錬金術士アレイシアの朝
アレイシアは、錬金術士だ。
そして、同時に、この都市の一番大きな学院である、聖アヨティス学院の生徒でもある。
そして、このアトリエの店主でもある。
アレイシアが、まだ学生の身分で、アヨティスの一等地では無いとはいえ、何故こういうアトリエを個人所有しているのか。
それには、彼女の家族が関係している。
アレイシアの家族も、貴族などでは無いにしろ、それなりに優秀なアヨティスの学者として働いている。
そんな家族の中で、祖母が亡くなった。
寿命による老衰であり、大往生であった。
そんなわけで彼女の遺産の整理になったのだが、そんな時ある手紙が見つかった。
アレイシアと、アレイシアの妹。
それぞれに宛てた手紙であった。
生前の祖母は、姉妹を大変に可愛がっていた。
なので彼女は、それぞれに遺産を送っていたのである。
その祖母からのアレイシアに残された遺産が、このアトリエと、新しい錬金術の道具と、生前の祖母が未解読であった錬金術の魔導書である。
アレイシアは、どちらかと言うとインドア派であった。
もちろん錬金術士としての訓練として、素材の採取をしたり護身の為の訓練などもしては来たが、基本的にはどちらかと言うとこうやって魔導書などの本を読んで解析をしたり、錬金術を使って物作りをしている方が楽しかった。
その為、恐らくアレイシアに向けてこの遺産が残されたのであろう。
因みに反対に妹はアウトドア派なので、冒険などに行くために必要な装備や技術書、知識書などを受け取った。
そうして、遺産を受け取ったアレイシアはせっかくアヨティスにあるので、という事で聖アヨティス学院に通いながらアトリエを開く学生になった、という所だ。
元々勉学にはそこそこ実力があった上に、聖アヨティス学院には自分の店を経営しながら通う学生も少なくないので問題は無かった。
まあ、とはいっても経営にはあまり興味が向かないからか、開店休業状態に近く、客はあまり多くない上に宣伝などもほとんどやっていないのだが。
なので、学院が休みの日などは一日を魔導書の解析に費やして寝食を忘れそうになる事も少なく無かった。
実際今日も、夜中まで魔導書を読んでいていつの間にか眠っていたらしい。
そうしてこうして友人に起こされる、というのがよくある一日なのだ。
「アレイシア、今日も店を起きる時間に開けるつもりだったでしょ~、せっかくお店に来てくれた人が居たら、帰っちゃったら可哀想でしょ~。」
「こんな朝からうちに来るのは貴女だけよ、アルモニア……。」
そうアレイシアに呼ばれるアレイシアの友人の名前は、アルモニア・ユニヴェール。
彼女もまた、聖アヨティス学院に通う一年生であった。
彼女は錬金術士ではなく、魔法学の生徒ではあるのだが、彼女の魔法が特殊である為、アレイシアに以前頼ったことがあり、その時からアレイシアの事を気にかけてその後なし崩し的に友人になった、という経緯である。
最初の頃はアレイシアが先輩という事もあってアルモニアが敬語で話していたが、今ではすっかりタメ口で話すようになっている。
慣れというか時間の経過という物は恐ろしい。
「ほらほら、エクセさんから朝ごはんのパンも貰ってるから、朝ごはんにしよ!どうせ今起きたばかりだからご飯とかも食べてないでしょ~!」
「そうだけど、全く……エクセもお節介焼きね……。」
エクセ、というのは、同じ学院の二年生である錬金術士、エクセ・ジェンティである。
彼女は、錬金術士の中ではある意味今、ポピュラーな錬金術士であり、ポーション作りで稼いでおり、彼女のポーションの店は繁盛しているらしい。
そんな錬金術士として成功者の道を歩んでいる彼女だが、アレイシアの事を結構気に入っているというか、友人として見ているのか、彼女もまたアレイシアの事を気にしてこうやって差し入れをしてくれたりする優しい性格だ。
因みに、アルモニアにアレイシアの事を紹介したのもエクセである。
その経緯については、また後ほどに語る事にする。
「ん……仕方ないわね……。」
アルモニアの勢いに負けたアレイシアは、散らばった魔導書を操作して本棚や机の上に直していく。
錬金術士、とはいえど、魔力が必要なのは同じなので、こういう日常の厄介ごとは錬金術の道具を使わず、かといって手作業で直したりもせずにこうやって整理していく。
基本的にどちらかと言えばだらしない性格ではあるのだが、それでも一応アトリエの経営者としての自覚はあるし、祖母から貰ったアトリエをゴミ屋敷にはしたくないくらいの気持ちはあったので、こうやって自分で整理整頓は自分で行うのだ。
まあ、自分の読んでいる本を自分の思う通りに置いておきたいというのもあるのだが。
因みにアルモニアはこういう時は手伝わないという事にしている。
以前手伝おうとしたら速攻で拒否された事から、アルモニアは何となく触れない方が良いのだな、と学習しているのだ。
それはそれとして……。
「せっかく錬金術士なら、整理する道具とか作れば良いんじゃないの?」
「あ~……客には需要はありそうね。私は自分の思う通りに整理しないと気が済まないからあまり自分では使いたくないけど。」
「そういう所まで細かく出来たらいいのにって事か~。」
「それに金持ちならわざわざ錬金術で作った物じゃなくって、魔導機を使えば良いって人も居るかもしれないわね。」
「掃除用の魔導機?魔導機なのに勿体ない気がするけどな~。」
魔導機、とは、最近スエティーラ大陸から流れ着いた新しい技術だ。
デミウルゲンには機械はあるが、魔力を動力源として動く魔導機の研究では他の大陸や国とは以前は遅れを取っていたが、最近スエティーラ大陸から技術が流れ着いたお陰で魔導機研究も一気に進んだ。
現在アヨティスの研究機関の中でも特にホットと言える研究題材だ。
しかし、まだ魔導機の一般化的な普及はまだまだ先だ。
そこで、他の研究技術で代用出来ないか、というのは良い発想かもしれない。
そう思いながらアレイシアは整理を終えた。
「さて……じゃあせっかくの朝からの客人だから、朝食の用意くらいはするわよ。」
「私も手伝うよ~、二人でやった方が早いし!」
「あら、そう?ならお願いするわ。」
そうして、二人は朝食の準備をする事にした。
私の今メインで連載している作品である「転生悪役令嬢はヒロインの影になりたい」を読んでいる方はスエティーラ大陸という言葉を見て気づいたかもしれませんが、この「変わり者錬金術士アレイシアの研究日誌」は転生悪役令嬢の別の地域でのお話です。というか、「沖牟中奇譚」も、違う世界ではありますが、設定的には繋がりがあります。とはいえ、他の作品を見ていないと楽しめない、という作品にする気は無く、基本的には一つ一つで独立したお話にする予定です。なので、そういう繋がりがもし見えたら繋がりがあるんだなあくらいの気持ちで見ていただけたら嬉しいと思います。




