第3章:消えることのない記憶
皆さん、申し訳ありません。章の掲載ミスがありました。アシスタントが誤って別の章を公開してしまいましたが、修正しました。ご支援ありがとうございます。
街は静まり返った。
瓦礫と砕け散ったコンクリートが灰色の雪のように地面を覆い、煙が廃墟となった街路を漂っていた。ほんの数分前に街を揺るがした爆発は、人々を信じられない思いで凍りつかせた。
破壊の中心に、一人の青年が立っていた。
アシュラ。
彼の左手は、先ほど受けた火傷で煙を上げていたが、腕に抱えた意識を失った金髪の勇者を決して離そうとはしなかった。
彼の周りでは、市民、兵士、政府関係者が、身動き一つできずに見守っていた。
「あの少年…ダンテの攻撃を防いだのか?」
「彼は誰だ?」
「またアウトローか?」
恐怖は群衆の中に野火のように広がった。
少し離れたところで、ダンテ・カイルはゆっくりと拳を下ろし、そして顔に笑みを浮かべた。
それは戦闘中に見せる傲慢な笑みではなく、もっと温かく、どこか懐かしいものだった。
「まだ立ってるのか…アシュラ?」
アシュラは火傷した手をちらりと見て、さらに強く握りしめた。痛みは耐え難いほどだった。
しかし、彼の頭の中を占めていたのは、ただ一つの記憶だけだった。
ダンテの攻撃を防げたのは、力のおかげではなかった。経験のおかげだった。何年も前に見た技だった。
彼の思考は過去へと遡った。
---
数年前……
14歳のアシュラが泥だらけの地面を這いずり回る中、狭い路地には雨が降り注いでいた。傷だらけで、恐怖に怯えていた。
7人のEランクチャンピオンが彼を取り囲んでいた。彼らが立ち上がろうとするたびに蹴り倒し、路地裏に卑屈な笑い声をこだまさせた。
「このガキもチャンピオンか」
「実に情けない奴だな」
そのうちの一人が前に出て、拳を振り上げた。
だが、その拳が振り下ろされる前に、別の声が割り込んだ。
「7対1か?」
破れたパーカーを着た少年が、両手をポケットに突っ込み、路地の入り口に立っていた。彼の表情は完全に無関心だった。
「いや」
彼は肩をすくめた。
7人の格闘家は苛立ちを込めた視線を交わした。
「ダンテ……あっちへ行け。お前には関係ない」
ダンテはただ微笑んだ。
「どうやら、ここは俺の縄張りみたいだな」
最初の襲撃者が飛びかかってきた。
ダンテは瞬時に相手の手首を掴み、誰も反応する間もなくその動きを止めた。路地に骨が砕ける鈍い音が響き渡る。
一瞬の動きで、ダンテは襲撃者を肩越しに投げ飛ばし、他の二人に叩きつけた。
残りの戦士たちが一斉にダンテに襲いかかった。
一人がプラーナダガーをダンテの首に振り下ろす。ダンテは刃を紙一重でかわすと、片足で回転しながら強烈な蹴りを放ち、襲撃者を道路の向こう側まで吹き飛ばした。
もう一人が背後から突進してきた。ダンテは両腕を交差させて拳を受け止め、そのまま額を男の顔面に叩きつけた。血が路面に飛び散る。
ダンテは動きを緩めることなく、呆然としている戦士を掴み、武器のように使って突進してきた別の敵に投げつけた。
次々と体が地面に転がっていく。
その時、ダンテの背後からプラーナの爆発が放たれた。
彼は最小限の動きで横にステップした。攻撃は壁に命中し、石壁が粉々に砕け散る。
煙が晴れるよりも早く、ダンテは術者の目の前に現れていた。彼の手が男の顔を鷲掴みにする。
次の瞬間、ダンテが男を壁に叩きつけると同時に、壁全体が爆発した。
別の敵が上から飛び降りてきたが、ダンテは空中で強烈な膝蹴りを繰り出し、それを受け止めた。衝撃が路地を駆け抜け、あたり一面に砂塵が舞い上がる。
残りの戦闘員たちは完全にためらった。ついに彼らの目に恐怖の色が浮かぶ。
ダンテはニヤリと微笑んだ。
戦いはほんの数秒後に終わった。
煙が晴れると、襲撃者たちは皆、崩れた路上に意識を失って倒れていた。
ダンテだけがそこに立っていた。彼のパーカーが風に軽く揺れている。
幼いアシュラは目を大きく見開いて彼を見つめていた。生まれて初めて、彼は「本物の強さ」というものを目にしたのだ。
ダンテはアシュラに歩み寄り、手を差し出した。
「この街で生き残るには……」
彼の笑みがさらに深まった。
「……反撃することを覚えろ」
アシュラはゆっくりとダンテの手を取った。その一瞬が、彼の人生を永遠に変えることになる。
---
記憶は消え去った。
アシュラは荒廃した戦場に戻り、静かにダンテを見つめた。
火傷を負った手が震える。
あの教え……あの訓練……それこそが、今彼の命を救ったのだ。
ダンテはアシュラの表情に気づき、静かに笑った。
「どうやら、ちゃんと聞いていたみたいだな」
アシュラは視線を逸らし、こみ上げてくる小さな笑みを隠そうとした。言葉を交わさなくても、何年も続く絆がある。たとえ運命が彼らを引き裂いたとしても、決して消えない繋がりがそこにはあった。
二人の間の沈黙はほんの一瞬だった。アシュラがついにその沈黙を破った。
「なぜ今なんだ、ダンテ?」
彼の声は穏やかだったが、その奥には無数の疑問が潜んでいた。
「なぜ何年も経ってからここに戻ってきたんだ?」
ダンテは後頭部を掻きながら肩をすくめた。
「退屈だったんだ」
彼はニヤリと笑った。
「それとも、君のあの真剣な顔が恋しかっただけかもしれないな」
アシュラはため息をついた。
「君は全然変わっていないな」
周囲では兵士たちがひそひそと話し合っており、政府のドローンが上空を旋回し、あらゆる瞬間を記録していた。
「攻撃すべきか?」
「いや……まだだ」
「あれはダンテ・カイル……アウトロー・チャンピオンだ」
「もう一人は彼の共犯者に違いない」
疑わしげな視線を無視して、ダンテはだるそうに伸びをしてから背を向けた。
「さあ、行こう。これ以上政府関係者が現れる前にここを出た方がいい」
アシュラは頷いた。二人は崩れ落ちる建物へと駆けつける救術隊の混乱の中へと姿を消した。
しばらく歩き、静かな地区にたどり着いてから、アシュラは再び口を開いた。
「それで……あの金髪のチャンピオンは誰だったんだ?」
ダンテの笑顔が消えた。
「ワスベだ。カザンの部下だった」
アシュラは歩みを止めた。
「カザン?」
普段は穏やかな彼の表情も、一瞬で険しくなった。
「よりによってカザンと関わるなんて……」
ダンテは笑った。
「まったくだ。運が悪かったな」
アシュラは腕を組んだ。
「カザンは国内最強ギルドの一つを率いている。政府の後ろ盾があり、噂では他の世界のチャンピオンとも繋がりがあるらしい。彼に逆らった者は跡形もなく消えるぞ」
ダンテはまるでどうでもいいことのように肩をすくめた。
「金を要求されたんだ。だから、受けて立った」
アシュラは瞬きをした。
「何だって?」
「Eランクのふりをして、彼のギルドに入ったんだ」
ダンテはニヤリと笑いながら頬を掻いた。
「楽な金稼ぎさ」
アシュラは信じられないといった表情で彼を見つめた。
「馬鹿め。正体はバレたんだろうな?」
「いずれはね」
ダンテは軽く頷いた。
「どうやら政府が俺を始末するために奴らを雇ったらしい。Eランクを二人送れば十分だと思ったんだろうな」
ダンテは思わず笑みをこぼした。
「だから、代わりに俺が奴らを倒してやったんだ」
アシュラは眉をひそめた。
「二人目はどこだ?」
「殺した」
ダンテはためらうことなく答えた。
「街の外の廃墟でだ。ワスベのせいで事態は悪化した」
夜風が二人の間を吹き抜けた。再会して以来初めて、二人は言葉を交わさなかった。
アシュラはついに深く息を吐き出した。
「つまり、今は政府とカザンのギルドの両方から追われているということか」
「そうみたいだな」
「それで、なぜ笑っていられるんだ?」
ダンテは星空を見上げた。
「その方が刺激的だろ。もっと強くなれる」
アシュラは首を横に振った。
「カザンがCランクの奴を送り込んできたらどうする? 死ぬぞ」
ダンテの答えは、ほとんど間髪入れずに返ってきた。
「なら、運命が俺を死なせたかったってことだろ」
アシュラは静かに彼を見つめた。
「本当に運命が全てを導いていると信じているのか?」
ダンテの瞳に月光が映った。
「ずっとそうだった。運命が俺をここに連れてきた。お前の元へ連れてきたんだ。俺の物語の結末を決めるのも運命さ」
アシュラには彼の言葉が理解できなかった。もしかしたら、永遠に理解できないかもしれない。
夜の喧騒が記憶の中に消えていくにつれ、街はゆっくりと静まり返っていった。
数時間後、二人はネオンの光に照らされた小さな路傍のバーに入った。ダンテが入ってきても、店主はほとんど顔を上げなかった。
「フルーツジュースを2本。キンキンに冷やしてくれ」
アシュラは片方の眉を上げた。
「今、ジュースを飲むのか?」
ダンテはボトルを受け取り、勢いよく一口飲んだ。
「体を清めるためさ」
二人は一瞬、同時に笑い出した。緊張感が完全に消え去る。まるで昔に戻ったかのようだった。
バーの片隅では、テレビがその日の午前中に起きた惨状を報じていた。
『政府は、無法者チャンピオンのダンテ・カイルと正体不明の人物との戦闘で、多数の死傷者が出たことを確認しました……』
画面にはダンテの顔が大きく映し出されていた。店内にいた客たちは不安そうに彼の方をちらりと見ては、すぐに視線を逸らした。
だが、彼はそんな視線を完全に無視した。
「いずれ追ってくるのをやめるさ」
アシュラはニヤリと笑った。
「それより前に、お前が死ぬかもしれないな」
二人の視線が交わり、今度こそ笑いをこらえきれなかった。
飲み物を飲み終えると、二人は涼しい夜の空気の中へ足を踏み出した。先ほどの雨でできた水たまりに、街灯の光が反射している。
しばらくの間、二人は無言で歩いた。
やがて十字路にたどり着いた。アシュラは左に曲がり、ダンテは正面を向いたままだった。
「生き延びろよ」
ダンテは振り返らずに言った。
「君もな」
アシュラはかすかに微笑んだ。
「次は街の半分を破壊しないように」
ダンテは気だるそうに手を振った。
「約束はできないな」
二人は月明かりの下、互いに離れ離れになっていく。二つの道、二つの運命。それでも、どういうわけか二人はまだ繋がっていた。
はるか上空、廃墟となった建物の屋上から、もう一組の目が彼らを見つめていた。
黒いマントが風になびく。月光が、抜かれた刃の縁に鋭く反射した。
その人物の重苦しい魔力が、目に見えない毒のように夜空へと漏れ出している。
彼の視線は、まっすぐにダンテへと固定されていた。
静かな囁きが彼の唇から漏れる。
「見つけたぞ……無法者め」
風がその言葉を遥か彼方へと運び去った。
街の灯りの向こう側で、運命の歯車は既に再び動き始めていた。




