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・宇宙船式三角交易 - 約束されしボロ儲けの翼 -

 リタとアムは輝く海面に夢中だった。メインディスプレイに張り付いて、そこに映る高度1000メートルからの絶景に目を輝かせていた。


「私たち今、海の上にいます! 海ってこんなにキラキラとしていたんですね!」


「綺麗……」


「あっ、まだ遠いですけど海のずっと向こうに陸地も見えますよっ、キッド!」


「なんたって高度1000メートルだからな、デカい山の上から見てるようなもんだ」


 一度は殺され、次は仲間を皆殺しにされた上に強姦されかけたというのに、リタとアムは現実に屈しなかった。常人ならPTSDにかかってもおかしくないというのに、明るい笑顔で戦闘機の旅を楽しんでくれた。


「子供なんだから、もっとはしゃいで」


「わーい、海ってすごーい!! ……はっ、これでいいかよ?」


「かわいくない」


「んなことよりもっといいもん見せてやるよ」


 どうもピッチの合わない子供の指でコンソールを操作して、コックピット左のレフトディスプレイを底部カメラに切り替えた。


「わぁっ!?」


「えっえっ、何が……っ、ど、どうなっているの……っ!?」


 するとリタとアムはひっくり返って尻餅をついた。やはり二人はディスプレイのことを窓ガラスと勘違いしていた。


「これはこの船から真下を見下ろした光景だ。カメラって装置を使って、そこのレストディスプレイに今映してんだよ」


 コンソールを操作してズームアップした。底部カメラは船の真下を航行する交易船をとらえ、その甲板で働くたくましい水夫たちを映し出した。


「わっわっわっ、おわぁーっ!?」


「お、落ちちゃいますよぉーっっ?!」


 姉妹は床の上で転げ回った。カメラと画面の仕組みを知らない者には、何気ないズームアップは落下と同じだったようだ。


「しょうがねぇな……。ポタモ、船は任せたぜ」


「自動、操縦、ポタモ!」


 主操縦席から立ってまずリタを助け起こした。俺が立ったことで重力の方向を思い出したのか、リタは少年の顔に自分の大きな胸を押し付けてなんとか立てるようになった。


「サンキュー、キッド。アム、地面こっち」


「あ、あら……? でも、え、何がどうなっているのですか……?」


 リタは少年を離さなかった。顔をそむけてもわざわざ胸をぐいぐいと押し付けてきた。母性に飢えた少年にそれはかなりの毒だった。


「は、離しやがれっ!! 変なとこくっつけんじゃねぇ……っ!!」


「へへ、おもそい……」


「俺は面白くねぇ!!」


 アムとリタは立ち上がると少年を引っ張ってレフトディスプレイに寄った。甲板では水夫たちがマストを引き、見張り台から望遠鏡で辺りを警戒していた。


 そのカメラがゆっくりと角度を変えて海面の異常を観測した。交易船に併走するように何かが海を泳ぎ回っていた。


「さ、魚っ!?」


「すごい……こんなに大きいの、見たことない……」


 それはクジラと呼ばれる宇宙生物によく似ていた。戦艦をゆうに超える巨体だったはずだが、この星のクジラは戦闘機ポタモトリゴンより遙かに小さかった。


「知らなかった……クジラって宇宙以外にもいたのか……」


「エイエイ! エイエイ!」


「だから、お前はドラゴンだろ……」


 どうやら艦船システムであるポタモが見つけてズームアップしてくれたようだ。俺はリタとアムの胸の中から逃げ出して主操縦席に座り直した。情けなく真っ赤になった顔をこれ以上見せたくなかった。


「すごいすごいっ、海って不思議なものだらけですっ!」


「ついてきて、よかった」


 宇宙クジラは嫌いじゃない。キレた宇宙クジラが艦隊を壊滅させたとも聞くが、少なくともこちらからケンカをふっかけなければ襲ってなんてこない。寛大でクソ強いヤツ、それが宇宙クジラだ。


「ポタモ、他になんか珍しいものが映ったらズームアップしてくれ。いい暇つぶしになりそうだ」


「ポタモ、ガン、バウ」


 昨日からスピードを上げた時速80キロメートルの鈍足航行で俺たちは海を渡った。輻射による放熱に頼り切ったシステムでは、それだけでエンジンルームの温度が45度を超えてしまっていた。


 大気圏下で少し本気を出すだけでこの船は燃え尽きるだろう。自らの強大過ぎる力によって。



 ・



 交易船を追って俺たちがたどり着いた土地はサンタ・ケルテ港と呼ばれていた。町の規模としてはポート・ブルーよりも一回り大きく、暖かな日差しが降り注ぐ明るい土地だった。


 トラクタービームで木箱3つ分の積み荷を地上に降ろし、すぐそこの交易所と呼ばれる建物を訪れた。


「すまんね、美人さん。免税書を持たない商人にはこの値段になっているんだ」


「ここでなら高く買い取っていただけると聞いて長旅をしてきたのに、ずいぶんと高い税金なのですね……」


「これが国の方針なんだ。逆らって港に火を放たれるよりはマシさ」


「そんな横暴が……? では致し方ありません。痛手ですが、このお値段でこちらの生糸3箱をお売りいたします」


 交易所の受付とアムのやり取りを遠目に観察した。何かあれば自分が出て行くつもりだったが、アムは強くしたたかだった。


 アムだけではなくリタも船を降りると鋭い顔で辺りをうかがうようになった。どちらも人に付け入る隙を見せないように壁を作っていた。


 船では年齢相応の女の子らしい笑顔を浮かべていた二人が、今は出会う人全てを疑ってかかっている。彼女らの境遇からすれば当然の姿だった。


「出ましょう」


「あ、ああ……」


 姉妹を背後を警戒しながら交易所を出て、人気のない港の外れまで距離を取った。


「ふ、ふふふ……うふふふ……っ」


「な、なんだよ、急に不気味な笑い方しやがって……」


「やったっやったっ、やりましたよキッドッ!!」


「な、何がだよ……っ!?」


 他のやつらの目がなくなると姉妹は元の姿に戻った。アムは金貨の入った袋をかかげて跳ね回って、リタも姉につられて嬉しそうに笑った。


「あはははっっ、商談中なのに笑ってしまいそうで大変でした! 売れましたよっ、仕入れ値の5倍の値段で!」


「てっきり、怒りで震えてるのかと、思ってた……。あ……すご……っ」


 姉にずっしりとした金貨袋を渡されてリタは目を広げた。船の建造費、維持費、水夫の給金をはしょってここまで運んできたのだから、儲からないわけがなかった。

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