・従わないなら城を吹き飛ばす - 偽りの恭順 -
往生際悪く抵抗して城を吹っ飛ばされる結末を期待していた。だがやつらは支配階級。想像力のない愚か者ばかりではなかった。
なんとしても権威の象徴たる王城と、城に眠る資産を守るためにアヴァロニア王と閣僚は恭順を選んだ。もしも国庫を吹き飛ばされたらありとあらゆる支払いが滞り、封建主義社会の崩壊を招きかねない。
「この星においての体制崩壊の主要原因はなんだと思う、キッド殿?」
「給料の未払いか?」
「そう、金だ。金の切れ目は縁の切れ目とは言ったものでな、この星の支配階級は呆れるほどに不渡りや未払いに敏感だ」
「アンタには降伏するのが見えてたってことか。はぁつまんねぇな、アレが吹っ飛ぶところを見て見たかったぜ」
500年もこの星を観察してきたからこそのやり方だ。マッコウはなかなか大した男だった。
「キッドさんはどっちの味方なんですかっ!!」
「しょうがねぇだろ、恨むだけの正当な権利が俺たちにはあるんだからよ」
相手の出方次第では本気で吹っ飛ばすつもりだったとマッコウは言ったが本気の顔には見えなかった。
そういったわけでアヴァロニア王国政府は退去を進めながらも必死で城の破壊を防ごうとコミュニケーションを試みてきた。飛竜と竜使いを使った懸命の懇願をアークトゥルス級のマイクが拾った。
アヴァロニア政府は新たなパートナーとして太陽の民を迎えることを表明し、これからのためにも会見を行いたいと伝えてきた。
「なんだ、結局ゴンドゥのプランに合流ってわけか。やっぱつまんねぇな……」
「何を言ってるんですか! 戦争から始まるファーストコンタクトなんて、いたずらに不幸をまき散らすだけですよ!」
城の破壊というカードは引っ込めずに保留したまま、やつらが指定する王城の謁見の間にて会談を行うことになった。
タマハラ族の代表としてリタとアム。太陽の民からはマッコウとバンドゥ。護衛の足しに俺もその会談に同行することになった。
その他の護衛はディスラプターガンを持った24体のアンドロイド軍団だ。デュラスチール合金製の装甲を持つ戦闘用アンドロイドに囲まれて、再びあの謁見の間を訪れた。
「まず大地をいただこうか。タマハラ族が暮らす光臨の丘から半径50キロメートルの土地を無条件で譲ってもらおう」
「ご、50キロッ!? いやその範囲にはアヴァロニアの辺境貴族の土地も少々……」
高圧的だったアヴァロニア王の態度も逆転していた。
「その者たちの土地はそのままでいい。寄越せぬと言うならば、やはりこの城を吹き飛ばす他にない」
「わ、わかったっ、あの地は友好の証としてお前たちに譲ろう!! どうせあの一帯は幻想世界の砂漠の怪物のせいで、まともな開拓もままならぬ死の土地だ!」
確かにそうだがこちらには十分な武器がある。前線を守れるデュラスチール製の戦闘用ドロイドがいる。さしたる問題ではない。
「では次の条件だが、タマハラ族への迫害を今後一切止めると誓ってもらおう。タマハラ族は我らの大恩人、彼らの慈悲あって我らは星に降りることが叶った。タマハラ族への迫害はそのまま太陽の民への戦争行為と思え」
こんな交渉をするとは聞いていない。リタとアムは目を広げて驚いていた。
「それは、それは非常に根深い問題だ……。我が止めても愚かな民がそう簡単に切り替えられるとは限らないのだ……」
「ならば迫害者ごとこの都を消し飛ばすのみ。我らとタマハラ族は一心同体、迫害には破壊をもって応えよう」
宣言通りマッコウは一切の交渉拒んだ。天にそびえるアークトゥルスとドロイド軍団の威光を背に要求だけを突きつけた。
「無理だ! 民が今さら止めるはずがない! マッコウ殿はどれほど下民どもが無知で無教養で無計画かと知らぬのだ!」
「言い訳など聞かぬ。貴様らが自らまいた種だろう。加えて、タマハラ族に光臨の丘の土地を割譲せよ。貿易に不平等な税を課すことも今後一切許さん。あらゆるタマハラ族奴隷を即刻解放せよ」
どちらにしろアヴァロニア政府は同意する他にない。ごねてはきたが結局は条件を飲んだ。口約束ではあるがこれでリタとアムは逃げた奴隷ではなくなった。もうフードの中に髪と目を隠して街を歩かなくともよくなった。
「最後にもう一つ」
「まだあるのか……!?」
「親善の使者として第一および第二王位継承者をこちらに派遣しろ」
「息子と娘を人質として差し出せと言うのか!?」
「我らは太陽よりお前たちを500年間見守ってきた。お前たちが口約束を交わしては人を平気で騙してきた歴史を知っている」
さすがに王もこれにはごねた。嫡子は封建主義社会の急所そのものだ。子を人質に取られては今後一切優位に立てなくなってしまう。
「そうか、交渉は決裂か。では我らは船に戻ろう。砲撃の準備は済んでいる、すぐにでもここを消し飛ばしてくれる」
「わかったっ、差し出すっ! すぐに呼び出してそちらの船に乗せよう! 国庫が吹き飛んだら国中の経済が崩壊してしまう!」
全ての条件をアヴァロニア王家は飲んだ。どこまでの拘束力があるかもわからないが書類による誓約を交わすことになった。
どうにか丸く収まってゴンドゥ・カークはため息を漏らし、太陽の民の代表として礼儀を尽くした。ところが……。
「形勢逆転ですな、マッコウ殿」
ゴンドゥが誓約書にサインを刻むために謁見の間の奥にある机でペンを取ると、ビロウドのカーテンの中から一斉にボウガンを構えた兵士たちが現れた。
狙いは弱点のゴンドゥだけではない。360度全方位から俺たちは包囲されていた。
「命が惜しければ星の船を我らに渡せ。あの船はタマハラ族や貴様ら余所者には過ぎたる物。高貴なるアヴァロニア王家にこそふさわしい」
「リタよ、アムよ! お前たちはコンラッド殿の奴隷に戻るのだ! 成長したお前たちを……再び我らが飼ってやろう……!」
先日の朝貢の際にも会ったやせ細った王の側近が気持ちの悪い声でそう言った。王も歪んだ嘲笑で奴隷のリタとアムを見下した。
「へぇ、なら俺は?」
「殺処分だ。混沌の竜を生み出した613号……なり損ねの竜使いは全て、殺処分だっっ!!」
己の所業を省みることのない愚かなる王。どこまでも傲慢で残酷な男の姿に心より安堵した。平和的な解決を願っていないのは俺と、残るは俺の隣で口元を悪意に歪ませているリタだけだ。俺たちには復讐の権利がある。
「ポタモ、やれ」
アヴァロニア王は逆王手をかけたつもりになっていたが、そもそも彼らの計画は初めから破綻していた。いや、初めから全て筒抜けだった。
この恭順に見せかけた騙し討ちの反撃計画は、少し前のこの謁見の間で行われ、アークトゥルス級に全て傍受されていた。
「何をするつもりだ、キッド殿? ポタモトリゴンは我らの指揮下のはず……」
「ククク……悪ぃな、マッコウ。ここからは俺のプランに塗り替えさせてもらうぜ」
「ど、どういうことですか、キッドさん!?」
返答を待たずしてストーンカッターが石を切るような不快な轟音が城内に轟いた。
「な、なんだっ、何をした613号っっ!?」
「バルコニーに人を送ったらわかるかもしれねぇぜ」
王に続いてマッコウがアークトゥルスからの通信を受けて驚いた。ポタモトリゴンとアークトゥルスが命令を無視して勝手に動き出していると、必死の報告が届いている頃だ。
「命が惜しくないのか、貴様っっ!!」
「はっ、命が惜しくて宇宙海賊ができるかよ。つーかテメェらが切ったこのカードは最初から何もかもバレてんだよ、バーカ!」
「どうやら死にたいようだな、613号!!」
「やってみろよっ、城ごとテメェらを消し飛ばしてやるよっっ!!」
敵のボウガンの矢面にリタとアムが立った。俺たちが握るディスラプターガンは引き金を引くだけで相手を消滅させることができる。密集状態の相手ならば一網打尽だ。
「た、大変です陛下っっ、空に黒く平たい物体が現れてっ、赤い光を放ちっ、こ、国庫が……っっ!!」
「な、何っ!?」
「恐ろしい光が城を切断しっ、我々の国庫を丸裸にしました……っっ!!」
国王及び閣僚は青ざめた。今頃は重戦闘機ポタモトリゴンが国庫に納められた金貨や財宝の山をトラクタービームで吸い上げている頃だ。
「国王陛下っっ、我らの金がっっ、国庫の金が根こそぎ平たく黒い物体に空へと吸い上げられていますっっ!!」
「な、なんだとぉぉぉーーっっ?!!」
やつらの急所は、金だ。その金を海賊の流儀に則ってポタモに強奪させた。




