奇跡の少女と錬金術士
「ほら、出来たわよ。応急処置ならこれで多分大丈夫と思うけれど……。」
「お、待ってた待ってた~。あとちょっとで退屈だったから部屋の掃除でもする所だったよー。」
「人に依頼しておきながらなに有難迷惑な事しようとするのよ。依頼料割り増しにするわよ。」
「あはは、冗談冗談~。」
「全く……アルモニアが居ないと私が困るんだから。」
「そこはお互い様だよ~。」
アレイシアはアルモニアにロッドを小型化して渡す。
アルモニアは受け取ったロッドをじっくりと、壊れている所が無いかを確認する。
続いて、ロッドを本来の大きさに戻して、また再び確認する。
そして、確認作業が終わった後、「ふう」、と息をつく。
「よし、見た感じ大丈夫そうだね!」
「見ただけじゃダメよ、ちゃんと使ってみなさい。」
「え~?」
「え~じゃない。さっきも言ったけど、貴女が居ないと私が困るの。というかそれ以上に、私の作った物でミスがあったら私自身が許せないわ。」
「そういう所、なんというか職人って感じだな~……まあ、それが良い所なんだろうけどっ。」
そう言いながらも、アルモニアはすっ、とロッドを構える。
「……輝石の一。」
そう言うと、アルモニアはくるり、とロッドを中心に一回転させる。
すると、ロッドの中心の白い宝石が光る。
そして、それに呼応するように、周りの透明の宝石が様々な色に輝いていく。
まるで虹色に輝くプリズムのように。
赤、青、緑、紫、黄、黒。
属性の色に対応して輝き。
そして、それに対応して、アルモニアの衣服が輝きだす。
ひらりとしたスカートに、長い裾、まるで薄いベールのように透ける布がマントのように、薄く伸びていく。
宝石と同じように、もしくはそれ以上に色とりどりに、美しく、アルモニアの衣服が変わっていく。
……この世界には、「神」が居る。
宗教的な、信仰される神や、国の神話や地域の伝承としての神も存在する。
だが、それと同時に。
生物として、存在として。
この世界に、「神」と呼ばれる存在が居る。
そして、この世界の人々は、それを「識って」いる。
その神々は、「神威」という神の力を持って、様々な権能を駆使する。
その神威によって、力を示す神々は、まず普通の人間が持つ魔力では対抗出来ない事がほとんどだ。
国々によって、魔力だったり、それ以外の呼称をされる人間や魔族、魔物や人間に近い者、人外達が存在するが、どれも基本的には神々に敵う者は居ない。
だが、このアルモニアが持つ力は。
普通の魔力の常識を超えた力を持つ。
人々と神々が争う事はあまり無いこの国だが……。
アルモニアの持つ魔力は、ある意味、「魔力であって魔力ではない」。
神威とも、魔力とも違う、この異質な力。
これを研究してきた科学者達は、結論としてこう呼称する事にした。
「奇跡」、と。
アレイシアの作ったマジックアイテムは、そのアルモニアの奇跡を、アルモニアが思うがままに振えるようにしたものだ。
普通に考えるなら、そんな人智を超えた異能を、人々は恐れたり、逆に利用しようとするかもしれない。
事実として、このアヨティスの研究者達もこの奇跡の力を研究して再現しようとしている辺り、利用していると言えなくも無い。
だが、同時にこの世界の神々も、アルモニアの力に興味を示した。
だから、アルモニアの力は神々に、その力を振う事で、見せる事で神々はアルモニアを祝福するのだ。
だから、アルモニアはデミウルゲン国内で、冒険者としてその活動によって力を振う事を契約している。
アルモニアの力を振う事自体が神々に対する奉納の舞のようなものなのだ。
だから、アルモニアも様々な契約をした。
「この奇跡の力の研究を許す代わりに、悪用をしない事、その悪用の基準はアルモニア本人、もしくはアルモニアが信頼出来る人間が判断する事。」
「神々への奉納が出来なくなった時は、そのままその役目を降りる事。」
「他の冒険者と同じように扱い、他の冒険者を害したり逆に特別扱いもしない事。」
様々な契約を交わしたが、その中に、一番最初に結んだ契約がある。
それが、「自分の力を調整してくれるアレイシアの探索や採取、護衛の依頼は最優先で請け負う事。」
そして、「アレイシアが奇跡の行使の調整を行う事。」
この二つは、最初に結んだ契約だったのだ。
アレイシアは錬金術士だ。
当然、このアヨティスの外に出る必要がある。
アレイシアも戦う力はあるが、それでも強大な力を持っているというわけではない。
だからこそ、アルモニアはアレイシアの戦士であり、騎士である事を望んだのだ。
アルモニアなりの信頼であり、アルモニアなりの感謝の形なのだ。
やがて、衣服の変化は終わっていた。
衣服が変化するのは、その魔力を最も効率的に運用出来る姿を取る為だ。
デミウルゲン国内では、一般的とまでは言わないが、特別に不思議な物ではなく、魔力の使い方や魔法としては知っている人は知っているくらいの運用方法だ。
特に、自分の衣服に拘りがあるオシャレが好きな魔法使いだったり、正装として使う者、または識別がしやすいように、という目的で使う者が多い。
因みにアルモニアはオシャレ好きな前者だ。
もちろんあくまでも主目的は魔力の効率的な運用だ。
だが、衣服が華やかな方が、アルモニア本人としてもテンションも上がるし、やはり神々も喜ぶ神のい方が多い。
ついでに言うと、アレイシアもこっちの方がやりがいがあるし、アレイシアは逆にあまり服には詳しく無いから勉強にもなる。
錬金術士としては扱う物の見た目にも拘った方が良いという場合もあるので良い経験になる。
要するに利害の一致だ。
「ふう……。」
「奇跡の最初の行使は行えたわね。どう?違和感は無い?」
「……うん!魔力の流れにも変な感覚無し!ばっちり使える筈!」
「なら、一つ奇跡を起こしてちょうだい。そうね……これから私は依頼の作業に戻るから、少し休憩がしたいわ。紅茶と茶菓子でも出してちょうだい。」
「オッケー、じゃあ……えいっ!」
パチン!と指を鳴らすと、テーブルの上に二人分の紅茶とクッキーがしっかりと容器に乗った状態で現れた。
この程度の奇跡、わざわざ奇跡としても行う必要の無い、アヨティスの科学者達が見たら「そんな事で使うな」と怒りそうなくらいの事である。
魔力なんて使わなくても出来るし、魔力を使うならもっと簡単に出来る事なのだから。
それでも、わざわざ奇跡を使って用意したのだ。
「よし、奇跡の行使も問題無しね。……というか、ちゃっかり二人分用意して、あんたも紅茶を飲むつもりね?」
「あはは、いいじゃんいいじゃん、細かい事は気にしない気にしない~。じゃあ、一緒にティータイムしようよ~。」
「全く……まあ、奇跡みたいに美味しいお茶だったら許してあげるわ。」
楽し気に笑うアルモニアに、アレイシアは苦笑しながらもつられて小さく微笑む。
因みに、アルモニアがアレイシアに対して世話焼きなのは、全くこの仕事の内容には関係無いのであった。
この後ティータイムを楽しんだアレイシアは、アルモニアと別れた後カインドから依頼された資材をその日のうちに作るのであった。
以前私の別の作品の後書きでも書いたのですが、私の作品の中には「世界の主人公」と「物語の主人公」が存在します。この物語の主人公はアレイシアであることは間違いないのですが、世界の主人公はアレイシアも、アルモニアも、エクセも主人公です。きっと、この後に世界の主人公が増えるだろうとも思っています。先の展開を全然考えていないですが、様々な主人公に相応しい人々の中で、アレイシアの日々をのんびりと書いていけたらいいなと思います。




