表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
59/62

・従わないなら城を吹き飛ばす - 海賊式のピリオド -

「な、なぜ……どうやって我らの指揮下にある船を意のままに動かしたのだ……?」


 あり得ないこの展開にマッコウはほぼ理想的と言っていい顔をしてくれた。目を見広げ、口を開けっぱなしにして、こちらをいい顔で見てくれた。


「そりゃどうもこうもないな。あの船たちは最初からアンタの指揮下にはなかった。ポタモに至っては自分で主人を選ぶ自我がある。何せポタモは、俺が温めた卵から生まれた竜なんだからな」


 アークトゥルス級はポタモに遠隔で動かしてもらった。狙いはもちろんもう一つの封建主義社会の急所だ。


「陛下ぁぁっっ、た、大変でございます!! あの星の船がっ、城からの避難民を吸い上げていますっっ!! 狙いは諸侯の奥様やお子様たちのようで……っ、次々と皆様を……っっ!!」


「タマハラ族を捕らえて奴隷にしてきたアンタたちに相応しい報復だろ?」


 アヴァロニア政府閣僚は青ざめた。城から逃がしたはずの身内の身柄を奪い取られるとは思わなかったろう。

 世継ぎを失えば家が滅びることにもなりかねない。外戚に家を家を乗っ取られる可能性も飛躍的に高まる。もしも自家を恨む民に家族を引き渡されたら悲惨な末路を描くことになるだろう。


「キッド、最高……っ!」


「困りました。こんな形で私たち奴隷の恨みを晴らしてくれるなんて……困りました、どうしても、怒れません……困りました……」


「なんと乱暴な天使様だ……。おっと、動かぬ方がよいぞ、雑兵ども。こちらにはお前たちが引き金を引く前に、お前たちを骨も残さずに蒸発させる方法がある。キッド殿ッ!!」


 マッコウが手元にあった燭台をこちらに投げた。そいつをちっぽけな少年がディスラプターガンの赤い閃光で一瞬で消滅させてやると、原始人どもはそもそもの武装の質の違いを理解した。


 それからゴンドゥ・カークが口を開いた。動けば撃たれるしれない状況で、彼は堂々と歩き出して玉座の前に立った。


「国王陛下、この銀色の兵は人間ではありません。我らの祖先が生み出した絡繰り仕掛けの兵士です」


「な、なんと……そのような夢物語まで実現しているとは……」


 心なきドロイド兵に国王は恐怖と共に羨望をいだいた。兵器に対する強い憧れだけは共感できる暴君だった。


「この戦闘用アンドロイドは人間の300倍の反応速度で射撃が可能です。そう、先ほどマッコウ警備隊長が申し上げた通り『引き金を引く前に骨も残さずに蒸発させる』ことができるのです」


「ぬ、ぬぅ……っ」


「こんなとになってしまって残念です。ですが両者の平和的な未来のために、あちらのボウガンという古典的で非常に美しい原理の武器を、下げるように命じていただけますか?」


「盗賊のようなことをしておいて何を言う……っ!!」


「申し訳ありません。しかし人を平気で裏切る貴方たちのこういった性質を恐れて、マッコウとキッドは強引な手段に出たのです。ぁ……」


 残念、これにてタイムオーバーだ。ポタモのレーザータレットが謁見の間を斜めにぶった切った。天井は滑るようにスライドし、やがてアークトゥルス級が悠々と浮かぶ空がそこに現れていた。


「あばよ、バカ王」


「もっと話し合いたかったのですが、残念です……」


 アヴァロニア兵も家臣たちも天井の喪失に恐慌状態に陥っている。一瞬で石作りの城を叩き斬る力を見せつけられたのだから。


「ボクたち、まだ忘れてないから……」


「ええ、奴隷時代のことは忘れようとしても忘れられません……。陛下……キッドと太陽の民の信頼を、これ以上損ねないで下さい……」


 トラクタービームが俺たちを緊急離脱させた。重力に干渉する力の前には往生際悪く放たれたボウガンの軌道も狂い、ドロイド兵たちが盾になってくれたのもあって無傷でのアークトゥルス級への帰還が叶った。


 船倉に戻ると俺は仲間たちに囲まれていた。シナリオにはない独断行動にどいつもこいつも一言言いたそうな顔だった。


「泥棒に誘拐……こんな最悪のファースコンタクト、ないですよ……」


「自分が描いた当初のプランよりはマシとはいえ、やってくれるものだ……」


「人質の方たち、どうするおつもりですか?」


「お金、返しちゃうの……?」


 船倉にはきらびやかなドレスやチュニックを着た貴族子弟たちや妻たちがいた。駆け付けてきた騎士ガーウェルと従者たちに守られながらこちらに震えていた。


「身代金を受け取らずに捕虜を返すのは流儀に反する。災難だったな、お坊ちゃんにお嬢様に奥様方。悪ぃけどしばらくここでバカンスを楽しんでってもらうぜ」


「え……本当に返さないおつもりですかっ!?」


 ゴンドゥの問いに捕虜たちが恐怖の目でこちらを見た。


「奴隷にされたやつらの前で同じことが言えるのかよ?」


「で、でも……っ」


「やだね、タダで返す気はねぇよ」


 その返しに何を思ったか、騎士のおっさんが目の前に駆け込んできた。


「坊主たちがされたことを思えば強くは言えねぇけどよ、どうか丁重に頼む。俺は坊主に、結構貸しを作ってきたつもりなんだけどな……?」


「ああ、アンタには借りがある。だが不公平だろ……」


「わかってる。だが頼むよ、これ以上こじれたら誰も得しねぇ……トラブルはお互いもうコリゴリじゃぁないかね……?」


「そうか? なら589号、572号、551号……施設で殺処分されていった竜使いの無念はどうなる? あの日襲われたアムとリタの家族や仲間たちはどうなる? 重税にあえいできた民だって納得しないだろ」


「わかってる、わかってるよ。だけど坊主、おっさんを信じてくれ。悪いようにはしねぇ」


 そこまで言いたいことを言うとこちらも少し冷静になった。初めから丁重に扱うつもりが、いつの間にやら感情任せの行動を取っていた。

 生きたいのに殺処分されていった竜使いたちの怨念が自分に乗り移ったかのような、感情任せの行動を取ってしまっていた。


「……ちょっと脅かしただけだ。船内公園に案内して、望むなら風呂に入れてやれ。この船の素晴らしさをありったけ見せつけてやってくれよ、おっさん」


 それこそがこの誘拐の真の意図だ。どれだけ技術と力の差が離れているのかと見せつけてから親元に帰す。最強の白兵戦闘員である太陽の民と、母艦アークトゥルスと戦略兵器ポタモトリゴンがそろえば、世界征服だって実際のところ不可能ではなかった。


「恩に着るぜ、坊主。本当によ、お前さんの生まれを考えれば十分過ぎるほどの譲歩だ。へへへ……ブリッジから見てたが、まったく冷や冷やさせられたぜ……」


 貴族子弟をおっさんと従者が連れて行くと、俺は仲間へと振り返った。


「最後の仕上げが終わったらさっさと帰ろうぜ。光臨の丘、俺たちの母港を案内してやりてぇしよ」


 最後の仕上げというのは[一部始終]だ。


「仕上げですね、任せて下さい! 王家が言い逃れができないよう突きつけてやりますよ!」


「我らの機材が早くも貴方たちの力になれるとは光栄な限りだ。都の民に突き付けてやろう、先ほどまでの一部始終を」


 最後の仕上げに恒星系基地から持ち出された立体投影装置で、先ほどのアヴァロニア王の裏切りを撮影したものを都上空に投影した。

 音声付きで映し出されたそれは都の者を大いに驚かせると共に、国庫の金が奪われることになった一部始終と、奪われた事実を国民に突き付けた。


 王都ケイロスの民は怒った。外敵である俺たちばかりにではなく、王家の無謀なる振る舞いにも。取引の決済も不可能になった国家の台所事情に、早くも王家を見限ろうとする声が続出した。


 盗聴器はまだ生きていた。謁見の間で拾った音声には、もはや強気の騙し討ちに出た傲慢な支配者たちの姿はなかった。


「ハ、ハハ、ハハハハ……!! 国庫の金を……根こそぎ、持ってゆくとはな……。ぁぁ……やられた……やられてしまったな……ハ……ハハハハハハハハ!!!」


「笑い事ではありませんぞ、陛下。支払いが滞れば皆平気で我らに逆らうようになりますぞ!! 軍が維持できなければ力ずくで押さえ込むこともできなくなるのですぞ……!!」


「わかっている……星の船にいるガーウェル卿に、謝罪の橋渡しになってもらう他にないだろう……。あんな……あんなやせ細った子供が、あんなにも恐ろしい怪物だっただなんて……」


「恭順すればやつらの技術を盗める日もきましょう。タマハラ族はともかく、天使キッドと太陽の民はあまりにも危険……私たちごときが逆らうべき相手ではありませんでしたな……」


 こうしてカリオペイアⅢの愚かな王朝の一つは、宇宙からやってきた太陽の民の前にひれ伏した。圧倒的な力を持つ彼らに慈悲を求め、西部辺境の土地全てを差し出した。


 タマハラ族の奴隷は全て解放され、光臨の丘へと護送されることになった。


「貴方こそが海賊の中の海賊だ。まさか国庫を奪うことで相手を力ずくで服従させるとは……。我々には到底考えつかない、貴方だからこそたどり着けた答えだった……。我らの偉大なる祖、バンドゥ・カークも貴方のようなお人だったのだろうか……?」


 足下にひざまずいて平服するマッコウから、アークトゥルス級の指揮権を約束通り返してもらったのは言うまでもないことだ。


「貴方には二度と逆らわん。これまでの非礼を重ねて謝罪する……。真の宇宙海賊、我らよりも公爵の騎士団の真理を理解する男、613号のキッドよ、貴方こそが我らの盟主に相応しい」


 かくして星の民と太陽の民の出会いは、ゴンドゥが描いたロマンとはほど遠い暴力的な結末でピリオドを打った。


 光臨の丘の大地を踏んだ太陽の民たちは、風の香りと、土の湿った匂いと、やさしく降り注ぐ太陽の光に、驚きと喜びの笑顔をいつまでも浮かべていた。


 彼らが憧れ続けたカリオペイアⅢで生活が、安らぎと刺激に満ちたものになることを願う。太陽の民は役目を終えた[ブルーホライズン恒星系基地]がある太陽を見上げて、母なるゆりかごへの感謝の祈りを捧げていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ