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痛みなし   作者: EXTRO
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13/21

地獄の残響

灰色の空の下に朝が訪れた。

フクルの街路は何重ものバリケードと警告テープによって封鎖されたままであり、地元のチャンピオンや巡回部隊が前夜の惨劇の調査を行っていた。

ひび割れた道路が何ブロックにもわたって延びている。

建物には生々しい焦げ跡が残っていた。

しかし、空気に漂う最も奇妙なものは、煙ではなかった。

それは、消え去ることを拒む、汚れしプラーナの微かな臭いだった。

風さえも落ち着かない様子だった。

調査現場から遠く離れた、忘れ去られたビル群の間に隠された廃アパートの一室には、静寂が満ちていた。

ひび割れたブラインドから差し込む細い陽光の中を、埃が漂っている。

アシュラは窓辺に静かに座り、その向こうに広がる街を見つめていた。

彼の思考は、前夜の出来事に囚われたままだった。

あの怪物たち。

黒い霧。

そして、何の説明もなく消え去ったあの巨大な獣。

彼の背後で、足音が静かに響いた。

ダンテが湯気の立つティーカップを二つ持って入ってきて、そのうちの一つを彼の傍らに置いた。

「また眠れなかったのか?」

アシュラは窓から目をそらすことなく、カップを受け取った。

「あぁ」

「眠れなかった」

彼の声はいつもになく静かだった。

「あの化け物どもは……」

「一体何だったんだ?」

ダンテはため息をつき、ゆっくりと一口すすった。

「別の次元から生まれた生物さ」

「ヘルレルム(HELLREALM)と呼ばれる場所だ」

アシュラはその聞き慣れない名前を呟くように繰り返した。

「ヘルレルム……」

部屋は一瞬、静寂に包まれた。

それからダンテが再び口を開いた。

「聖なるプラーナ(Divine Prana)と暗黒のプラーナ(Dark Prana)は完全な対極にある」

「万物、すべての領域、すべての生命は、聖なるプラーナから生まれた」

「それは創造する」

「育む」

「そして存在そのものを維持する」

彼は朝の空を見上げた。

「だが、聖なるプラーナが弱まると……」

「……暗黒のプラーナが現実世界へと漏れ出し始める」

「それはヘルレルムからやってきて、広がる先々に怪物と汚染をもたらすんだ」

アシュラは遮ることなく耳を傾けていた。

「昨日俺たちが戦った化け物は、ほんの一番弱い具現化に過ぎない」

「意思を持たない影だ」

「だが、あの巨大なやつは……」

ダンテの笑みが消えた。

「……あれは本当の大災害になるところだった」

アシュラは目を伏せた。

「では、ヘルレルムは単なる怪物の檻なのか?」

ダンテは首を振った。

「怪物だけじゃない」

「そこは創造物の下にある最底辺の領域だ」

「古き神々(Elder Gods)や全能(Omnipotence)そのものに反逆した宇宙的存在を閉じ込めるために作られた監獄さ」

「人間界に決して到達してはならない闇を封じ込めるために存在している」

会話が始まって以来、初めてアシュラの表情が変わった。

彼はあの巨大な獣が目の前で霧となって崩れ去ったのを思い出した。

彼の指がカップを強く握りしめた。

「消える前に、何かがその力を吸い取ったように見えた」

ダンテは瞬きをした。

それから静かに笑った。

「暗黒のプラーナを吸い取るだって?」

「あり得ないな」

彼の声は再び真剣なものに戻った。

「暗黒のプラーナは聖なるプラーナを貪り食う」

「すべての人間は聖なるプラーナでできている。だからその力に触れることは汚染を意味するんだ」

「極端な場合……」

「……存在そのものを消滅させることさえある」

「だからこそ、神々でさえそれを封印したんだ」

アシュラは沈黙を守った。

そして、心に引っかかっていた疑問を口にした。

「なら、どうしてあれは消えたんだ?」

ダンテは壁にもたれかかった。

「唯一の説明は『吸収』だ」

「もしプラーナそのものを吸収できる者がいるとすれば……」

「……可能かもしれないな」

「だが、暗黒のプラーナを吸収するなんて自殺行為だ」

「どんなランクの人間であろうと、それを内に留めることなどできやしない」

部屋は再び静まり返った。

外では、風が割れた窓をガタガタと鳴らしていた。

遥か彼方、雲の下で雷鳴が轟いた。

フくルの別の地区、放棄された工場の裏に隠された改造倉庫の中で、もう一つの会議が進行中だった。

「タスマニアン・デビルズ」の本部は活気に満ちあふれていた。

壁には地図が貼られている。

光るモニターにはプラーナセンサーが点滅していた。

前夜の散乱した報告書の脇には、武器が置かれていた。

ルナは負傷した腕の包帯を締め直し、キロは街のエネルギー数値を調整した。

彼の表情が曇った。

「第9地区のプラーナ密度が約60パーセント低下している」

「変動はまだ広がっているぞ」

ルナは画面に目を向けた。

「人々はすでに能力を発動できないと報告しているわ」

アッシュは静かに壁に寄りかかっていた。

彼の目は地図の一点に固定されていた。

「なら、街のプラーナを喰らっている何者かは……」

「……まだ終わっていないということだ」

迷うことなく、彼は部屋の向こうへ短剣を投げつけた。

刃は「セクター・デルタ」と記された赤い円に突き刺さった。

倉庫に静寂が広がった。

アッシュは腕を組んだ。

「ここから始まった」

「そしてまた起こる」

「今夜動くぞ」

リンは眉をひそめた。

「昨日はコアを過負荷にしかけたでしょう」

「休むべきよ」

アッシュは首を振った。

「俺が休めば……」

「……さらに多くの人がプラーナを失う」

「街が死んでいくのを待つ気はない」

一瞬、彼の瞳に強い決意が宿った。

遠い過去の戦いから生まれた覚悟。

それは、街の別の場所にいる一人の剣士の覚悟と、知らず知らずのうちに共鳴していた。

フクルにゆっくりと夜が戻ってきた。

屋根の遥か上、二つの影が同じ暗まりゆく空の下に立っていた。

一人は東の地区から見つめていた。

もう一人は西の地区から。

互いの名前も知らない。

運命が静かに二人を引き寄せていることにも気づいていない。

アシュラは遠くのスカイラインに目を向けた。

「もうすぐ会うことになる……」

数マイル離れた場所で、アッシュが微かに微笑んだ。

「俺の痕跡を追っている奴が誰であれ……」

「……準備をしておけよ」

ビル風が吹き荒れる。

ストリートを一筋の奇妙な振動が再び駆け抜けた。

雨水が溜まった水たまりの端に、一瞬だけ黒いシルエットが映り込んだ。

見つめている。

待ち構えている。

そして、夜に消える煙のように……

それは跡形もなく消え去った。

夜明けの最初の光がフくルの郊外に広がったが、その朝日はほとんど暖かさをもたらさなかった。

かつては眩い輝きを放っていたが、今は鈍く命を失ったクリスタルの列を飲み込むように、薄い霧が放棄されたプラーナの原野を漂っていた。風は鳥のさえずりを運ぶことなく、ただ不穏な静寂だけが大地に残されていた。

空気そのものが薄くなっているように感じられた。

まるで街が息絶えようとしているかのように。

アシュラとダンテは、古い訓練場の遺跡を歩いていた。

崩れた石柱が互いに寄りかかり、粉砕された演習場は雑草と埃の下に埋もれていた。

かつて大地を潤していた自然のプラーナの流れさえも消失していた。

ダンテは不安そうに周囲を見回した。

「ここは死んでいるように感じるな」

アシュラは膝をつき、ひび割れた地面に手を当てた。

一瞬、彼の指先の下で青い光の細い糸が明滅し、完全に消失した。

彼の表情が険しくなった。

「いや」

「死んではいない」

「吸い尽くされたんだ」

彼の声が冷たさを増した。

「ここにあるすべてのプラーナノードが空っぽになっている」

ダンテは腕を組んだ。

「何者かがそれを喰らっているってわけか」

「しかも、どういうわけか気配を一切残さずにな」

アシュラは沈黙した。

地面の底から、街の脈を伝って広がるかすかな虚無感を彼はまだ感じ取ることができた。

宿主を内側から食い荒らす寄生虫のように。

フクルの別の場所、タスマニアン・デビルズの本部では、大きな戦術テーブルの上に数十のホログラフィック画面が浮かんでいた。

街全体を覆うエネルギーマップ。

青い電流がディスプレイ上を脈打った後、黒いボイドへと消えていく。

キロは懸念の色を強めながら数値を調整した。

「エネルギーの消失は西へ広がっている」

「すでに3つの地区が完全に闇に落ちた」

リンは腕を組んだ。

「センサーが、放棄されたセクターの近くでまた不安定なサージを感知したわ」

アッシュは静かにマップを凝視していた。

彼の目は点滅するマーカーに留まった。

セクター・デルタ。

まただ。

同じ場所。

同じ異常。

彼は出口に向かって歩き出した。

「お前たちはここに残れ」

「俺が一人で確かめてくる」

ルナは瞬きをした。

「一人で行くの?」

アッシュは不敵な笑みを浮かべた。

「心配するな」

「死にそうになったら大声で叫ぶさ」

彼が去っていくと、倉庫は静まり返った。

キロは閉まるドアを見つめ、首を振った。

「いつかあの馬鹿は自分のコアを焼き尽くすぞ」

誰も反論しなかった。

心の奥底で、誰もがそうなると分かっていたからだ。

その日の午後遅く、アシュラとダンテはフクルの最も古い市場の中に隠された小さな神社に到着した。

年老いた僧侶が、風化した鳥居の下に静かに座り、震える手で数珠を持っていた。

いくつかの数珠の玉は、真っ二つに割れていた。

アシュラは敬意を込めて膝をついた。

「異変を目撃されたのですか?」

老僧はゆっくりと頷いた。

「祈っている最中に流れが消えたのじゃ」

「数珠が内側から砕け散った」

「まるで、神聖なるものそのものが恐怖で退いたかのようであった」

アシュラは目を細めた。

「誰かを見ましたか?」

僧侶は目を閉じた。

一瞬、神社に静寂が満ちた。

そして彼は囁いた。

「一人の男じゃった」

「彼の黒い髪は炎のように燃え盛っていた」

「彼の目は空っぽの月のようであった」

「彼が通り過ぎた時……」

「……光さえも彼から逃げ出すようであった」

アシュラとダンテは視線を交わした。

ダンテは顎をかいた。

「へえ……」

「随分と親しみやすそうな奴だな」

アシュラは刀の柄に手を置いた。

「いや」

「危険な奴だ」

フクルに夜が降りてきた。

セクター・デルタの奥深くに隠された廃駅にアッシュが到着した時、誰もいない通りはまだ雨水に覆われていた。

プラットフォームの下の地面は、断裂したプラーナの流れで微かに発光していた。

彼はコンクリートを走る長い亀裂の傍らにしゃがみ込んだ。

残留エネルギーが消えゆく煙のように立ち上っている。

彼の表情が硬くなった。

「街の脈が……」

「空っぽにされている」

「誰かが大地から直接プラーナをもぎ取ったんだ」

彼の足元で低い振動が響いた。

あの奇妙なハム音が戻ってきた。

アッシュはゆっくりと上を見上げた。

彼の本能が叫んでいた。

誰かが近くにいる。

「……誰だ?」

数マイル離れた、彼らが身を寄せていた廃アパートの中で、アシュラはパッと目を開けた。

彼の瞑想は即座に終わった。

部屋が静まり返る。

彼には感じられた。

強力な存在。

見つめている。

待ち構えている。

彼は立ち上がり、カタナへと手を伸ばした。

「ダンテ」

「誰かが近づいている」

ダンテは彼の隣に立ちながら不敵に笑った。

「やっとお出ましの時間か」

彼らの後ろで、ミノリは窓の方を見つめていた。彼女の回復しかけているプラーナは、理由も分からず震えていた。

そして――

遠くの爆発が夜空を照らした。

地平線が真紅にフラッシュし、再び闇へと沈んでいった。

アシュラは剣のグリップを強く握りしめた。

「動くぞ」

ダンテは肩を回した。

「ようやくか」

「退屈で死にそうだったところだ」

三人は夜の闇へと消え去った。

街の遥か上空で、二つの異なる道が同じ目的地に向かって進んでいた。

一方は本能に導かれ。

もう一方は決意に導かれ。

互いの名前も知らない。

彼らの運命が衝突する場所が、すでに定められていることにも気づいていない。

フクルの死にゆく空の下、二つの炎が一歩ごとに近づいていった。

ネオンの光がひび割れた通りに明滅し、放棄された工場群が工業地帯に長い影を落としていた。空気は不自然に重く、まるで一呼吸ごとに目に見えないプレッシャーの重みが乗っているかのようだった。

アシュラ、ダンテ、ミノリは、街のプラーナの流れを乱している奇妙な異変を追いながら、慎重に無人の通りを進んでいた。

ダンテは不安そうに周囲を見回した。

「ここは妙な空気だな」

「まるで誰かが空気そのものを盗んだみたいだ」

アシュラはカタナの近くに手を置いたまま言った。

「警戒を怠るな」

「これを引き起こした奴がまだここにいるかもしれない」

ミノリは前方の暗い建物を見つめた。

「ここがまた別のドレインゾーンかどうかを確認する必要があるわね」

三人は、放棄された工場群を見下ろす古い鉄橋を渡り続けた。

その時……

鋭い金属音が夜の闇に響き渡った。

橋の向こうの端に、街灯にカジュアルに寄りかかる一人の若い男が立っていた。

彼の黒い髪は薄暗い光の下で揺らめき、まるで誰かを待っていたかのように、剣を肩に担いでいた。

自信に満ちた笑みが彼の顔に広がった。

「へえ……」

「この異変を追っているのは、俺だけじゃないってわけか」

アシュラは足を止めた。

彼の目が細められた。

「誰だ?」

見知らぬ男はポストから体を離した。

「アッシュ」

「タスマニアン・デビルズのリーダーだ」

ダンテは眉をひそめた。

「ギルドリーダーだって?」

「こんな夜遅くに何をしてるんだ?」

アッシュは笑った。

「フードの下に隠れてる奴らに言われたくないね」

「俺はフクルで最強のCランク・チャンピオンだ」

アシュラは無表情のままだった。

「それが本当なら、ここが安全な場所ではないことくらい分かるはずだ」

アッシュは頑なに腕を組んだ。

「自信があるみたいだな」

「嫌いじゃないぜ」

「俺の賞金は950万エンの価値がある」

「Cランクの中では最高額だ」

ダンテはニヤリとした。

「手配書の賞金額で自分を測ってるのか?」

アッシュは肩をすくめた。

「人間は、自分が恐れるものにしか高い値段をつけないのさ」

アシュラは冷静に返した。

「俺たちは数字には興味がない」

アッシュの笑みが広がった。

「だろうな」

「お前ら二人、一文無しの逃亡者に見えるしな」

ダンテは大爆笑した。

「痛ってぇな。一本取られたな、アシュラ」

アシュラはゆっくりと剣に手を置いた。

「……チッ」

「黙らせるか」

アシュラが滑らかな一連の動作でカタナを抜くと、鋼の音が橋に響いた。

彼の周囲に風が渦巻く。

彼の向かい側で、アッシュもまた黒耀の刃を抜いた。そのエッジには青いプラーナが踊っている。

彼の目は興奮で輝いていた。

「ついに」

「戦う価値のある奴が現れたな」

二人の剣が衝突した。

その衝撃は火花のシャワーとなって爆発し、橋を照らし出した。

アッシュはスピードと自信を持って攻撃を仕掛け、その一撃は派手でありながらも正確だった。

アシュラは冷静に防御し、一切の無駄なくすべての動きを読み切っていた。

激突の音が無人の地区にこだまする。

アッシュは微笑んだ。

「腕はあるな」

「だが、お前のスタイルには殺人本能が足りない」

アシュラはもう一太刀をパリィした。

「そしてお前の動きには無駄が多すぎる」

攻防が激化する。

二人の刃が何度も交差するたびにプラーナの火花が夜を切り裂き、足元の舗装に亀裂を残していった。

近くで、ダンテは壁に寄りかかってあくびをした。

「いつまでやってんだよ」

「いつまで喋らせとく気だ?」

アッシュは彼の方に視線を向けた。

「退屈なら……」

「お前も混ざるか?」

その言葉が彼の口から出たか出ないかのうちに、ダンテの姿が消えた。

次の瞬間、アッシュの脇腹に蹴りが炸裂し、彼を橋の向こうへと吹き飛ばした。

ダンテはカジュアルに身体をストレッチした。

「お誘い感謝するぜ」

アッシュは唇から血を拭った。

そして、笑った。

「これこそ、楽しくなってきたな」

彼の身体の周りから、燃え盛る炎のように青いプラーナが噴出した。

彼のスピードは劇的に跳ね上がり、両方の相手に向かって身を投げ出した。

アシュラは嵐のような斬撃の猛攻をブロックし、ダンテは終始笑みを浮かべながら、攻撃の周りを軽々とステップでかわし続けた。

アッシュは誇らしげに咆哮した。

「言ったはずだ!」

「俺の賞金にはそれだけの価値があるってな!」

ダンテは首を鳴らした。

「本当、自分の声が大好きな奴だな」

アシュラはため息をついた。

「もういい」

「ダンテ」

「終わらせるぞ」

ダンテは微笑んだ。

「話が早くて助かる」

二人は躊躇なく同時に動いた。

アシュラは低く鋭く。

ダンテは上空から襲いかかった。

両方の攻撃に挟まれたアッシュは、辛うじて防御の姿勢を取ったものの、結合された衝撃波によって足元の舗装は粉砕された。

彼のバランスが崩れる。

次の瞬間、アシュラのカタナが彼の首筋から数インチの場所で静止していた。

橋に静寂が満ちた。

アッシュは激しく息を切らしながら、静かに笑った。

「……俺の負けか」

ダンテはニヤニヤしながら前に歩き出た。

「一応記録のために言っておくけどな……」

「アシュラはまだDクラスだ」

「だが、彼の賞金は1500万エンだぞ」

「俺はCクラス」

「俺のはたったの900万だ」

アッシュの目が大きく見開かれた。

「1500万?」

「Dランクの奴が?」

ダンテは肩をすくめた。

「ランクが常に危険度を測れるわけじゃないのさ」

アシュラは剣を鞘に収めた。

「次からは……」

「負ける覚悟がないなら、剣を抜くな」

それ以上言葉を交わすことなく、アシュラ、ダンテ、ミノリは振り返り、闇の中へと歩き去った。

アッシュは橋の上に膝をついたままだった。

挫折感と悔しさが彼の中で燃え盛っていた。

数分後、タスマニアン・デビルズのメンバーが現場に駆けつけた。

「アッシュ!」

「大丈夫か!?」

彼は拳を握りしめながら、ゆっくりと立ち上がった。

「……あぁ」

「大丈夫だ」

彼の目は、三人が消えていった方向をじっと見つめていた。

「アシュラ……」

「次に会う時は……」

「必ずお前を超える」

静まり返った橋の上で、流れる雲の隙間から月が輝いていた。

風が、交わされた刃の残響を遠くへと運んでいく。

その夜から、新たなライバル関係が誕生した。

憎しみからではない。

誇り、敬意、そして目の前に立つ存在を追い抜きたいという渇望から生まれた関係だった。

冷たい夜風がフクルの放棄された地区を吹き抜けていた。

月光がひび割れた道路と静かな屋根の上に降り注ぐ中、二つの人影が誰もいない通りを並んで歩いていた。

アシュラの足取りは冷静で規則正しく、その隣を歩くダンテは両手を頭の後ろで組み、まるで何事もなかったかのように静かに口笛を吹いていた。

数分後、ダンテがようやく沈黙を破った。

「あのガキにお前がルーキー呼ばわりされた時の顔、見せてやりたかったぜ」

アシュラは彼を見ようともしなかった。

「見る必要はない」

「感じていた」

ダンテは大爆笑した。

「まあ、悪くない。あいつには火がある」

「武蔵野にいた頃のお前を思い出させるな」

「プライドが高すぎて、分をわきまえてないところなんか特にさ」

アシュラは前方の誰もいない道を見つめた。

「そのプライドのせいで命を落とすことになるかもしれない」

ダンテは肩をすくめた。

「あるいは、追いつくための強さを手に入れるかだな」

「どちらにせよ……」

「見ものだろ?」

彼らの後ろから、アシュラのクロークに身を包んだミノリが静かに歩いていた。

彼女は、ほんの一時間前まで刃を交えていたとは思えないほど、二人の男が平然と冗談を言い合っているのを見ていた。

彼女の目が和らいだ。

これほどの苦難を乗り越えてきたというのに、どうしてこれほど簡単に笑い合えるのだろうか?

おそらく、それこそが真の戦士をたらしめる違いなのだろう。

彼らは傷跡を抱えながらも、それに心を縛らせることはないのだ。

三人は街の明かりの中にそのシルエットが飲み込まれるまで、夜の街を歩み続けた。

フクルの別の場所、放棄されたバーの裏に隠された薄暗い倉庫の中では、タスマニアン・デビルズが不穏な静寂の中で集まっていた。

アッシュはドアをくぐった瞬間、鉄製の支柱に拳を叩きつけた。

金属が耳をつんざくような音を立てて内側に折れ曲がった。

彼の剣が手から滑り落ち、床に突き刺さった。

「クソが!」

部屋の空気が凍りついた。

数人のギルドメンバーが互いに顔を見合わせ、静かに後ずさりした。

レックスだけが敢えて声をかけた。

「落ち着けよ、ボス」

「プライドが砕ける前に手が壊れちまうぞ」

アッシュは彼を殺気立った目でにらみつけた。

「黙れ」

レックスは即座に両手を挙げた。

「言ってみただけだよ」

部屋の向こう側で、タロウが腕を組んだ。

「それで、一体誰だったんだ?」

「ボスがここまで怒って帰ってくるなんて、見たことがないぞ」

倉庫が静まり返った。

アッシュはゆっくりと自分の剣を拾い上げた。

彼の声は低かった。

「二人の逃亡者だ」

「アシュラ」

「それと、ダンテ」

笑い声が一瞬で消え去った。

数人のメンバーが信じられないといった様子で彼を凝視した。

キロはメガネを調整した。

「……アシュラ?」

「武蔵野のDランク・チャンピオンか?」

「あの1500万エンの賞金首の?」

アッシュは一度頷いた。

「その通りだ」

部屋中にざわめきが広がった。

ルナでさえ、本当に驚いた表情を見せた。

「本当にあいつと戦ったの?」

「正気なの?」

アッシュは頑なに腕を組んだ。

「あいつは無敵じゃない」

「俺はただ、不意を突かれただけだ」

レックスは我慢できずに言った。

「へえ……」

「随分と派手に不意を突かれたもんだな」

数人のギルドメンバーが一斉に爆笑した。

その声が倉庫に響き渡る。

アッシュの目がピクリと動いた。

タロウがニヤリとした。

「どうやらライオンが、自分より大きな捕食者を見つけちまったようだな」

アッシュはゆっくりと彼の方を向いた。

「もう一度言ってみろ」

笑い声が消えた。

部屋は再び静寂に包まれた。

キロがようやく口を開いた。

「もしあの二人が本当にアシュラとダンテなら……」

「これ以上刺激するべきじゃない」

「あいつらは普通の逃亡者より遥かに危険だ」

ルナも静かに頷いた。

「それに、今夜の街のプラーナは何かがおかしいわ」

「異変がどんどん強くなっている」

アッシュは沈黙を守った。

彼のプレッシャーが、剣の柄を握る手に込められていた。

彼はまだ、アシュラのあの冷静な表情を鮮明に覚えていた。

自分の刃をいとも簡単に止めた、あの圧倒的な実力の差。

彼のプライドは、身体の打撲傷よりも激しく熱く燃えていた。

ゆっくりと、彼は月明かりの窓に目を向けた。

「また見つけ出してやる」

「そして次こそは……」

「必ずお前を超える」

外では、風がフクルの屋根を駆け抜けていた。

街の通りの遥か下で、目に見えないプラーナの潮流が再びシフトし始めていた。

近づきつつある嵐は、すでにその影を広げ始めている。

そして、その影のどこかで、二人の剣士の運命は永遠に絡み合い始めていた。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

アシュラとアッシュ、二人の剣士の運命が交錯する第1ラウンドはいかがでしたでしょうか?

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