、勝手に商品を壊していいわけではない」


「人間の決まりは不合理だ」


「何でも力で解決するな」


「魔族なら、騙した者の店を燃やす」


「絶対に真似するな」


「燃やさない。アレンが困るからな」


その返答に、アレンは少しだけ言葉を失った。


「……俺が困るから?」


「ああ。わたしが問題を起こせば、監視役のアレンも叱られるのだろう?」


「それはそうだが」


「なら気をつける」


ルナは自分の行動が正しいと思っていないわけではない。

それでも、アレンが困るなら抑えようとしている。そのことが少し意外だった。


「最初から気をつけろ」


「努力する」


「努力ではなく守れ」


「人間の決まりは多すぎる」


「1つずつ覚えろ」


「アレンが教えるのか?」


「そういう役目だからな」


「では問題ない」


ルナはあっさり言った。

自分が覚えられなくても、アレンがいれば何とかなると思っているらしい。


「お前は俺を頼りすぎだ」


「頼ってはいけないのか?」


「自分でできることは自分でしろ」


「私は人間社会では何ができるか分からない」


そう言われると、アレンも否定できない。ルナは戦えば圧倒的に強い。だが、人間の街で買い物一つするだけでも危うい。力の強さと生きる器用さは別なのだ。

だがそれだと「俺無しでは生きていけなくなる」…なんて言えるはずもなかった。


「少なくとも知らない人間に何か言われたら金を渡す前に俺へ確認しろ」


「分かった」


「知らない人間についていくな」


「分かった」


「勝手に魔法を使うな」


「必要な時は?」


「先に俺へ言え」


「アレンの許可が必要なのか?」


「そう思っておけ」


「分かった。私はアレンの許可がなければ何もしてはいけない」


「極端だ」


「あははっ!もう完全にアレンくんは保護者だね」


「違う」


「ルナちゃんが恋人候補って言ってるから婚約者みたいでもあるね」


「違うと言っている」


「アレンは誰かを好きになったことがないのか?」


あまりに真っすぐ尋ねられ、アレンはわずかに視線を逸らした。

恋愛事情についてそんな真剣に聞かれたことがないのでどう言えばいいのか迷いながら正直に答えた。


「ない」


「なぜ?」


「理由はない」


「告白された相手は全員美しかったのだろう?」


「外見だけで決めるものではない」


「性格が悪かった?」


「そうとは限らない」


「では、なぜ好きにならない?」


「知らない」


これまで恋愛に興味がなかった。

告白されても、相手の気持ちに応えるほど知りたいと思わなかった。

勇者としての訓練や学業で忙しく、必要性も感じていなかった。


「アレンは恋愛が苦手なのだな」


「苦手ではない」


「経験がないのだろう?」


「お前も同じだ」


「私はアレンで経験している。今のところアレンが第一候補だ」


「勝手に順位をつけるな」


「第一候補しかいない。私は一人でいい」


「俺もモテるんだけど?」


「セシルもかっこいいがアレンのかっこよさと種類が違う」


「ルナってクール系男子が好きなんだね。セシルは爽やか王子様タイプだからルナの好みとはちょっとズレてるんだ」


「そういう事だ。私はアレンだけだ」


ルナはそう言って、自然にアレンの袖を掴み直した。その言葉に、アレンの胸がわずかにざわついた。

ルナが好意について隠す気がないのはどうにかしてほしい。


気がつけば空が赤く染まり始めていたので今日は解散ということになりミアとセシルは途中で別れ、二人きりになる。大通りから学園近くの屋敷へ向かう道は、少しずつ人通りが減っていった。


「今日はどうだった?」


「人間の学園も街も面白い」


「怖くはなかったか?」


「少しは警戒した。だが、お父様から聞いていたほどではない」


「魔族も、俺が聞いていたほど恐ろしくないのかもしれないな」


「私は恐ろしくないのか?」


「力と人間社会の無知さは恐ろしい。それに危なっかしい」


「なぜだ?」


「全く危機感がない。金の使い方を知らない。騙されそうになれば商品を壊す。自分の正体をすぐ口にしそうになる」


「私は強い」


「強さで解決できない問題もある」


「その時はアレンが解決するのだろう?」


「最初から俺任せにするな」


「だが、今日すべて解決した」


「たまたまだ」


「明日もアレンは一緒にいるか?」


突然の問いに、アレンはルナを見る。何を当たり前なことを言ってるのだろう。

アレンがルナの護衛をすると決めたのだから放っておくことはしないに決まっている。


「学園にはいる」


「隣に?」


「ああ」


「昼も一緒に食べる?」


「お前が変なことをしないようにな」


「放課後も?」


「毎日は街へ行かない」


「そうなのか。だが明日も楽しみだ」


その声は小さかったが、はっきりと嬉しそうだった。

アレンは横を向いたまま答える。


「そうか」


「アレンは?」


「何がだ」


「明日が楽しみか?」


「……お前が問題を起こさないか心配だ」


「それは楽しみではないのか?」


「違う」


「では嫌なのか?」


ルナが足を止めたのでアレンも止まる。

夕暮れの中、赤い瞳が真っすぐこちらを見つめている。


「嫌ではない」


「ならよかった」


再び歩き始めたルナを見ながら、アレンは小さく息を吐いた。

たった一日。まだ出会ってから、たった一日しか経っていない。

それなのに、彼女が明日も隣にいることを、当然のように思い始めている。

そうしてルナの屋敷に到着するとルナは門をくぐる前に振り返った。


「アレン」


「何だ」


「今日はありがとう」


「ああ」


「明日も頼む」


「任務だからな」


「任務でなくても来るか?」


「任務じゃなくても明日も授業があるから当然だ」


「任務でなくても私が困ってたら助けるか?」


アレンは一瞬迷った後、口を開く。


「お前が困っていれば、任務でなくても助ける」


ルナは静かに目を見開いた。

そして、今日見せた中で最も柔らかな笑みを浮かべる。


「分かった。覚えておく」


「あまり簡単に困るな」


「努力する」


ルナは屋敷へ入っていった。扉が閉まるまで見届けてから、アレンは帰路につく。

胸の奥に、妙な感覚が残っていた。

警戒すべき魔王の娘。国を滅ぼせるほどの脅威。監視しなければならない相手。

そのはずなのに、最後に見せた笑顔が頭から離れない。


「……何を考えているんだ、俺は」


自分へ言い聞かせるように呟く。

これは任務だ。ただの監視と護衛。それ以上でも、それ以下でもない。

そう思っていたのにルナは純粋に好意を伝えてくれて、「勇者」という肩書ではなく「アレン」としか見ていなくて、振り回されるのは困るが嫌ではない、その自分の気持ちが1番困った悩みになった。

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