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痛みなし   作者: EXTRO
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15/25

フェニックス・オブ・ジャッジメント

倉庫が不安定なプラーナの波に揺れていた。

ガジールの腕からは、強引に奪い取ったエネルギーが激しく拒絶反応を起こし、白煙が立ち上る。コンクリートの床に亀裂が広がり、吹き荒れる炎が暗闇を照らし出した。

一瞬、時間そのものが静止したかのようだった。

数日前に救出したばかりの少女が、圧倒的な神聖な気配を纏いながら、地面からゆっくりと浮き上がっていく。

アシュラ、ダンテ、そしてアッシュさえも、ただ無言で見守るしかなかった。

ミノリが静かに目を開ける。

「思い出した……」

その声は穏やかだったが、信じられないほどの重みを含んでいた。

「私の名前は、佐藤ミノリ」

「目覚めしBランク・チャンピオンです」

倉庫が爆発的な炎に包まれた。

炎は彼女の身体を包み込むように螺旋を描き、天へと広がる壮大な翼――生と死の間で明滅する巨大な不死鳥フェニックスの骸骨のようなシルエットを形作った。

圧倒的な圧力に、彼女の足元の地面が融解し始める。

彼女は片手を掲げた。

「出でよ……」

「審判の不死鳥フェニックス・オブ・ジャッジメント

神聖なる霊魂がそれに応えた。

その翼が倉庫全体に広がり、すべてを青い光で満たしていく。熱は一切ないにもかかわらず、その場にいるすべての魂に重くのしかかる光だった。

それは破壊の炎ではない。

審判の炎だ。

無実の者にとっては朝のそよ風のように軽やかだが、罪深き者にとっては魂の内側を焼き尽くす、耐え難い重荷となる。

不敵だったガジールの笑みが、ついに引きつった。

「光の鳥ごときが、この俺を焼き殺せるとでも思うのか?」

ミノリの表情は微塵も動かない。

「これは光ではありません」

「審判です」

彼女が両腕を広げる。

不死鳥が鳴き声を上げた。

その音は、古代の鐘の音のように、崩壊しかけた倉庫内に鳴り響いた。

ガジールは咆哮し、プラーナを纏った拳を突き出して突撃する。

ミノリの前に、円形の炎の壁が出現した。

激しい衝突音が建物に轟く。

彼の攻撃は完全に止められた。

炎が彼の腕にまとわりつき、どれだけ振り払おうとも消えようとしない。

アッシュはその圧力に顔を覆った。

「一体、何なんだこれは……?」

ダンテが静かに笑う。

「どうやら俺たちの患者は、予想以上に強くお目覚めになったらしいな」

ミノリの姿が消えた。

残されたのは青い残像のみ。

彼女は瞬時にガジールの背後に現れ、正確無比な一撃を何度も叩き込む。その命までは奪うことなく、確実に敵を後退させていった。

不死鳥は並ぶもののない速度と力を与える。

しかし、その真の祝福は破壊ではない。

再生であり、審判だった。

アシュラは、自分の腕の切り傷が自然に塞がっていくことに気づいた。

ミノリのオーラから、微細な青い火花が漂ってきている。

「……彼女、俺たちを癒しているのか」

ガジールが狂ったように笑った。

「俺の身体は深淵だ」

「あらゆるエネルギーを喰らい尽くす!」

彼の体内から再びプラーナが噴出し、周囲の環境からエネルギーを強引に吸い上げ始めた。

生命力が吸い尽くされ、建物自体がきしみの声を上げる。

ミノリはただ、静かに微笑んだ。

「ならば、己の罪に溺れなさい」

彼女は再び姿を消した。

ガジールが反応するより早く、彼女の輝く手のひらが彼の胸元に添えられる。

彼女の声が、静かに響いた。

冷酷に。絶対的に。

「審判の重圧ウェイト・オブ・ジャッジメント

神聖なエネルギーが彼の体内に奔流となって流れ込む。

ガジールは硬直した。

彼の周囲に、光でできた無数の亡者の手が現れる。

あらゆる方向から、目に見えない声が耳元で囁き始めた。

ガジールの瞳孔が恐怖に見開かれる。

「嫌だ……!」

「な、何だこれは……?! 何が起きている!」

「俺が、焼かれている……!」

希代の捕食者が悲鳴を上げた。魂を縛り上げる見えない鎖に囚われ、自分がこれまでに犯してきたすべての罪を強制的に追体験させられているのだ。

離れた場所から、アッシュが呆然とその光景を見つめていた。

「あいつ、一体何をしたんだ?」

ダンテの笑みが消える。

「何であれ……」

「あいつは今、自分だけの地獄を味わっているのさ」

ミノリが手を下ろした。

彼女の炎が弱々しく揺らめく。

「長くは持ちません」

「もって十五秒です」

アッシュが頷いた。

「十分だ」

「ずらかるぞ!」

ガジールが審判の檻に囚われている隙に、三人は破壊された壁の割れ目から外へと駆け出す。

ミノリは一人、その場に残った。

彼女の不死鳥が出口に立ちはだかり、その翼を広げて貴重な時間を稼ぐ。

アシュラが振り返った。

「正気か?!」

彼女は 柔らかく微笑んだ。

「あなた方は私の命を救ってくれた」

「これくらいは、当然の恩返しです」

倉庫の外に飛び出したアシュラは、思わず足を止めて振り返った。

夜空へと立ち上る青い炎が、彼の瞳に反射していた。

「……ミノリ」

ダンテが彼の肩に手を置いた。

「彼女を信じろ」

アシュラは葛藤しながらも、前を向いた。

三人の姿は、フクル市を包み込む濃い霧の向こうへと消えていった。

崩壊した倉庫の内部で、ついに不死鳥が消滅した。

ミノリは完全に体力を使い果たし、片膝を突いた。

その向こうで、ガジールが全身を震わせながら立っていた。

身体の半分は炭化し、その顔は怒りと恐怖で歪んでいる。

その時、彼の背後の影が蠢いた。

一人の男が姿を現す。

バトウだった。

その表情には一切の感情がない。

「……そこまでだ」

ガジールは一瞬で口を閉ざした。

怒りは一転して、恐怖へと変わる。

「御大がお呼びだ」

バトウが片手を挙げた。

空間そのものが歪み始める。

漆黒の闇が二人を飲み込んでいった。

影が消え去った時、倉庫には誰も残されていなかった。

ただ、崩れた天井の下で、静かに灰が舞い踊っているだけだった。

夜風が、焦げた鉄と煙の臭いをフクル市の荒廃した路地へと運んでいく。

ガジールとの死闘は幕を閉じたが、その爪痕は深く刻まれていた。溶けた壁、砕け散った道路、そして微かに残るプラーナの残り火が、まるで消えゆく星のように大気中に漂っている。街そのものが、前夜の恐怖を記憶しているかのようだった。

先頭を歩くアシュラの外套は破れ、血に染まっていた。腕には深い切り傷があったが、その表情は極めて冷静だった。

その後ろでは、ダンテが気絶したミノリを背負い、足を引きずりながら瓦礫の中を進んでいた。疲労困憊のはずだが、その顔にはいつも通りの締まらない薄笑いが浮かんでいる。

長い間、誰も口を開かなかった。

彼らの間に流れる沈黙は、空に立ち込める塵よりも重かった。

やがて、三人は街の郊外にある、打ち捨てられた路面電車の駅にたどり着いた。

そこは、すでに自然に侵食された忘れ去られたプラットフォームだった。ひび割れた柱には蔦が巻き付き、錆びついたレールは闇の奥へと消えている。

ダンテがミノリを石柱の根元にそっと寝かせると、アシュラは周囲から木切れや瓦礫を集め、小さな焚き火を起こした。

その温もりは、夜の寒さを辛うじて押し返す程度のものでしかなかった。

数分後、アッシュが激しい息を吐きながら、二人の隣の地面に倒れ込んだ。

彼はボサボサの髪をわしづかみにし、悔しさのあまり地面を強く殴りつけた。

「チッ……」

「俺は、何もできなかった」

「あの野郎が街のプラーナを吸い尽くしたせいで、俺ができたことと言えば、空中に剣を振り回すことくらいだった」

ダンテが静かに笑った。

「よくやった方さ」

「単純にあいつが強すぎたんだ」

「あいつが地面に何をしたか、見たろ?」

「周囲のすべてを吸い込む……まるで底なしの虚無と戦っているようだった」

アシュラは炎を見つめた。

「俺たちは生き延びた」

「ミノリのプラーナも取り戻した」

「今日はそれで十分だ」

アッシュが彼を睨みつけた。そのプライドはまだ降伏を認めていない。

「ああ……だが、まるでお前の指示で動かされていたみたいで気に入らねえ」

「調子に乗るなよ」

ダンテがニヤリと笑う。

「慣れておいた方がいい。こいつ、意外とボスの器なんだよ」

アシュラは微かに口元を緩めたが、何も言わなかった。

代わりに、薪をもう一本火の中に投げ入れる。

オレンジ色の光が彼らの疲弊した顔を照らし、無数の打撲傷や切り傷、そして色濃い疲労を浮かび上がらせた。

ボロボロだった。

だが、生きていた。

隣で、ミノリの指先がピクリと動いた。

アシュラはそれにすぐ気づいた。

彼は何も言わず、自分の外套を脱ぐと、彼女の肩にそっと掛けた。

その瞳が、一瞬だけ柔らかくなる。

「彼女は、自分が思っている以上に強い」

「あの覚醒した力……あれが俺たち全員を救ったんだ」

ダンテが静かに頷いた。

「ああ。だが、その代償に自分自身を焼き尽くしかけた」

アッシュはその様子を黙って見ていたが、やがて 苦笑を漏らした。

「……お前ら二人には、借りができちまったな」

「だが次はねえ。二度と主導権は渡さねえからな」

アシュラは冷静に彼を見返した。

「なら、遅れずについてこい」

戦闘が始まって以来初めて、三人から笑いが漏れた。

その声は弱々しく、疲れ果てていたが、純粋なものだった。

見ず知らずの他人として出会った三人の戦士が、今、同じ火を囲んでいる。それは友情ではなく、ただ生き残ったという絆で結ばれた瞬間だった。

廃駅の外では、フクルの廃墟の向こうからゆっくりと夜が明け始めていた。

黄金の光が割れた屋根や裂けた道路へと広がり、傷ついた街を琥珀色と灰色のグラデーションで染めていく。

ガジールとの戦いは終わった。

しかし、静かに吹く風の中には、あの圧倒的な力の記憶が未だに生々しく残っていた。

朝の光がフクルの荒涼とした街並みに降り注ぐ。前夜の激闘が残した爪痕に対し、その光はあまりにも柔らかく、淡かった。

破壊されたビルからは未だに煙が物憂げに立ち上り、街には重い毛布のような静寂が戻っていた。

嵐は去った。

あとに残されたのは、その記憶だけだ。

アッシュは、アシュラとダンテから数メートル離れた場所に立っていた。

お互いに限界だった。

お互いに新しい傷を負っていた。

そしてどちらも、胸の内に芽生え始めた確かな敬意を、口に出すつもりは毛頭なかった。

空気にはピリピリとした緊張感が漂っている。

敵意ではない。

それは、挑戦の気配だった。

アッシュは腕を組み、不敵に笑った。

「あの戦い、俺の負けだなんて思うなよ」

アシュラは冷静に彼を見つめ返した。

「そんなことは言っていない」

「だが、次は……」

「本物のチャンピオンとして、俺の前に立て」

アッシュは頬の血を拭い、高笑いした。

「いいだろう」

「次会う時は、お前の骨の髄まで俺の名前を刻み込んでやる」

ダンテが壊れた柱に寄りかかり、肩を揺らした。

「お前ら、最後のリンゴを取り合ってるガキみたいだな」

二人は答えなかった。

代わりに、アシュラが一歩前に出ると、右手を差し出した。

アッシュは一瞬だけ躊躇した。

だが、すぐにその手に応じた。

二人の手が、力強く握り合わされる。

互いの手のひらの間で、微かなプラーナの火花が弾け、朝の空気の中に消えていった。

それは友情の証ではない。

約束だ。

いずれ再び相まみえる運命にある、二人の戦士の間で交わされた誓いだった。

アシュラが先に口を開いた。

「どちらがより高く登り詰めるか……」

「俺か、お前か」

アッシュがニヤリと笑う。

「忘れるなよ」

二人が手を離すと、背後の荒廃した路地から足音が響いてきた。

『タスマニアン・デビルズ』の到着だった。

ルナが明らかな安堵の表情を浮かべてアッシュへと駆け寄り、キロは一歩引いた場所からアシュラとダンテを鋭く観察していた。

彼の鋭敏な眼光は見落とさない。

若いギルドメンバーたちの間で、瞬く間に囁き声が広がった。

「あれがアシュラ……」

「あの、噂の指名手配犯……」

一人の少女が口元を隠してクスクスと笑った。

「うちのボスより、全然カッコいいじゃん」

別の少女も熱心に頷く。

「しかも、あっちの方がイケメンだし」

アッシュの眉がピクリと動いた。

「聞こえてんだよ!」

その場に爆笑が沸き起こった。

ダンテさえも堪えきれずに吹き出す。

アシュラはただ、微かに微笑んで背を向けた。

「また会おう、アッシュ」

「ファンにうつつを抜かして、鈍るなよ」

アッシュは舌打ちをしたが、その顔に浮かぶ笑みを隠しきることはできなかった。

「俺にぶちのめされる前に、死ぬんじゃねえぞ」

二つのグループは、それぞれの方向へと歩き出した。

『タスマニアン・デビルズ』の姿が、霧に包まれたフクルの路地へと消えていく。

アシュラ、ダンテ、そしてミノリは、昇りゆく太陽に向かって歩き始めた。

道は分かれた。

だが、運命はすでに彼らを絡め取っていた。

数時間後……

荒廃した地区の境界近く、古びた錆びついた橋の下で、アシュラは静かに腰掛け、その隣でミノリが身体を休めていた。

頭上では、琥珀色の夕日が雲を染め始めている。

ダンテは周囲の偵察のために少し席を外しており、そこには二人だけの時間が流れていた。

風が、草の匂いと遠くの煙の残香を運んでくる。

長い間、二人は何も語らなかった。

沈黙を破ったのは、ミノリだった。

「アシュラさん……」

「私、あなたと一緒に旅をしたいです」

彼は彼女の方を向いた。

その表情は、どこまでも静かだった。

「なぜだ?」

「君はもう自由だ」

「君には、君自身の未来があるはずだ」

ミノリは優しく微笑んだ。

その目には温もりがあった。そして、拭いきれない寂しさも。

「私に何もなかった時……」

「自分の名前さえ思い出せなかった時……」

「あなたは一度だって、私を足手まとい扱いしなかった」

「私のために戦ってくれた」

「私を守ってくれた」

「私は、栄光のためではなく、意味のために戦う人の隣を歩きたいんです」

彼女は小さく笑った。

「それに……」

「誰かがあなたを見張っていないと、また無茶をするでしょう?」

アシュラがふっと鼻で笑った。

「君は頑固だな」

ミノリは誇らしげに頷いた。

「ええ。そして、今のあなたにはその頑固な人が必要です」

アシュラは立ち上がり、遠くのフクル市のスカイラインを見つめた。

高層ビルの間からは、未だに煙が漂っている。

光が、ゆっくりと地平線を取り戻しつつあった。

彼の声が、低くなる。

「君を、俺たちと同じ道に歩かせるわけにはいかない」

「俺たちの進む先は、君のいるべき場所とは違う」

「もし君が俺たちを必要とする時が来たら……」

「どこにいても、必ず駆けつける」

彼は振り返り、彼女を見つめた。

「俺たちが背負う孤独で、君の手を汚させたくはないんだ」

「政府ギルドに戻るんだ」

「そこで、自らの限界を打ち破る存在になれ」

「深い闇の底に立った者だけが、本当の太陽の眩しさを知る」

「フクルが迎えるべき、真の統治者になるんだ」

「そして、いつか……」

彼が言葉を紡ぎ終えるより早く、ダンテがニヤニヤしながら戻ってきた。

「また会おう、お嬢ちゃん」

ミノリは 柔らかく笑った。

「……分かりました」

彼女は服の埃を払い、小さく一礼した。

「お元気で」

「お二人とも」

アシュラは無言で頷いた。

ダンテは気だるげに手を振った。

三人の道が、ここで分かれた。

ミノリは橋の下に佇んだまま、アシュラとダンテの背中が、埃っぽい路地の向こうへと消えていくのを見つめていた。

二人のシルエットが完全に消え去るまで、彼女はその場を動かなかった。

それからようやく、彼女は自らを待つ街へと、ゆっくりと歩みを進めた。

【最終幕】

フクルから遥か遠く……

連なる山々の奥深くにそびえ立つ、古の要塞。

広大な謁見の間が、闇の奥へと広がっていた。

黒耀石の柱が天を突き、天井には忘れ去られた神々の戦争を描いた黄金の壁画が刻まれている。

大気そのものが、想像を絶する圧倒的な力で重く沈んでいた。

広間の中心で、ガジールが膝を突いていた。

その身体は傷つき、体内のプラーナは弱々しく明滅している。

額からは冷や汗が絶え間なく流れ落ちていた。

彼の眼前には、影に覆われた巨大な玉座がそびえ立っている。

そこに座る者の輪郭だけが、辛うじて判別できた。

玉座の傍らには、バトウが両手を後ろで組み、石像のように静かに佇んでいた。

やがて、広間に声が響き渡った。

冷静で、深く、そして 芯から凍りつくような恐怖を孕んだ声。

「少し、やりすぎたな。ガジール」

「あまつさえ、余計な火種まで作ってくるとは」

ガジールは頭をさらに深く垂れた。

「申し訳ございません、我があるじ

「奴らが突如として現れたのです」

「私ごときの眼力では、奴らの真意を測りかねました」

影の人物が、ゆっくりと身を乗り出した。

暗闇の中で、二つの真紅の眼光が妖しく開かれる。

「何者だ?」

ガジールは言い淀んだ。

その呼吸が、目に見えて乱れ始める。

「それが……分かりませぬ」

「爆煙に遮られ、その顔を拝むことすら……」

バトウが一歩前に出た。

「並の者たちではありません」

「政府の指名手配記録を照合しました」

「アシュラ」

「ダンテ」

「そして、アッシュ」

「同行していた少女は、政府所属のチャンピオンのようですが……真相は定かではありません」

広間に重苦しい沈黙が満ちる。

しかし……

次の瞬間、低く、愉しげな笑い声が静寂を切り裂いた。

謎の支配者が、不敵に笑った。

「ふっ……」

「またあの二人か」

「ほう、新たな同伴者まで見つけたか」

彼が玉座からゆっくりと立ち上がると、そのシルエットの周囲で黄金のプラーナが 陽炎のように揺らめいた。

彼の存在そのものが、要塞全体を微かに震わせている。

「本来ならば、即座に死罪を命じるべきところだが……」

「……あの者たちは例外だ」

ガジールが当惑したように顔を上げた。

「我が主?」

支配者は、嵐の吹き荒れる夜空を見下ろす、巨大な黒い結晶の窓へと歩み寄った。

「この領域には、熱が必要だ」

「野心、そして混沌がな」

「王を誕生させるための、極上の混沌が」

彼の声が、どこか遠くを見つめるように響く。

「次の『皇帝』がいつ現れるかは誰にも分からん」

「我々に、現状維持のぬるま湯に浸かっている暇はないのだ」

彼は背の後ろで手を組んだ。

「あの若き戦士たち……」

「少々、興味が湧いてきた」

彼が片手を挙げる。

「監視せよ」

「彼らのすべての戦いを。すべての歩みを。その呼吸の一片に至るまで」

ガジールは深く一礼した。

「御意のままに」

謎の支配者の影が、古の巨獣の翼のように、広間の床一面へと長く伸びていく。

彼は、最後にこう呟いた。

「見せてもらおう。彼らの灯火がどれほど眩く燃え上がるのかを……」

「……それを、この手で叩き消すか否かを決めるのは、その後だ」

カメラは要塞の外へと引いていく。

そして、その遥か下方……

自分たちに注がれる巨悪の視線など知る由もない三人の若き戦士たちは、世界中のあらゆる領域を揺るがすことになる、自らの運命に向かってただ真っ直ぐに歩み続けていた。


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