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痛みなし   作者: EXTRO
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14/23

3人のハンター、1つの虚無

タスマニアン・デビルズのアジトに朝の光が差し込み、破れたブラインドの隙間から、散らかった部屋に細い光の線がいくつも伸びていた。

壁には武器が立てかけられ、テーブルは地図で埋め尽くされ、床には空のボトルが転がっている。ギルドのメンバーたちは、またしても落ち着かない夜からゆっくりと目を覚ましていった。

その場の空気は、奇妙なほど弛緩していた。

ここ数日で初めて、アラームが鳴り響かない朝だった。

レックスは古いソファの上でだらしなく体を伸ばし、あくびを噛み殺した。

「ボスの奴、今朝は一体どこに消えちまったんだ?」

部屋の向こう側からタロウが鼻で笑った。

「どうせ復讐の機会でも探してんだろ」

「あるいは、どっかに隠れて、ズタズタにされたプライドの残りカスでも拾い集めてる最中かもな」

数人のメンバーがドッと爆笑した。

前夜のアッシュの敗北は、すでにギルドの一番の笑い話になっていた。

だが、笑っていない者が二人だけいた。

近くのテーブルで、ルナとキロが裏社会の報告書や賞金首の記録が映し出された、青く光るホログラフィック画面を凝視していた。

ルナはため息をつき、ディスプレイを他のメンバーに向けた。

「あんたたち、笑ってないで少しは状況を把握しなさいよ」

部屋は次第に静まり返っていった。

画面には、見覚えのある二つの顔が映し出されていた。

アシュラ。

ダンテ。

彼らの肖像画の下には、途方もない賞金額が輝いていた。

アシュラ:15,000,000エン

ダンテ:9,000,000エン

どちらの懸賞金も、未だ支払われていない。

若いギルドメンバーの一人が、信じられないといった様子で画面を見つめた。

「あの二人、確か下位ランクのチャンピオンのはずだろ……」

「なんでそんなに賞金が高いんだ?」

キロはメガネの位置を直してから答えた。

「ランクが常に危険度を測れるわけじゃないからさ」

彼は腕を組んだ。

「裏の報告書によると、アシュラは武蔵野の一件で、覚醒したCランク・チャンピオンと単独で渡り合ったらしい」

「しかもその戦闘が終わる前に、すでに15人のEランク・チャンピオンを無力化していた」

部屋が静まり返る。

レックスさえも笑うのをやめた。

「じゃあ、あいつは最初からランク以上の戦いをしてるってことか……」

キロは頷いた。

「一部では、すでに実質的なDランクとして分類すべきだという声もある」

別のメンバーが不安そうに顔をあげた。

「ダンテって奴はどうなんだ?」

キロの表情は冷静なままだった。

「あいつは引きちぎられた鎖に繋がれたまま、二人のCランク・チャンピオンを叩き伏せた」

「その後、相手の一人から奪った双子のプラーナブレードを使って、さらに15人のEランク・チャンピオンを倒している」

アジトを完全な沈黙が支配した。

もう誰も笑っていなかった。

レックスが後頭部をかいた。

「……逃亡者っていうより、歩く大災害だな、その二人」

ルナは光る画面を見つめた。

「怪物の類じゃないわ」

「ただ、自分たちの限界を突き破った人たちよ」

彼女の視線が窓の外へと向けられた。

「……アッシュが、ずっとやりたがっていたことをね」

部屋は静かなままだった。

あるメンバーは居心地悪そうにし、またあるメンバーは触発されたような表情を浮かべていた。

ついにタロウが沈黙を破った。

「どっちにしろ、ただの逃亡者だ」

「次やれば、ボスなら勝てるさ」

レックスは首を振った。

「戻ってきた時のあいつの顔を見てないからそんなことが言えるんだ」

「俺は、アッシュがあそこまで動揺してる姿なんて一度も見たことがない」

笑い気は完全に消え失せていた。

タロウさえも視線を落とした。

キロがテーブルに寄りかかった。

「これはもう、勝ち負けだけの問題じゃない」

「もしアシュラとダンテがこのフクルに潜伏しているんだとすれば……」

「……もっと途方もない何かが動き出している証拠だ」

「そしてアッシュは、自分がどんな渦に飛び込もうとしているのか、まだ分かっていない」

アジトの外では、フクルのありふれた日常が続いていた。

混雑した市場は商人や旅人で活気に満ちあふれている。

狭い路地では、子供たちが互いを追いかけ回して笑い声をあげていた。

屋台からは湯気が立ち上り、街のスカイラインを列車が横切っていく。

一般の市民にとって、それはいつも通りの平和な一日に過ぎなかった。

だが、その平穏という名の幻影の底では、目に見えないプラーナの潮流が確実に弱まり続けていた。

そして群衆のどこかで、フードを深く被った一人の男が静かに歩いていた。

アッシュだ。

背後で交わされている会話など知る由もなく、彼は自分を叩きのめした謎の剣士を求めて、人の海へと消えていった。

狩人。

逃亡者たち。

そして、フクルの下に眠る嵐。

そのすべてが、いま、静かに引き締まり始めた運命の糸によって結びつけられようとしていた。

フクルの下層地区は、薄暗い朝の空の下にあった。

街の色彩は奇妙なほど色褪せており、まるで一晩のうちに通りから生命力が洗い流されてしまったかのようだった。建物は物言わずに立ち並び、その壁は弱い陽光の下でくすんでいた。不穏な風が狭い路地を吹き抜けていく。

アシュラは冷静で規則正しい足取りで先頭を歩き、周囲のプラーナの流れを静かに見極めていた。

彼の後ろで、ミノリはクロークをさらにきつく巻きつけた。

「今日の空気、何だか変ね……」

彼女の声は消え入りそうだった。

アシュラは頷いた。

「電流がまた弱まっている」

「聖なるプラーナの流れが不安定になっているな」

ダンテは両手を頭の後ろで組み、大あくびをしながらその隣を歩いていた。

「あるいは、俺がただ疲れてるだけか」

「何時間もほっつき歩いて、見つけたものと言えばドブネズミの死骸と、ふっかけてこようとする商人だけだぜ」

ミノリは彼を無視し、遠くの屋根に視線を固定した。

「北側セクターは昨夜、プラーナのネットワークをほとんど完全に失いかけたわ」

「もしこれがこのまま広がり続けたら……」

彼女はその先を言葉にしなかった。

やがて三人は、古い石造りの建物に挟まれるようにして佇む小さな神社にたどり着いた。

その境内の灯籠は弱々しく明滅した後、一つ、また一つと消えていった。

入り口には年老いた神職が立ち、震える手で古びた護符を握りしめていた。

彼の顔からは血の気が引いていた。

「もう結界を維持できん」

「この社の下を流れる霊脈が枯れ果てようとしておる」

アシュラは一歩前に出ると、石畳の道に膝をついた。

目を閉じ、手のひらを地面に押し当てる。

一瞬の間、聖なるプラーナの微かな電流が、目に見えない川のように大地の底へと広がっていった。

そして、彼はそれを感じ取った。

不自然な違和感。

流れは自ずと消滅しているのではなかった。

引き抜かれているのだ。

ゆっくりと。

意図的に。

アシュラは目を開けた。

「自然な枯渇ではない」

老神職は頭を垂れた。

「古い伝承があってな……」

彼は自らの言葉を恐れるように、静かに囁いた。

「聖なるプラーナがこの現世から失われし時、世界のひび割れから闇が滲み出し始めると言われておる」

「忌まわしきモノどもが、その匂いを追ってやってくるのじゃ」

神社に静寂が満ちた。

ダンテは頭をかいた。

「問題は、一体誰が仕掛けてるかってことだな」

「はぐれの召喚士か?」

「それとも腐ったギルドか?」

アシュラはゆっくりと立ち上がった。

彼の目は遠くのスカイラインを鋭く見据えていた。

「いや」

「これをやっている奴は近くにいる」

「そして、流れそのものの内部に潜伏している」

「世界の血管に寄生して貪り食う、寄生虫のようにな」

風が急激に冷たさを増した。

誰もいない通りを埃が舞う。

鳥のさえずりさえも完全に途絶えていた。

ダンテは首を鳴らして不敵に笑った。

「そいつが骨のある奴だといいんだがな」

ミノリは不安そうに彼を見た。

「理解できていない戦いに無謀に飛び込むのはやめましょう」

ダンテは笑い飛ばした。

「遅いぜ」

「俺たちはもう、そのど真ん中に立ってる」

突如として、空が暗転した。

汚染されたプラーナの波動が地区全体を駆け抜けた。

街灯が激しく明滅する。

窓ガラスがガタガタと音を立てた。

数人の市民が、その場で一瞬にして力を奪われたかのように顔面蒼白になって崩れ落ちた。

ミノリの目が大きく見開かれた。

「ドレインが加速してる!」

アシュラは即座にカタナを抜いた。

「源を見つけるぞ」

「このままでは……」

「……この地区全体が崩壊する」

ダンテの手の周りに青いプラーナが静かに集まり始め、その顔に徐々に笑みが戻っていった。

「やっとだ」

「少しは面白くなってきたな」

フクルの静まり返った通りの遥か地下で、古き存在が闇の中で目を覚ました。

そして、狩人たちが真実へと確実に近づく中……

目に見えぬ捕食者が、その眼眸を開いた。

タスマニアン・デビルズのギルドホールには朝の光が差し込み、散らかった武器や空のボトル、古いテーブルに広げられた使い古された地図を照らし出していた。

その場の雰囲気は、いつも以上に賑やかだった。

メンバーの何人かは刃を研ぎ、他の者たちはカードゲームの勝敗で言い争い、広い部屋に笑い声が響いていた。

アッシュはテーブルに足を乗せ、退屈そうに目を閉じたまま、椅子にもたれかかっていた。

女性ギルドメンバーの一人が、からかうような笑みを浮かべて視線を送った。

「ボス……あんたとあのアシュラって奴、どっちがイケメンだと思う?」

別の少女がドッと吹き出した。

「決まってるじゃん、アシュラだよ」

「もう噂になってるもん。冷たい目、静かな声、それにあの圧倒的なオーラ」

アッシュの目がカッと見開かれた。

彼は勢いよく飛び起きたため、椅子が危うくひっくり返りそうになった。

「あぁん!?」

「あの賞金首のピエロがなんだって!?」

「あんな奴と俺を比べるんじゃねえ!」

部屋全体が爆笑の渦に包まれた。

数人のメンバーは涙を流して笑い、レックスは笑いすぎて息ができないほどだった。

アッシュは忌々しそうに舌打ちをした。

その時……

彼の表情が一変した。

笑い声がピタリと止まる。

空気そのものが振動を始めた。

目に見えない波動がギルドホールを駆け抜け、床に置かれた武器がカタカタと震えた。

アッシュはゆっくりと立ち上がった。

その目が細められる。

「……この感覚」

「前と同じ拒絶反応だ」

彼の手が剣の柄へと伸び、固く握りしめられた。

刃が遠くの何かに反応するように、微かに青いハム音を鳴らす。

彼はそれ以上何も言わず、出口に向かって歩き出した。

「留守を頼む」

誰も止める間もなく、彼の身体はプラーナの爆発とともに消失し、激しい突風だけがその場に残された。

ギルドホールが大きく揺れた。

あとに静寂が残る。

街を挟んだ遥か彼方、フクルの放棄された工業地帯の端で、アシュラ、ダンテ、ミノリの三人は忘れ去られた倉庫の前に立っていた。

その錆びついた壁には、金属を這う生き物の根のように、不気味な闇の血管が脈打っていた。

周囲の空気は息が詰まるほど重い。

風さえも、その建物に近づくのを拒んでいるかのようだった。

ミノリは青ざめた目でその建物を見つめた。

「……源は」

「ここよ」

ダンテは肩を回して笑った。

「やっとか」

「退屈で死にそうだったところだ」

アシュラはカタナの柄に手を添えた。

「警戒を怠るな」

「中にいるのは、もう人間ではない」

重苦しい倉庫の扉が、ひとりでに軋んだ音を立てて開いた。

中から黒い霧が溢れ出す。

それは水に広がるインクのように、地面を飲み込んでいった。

周囲の聖なるプラーナの痕跡が、その霧に触れた瞬間にすべて消滅していく。

その闇の奥深くに、一人の男が立ち尽くしていた。

上半身は裸。

微動だにしない。

その身体は奇妙な紋様で覆われており、皮膚の下で黒い炎に満ちた血管のように脈打っていた。

彼の目がゆっくりと三人に向けられた。

底なしの暗闇の中で、青い瞳が妖しく光っている。

その声が静かに響き渡った。

「ほう……」

「また供物が現れたか」

ミノリの身体が凍りついた。

その呼吸が乱れる。

「……あいつよ」

「フクルからプラーナを奪っているのは」

アシュラは冷静に一歩前に出た。

「なら、ここで終わらせる」

突如として――

倉庫の天井が爆発した。

コンクリートの破片が降り注ぐ中、もう一つの人影が部屋の中央へと激しく着地した。

アッシュはすでに剣を抜いた状態で、軽々と着地を決めていた。

彼の放つオーラがガジェールの周囲の闇と激突し、倉庫全体が激しく激震した。

彼は横目で三人を見た。

「……やっぱりお前らもここにいたか」

ダンテは腕を組んで笑った。

「誰かと思えば」

「フクルの自称ライオン様のお出ましじゃないか」

アッシュは眉をひそめた。

「お前らに構っている暇はない」

アシュラは感情を交えずにその視線を受け止めた。

「なら、邪魔をするな」

一瞬の間、誰も動かなかった。

二人のライバルとしてのプライドが激突し、目に見えないプレッシャーがその場に広がっていく。

どちらかが再び口を開くより早く、ガジェールが片手を静かに挙げた。

倉庫の壁が歪み始めた。

鉄骨が内側へとひしゃげる。

コンクリートが砕け散る。

空気そのものが消失し始めた。

何マイルも離れた場所で、市民たちが聖なるプラーナを強制的に剥ぎ取られ、次々と崩れ落ちていった。

ミノリは一歩後退した。

「ドレインの結界が発動してるわ!」

アシュラはカタナを抜いた。

「ダンテ」

「左側を」

彼はアッシュの方を向いた。

「お前は右だ」

アッシュはほんの一瞬だけ躊躇した。

だが、すぐに頷いた。

ライバル関係は後回しだ。

目の前の敵は、この街全体を脅かしている。

三人のチャンピオンが同時に突撃した。

青と真紅のプラーナが倉庫内で爆発し、闇の中で刃が鋭く閃いた。

ガジェールは両腕を挙げた。

彼はアシュラのカタナとアッシュの剣を、自らの素手だけで受け止めた。

その衝突の衝撃が、怪物のような衝撃波となって建物を駆け抜けた。

足元の床が粉々に砕け散り、ダンテは背後の鉄柱へと吹き飛ばされた。

埃が辺りに立ち込める。

ガジェールは不敵に笑った。

「面白い」

「だが、私の前では……」

「……お前たちはまだ赤子に過ぎん」

アッシュは歯を食いしばり、その身体の周りに青い炎が激しく噴出した。

アシュラの目は冷静なまま、その刃に聖なるプラーナが集約されていく。

彼らの周囲で、フクルの街が激しく揺れていた。

三人の狩人。

一人の捕食者。

そして死にゆく空の下で、街の均衡が完全に崩壊しようとしていた。

放棄された倉庫は、いまや猛烈な嵐の目と化していた。

その中心に立つのはガジェール。

微動だにせず。

揺るぎもしない。

彼の存在そのものが、周囲の空気を空虚に変えていた。

ダンテはその混沌の中を、両手のプラーナブレードを構えて疾走し、その青白い光で暗闇に鮮烈な弧を描いた。

黒い球体が流星のように彼へと迫るが、彼は刃を交差させて鮮やかな『X』の形を作り出した。

衝撃波が外側へと爆発する。

迫り来る飛び道具は、霧散する光の破片となって砕け散った。

ダンテは不敵に笑った。

「カザンハウンドから借りてきた戦利品を試すには、ちょうどいい頃合いだな」

「来いよ、化け物」

「ダンスの時間だ」

戦場を挟んだ向こう側で、アシュラは躊躇なく前線へと突入した。

すべての動きが鋭く、制御されており、呼吸は完全に一定だった。プラーナが彼の身体を循環し、周囲の汚染から彼を保護している。

その隣では、アッシュが驚異的なスピードで加速していた。

ほんの一瞬だけ、宿敵が戦友へと変わる。

アッシュはニヤリとした。

「遅れるなよ、ダークナイト」

アシュラは彼を見ようともしなかった。

「こちらのセリフだ」

二人の刃が同時にガジェールを捉えた。

鋼が肉体と激突する。

火花が飛び散った。

しかし、ガジェールは一歩も退かない。

それどころか、彼の腕を這う黒い血管が輝きを増し、二人の攻撃のエネルギーがその肉体へと吸い込まれていった。

彼の顔に、冷酷な笑みが浮かぶ。

「お前たちの聖なるプラーナ……」

「極上の味わいだ」

「最後の一滴まで喰らい尽くしてやろう」

彼の足元の地面が爆発的に砕け散った。

闇のエネルギーの波動が外側へと噴出する。

アッシュとアシュラは激しく吹き飛ばされ、砕けたコンクリートの上を転がった。

ダンテだけが両の刃を前に交差させ、辛うじてその場に踏みとどまっていた。

彼のブーツが床を激しく削りながら、その圧倒的な圧力に耐える。

呼吸することさえ困難だった。

大気そのものが強奪されているかのようだった。

混沌の最中からミノリの声が響いた。

「奴に触れられてはダメ!」

「物理的な接触は、奴の吸収能力を何倍にも引き上げるわ!」

アッシュは咳き込みながら、身体を押し上げた。

「あぁ……」

「言われなくても分かってる!」

その瞬間、ガジェールが消失した。

暗闇が一瞬だけ揺らぐ。

次の瞬間、彼はダンテの背後に立っていた。

その片手が、静かにダンテの肩へと置かれる。

刹那、ダンテの放っていた鮮烈なオーラが急激に曇った。

彼の身体が硬直する。

彼のプラーナが、底なしの深淵に吸い込まれる水のように、ガジェールへと流れ込んでいく。

彼の膝ががくりと折れた。

「……クソが!」

もう一秒と経たないうちに、アシュラが背後に現れた。

彼のカタナが閃く。

鋭い一閃が二人の接続を容赦なく切り裂き、ガジェールを後方へと退かせた。

ダンテはその場に片膝をつき、冷や汗を流しながら激しく息を切らした。

アシュラは振り返ることはなかった。

「次にあいつに触れられれば……」

「お前もミノリのよう rab になるぞ」

ダンテは弱々しく笑った。

「まだ指図するかよ?」

「いいさ」

「合わせるぜ、キャプテン」

アッシュはその隙を逃さなかった。

彼の剣の周りに黄金の光が集約され、その刃はまるで昇る太陽の破片のような輝きを放ち始めた。

彼は上空へと高く跳躍した。

「プラーナ・スラッシュ!」

「ライオン・ファング!」

黄金のエネルギーで形成された巨大な三日月が、猛烈な勢いでガジェールへと襲いかかった。

その衝撃で倉庫全体が激しく震動する。

立ち込める煙がすべてを覆い尽くした。

一時の静寂が訪れる。

しかし、煙がゆっくりと晴れていくと――

ガジェールは依然としてそこに立っていた。

傷一つない。

消失しかけた攻撃の残滓が、彼の腕へと渦巻くように吸い込まれ、完全に消滅した。

彼の笑みがさらに深まる。

「エネルギー攻撃だと?」

「私に餌を与えたに過ぎん」

アッシュの自信に満ちた表情が凍りついた。

「……そんな馬鹿な」

ガジェールから再び闇が噴出した。

今度のドレインの結界は、倉庫の壁を越えて外へと広がっていった。

外の街灯が光を失う。

周囲の建物から輝きが消えていく。

地区全体で、聖なるプラーナの流れが遮断され、市民たちが次々と崩れ落ちた。

ミノリの顔が真っ白になった。

「ドレインの範囲を広げているわ」

「このままじゃ……」

「……フクルの半分がプラーナを失う!」

アシュラの目が鋭く光った。

「なら、ここで止めるまでだ」

彼はカタナを砕けた床へと突き立てた。

銀色のプラーナの波が倉庫内に広がり、ほんの一瞬だけドレインの圧力を押し戻して、崩壊しかけていたエネルギーの流れを繋ぎ止めた。

ダンテが再び彼の隣に立った。

疲弊しているにもかかわらず、その顔には不敵な笑みが戻っていた。

「で……」

「まだお前がキャプテンか?」

アシュラは小さくため息をついた。

「俺の脇を固めろ」

三人のチャンピオンが同時に突撃した。

青い光。

黄金の炎。

銀色のプラーナ。

三つの完全に異なる戦闘スタイルが、一つの強烈な攻勢へと融合した。

倉庫内は鋼と光の嵐に飲み込まれた。

一撃、また一撃とガジェールに叩き込まれる。

しかし、あらゆる斬撃も、あらゆるプラーナの爆発も、あらゆる力も、彼の周囲を覆う闇の中に消えていった。

彼らが強く戦えば戦うほど……

……敵はさらに強くなっていく。

ガジェールは両腕を広げた。

彼の身体から、目の前の三人の戦士を遥かに凌駕する、真紅と黒のエネルギーが放射された。

崩壊しつつある倉庫に彼の高笑いがこだまする。

「よくぞ私を満たしてくれた」

「さあ……」

「お前たちのその力が、自らを滅ぼす武器となる様を見るがいい」

プレッシャーは耐え難いものになっていた。

壁さえも内側へと曲がっていく。

街全体が、彼の存在の重みに耐えかねて悲鳴をあげているかのようだった。

ミノリは恐怖に目を見張った。

これはまともな戦闘ではない。

ただの処刑を待つだけの時間だった。

放棄された倉庫は、いまや崩壊する光の監獄と化していた。

真紅と黒のエネルギーが暴風のように宙をのたうち回り、世界から生命力を吸い出すように、あらゆる温もりを奪い去っていく。砕け散ったコンクリートの破片や埃が、プラーナの歪みによって質量を失ったかのように宙に浮遊し、目に見えない奔流が戦場を引き裂いていた。

アッシュは剣にすがりつき、激しく息を切らしていた。

ダンテの両手の刃は、その手の中で小刻みに震えている。

感情を滅多に表に出さないアシュラでさえ、目の前の圧倒的な力を前に、その目を鋭く細めていた。

ガジェールはその中心で、完全に無傷のまま立ち尽くしていた。

彼のオーラは底なしの深淵のように広がり、周囲に存在するすべての神聖なエネルギーの残滓を貪り食っていた。

アッシュは歯を食いしばった。

「全くスピードが落ちてねえ……命そのものを吸い取るなんて、一体どんな化け物だ?」

ガジェールの唇から、静かな嘲笑が漏れた。

「お前たちは、自分がどれほど過分な神の恵みを無駄にしているのか、未だ理解していないようだな」

彼はゆっくりと片手を挙げた。

無数のプラーナの粒子が、ハリケーンに巻き込まれた極小の星々のように、彼の腕の周りで渦を巻いた。

彼の声が、崩壊した倉庫内に響き渡る。

「プラーナとは、存在そのものの神聖なる本質だ。あらゆる生命がそれを持っている。一本の木、一匹の獣、一人の人間……天の彼方で燃える星々でさえもな」

彼の身体を這う黒い血管が、より一層激しく脈打った。

「だが、その力を自覚的に操ることができるのは、古き神々(Elder Gods)に選ばれた『チャンピオン』だけだ」

「古き神が凡夫を選ぶ時、その者のプラーナは神の本質を写す鏡となる。もし炎の神アルデバランに選ばれれば、その魂は天の業火で燃え上がる。アンタレスの祝福を受ければ、その精神は目の前のすべてを喰らい尽くすだろう」

彼は対峙する三人の戦士を見据えた。

「我々はもう、単なる人間ではない」

「凡夫の中に身を置く、神性の断片なのだ」

アッシュの堪忍袋の緒が切れた。

「能書きは十分だ!」

彼は猛烈な咆哮とともに前方へと突撃した。

「壁の向こうまでぶち抜かれる寸前の奴が、随分とお喋りじゃないか!」

ダンテも躊躇なくその後に続き、両手の刃が青白い光を放ちながら閃いた。

彼らの息の合った猛攻が倉庫を切り裂く。

しかし、ガジェールは動かなかった。

彼は何の苦もなく、アッシュの手首を掴み取った。

肌が触れ合った瞬間、アッシュの顔が苦悶に歪んだ。

彼の放つ黄金のオーラが激しく明滅する。

力が急速に奪われていく。

「クソ……!」

「俺の力が……!」

アシュラの目が即座に鋭くなった。

「また吸収している!」

一瞬の猶予も無駄にせず、アシュラはその場から消失した。

銀色の弧が戦場を切り裂く。

彼のカタナが大気を切り裂き、ドレインがそれ以上進む前にガジェールにアッシュの手を離させ。

アッシュはよろめきながら後退し、激しく呼吸を整えた。

ガジェールはただ、自らの光る手を見つめた。

その表情は奇妙なほど冷静なままだった。

「私がチャンピオンに触れる時」彼は静かに言った。「その命は私へと流れ込んでくる」

彼は指を動かした。

「そして、私がそのエネルギーを解放する時……」

「……それは常に、本来の持ち主へと還っていく」

「プラーナは、自分がどこに属しているかを決して忘れはしないのだ」

誰も反応できないうちに、ガジェールが姿を消した。

彼は残像を残すほどの速度で、アッシュの背後に現れた。

その手のひらが、アッシュの背中に軽く添えられる。

黄金の光の奔流が、アッシュの身体へと逆流した。

疲弊しきっていたチャンピオンは、四肢に力が戻るのを感じて驚愕に目を見開いた。

「何だと……?」

「力を返したのか?」

ガジェールは冷酷に微笑んだ。

「慈悲ではない」

「私はただ、燃えカスなど必要としないだけだ」

静寂が訪れた。

アシュラの目が微かに見開かれる。

彼の思考が高速で回転した。

『還っていく』……。

エネルギーの移動は双方向だ。

もし吸収されたプラーナが、接触を通じて本来の持ち主へと自然に還っていく性質を持つのであれば……。

ならば――

彼の視線が、後方にいるミノリへと向けられた。

彼女は砕けた瓦礫の陰で、体力を奪われ、辛うじて意識を保っている状態だった。

彼女の内に残されたプラーナの小さな火種が、弱々しく明滅している。

理解が稲妻のように脳裏を駆け巡った。

もしガジェールが再び彼女に触れれば……。

奪われた彼女の力は、自らの主を認識する。

そして、還っていくはずだ。

アシュラの手が、剣の柄を固く握りしめた。

彼の顔に、微かな笑みが浮かぶ。

彼はダンテの方を向いた。

言葉は交わされなかった。

その必要はなかった。

ダンテは即座にその意図を察知し、自信に満ちた笑みで応えた。

アッシュは混乱しながら二人の顔を見比べた。

ガジェールが一歩前に出た。その一挙手一投足から傲慢さが滲み出ている。

「死人にしてはよく戦った」

「私が終わらせる時……」

「……お前たちの力は永遠に私の一部となる」

アシュラは声を低くした。

「奴が攻撃してくる時、殺すな」

「隙を作れ」

ダンテは片手の刃を退屈そうに回した。

「お決まりの罠だな」

「嫌いじゃないぜ」

アッシュはため息をついた。

「もしこれで失敗したら……」

「……お前ら二人を一生呪ってやるからな」

次の瞬間、ガジェールが消えた。

その速度は足元のコンクリートを粉砕した。

三人の戦士は完璧な連動で散開した。

まずダンテが仕掛け、ガジェールの注意を側面へと引きつける。

アッシュが正面から突撃し、その剣は黄金の光で激しく燃え上がっていた。

すべては計画通り。

ガジェールはその刃を片手で受け止めた。

再びドレインが始まる。

黄金のエネルギーが捕食者へと流れ込んでいく。

その全く同じ瞬間、ミノリの身体から青い光の小さな波動が放たれた。

彼女の目が開く。

「……この感覚……」

「私のプラーナが……」

アシュラが動いた。

視認できないほどの速度。

彼はミノリの元へ到達すると、彼女の身体を軽々と抱え上げ、そのまま前方へと跳躍した。

一瞬にして距離がゼロになる。

彼の手のひらが、爆発的な威力とともにガジェールの背中を打った。

その衝撃が捕食者をミノリの方へと押し出す。

二人の手が、激しく衝突した。

時間が止まったかのようだった。

そして――倉庫が爆発した。

まばゆいばかりの青い光の巨万の奔流が、ガジェールの腕から噴出した。

奪われていたプラーナが、決壊したダムから溢れ出す川のように一気に解放された。

それはミノリへと激しく逆流していく。

神聖なる青い炎が彼女の身体を包み込み、その力が真の主を認識して同化していく。

ガジェールはよろめきながら後退した。

戦闘が始まって以来初めて、その顔に明確な怒りが浮かんだ。

「おのれ……!」

「私を謀ったな!」

アシュラはゆっくりと手を下ろした。

その声はどこまでも冷静だった。

「いや」

「お前が教えてくれたんだ」

ミノリがその場に立ち上がった。

彼女を苛んでいた衰弱は、完全に霧散していた。

その目は爛々とした青い炎で燃え盛っている。

彼女の周囲の大気が激しく震動した。

彼女はガジェールを真っ直ぐに見据えた。

「あなたは一度、私の光を奪った」

その声には、静かな確信が満ちていた。

「今度は私が教えてあげるわ……」

「……自分の光を失うのが、どんな気分かをね」

神聖なる炎が、天へと向かって爆発的に燃え上がった。

彼女の背後に、生きている青い炎で形成された巨大な『プラーナ・スピリット』が具現化し、悠久の眠りから目覚めた古代の守護者のように、戦場を見下ろしてそびえ立った。

その圧倒的な存在感の前に、倉庫全体が激しく鳴動した。

そして、この夜初めて――


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