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・盗掘:反物質セル - メイン盾(おっさん) -

 昼過ぎになるとアークトゥルス級が王都に到着した。約束の純白の大理石塊を城の空中庭園に降ろし、石と入れ替わる形で近衛兵に囲まれたアヴァロニア王を船内に迎えた。


「素晴らしい……。武力で乗っ取ってでもこの船が欲しくなったぞ」


 乗っ取りは不可能だ。権限を持たない者はブリッジに到達することはできない。

 アークトゥルス級はアヴァロニアの竜使いと飛竜に囲まれながら、交易品の荷降ろしと王の接待を両立させた。


「コンスウェル卿の奴隷アムとリタ。あの二人の所有権はいまだコンスウェル卿にある。……何か困ったら我を頼ってくれてよいぞ」


「ありがとうございます。……ですがアムとリタは盗賊オルブリス・ヴァンダルに略奪された盗品です。こちらにはオルブリスの兄君ヴァンダル子爵に損害賠償を請求する権利があることをお忘れなく」


 王は貸し切りの公共浴場をいたく気に入った。接待役の俺が王の背中を布で擦ると彼はますます上機嫌になった。


「ククク……タマハラ族の天使キッドよ、お前には見込みがあるようだ。竜使いごときに娘をくれてやるわけにはいかぬが、手柄次第で貴族に取り立ててやってもよいぞ」


「いえ……」


「爵位は要らぬか? ならば開拓権をくれてやろう。しかし、それにしても素晴らしい……。ここは素晴らしき巨城だ……」


 こうやって頭角を見せてきた者を取り込んできたのだろう。王は野心を隠そうともせずにさらにこう言った。


「大陸の覇者……いや、海を越えた全世界を支配することもたやすい。この船さえあれば……」


「星一つ支配したところで何が得られましょう、かえって面倒ごとが増えるだけですよ」


「アヴァロニア人の天使よ、もっと欲を持て。『これで十分』だなんて言葉は弱者にだけ言わせておけばいいのだ」


「はい、無理に欲を捨てるのは自分も不健康なことだと思います」


 アヴァロニア王は教養こそあるが好きになれない男だった。


「うむ、ただ怠惰なだけよ。変わらぬ生活を繰り返すのは楽であるからな」


 言い分はわかる。しかしこの王から出てくる理屈は全ての強者の理屈だった。弱い者、愚かな者を心よりこの男は見下していた。


 公共浴場での接待が終わると次は自動農園、船室、ブリッジとその簡単な機能を紹介した。王は弱者には目もくれぬサイコパスではあるが、教養と知的好奇心だけは本物だった。


「はぁ……どっと疲れたぜ……」


 接待が終わる頃には日が暮れていた。断ったはずの晩餐会への招待を重ねて断って、王をバルコニーへと降ろすとアークトゥルス級はようやく発進の準備に入った。


 王はいつまでも見上げていた。巨大ゆえに加速の極端に遅い中型輸送船アークトゥルスの出航を、つまらない野心を胸に抱いて見守っていた。


「ごめんなさい、私たちのせいで王に弱みを握られてしまうなんて……」


「でも、嬉しかった……。損害賠償の請求……その発想は、ボクたちになかった……」


「は……? おい、お前ら、まさか……」


 この前開けたセキュリティーホールから、男湯をのぞいていたな?


「もしこれ以上脅してくるようなら私たちを切り捨てて下さい」


「喜んで元の主人のところに戻る……」


「バカ抜かせ、そんときは戦争だっ!! お前らを不幸にするやつは王だろうとぶっ殺す!!」


 まだ西の空には夕日の赤色が残っている。アークトゥルス級は時速12キロメートルの鈍足航行で発掘ポイントへと進んでいった。



 ・



 きっかり1時間の航行で目的の山間の山林に到着した。ただちに真下のスキャンを行い、地に埋もれた構造物を発見した。

 データはアムの手で恒星系基地のゴンドゥに送られ、それを見たゴンドゥが通信越しに大声を上げた。


「あ、ああっ、反物質セルがこんなにっ!! よかった……ああ、よかった……っ、これでようやく生き残れる希望が……!!」


 内部に大量の反物質セルや実体弾が貯蔵されていることが確認された。どうやらここは武器庫か何かのようだった。


「喜んでるところ悪いがこりゃ少し問題ありかもしれねぇぜ」


「え……?」


「よく見ろ、なんの奇跡か知らねぇが施設の動力がまだ生きてる。そんでここはどうも武器庫だ」


 つまりは発掘ではなく潜入となる。防衛システムは不法侵入者の話など聞く耳持たない。面倒なことになった。


「ま、行かねぇなんて選択肢はねぇけどな。けど……」


 ブリッジに同席していたガーウェルのおっさんに振り返って腕を組んだ。


「お? もしかしておっさんの出番かね?」


「これ以上このおっさんに借り作るのは気が進まねぇんだけどな……」


「いいから話してみたまえ。ここにあるやつが手に入ったら星の世界に行けるんだろう? 星を捕まえて里の酒場女にプレゼントってのも悪かないねぇ!」


 おっさんの言葉にゴンドゥがおかしそうに笑った。恒星を捕まえて持って帰るだなんて気の利いたジョークだった。


「なんだよっ、坊主まで何笑ってんだよっ!?」


「いや……おっさんにますます宇宙を見せてやりたくなっただけだぜ」


 それから状況と問題を説明した。恐らくは施設内部にオートタレットが配備されている。それは自動で動く弓使いのようなものだ。だから中に入るには鉄の鎧をまとい大きな盾を持つおっさんの力が必要だ、と。


「へへ、高く付くぜ?」


「頼む」


「ありがとうございます、騎士ガーウェル! 必ず貴方への恩義に報います! どうかお願いします!!」


「気分いいねぇ……。うし、装備取ってくるわ」


 おっさんが準備をしているうちに山地に埋もれた正面ゲートの発掘を行った。時刻が夜間、場所が山林に変わっただけで、基本的な作業はそう変わらなかった。


 ただ樹木が厄介だった。地中に深く根を張っていて一本どかすだけでも大仕事だ。トラクタービームで引っこ抜こうとすれば、土中の石が散弾となって船体に直撃してしまう。

 ピンポイントバリアーを張ったところでバリアーは実体弾兵器に弱い。あまり無茶な運用は――まあできるんだがしたくなかった。


「なんだ、坊主もついてくんのか?」


「当たり前だろ、ここは武器庫だぜ」


 今回はおっさんと俺のペアでの探索だ。ジェイもおっさんの従者たちも軽装なので連れて行くことはできない。いたずらに的が増えるだけだ。当然リタとアムもだ。


「気を付けて……」


「必ずキッドを守って下さいね、ガーウェルさん!!」


 祝福のキスと抱擁を左右にもらって古代の武器庫に潜入した。ちなみに正面ゲートはポタモのレーザータレットでぶち抜いて開けた。

 被弾面積の少ない小僧がたいまつを高くかかげて、おっさんが盾を構えて剣を握りながらの前進だ。宇宙時代を生きた俺からすればジョークみたいな突破作戦だった。


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