・星と太陽のファーストコンタクト - 海賊流のファーストコンタクト -
それから19時間後、アークトゥルス級は500年近く使われてこなかったドッキング設備への奇跡的なドッキングを果たした。双方の間でエアーが共有され、接続通路をたどって太陽の民が船内になだれ込んできた。
こうなる可能性は想定していた。だが俺たちはゴンドゥを信じることにして太陽の民を船内に受け入れた。結果――
「この恩知らずどもが……」
「恩義は感じている」
「だったらそいつらを下げろよ。テメェをコイツで蒸発させておしまいにしてやるぜ」
基地は労働者不足を人型ドロイドでまかなっていた。そのドロイドたちが銃を握ってブリッジの俺たちに向けている。ブリッジは裏切り者のマッコウたちに事実上占拠されてしまっていた。
ディスラプターガンを撃てば一矢報いれるが仲間に被害が出る。引き金は引けない。
「キッドに手を出したら、呪うから……」
「どうしてこんなことをするのですか? ゴンドゥさんはどうしたのですか?」
アムとリタが正面に立ってかばってくれた。女にかばわれる少年に銃を向けるのはマッコウの誇りが傷つくようだった。
「すぐに会わせよう」
「地獄でか?」
「失礼な。我らのゴンドゥ様への忠誠はこの暗黒の宇宙におけるたった一つの真実だ」
「だったらどうしてこんなことをするのですか!?」
アムの強い問いにマッコウは表情を引き締めた。問いが決意を確かなものにしてしまったようだった。
「我らはカリオペイアⅢを500年の間観測してきた。君たちの星の歴史は裏切りの歴史だ。未発達な社会制度の下におぞましい搾取と弾圧が繰り返されてきた」
身に覚えのある話だった。奴隷にされたアムとリタ。襲撃から逃げるしかなかったジェイ。数々の矛盾を見てきた騎士ガーウェルと従者たち。廃棄処分寸前だった俺とポタモ。誰もが嫌というほどに知っていた。
「特に植民予定先のアヴァロニアの王国政府は、他者に不寛容な蛮族以下のバケモノどもだ。やつらは人権の概念すら持っていない」
「否定してぇところだが、ただの耳の痛ぇ話にしかならねぇな……」
おっさんが従者たちと共に剣を敵に向けながらそうぼやいた。従者たちも嫌というほどに矛盾を見てきたようだった。
「よって我らは平和的なファーストコンタクトを断念した。君たちに金貨9万枚のゆすりをしてくるような政府との共存は不可能であると」
マッコウは冷静だった。冷静にそう考えて上で導き出されたのがアークトゥルス級の掌握だった。手ぬるい俺たちのやり方では仲間を守れないと判断したようだ。
「お前たちの代わりに我らが汚れ役を担おう。腐り果てたアヴァロニア王国に対して、我らは武力をもって主導権を握ろう。大恩あるお前たちのために」
「ゴンドゥのメンツを潰してでもか?」
「恨まれようとも承知の上だ。やつらの城を吹き飛ばし、絶対的な恐怖と解放をもってファーストコンタクトを完了させる。全てはタマハラ族と我らの未来のためと思ってくれ」
決意は揺るがないようだ。説得も無理だろう、こいつは相当の頑固者だ。
悲観的にならず人を信じろなんて言えなかった。実際このままではアヴァロニア王家に金貨9万枚を請求されただろうし、やつらがアムとリタの立場を利用してさらに揺すってくるのが見えていた。
「壊されちゃたまんねぇ、アークトゥルス級の運航方法を教えてやるよ」
「なんだと……?」
「いいから早く基地の連中をこっちに乗せてやれよ。俺たちはお前たちを助けるために星から上がってきたんだぜ、初志を果たねぇとスッキリしねぇ」
マッコウは銃を下げた。失った俺の顔を持っているというのに、瞳を閉ざして涙をこぼした。
「貴方はまさに天使……天使そのものだ……」
宇宙で一番嬉しくないセリフだった。もう一人の俺のくせにジェイみたいなことを言うのは勘弁してもらいたい。
「目的を果たした後に必ず貴方方の身柄を解放し、船を返そう。約束する」
自動航行とトラクタービーム、コンパスとセンサーの使い方をマッコウとその仲間たちに指導した。
「失われた技術をこうも易々と……。天使よ、貴方はいったい何者なのだ?」
「そりゃそっくりそのままの言葉を返すぜ。アンタこそ何者だよ、マッコウ」
「私はブルーホライズン恒星系基地の防衛を任された者だ。私はあらゆる外敵から基地の仲間を守る義務がある」
「結果、仲間を守りたい一心でのクーデターか。ま、嫌いじゃないぜ、そういうのもよ」
一通りの引継が終わるとブリッジから退室することになった。マッコウは引き止めてくれたが『女どもと寝床にしけこむ』と伝えて軟禁先の自室へと帰った。
俺たちの部屋には先客がいた。待望の出会いをくじかれたゴンドゥ・カークがテーブルに倒れ込んで打ちひしがれていた。
「ごめんなさい……」
「よう、辛気くさい初めましてになったな。とにかく顔上げろよ」
「マッコウたち一派を止められなかった……。信じて星から上がってきてくれた君たちを裏切るなんて、合わせる顔がないよ……」
アムとリタと顔を合わせてホッとした。俺たちが信じた男は俺たちを裏切ってなどいなかった。
「さっき、キッドがね……」
不器用な俺の代わりにリタとアムが慰めてくれた。さっきの話を引き合いに出して、救うという目的を果たしたので別にいいと代弁した。
「あのマッコウが涙を……? 信じられない……」
「だから、気にしなくていい……」
「さ、キッドも慰めてあげて」
「お、おう……」
ゴンドゥの手を握らされた。熱い涙を流してゴンドゥがごめんなさいと何度もわびた。
「気にすんな、やつのプランもそう悪かねぇだろ」
「そんなわけないですよっ!!? 最悪の出会いになってしまうではないですかっ!!」
「ま、そうなんだけどよ」
アイツは俺だ。俺ならまあ確かにああするかもしれない。
この件に関しては理想家のゴンドゥの理解は得られないだろう。そこで俺は部屋のコンソールに近付いた。
起動するとピンク色のクジラが俺たちを待っていた。
「トゥルチャン!」
コバンザメみたいに人の背中の中に隠れていたポタモが画面の前に飛び出してきた。クジラとエイを好きにイチャ付かせならがら接続をブリッジに繋いだ。
画面にマッコウたちが映った。彼らは仲間と物資を少しでも早く船に乗せようと必死で指示を飛ばしていた。
「えっえっ!?」
「ふふふ……ポタモちゃんのわがままを叶えてあげてよかったですね」
「気付いてないね……。鼻、ほじるかも……」
「マッコウはそんなことしません!」
後はベッドに寝そべって高見の見物と決め込んだ。シャレにならない外交問題になりそうだが、初めから信頼も何もないクソッタレな世界だ。これはこれでいいのではないかと思いながらも逆転の機会を待つことにした。
「おい、人前でくっつくなみっともねぇだろ……っ」
「えへへ……人の目、あると新鮮……」
「リタが離れないなら私も離れませんよ」
ゴンドゥは培養槽を介さない生殖を不衛生と言うようなやつだ。ビックリと目を大きく広げて、頬を赤く染めてリタとアムのすることに目を奪われていた。
「こ、これが、自然生殖ですか……!?」
「んなわけねーだろ……」
「あのね、こうするとね、子供ができる……」
リタが少年の唇を奪うと、ゴンドゥが女みたいな高い声で悲鳴を上げていた。




