・宇宙船式三角交易 - 秩序に反する正しき行い -
一方でアムの方は仕入れの目星を付けていた。
「ハム……? なんかフツーだな」
「食品ならどこでもそれなりに売れる。市民向けのハムなら免税書も必要ない。そうアドバイスしてくれた方がいたのです」
今回は手堅くいくそうだ。トラクタービームを使った仕入れのために待っていたそうなので、アムと一緒に食品問屋を訪ねた。
「ガキと、金を持ったタマハラ族の女ですか。犯罪の臭いがしますねぇ」
「私たちがお金を持っていてはいけませんか、問屋さん?」
「いえいえそんなことはありませんよ。ただ信用がないのもまた事実。念のため、売値に保険料を上乗せしてもよろしいですかな?」
保険料。俺たちが襲撃を仕掛けると、交易船の主が時々使う言葉だ。『お前たちのせいでまた保険料が上がる!!』とわめかれる。
「ずいぶんと割高になりますね……」
「ではご自分で仕入れるとよろしい。数日つぶれることになるでしょうがね」
「あの、もう少し負かりませんか?」
「いやいや、それより見て下さい、あの雄々しい船を。うちは問屋の他に貿易も行っておりましてね、別にタマハラ族ごときに卸さなくても困らないのですよ」
太った食品問屋の男に船を自慢された。確かに港に停泊している船の中では一際大きくて目立つ交易船だった。
「あれは大型ナオと呼ばれる船種でしてな、あれだけの船倉を持ちながら外洋を渡る能力があるのです。いいでしょう? カッコイイでしょう?」
「ええ、いい船ですね。ですがうちはもっと素晴らしい船を持っているんですよ」
「ハッハッハッハッ、君たち呪われた種族が大型船を!? ハハハ、面白い冗談ですねぇ!!」
アムは差別されても金持ちマウントを仕掛けられても気にしなかった。本当に自分たちがこの星最高の船を持っていて、それを使えば軽々と海を渡れるからだ。
「まあいいでしょう、笑わせていただけたお礼にこの値段で手を打ちましょう」
「ありがとうございます、さすがはサンタ・ケルテ港一番の食品問屋様です」
やっと俺とポタモの出番がやってきた。仕入れたハムを木箱にまとめてもらうと、問屋のおっさんが目を離した隙にトラクタービームで地上から木箱を消した。
「ハッハッハッ、子供と女一人でどうやって運ぶつも――なっ、ないっ?!!」
空を見上げればそこにまだ回収中の木箱が浮いているというのに、空を見上げるという発想が人にはなかった。木箱は一瞬で船に収納され、俺たちはリタの待つ店に戻った。
それから夕食を食べて、姉妹があの妖艶な店主にまた少し心を許すのを見届けて、それから天空に潜む船に戻った。
予定よりも早く仕入れが片付いたので元の大陸にゆっくりと船を移動させながら、夜を過ごすことに予定を変えた。
「キッドのために買いました。使って下さい」
「はぁ、毛布? こんなのいらねーよ、お前らが使えよ」
「ガリガリのキッドに言われても」
「私たちにもっと甘えて下さい。そうしてくれると、私たちも心が安らぎますから」
毛布に包まれながらコックピットのシートに座った。嫌なことを言われながらもあれだけの苦労して稼いだ金を使って、一人の少年のために毛布を買ってくれるアムとリタのやさしさに内心で感激した。
リタとアムはもう眠ることにしたようだ。俺もポタモトリゴンを出発させてから眠ろうと思い、針路の調整を行った。
ところがその時たまたま、あの食品問屋の嫌みな男が自慢していた大型ナオとやらが目に入った。
「ポタモ、起きてるか?」
エイの姿をした混沌の竜は静かに肩の上へとやってきた。エイと少年は眼下の大型商船を見下ろした。
「ポタモ、あの船にレーザータレットを一発撃て。木造のポンコツ船なんて一撃で十分だ」
「オ、オコ、オココ……。怒ラレ、怒、ナイ……?」
「大丈夫だ、バレた時に怒られるのは俺だけだ。やっちまえ、ポタモトリゴン」
「ポタモ!」
バレるからデカい声を上げるな!
そう口にするよりも先に、一本の赤い閃光が大型ナオを真上から貫いた。直ちには沈没しないが朝まではもたないだろう。これで安らかに俺も眠れる。
「いけないんだ」
「わっっ!?」
けれども右隣からリタがひょっこりと生えてきた。
「い、いけねぇかよ……っ!? あの船の持ち主、アムを差別しやがったんだぞ!?」
「いいよ、ボクは許す」
「お、おぉぅ……」
「アムは、法律を守れって言う。でも良い人は生き残れない。ボクたちの両親のように、信じて、裏切られる。そういう時代……」
リタはアムよりもこっち側の人間だった。秩序よりも無秩序を好む女性だった。
「何度聞いてもヒデー話だ」
「ね、キッド。もう一隻、沈めてほしい船が、見つかった」
「ははは、そういう話は大の得意だ」
毛布が恋しいのかリタが主操縦席に入り込んできた。前世では一人でいっぱいだった席に、二人で座れてしまう自分の小柄さが少し悲しかった。
「あそこのキラキラした大きな船、見覚えある」
「へぇ、誰の船だ?」
「アムとボクを買った、ヒヒジジィの船。ボクたちはあの船の持ち主の、奴隷だった」
「そりゃ沈めるしかねぇな。へへへ、よーく見てろよ? ポタモ、アイツも撃っちまえっ」
赤い閃光が再び港に走った。1門では足りないと自己判断したのか、ポタモはタレット3門を使って船底に3つの穴を空けた。
「ふふっ、アハハハッ、キッドもポタモも最高……!」
「あれが沈んだらとんでもねぇ大損になるだろうな」
そこは人と人の信頼が失われた世界だ。平然と差別が横行し、奴隷売買や信仰の押し付けが常態化していた。
法律も何もあったものではない。ここは強い者が法律を支配する暗黒の世界だ。
「アムには内緒」
「当然だ、怒られる」
「口止め料、払う」
「いらねぇよ。別に感謝されたくて――ンナァッッ?!」
少年は年上のお姉さんからご褒美のキスをもらった。あまりに突然のことで頭が真っ白になった。
「男、怖いけど、キッドなら平気……。ガキだから」
「ガキ扱いすんな!!」
そうこちらが叫ぶと、リタは再び少年の唇を奪って自分のシートに戻っていった。
「成長、しないでほしい」
「そりゃよかったな。薬盛られて育った竜使いは、一生このまんまだ……」
「最高」
最悪だと思っていたこの身体を、最高と言ってくれる存在がそこにいた。男に酷いことをされてきたであろう彼女には、手足の細い害のない少年キッドはよく自分に噛み合った存在なのかもしれない。
キッドは己の最低の生まれを、生まれて初めてよかったと心から思った。




