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痛みなし   作者: EXTRO
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2/4

捕食者の笑み

通りは、瞬く間に戦場と化していた。


崩れ落ちた建物の間から黒煙が立ち込め、炎が砕け散ったコンクリートの上を獰猛に舞っている。遠くでサイレンの音が虚しく響くが、誰もこの惨状に近づこうとはしなかった。


破壊の中心に、不敵に佇むフードの男。


彼はパーカーのポケットに両手を突っ込んだまま、周囲の混乱など取るに足らないことのように振る舞っていた。瓦礫の下で這いつくばる、金髪の選定者チャンピオンに向かってゆっくりと歩み寄る。その顔には、酷薄な笑みが浮かんでいた。


「さあ、来いよ」と、ダンテは気だるそうに言い放った。「約束したはずだ。なのに、突然裏切るなんてな」


金髪の選定者は、ひび割れた舗装路に血を吐き出しながら、無理やり笑い声を絞り出した。


「この野郎……お前、自分の実力を偽っていたな」


ダンテは面白そうに首を傾げた。


「見知らぬ奴に、自分の本物のランクを教えるわけがないだろう? ましてや、突然金を積んでくるような素性の知れないギルドにな」


彼は負傷した男を、小馬鹿にするように指差した。


「まさか、本気で俺がお前を信用すると思ったのか?」


金髪の選定者は、血に染まった目でダンテを睨み上げる。


「ずっと、Eランクのふりをしていたのか……」


彼の声は、圧倒的な絶望と信じられないという思いで震えていた。


「だが、本当は……Dランクの選定者だったのか!」


ダンテの笑みが、ゆっくりと変貌していく。


それはもはや、気まぐれな男の笑みではなかった。


――獲物を追いつめた、捕食者の笑みだ。


彼の足元に禍々しい深紅の魔力プラーナが集まり、地面が激しくひび割れる。周囲の空気に、狂気じみた熱気が波紋のように広がっていった。


群衆の中から、アシュラはその光景を静かに見つめていた。


彼の掌にある印は、かつてないほど眩く、激しく輝いている。


アシュラの呼吸が、自然と遅くなる。


(彼の力……息が詰まるほどだ)


次の瞬間、金髪の選定者が爆発的な速度で前方に飛び出した。


アスファルトを粉砕しながら、ダンテの顔面に向けて、全力を込めた一撃を放つ。


しかし、ダンテはただ頭をわずかに横に傾けただけだった。


拳は、間一髪で虚空を切り裂く。


「遅すぎる」


選定者の顔が怒りで歪み、拳と蹴りの凄まじい連撃が嵐のように繰り出された。


だがダンテは、まるで全ての攻撃の軌道を予知しているかのように、軽々と、正確に動き回りながら、その全てを紙一重ですり抜けていく。


その顔から、余裕の笑みが消えることはない。


「逃げるな、この野郎……!」金髪の選定者が咆哮した。


両拳の周りに、青い魔力が爆発的に噴出する。


「ナックルウィンド!」


二つの強烈な衝撃波が、空気を切り裂きながら突進する。


ダンテは優雅に身をかわした。


攻撃は、完全に空を切る。


その背後で、巻き込まれたオフィスビルが無数の破片となって爆発し、瓦礫の雨が通りに降り注いだ。


ダンテは嘲笑った。


「情けないな。お前が足掻けば足掻くほど、俺が引き立つだけだ」


金髪の選定者は怒りに我を忘れ、全身の血管を浮き上がらせながら、残された全ての力を拳に込めた。


「お前の動きは、全てお見通しだ、愚か者め!」


彼は退路を断つような突撃を仕掛ける。


ここで初めて、ダンテが真っ直ぐに正面から迎え撃つ構えを見せた。


観衆が、思わず息を呑む。


二人の拳がぶつかり合う、まさにその刹那――。


ダンテの姿が、完全に消えた。


「なっ、何だって!?」


「どこへ行ったんだ!?」


観客たちが必死に周囲を見回す。


だが次の瞬間、ダンテは既に相手の背後に音もなく現れていた。


彼の拳は、すでに振り抜かれ始めている。


「チェックメイト」


鼓膜を破るような衝撃音が、地区全体に響き渡った。


金髪の選定者は、糸の切れた人形のように宙を舞い、コンクリートと鉄骨の嵐を巻き起こしながら、ビルを丸ごと一つ突き破って吹き飛んだ。


凄惨な静寂が訪れる。


ダンテはまるで夕方の散歩でもするかのように、何気ない足取りで瓦礫の山へと歩み寄った。


無造作に手を伸ばし、選定者の髪を掴むと、軽々とその身体を持ち上げる。


「さあ、来いよ」とニヤリと笑う。「もっと俺を楽しませてくれ」


一振りで、傷だらけの男をはるか空高くへと投げ飛ばした。


直後、ダンテの足元の地面が爆散する。


深紅の魔力が彼の体から強烈に噴出し、禍々しい黒い稲妻が天の雲まで突き抜けた。


上空を旋回する政府のドローンが、その光景をすべて記録している。


突入しようとしていた兵士たちは、恐怖で凍りついたように立ち尽くした。


避難警報が街中に鳴り響き、市民の悲鳴が交差点を埋め尽くす。


――ダンテの姿が消えた。


一瞬の後、彼は街のはるか上空、落下する選定者の眼前に出現する。


黒い稲妻が、彼の拳を完全に包み込んだ。


空間そのものが、恐怖で震えているかのようだ。


神格離脱ディヴァイン・ディパーチャー:六道の門――『黒鉄のブラックスミス』」


彼の拳が、容赦なく振り下ろされた。


大爆発が、天を丸ごと飲み込んだ。


巨大な光の柱が雲間から地上へと噴き出し、街全体を激しく揺るがす。


発生した凄まじい衝撃波は、周囲数ブロックの窓ガラスをことごとく粉々に砕き、巻き上がった濃い塵が世界のすべてを覆い尽くした。


煙がようやく収まったとき、そこには絶対的な静寂が戻っていた。


そして――ダンテの絶対的な自信に満ちた笑みが、凍りつく。


彼の目が、驚愕に大きく見開かれた。


「まさか……!」


巨大なクレーターの底に、一人の男が立っていた。


アシュラだ。


彼の左手は衝撃の熱で煙を上げ、その一撃を防ぎ止めた代償として黒く焦げていた。


しかし、その腕の中には、意識を失った金髪の選定者が確かに守られていた。


緊迫した沈黙の中、二人は静かに視線を交わす。


そして、ダンテの口元に、ゆっくりと狂気に満ちた笑みが戻ってきた。


今度の笑みは、純粋な、底なしの興奮に満ち溢れている。


「アシュラ……」


彼は、狂ったように大声で笑い声を上げた。


「久しぶりだな!」


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