・宇宙船式三角交易 - 椋鳥と復讐者 -
「儲かったんなら贅沢しようぜ」
「えっ、贅沢ですか!?」
「贅沢……いいの、かな……ボクたちが」
「せっかくここまできたんだから美味いもん食いてぇ。ダメかよ?」
わがままを言うとリタとアムの不安そうな表情がやさしい微笑みに変わった。
「でも、ボクたち外国は全然、わからない」
「なら俺の後を付いてこい。お前らよりはマシなもん食ってきてるからよ」
栄養ペーストも嫌いじゃないが、金が入ったときは合成肉のフルコースや、違法な醸造酒を飲んだりした。
しかしこの星には驚きだ。醸造酒も煙草も禁止薬物も合法なんだから無地帯もあったもんじゃない。
栄えた通りに出て歩き回った。するとすぐにいい感じに少し背伸びをしたレストランを見つけた。二階建てのたたずまいが立派で、厨房から肉や魚の美味そうな香りが立ち込めていた。
「お待ち下さいお坊ちゃん」
「あ、なんだ?」
だが俺の進路にスキンヘッドのごつい男が立ちはだかった。
「お連れの奴隷たちはタマハラ族ではありませんか?」
「は? 誰が誰の奴隷だって?」
「当店は高級店ですが誰にでも門出を開いています。しかし不吉なタマハラ族は店に入れてはならないという決まりになっておりまして」
ナチュラルに人を差別する社会がそこにあった。海を越えたのにここでもリタとアムは差別の対象だった。
「死にてぇらしいな、テメェ……」
「申し訳ないのですがね、他のお客様にご迷惑ですので」
「よし、ならここで死ね、ポタ――フギュッッ?!!」
リタが後ろから飛び付いて俺の口をふさいだ。これじゃ『ポタモ、レーザータレットこのハゲ野郎を焼き払え』と命じられない。
「ご主人様がご迷惑をおかけしました」
「親に先立たれて、孤独なの」
「ええそうなのです、どうかこのことは平にご容赦を」
「フグゥゥッッ!! ふざけっ、ポタモッ、このハゲ――ンムグゥッッ?!!」
差別するやつはみんな焼き払っちまえばいいんだよ!
俺は怒りのままに暴れ回ろうとしたが、子供同然の細い手足ではそれすらも叶わなかった。リタとアムに俺は静かな路地裏へと運ばれていった。
「なんでだよっ、あんなやつぶっ殺せばいいだろ!!」
「十分。十分嬉しかった」
「代わりに怒って下さりありがとうございます、ボク様。嬉しかった……」
「マジ、ボク様。心より感謝……」
後でこの二人が見ていないところでこっそりとあのハゲをぶっ殺せないものだろうか。というか――
「だからそのボク様ってのは止めろっ!!」
「案外、気に入ってるふうに見える」
「んなわけねーだろっ!!」
「よしよし……」
少年はやさしいお姉さんたちに頭を撫で回された。すると怒りが急に引っ込んでもうどうでもよくなった。
「やあアンタら、表の騒ぎはアンタらだね? あんなお高く止まっただけの不味い店止めて、うちで食っていきなよ」
路地裏で騒いでいると、やたらめったら妖艶な雰囲気のおばさんに声をかけられた。見ると路地の奥を不法占領する形で一軒のボロい店が立っていた。
「教会名指しで不浄とされるタマハラ族でもうちは大歓迎さ。さあ座ってくれよ、威勢のいいボクちゃん様」
「ボクちゃんは止めろぉっっ!!」
妙な店だった。清掃は行き届いていたが、路地裏の建物と建物間に勝手に屋根を作って、通行人の迷惑なんて全スルーしてイスとテーブルを並べた飯屋の無法地帯だった。
「ボク、こういうとこの方が落ち着く」
「メニュー表を下さい。さあボク様、お座りしましょうね」
「俺はガキじゃねぇ……」
アウトローが集まる酒場・椋鳥のサエズリで昼食を食べた。どれも美味かったが一番気に入ったのはタコとタマネギのマリネだ。赤の公爵騎士団も赤いタコと触手の形を模した海賊旗を掲げていた。
「へぇ、親が残した貿易船で旅をしてるのかい。そりゃロマンがあっていいじゃないかい」
「俺に親はいねぇ……」
「ボク様は親のことをいまだに恨んでいるのです」
納得しかねる設定だった。キッドの両親は金目当てで息子を売ったクソ外道だ。いくら設定とはいえこればかりは納得しかねた。
「ここはいつ出るんだい? またおいでよ、他のメニューもこの子に食べさせたいからさ」
「出発は明日。夜ならこれる」
「そうかい、夜は酔っぱらいがくるから早めにおいで。ボクちゃん様を娼婦たちにイタズラされたくないならね」
リタとアムはこの町に今日1日滞在してそれぞれの目的を果たしたいと言っていた。
「こちらの相場がわかりそうな場所を知っていますか?」
「市場を見ればいいさ。港の他に一つ、丘の方にも二つあるから回れるなら回っときな」
アムは色々な町を回って各地の相場をまとめたいと言っていた。相場の差を利用して稼ぐ交易商人たちには情報は食い扶持そのものだそうだ。
通信網の発達していないこの世界だからこそのやり方だ。逆に言えば海を軽々と越えられる俺たちだからこそたやすく可能なことだった。
「人を捜してる。情報が集まりそうな場所は……?」
「ここみたいな飲食店や酒場を回ったらいいさ。盛り場ならここら以外にも丘の方にあるよ」
「双頭の蛇のタトゥーを刻んだ男を捜してる。多分、アヴァロニア人。昔、盗賊団を率いてた。名前は――」
「残念だけど知らないね。あいにくうちの店にはそういう客は寄り付かないのさ」
「そ」
リタとアムはその昔、親と共に交易商人をしていたと言っていた。しかし襲撃を受けて親も仲間も全滅。二人は捕まり、金持ちに売り飛ばされた。酷いなんてもんじゃない過去だった。
「こっちはいいですから、今日はリタを見守ってくれますか? 治安、よくなさそうですし……」
「ボクは独りの方がやりやすい」
「わかった、リタは任せとけ」
アムは上空のポタモに見張らせるが、いちいち本人言うことではない。俺は邪魔ったそうにするリタの隣に寄った。
「やりにくい……」
「安心しろ、敵はみんなぶっ殺す」
「迷惑」
「なら止めろ」
女の身で仇を捜すだなんて見ていられない。危なっかしい。心配になる。もっと自分の幸せを優先させてほしい。そう思うのは男の傲慢だ。
とにかく腹も膨れたので店を出てアムと別れた。俺は邪魔そうに先を行くリタの背中を追って、ガラの悪い連中が集まるという繁華街の奥に進んだ。
「捜してるの。ボクたちの人生をぶち壊しにした人に、復讐するために」
「リタが手を汚すことはねぇ。見つけたら俺が代わりに殺してやるよ」
「軽く言う……」
「俺の前世は宇宙海賊だからな」
アムにくっついて店を巡った。どいつもこいつもタマハラ族を煙たがってくれたが、アムは諦めなかった。夕暮れを迎えるまで、休憩をはさみながら治安の悪い土地を回った。
「海は渡ってないみてぇだな」
「それがわかっただけでも、十分」
「見つかったらどうする気だ?」
「呪う」
本気で呪う気なのか、リタは市場で得体の知れない物を仕入れてからあの店に戻った。店にはアムがもう戻っていて、いまだ壁を残しながらもようやく店主と少し打ち解け初めていた。
「見つかりましたか?」
「情報なし、渡ってない」
「見つけてどうするのですか?」
「呪う」
本気で呪うつもりのようだった。




