・エピローグB スクアの目に映る新世界 1/3
初夏、タマハラ族の里に多くの産声が響き渡りました。それもこれもキッドさんが私たちタマハラ族を豊かにしてくれたおかげ。私は子供を遺すことができませんでしたが今は幸せ。早くリタとアムの子供も見たいと思っています。
ジェイの相手はいつ見つかるのやら、なんだんあの子が心配になってきました。
里には培養漕と呼ばれる不思議な装置で、太陽の民の子供たちも産まれてきています。太陽の民は6歳ごろの体格までその水槽の中で育てられて、そこから外の世界で育つそうです。
不思議な人たち。でも親切でやさしくて強くて、今では里の仲間として仲良く助け合って生きているようです。
ジェイは星の船アークトゥルスの艦長として、気弱だったあの頃からは信じられないほどに立派にがんばってます。そんなジェイは私の誇りです。
「まさか一国の王子とこうして湯で語り合う仲になろうとは……。貴方と話していると、アヴァロニア人に偏見を持っていた自分が恥ずかしくなります……」
「それは私も同じです、ジェイさん。先日まで私もタマハラ族のことを変わり者の哀れな種族とばかり思っていました」
「無理もない。自分たちの教えは貴方方の教えとは大きく異なりますからな」
お風呂が好きすぎてあまり艦長席にいない艦長さんというのもどうなのでしょう。人付き合いが上手なのはいいのですが、男性のお友達ばかりで心配です……。
キッド様を美しいと言ってに祈りを捧げてしまうほどの危ない崇拝ぶりですし……。
「これはキッド様、お背中お流しいたしましょうか?」
「お、おぅ……相変わらず暇さえありゃ風呂に浸かってんな……」
「はっ、アークトゥルスの風呂は自分の人生ですので」
「風呂を人生とか言うやつは初めて見たぜ……」
彼女、できるのでしょうか?
あの日、逃げることしかできなかった私の小さなジェイ。心の痛みを乗り越えてくれたこと嬉しいのですけど、のんびり過ぎて心配になってきました。
大丈夫ですか、ジェイ?
・
クイナ様は光臨の丘でキッド様の帰るべき場所を守っています。キッド様が寝そべるベッドを綺麗にして、ときおり空を見上げてあの方の帰りを待っています。
「よう、帰ったぜ、婆さん」
「お帰りなさい、キッドさん」
「聞いてくれよ、婆さん、またバンドゥのやつがわけのわからないことを言い出してよ……」
「ふふ……ぜひ詳しく教えてちょうだい」
キッド様が帰ってくるとクイナ様はいつだって嬉しそう。家族に恵まれなかったキッド様と、夫に先立たれたクイナ様はいい関係を結べたようです。
「俺、たまにしか戻ってこれねぇしよ、ここに他のやつ住まわせてもいいからな? 俺は船が俺の家みたいなもんなんだからよ……」
「そんな悲しいこと言わないで。貴方の帰りを待っていますよ、キッドさん」
「へっ、婆さんはマジでいい女だな。リタとアムに出会わなかったら婆さんの方を口説いてたぜ」
「もう、またお婆ちゃんにそんなことを言って……」
「すげー今さらなのかもしれねぇけどよ……。俺、マザコンなのかもしれねぇ……。母性っていうのにすげぇよええみてぇだ……」
そんなキッド様とアムとリタの強い結び付きを私は羨ましく思っています。キッド様の脆さを私が守ろうとしたあの子たちが支えてくれると、私の死は決してムダではなかったと思えるから。
「大丈夫ですよ、もうみんな知っています」
「そりゃねぇだろ、婆さんっ!?」
光臨の丘は星の船で旅する皆の帰るべき母港。クイナ様はキッド様が再び旅立つと、また空を見上げて彼の帰りを待っています。
・
1ヶ月に1回のペースでアークトゥルスはどこかの無人島で闇取引を行います。キッド様がポタモトリゴンで要人を迎えに行き、船内で取引を行うことが多いようです。
「いらっしゃいパパ。水割りでいい?」
「リ、リリア!? なぜそこで酒場のお姉さんのようなことを……!?」
「あ、トム! 久しぶり、トム!」
「はぁぁ……娘との再会に入れ込むポールさんをなだめるのに疲れたぜ……。リリア、ビール」
「はーいっ、ちょっと待ってね、トム!」
その日は酒場の女性が着るような薄手の服をリリアちゃんが着て、船内酒場・鶺鴒のサエズリで父親とトムという酒好きの男性を迎えました。
「これはどういうことだい、キッドくんっっ!! 僕は娘にお水系を勉強をさせてくれなんて一言も言っていないよっ!!?」
「ほらこうなった、だから止めろって俺は言ったんだ」
「もうっ、リリアはパパのために着替えたのにっ、なんでパパはいつもいつもそうなの!?」
「ダメだよ、リリアそんな格好したらっ! 世の中には変態がたくさんいるんだよっ、狙われてさらわれちゃうかもしれないじゃないかぁっ!?」
早熟過ぎる娘と過保護な父親を放置して、キッド様とトムは隅の席に座り直しました。
「まさかポールさんとリリアは毎回あんなことやってるのか……?」
「そうだぜ、うぜぇだろ?」
「……ノーコメントだ。おっ、美味いなこのビール!」
「だったら国捨てて船にこいよ。根性あるやつは大歓迎だぜ」
トムという男は誘いを断ると、強面をやさしそうな顔に変えてリリアちゃんと父親を見ました。
「フルーツの盛り合わせ入りまーすっ!!」
「たくましくなったね、リリア……」
「パパ最高! リリア、一度これ頼んでみたかったの!」
「は、はは、ははははは……娘に接待される日がこようとはね……。はぁ、君が笑顔を絶やさずにいてくれるならもうそれでいいかな……」
キッド様とトムは騒がしい親子を見守って、ビールと牛乳で乾杯しました。
「噂は聞いたぜ。サンクタムの国庫も強奪してくれよ」
「軽く言ってくれんな」
「ならこれと同じ船を一つくれ」
「コイツ一隻が星に残ってただけでも奇跡だ、諦めろ」
キッド様はお酒を羨ましそうに見て、トムのビールを盗み飲んでしまいました。
「うげえ……っっ」
「背伸びするな、ガキには早い」
「クソ……ッ、クソ苦ぇ……っっ」
キッド様の舌にはビールはまだまだ早いみたい。涙目になる不良少年をその場の皆がやさしく見守っていました。
「死なないでね、パパ……」
「リリアを残してパパが死ぬわけないだろう。危ないことは全部トムに任せるさ」
「心配はいらねぇ、ポールさんは俺たちが守る。リリアはキッドの力になってやってくれ」
「うんっ、気を付けてね、トム!」
変化を拒む国と、変化を望む国民。抑圧と自由。とても難しい問題。私にはただ、この場にいる人たちの幸せを祈ることしかできません。
この人たちのためにアークトゥルスとポタモトリゴンの力を使ってしまえばいいのに。キッド様は乗り気ではないようでした。
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「孫、産まれた」
「へぇ、めでたいな」
「女だ。息子、お前にやる」
「いらねぇよ! 自分らの手で幸せにしやがれ!」
鍛冶種族の村ダゲも度重なる交易で見違えるほどに豊かになりました。こちらでも子供がたくさん産まれたみたい。いらないとキッド様が拒絶すると、族長さんはホッとした様子で喜びました。
それだけ恵みをもたらしたキッド様に感謝しているということでしょう。今となってはたくさんの人がキッド様のことを天使と信じて疑いません。他でもないこの私も。
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「タマハラ族の皆さんっ、シルクシティにようこそおいで下さいましたっ!! え、また投資!? こんなにも!? は、ははぁぁっっ!!」
「あの、そんなにへりくだらないで下さい……。持ちつ持たれつの関係でみんなで豊かになりましょう……?」
ダゲだけではなくシルクシティとも良好な関係が続いているみたいです。当時はまだ幼さが残っていたアムが女神のように町中の人々に祈られるのを見るのは不思議な感じです。
まだ私たちを呪われた種族と呼ぶ人もいますけれど、この町ではもうそんな主張は許されていません。いても差別はいけないと注意する人までいて、本当におかしな感じ……。




