・星への帰還、敵対的ファーストコンタクト
海洋惑星カリオペイアⅢまで後0時間。アークトゥルス級はついに星への帰還を果たし、王都ケイロンへの星界からの降下を始めた。
俺たちはブリッジに呼び出され、宇宙旅行の終わりを見届けることになった。
ピンポイントバリアーを使った大気圏降下に無事成功。早期に減速を果たし、まるで風船のようにゆっくりと王都上空に降り立った。
謁見の間に仕掛けた盗聴器はまだ見つかっていなかった。そいつをブリッジのスピーカーに繋いでやった。
「お、おのれタマハラ族めっ、奴隷の分際でまたもやこのような騒ぎを起こしおって!!」
「どんな手を使ってでも奪わなければなりませんな、あの船を」
「あのタマハラ族の奴隷アムとリタを拉致するというのはどうでしょう? あの女どもはコンラッド殿の所有物、正当性はこちらにあります。一度浚ってしまえば――」
「し、しかしやつらが強大な力を持っているのは事実なのですよ!? 怒りを買えばどんな報復が返ってくるかもわかりません!」
まあわかってはいたが混乱していた。わかっていたがリタとアムを浚うつもりのようだった。
きっと不安だろう。俺は男として二人を抱き締めてやった。まあ端から見れば子供がお姉ちゃんに甘えているようにしか見えなかっただろう。
「よしよし……」
「大丈夫、私たちはいなくなりませんよ」
「うん、迷惑かけるくらいなら、自害する……」
「ええ、同胞の足かせになるくらいなら私たちはそうします」
「バカ言ってんじゃねぇよ!! そん時どんな損害が出ようとも取り返す!!」
盗聴器から流れてくる王たちの言葉はますますマッコウに正当性を与えるようなものだった。
「奇襲でタマハラ族の里を陥落させてしまえばよかろう。民の半数を人質にされてはやつらも折れる他になかろう」
「このような挑発行為に出たやつらが悪いのだ!」
あまりの野蛮さに理想主義者のバンドゥまで不快感をあらわにした。
「星の船アークトゥルス……他国に先を越される前にどんな手を使ってでも手に入れるのだ。あの船さえ手に入れれば我らは世界の支配者となれる。世界地図がアヴァロニアの色に塗りつぶされるのだ……」
「おお……夢のような話にございますな、陛下……!」
聞かれているとも知らずに、アヴァロニア王のむき出しの野心がブリッジ中に響き渡った。
「面目ねぇ……国王陛下がここまで堕ちているとは……。読み違えてたぜ、正直よ……」
「許せません……一度襲われたというのに、またあのような悲劇が繰り返されるなど……。キッド様ッ、今回ばかりは私はマッコウ殿のやり方が正しいような気がしてきました……!」
あの日背中を斬られたジェイも、本来絶対の忠誠を尽くすはずの騎士ガーウェルもマッコウ側に立つと言わんばかりにブリッジでの居所を変えた。
「私は聡明なバンドゥ様を信じます」
「リリアもバンドゥくんのやり方の方が好き、怖いのはもう嫌」
シィールとリリアはバンドゥの背中側に移動した。
「理解してくれなどと言わない。だがあらゆる情報が、まともな共存は不可能であると示している。……遺伝子データ上もだ」
太陽の民の培養漕担当者は少し前に断定を避けながらもこう言った。アヴァロニア人の遺伝子には顕著な改変が見られる。彼らは他種族よりも強い競争心を持って生まれる傾向が高い。
逆にタマハラ族は生存競争に影響が出るほどに競争心が低くなるように設計されている可能性がある、と担当者は言った。
「警告を行う、マイクと船外スピーカーを繋げ」
「待って! 考え直してよマッコウ!!」
「公爵様、やつらは人の皮をかぶった悪魔どもです。共存などやはりあり得ません」
スピーカーが接続されると、海賊ギドと同じ顔をした男は眼下の城を見据えながら口を開いた。
「下等なる惑星カリオペイアの人類とその王朝に連なる者よ、タマハラ族が至宝アークトゥルスは今、我らの手中にある。いや奪い取ったと言った方がわかりやすいか」
マッコウの言葉は拡大されてちっぽけな防壁に囲まれた都中に響き渡った。不安そうに天を見上げていた民が動揺する姿がサブディスプレイの一つに映った。
「我らはこれからその城を跡形もなく吹き飛ばす。30分の猶予を与えよう、早急にその城から退去しろ。我ら太陽の民の力の恐ろしさをその目に焼き付けよ」
交渉も何もない一方的な宣告に王都の民は恐怖した。バリアーを展開したアークトゥルス級がただ体当たりを仕掛けるだけでちっぽけな城を破壊することができた。
「取引しようなどと考えるな、我らはやると決めたらやる。城ごと天に召されたくなければ退去せよ、野蛮なる下等種族どもよ」
マッコウの計画は恐怖によるファーストコンタクトだ。力の差を見せつけて萎縮させるのが目的だ。
「惨めな敗北か、寛大なる慈悲か。好きな結末を選ぶがよい」
ヤツはそのために傲慢な暴君となる道を選んだ。相手が降伏しなければ本気で城を吹っ飛ばす気だ。
都の民は天空の神アークトゥルスに恐怖しながらも、中には新たなる支配者の到来に狂乱の笑みを浮かべる者まで混じっていた。
「戦闘機ポタモトリゴンの発信準備に入れ。いつでも陽子投射砲を発射できるようにしておけ」
マッコウはバリアーを使った体当たりではなくポタモを使って城を吹っ飛ばすつもりのようだ。
俺以外のパイロットが愛機ポタモトリゴンを乗り回す。気に入らないプランだ。だが力の差を突き付けるならばこの上ない。
ただの613号として言わせてもらえば、俺たち竜使いを家畜のように扱ったアヴァロニア政府があるあの城が崩れ落ちるさまを、一度見てみたくもあった。




