・エピローグB スクアの目に映る新世界 2/3
「騎士ガーウェルよ」
「はっ、陛下!」
「国庫返却交渉の件はまことに大儀であった。あと3日支払いが遅れれば……体制が崩壊するところであった……」
「恐ろしい連中です。我らの世代のうちは逆らわぬ方がよいでしょう」
「うむ……。して息子はいつ帰ってくる……?」
「そ、それは……その……。よっぽどあっちが気に入ってしまったようでしてな……」
「うむ。わかる……」
「へ……?」
「星の船アークトゥルス……。あの船での生活を前にすれば、王子の暮らしなど野蛮人の惨めな生活に過ぎん……羨ましい限りだ……」
「へ、へいっ、極楽浄土でございます! 特に風呂が!」
アヴァロニア王の元には定期的に王子殿下からの手紙が届けられていました。太陽の民がどれだけ優れた力を持っているのか、そこには事細かに記されていたのです。
手紙が届くたびに王は王子を羨みました。強者を前にして野心が薄れてゆくのをその身で感じました。あの赤い光に城をケーキのように切断されてしまっては無理もない話です。
「素晴らしい技術だ……。太陽の民が持つ力には人類の夢がある……。王子には引き続きより詳しく情報を届けるように命じてくれ」
「御意……」
「キッド様にはよろしくお伝えするように。貴方のおかげで目が覚めたと」
「キ、キッド様……ですかい!?」
「神にも等しい力を持つ存在に敬意を払うのは当然であろう。次は我がお背中を流すとお伝えせよ」
「へ、へい……っ、お言葉のままにアヴァロニア王!」
人は敵うことのない絶対的な力を前にすると、主義主張を引っ込めて諍いを止めてしまうようです。アヴァロニア王は力こそが正義と信じるわかりやすい人でした。
・
太陽の民が下さった数々の古代遺物はクイナ様たちの生活に沢山の刺激を下さいました。
太陽の民はデンキと呼ばれる青白い光で里の通りから夜を払い、ドロイドと呼ばれる鉄の人形たちに畑仕事をさせて、さらにはたくさんの知恵を授けて下さいました。
「シィール、貴方のように賢い技師が里にいてくれてよかった」
シィールはあれから船を降りて里の開拓に貢献する道を選びました。星の船アークトゥルスの技術はあまりに難しすぎてわからないそうですが、太陽の民が運んできた古代遺物ならばかろうじて原理がわかるそうです。
「い、いえ……自分は少し好奇心が他の人より強いだけです。皆さんの知恵を吸収しようとするだけで精一杯です……」
「もしかしたらタマハラ族は学術分野への適正があるのかもしれないな。機会があれば君たち一族全体のIQを測定してみたいものだ」
太陽の民がもたらしてくれる不思議な力に恐れを抱く者もいました。特にドロイドへの不安は大きく、暴れ出すのではないかと当初はタマハラ族の中で混乱が起きました。
「ドロイドに給料と休みを与えろと、君たちが直談判してきた時は笑ってしまったが」
「今でも彼らを見ていると不思議な気分になります。『生きているのに死んでいる』だなんて、何度考えてもドロイドたちは不思議です」
「ゲートウェイが閉ざされる前は『自分は生きている』と言い張るドロイドたちの帝国があったらしい」
「なんと……。ですがそれは本当に生きているとしても……証明しようがないのでは?」
「そうだ、だから人類星間共同体との関係はあまりよくなかったようだ。この話はキッド様の方が詳しいだろう、今度一緒にうかがってみるとしよう」
「ゲートウェイの向こうにはそんな不思議な世界が……」
「キッド様はゲートウェイシステムをパンドラの箱と呼ぶが、我ら技術者からすれば最稼動を夢見てしまうな」
「そうですね。自分は[地球]と呼ばれる星に行ってみたいです。私たち人類の起源がそこにあると証明すれば、国籍や種族で区別することの無意味さを皆が学んでくれるかもしれません」
「さて、そんな理想郷ではなかったと聞くが……。それもキッド様にうかがってみるとしよう」
来月からはコンクリートと呼ばれる粘土のような石で、大きな通りを舗装することに決まっています。古典的な技術とキッド様たちは言いますが、私たちタマハラ族から見れば魔法と何も変わりません。
「君たちは最高のパートナーだ。星の民に裏切られないかと疑心暗鬼になっていた我らには、貴方たちが天上世界の住民に見える。ぜひ培養漕を使って我らと共に増えてほしい!」
「そ、それはさすがに里の者の説得が難しいと思いますが……。まずは不妊に悩むご夫婦から、声をかけてみましょうか……」
タマハラ族の民は太陽の民の最高のパートナーとして、これからも共に増えてゆくでしょう。様変わりしてゆく光臨の丘の姿が嬉しいような寂しいような、不思議な気持ちです。
・
「無理です、それは不可能です、公爵様」
「どうして? マッコウは俺のことが嫌いなの?」
警備隊長あらためアークトゥルス級白兵隊長マッコウと、公爵にして参謀ゴンドゥは寝室でもめていました。
「いえそういうわけではありません。自分は誰よりも貴方様を敬愛しております」
「じゃあ試しにしてみようよ、俺とマッコウで、自然生殖!」
知らないというのは恐ろしいことです。ゴンドゥ様は本気でマッコウ様と生殖を行うつもりのようです。
「ゴ、ゴンドゥ様、自分としても非常に残念なことですが……。雄同士の自然生殖ができるようには、人類はできておりません……」
「え、そんな……っ。俺……ゴンドゥと生殖してみたかったのに……。うぅ……他の人なんて絶対嫌だよ……」
「光栄です。ですがその言葉は外ではご自重なされた方がよいでしょう」
本当に不思議な人たちです。彼らの世界では男同士でもあの不思議な水槽を使って増えることができるそうでした。
「そうだ……! だったら後天的にゴンドゥの性別を雌にしてしまえばいいんだ……っ!」
「なっっ?! お、お待ちを……っ、それは横暴でございます、公爵様!」
「嫌なの……? 俺の子供、産みたくないの……?」
「じ、自分は兵士です! ホルモン上の問題から性別を変えると任務に支障が出てしまいますので!」
ゴンドゥ様はベッドの上で悲しそうに視線を落とした。それにうろたえるマッコウ様のやさしさが私には微笑ましく映った。
「そうだっ、なら俺が雌になってマッコウの子供を産めばいいんだっ!!」
「そんなことをしたらギド様が発狂されます!! 貴方はギド様の義父に極めて近いクローンで、自分はギド様のクローンなのですよ!?」
「大丈夫、わかってくれるよ」
「いえわかりたくないのです、自分がっ!!」
「もうマッコウ……君はタマハラ族に感化され過ぎだよ。確かに彼らは素晴らしい精神性を持った人たちだけど、俺たちらしさを忘れちゃいけないよ」
「で、では……どうしても女性になられると……?」
「うん、だって欲しいもん、俺たちが生きた証が。俺たちが第一号になろうっ、培養漕もいつか壊れてしまう日がくるんだからその前に、俺たちが自然生殖の第一号に!」
「ぬっ、ぬぁぁぁぁぁっっっ?!!!」
ゴンドゥ様はキス魔のリタの影響を受けてしまったみたい。マッコウ様はベッドの上で正座したまま白目をむいて気絶してしまった。
「昔はなんの意味があるかわからなかったけど、今ならわかる気がする。俺、マッコウと結婚式を挙げてみたいな……。ん、マッコウ……?」
本当に不思議な人たち。特にこの二人はキッド様よりも不思議。ゴンドゥ様は気絶していることをいいことにマッコウ様にくっついて目を閉じた。
「うん、やっぱりわからないな……。そうだ、後でギド様に相談しよう」
それは止めた方がいいと思うのだけれど……。




