「その痛みが、汝を超越たらしめん」
東京は夜空の下で、果てしない星の海のようにきらめいていた。
そびえ立つ摩天楼が雲を突き刺し、巨大なホログラフィック画面が街を照らし出している。そのどれもが同じ黄金の紋章を映し出していた。
皇帝の紋章だ。
群衆がすべての通りを埋め尽くしていた。
歓声を上げる者もいた。
祈る者もいた。
他の者たちはただ、静黙の中で見つめていた。
すべての画面が同じメッセージを繰り返していた。
【皇帝のゲーム開始まであと24時間】
アシュラは輝くスカイラインを見上げた。
「ここが東京か……」
彼の傍らで、ダンテが低く口笛を吹いた。
「世界中が見ているような気分だな」
いつもの冷静な足取りで先頭を歩きながら、ガイウスが頷いた。
「見ているさ」
「皇帝の役人たちによって選ばれたすべての代表者が、日没前に到着する」
アシュラは目を細めた。
「なら、これは娯楽じゃないな」
「戦争の準備だ」
ガイウスは躊躇なく答えた。
「その通りだ」
「すべての戦いはアースレム中に放送される」
「お前の名声」
「お前の賞金」
「お前の勝利」
「お前の敗北」
「世界はそのすべてを目撃することになる」
何百人もの装甲兵と浮遊するセキュリティドローンに囲まれた巨大なゲートに彼らが到着する頃には、太陽は鉄の塔の背後へとゆっくりと姿を消していた。
ゲートの向こうには、雲の中へと消失するほどの巨大な構造物がそびえ立っていた。
黄金のバナーがその地区の上空にたなびいている。
そのどれもが同じシンボルを掲げていた。
皇帝のゲームの印だ。
ガイウスが足を止めた。
「着いたぞ」
「ネクサス・グラウンドだ」
ダンテは広大な中庭を見渡した。
数十人のチャンピオンたちが静寂の中に立っていた。
燃え盛るような熱気を放つ者もいれば。
海のような冷たい圧力を纏う者もいた。
空気中のプラーナの密度があまりにも高く、呼吸をするだけでも重く感じられた。
アシュラは静かに彼らを観察した。
どのオーラも危険だと感じられた。
ガイウスは腕を組んだ。
「代表者は60人いる」
「それぞれが、皇帝に仕える20人のSSおよびSSSランクのチャンピオンたちによって選出された」
「各3人ずつ」
「それがルールだ」
アシュラは眉をひそめた。
「60人が入り……」
「何人が生き残る?」
ガイウスのマスクの下にかすかな笑みが浮かんだ。
「20人だ」
「皇帝は数など必要としていない」
「最高峰の刃だけを求めているのだ」
ダンテは神経質そうに笑った。
「じゃあ、俺たちのうち40人は消えるってわけか」
「そのうちの一人にならないようにした方が良さそうだな」
ガイウスはそびえ立つ建物の方へと向き直った。
「ゲームは明日始まる」
「休めるうちに休んでおけ」
「持てる力のすべてが必要になる」
翌朝……
ネクサスの大ホールは力で満ち溢れていた。
60人のチャンピオンたちが肩を並べて立っている。
睨みつける者もいれば。
自信ありげにニヤリと笑う者もいた。
他の者たちは、冷静な表情の裏に恐怖を隠していた。
プラーナが堂内に充満し、空気そのものが揺らめくほどだった。
闇へと伸びる柱からは黄金のバナーが垂れ下がっている。
そして……
重厚な扉がゆっくりと開かれた。
静寂が降り降りた。
一人の子供がホールへと歩み入ってきた。
年齢は12歳ほどにしか見えない。
金色の刺繍が施された白い法衣が彼の背後で揺らめき、身体の周りには淡い黄金のプラーナが躍っていた。
彼の目は、あり得ないほどに古老の雰囲気を漂わせていた。
ホール全体が凍りついた。
囁き声が瞬く間に広がった。
「あれが皇帝?」
「嘘だろ……」
「ただの子供じゃないか……」
ダンテは額を抑えた。
「終わったな」
アシュラは決して視線を逸らさなかった。
「いや」
「あのオーラ……」
「普通の子供じゃない」
若き皇帝は巨大な玉座の前へと進み出ると、小さなマイクを掲げた。
彼は穏やかに微笑んだ。
「おはよう」
「アースレムのチャンピオンたちよ」
「私の名前はオカサキ」
「私が皇帝だ」
ホールは完全に静まり返った。
彼の声は柔らかかった。
しかし、その一言一言には不可能なほどの権威が宿っていた。
「君たちがここに立っているのは、SSやSSSの中に君たちの可能性を信じた者がいたからだ」
「君たちは選ばれた」
「偶然ではない」
「運命によってだ」
彼は言葉を区切った。
それから指を一本立てた。
「ルール1」
「3人の対戦相手を倒した者だけが、最終的な20人の枠に残る資格を得る」
ざわめきがホールを駆け抜けた。
笑みを浮かべる者もいれば。
拳を握りしめる者もいた。
二本目の指が立てられた。
「ルール2」
「各 contestant は4つのライフバーを所持している」
「もし負傷が致命的となった場合、ライフバーを一つ犠牲にすることで肉体を修復することができる」
彼の笑みは変わらなかった。
「だが、4つすべてが消え去った時は……」
「自らの力で生き残るがいい」
「情けは無用」
「二度目のチャンスは無い」
部屋の空気が一段と冷たくなった。
傲慢なチャンピオンたちでさえ、笑うのを止めた。
オカサキは三本目の指を立てた。
「ルール3」
「戦場は首都の地下にある」
「無数の神聖な結界によって補強された監獄だ」
「君たちの力が上の世界を破壊することのない場所」
「力だけが言葉を持つ檻だ」
集まった者たちの間に不安げな視線が交わされた。
そして、四本目の指が立てられた。
「ルール4」
「同盟は許可されている」
「共に戦うのもいい」
「共に生き残るのもいい」
彼の笑みは、奇妙なほどに不気味なものへと変わった。
「だが、これだけは覚えておくことだ」
「最終的には……」
「20人しか残れないということを」
「絆は賢く選ぶがいい」
静寂が堂内を飲み込んだ。
アシュラは胸の中で自分の心音が響くのを感じた。
ダンテのいつもの笑みさえも消え失せていた。
そして、オカサキは最後に一歩前へと踏み出した。
彼の声が和らいだ。
「これを罰と捉えるな」
「進化と捉えるがいい」
「己の限界をちぎり捨て」
「その先にあるものを見出すのだ」
彼は両腕を広げた。
「君たちのエゴに背中を押させろ」
「君たちの決意によって立ち続けろ」
「君たちの良心に選択を導かせろ」
「そして、君たちの痛みに……」
「……君たちを超越させろ」
誰も言葉を発しなかった。
ホール内の恐怖は、徐々に決意へと変わっていった。
オカサキは反転し、自らの玉座へと腰を下ろした。
片手で顎を支えながら、彼は微笑んだ。
「我がチャンピオンたちよ……」
「このゲームを、見る価値のあるものにしてくれ」
彼の言葉が終わった刹那、ネクサス全体が激しく揺れた。
床に広がるひび割れから黄金の光が噴き出した。
すべての contestant の足元でルーンが点火した。
ダンテがアシュラを見た。
「……頼むから、俺が思っている通りの展開じゃないって言ってくれ」
アシュラは静かに頷いた。
「その通りだ」
床が消失した。
60人のチャンピオンたちが光の中に飲み込まれた。
彼らは純粋なプラーナの果てしないトンネルを落下していった。
それは落ちているという感覚ではなかった。
液体状のエネルギーそのものの中へと沈んでいくかのようだった。
そして……
光が消え去った。
アシュラは目を開けた。
広大な地下世界が彼の前に広がっていた。
天井は霧の中へと消失している。
青いプラーナの川が、巨大な岩石形成の間を流れていた。
古代のモノリスが、輝く結晶の森を見下ろすようにそびえ立っている。
遥か彼方には、光る数字が刻まれた巨大な柱が立っていた。
そこにはこう記されていた。
【ZONE 01 ENTRY FIELD】
地下の空の遥か上空に、巨大な時計が出現した。
その針が一度だけ動いた。
チクタク。
アシュラは前方に広がる果てしない暗闇を見つめた。
「そうか……」
「始まるな」




