・ブラフ:金貨3万枚の朝貢
アークトゥルス級は朝一番で母港・光臨の丘を離れた。同時に重戦闘機ポタモトリゴンも先行する形で母艦を離れた。
アークトゥルス級の運行はジェイとアムに任せて、俺たちは使者として先に王都入りする必要があった。
「これがお前らの奥の手か。裏切るなら今が最良のタイミングかね?」
「俺たちをぶっ殺したところでその後誰が操縦すんだよ」
「出ることもできずに干からびるのが落ちか……。わかった、素直にそちらのプランに従うか」
「差し違えてでも殺すから……」
「冗談だよ、こえー顔してくれんな、お嬢ちゃん」
物騒な話をしているのにクイナ婆さんはおとなしいものだった。今は主操縦席で俺に敷物にされている。
クイナ婆さんこそがタマハラ族の代表にして、あの開拓地の形式上の領主だった。
「こんなお婆さんのお膝でごめんなさいね」
「いや坊主は喜んでるね。お婆ちゃんに甘えてぇ年頃だ」
「船からほおり出すぞ、不良騎士」
「婆さんの膝に飽きたらおっさんの膝にきな、かわいがってやるぜ」
いっそ本当に膝に乗って傍若無人の限りを働いてやろうか。とにかく船は快速で王都へと天を駆けた。
昔、まだ海賊ギドがガキだった頃、こんなノリの海賊たちにかわいがってもらったものだった。
愛するとまでは言わないが、あいつらの系譜にあたるゴンドゥたちは絶対に助けなくてはならない。
船倉には木箱に丁重に詰められた金貨の山と、最も上等な純白の大理石が積載されている。金貨3万枚ともなるとさすがに重く、ポタモの船速も時速60キロを下回った。
「しかし気分いいねぇ。『私の説得で金貨3万枚の朝貢をさせることに成功しました!』か。ハハハハッ、いやぁ楽しみだ!」
「それで反物質セルが手に入るなら安いもんだ。……タマハラ族の善意を裏切んなよ?」
「んん? おっさんってそんなに信用ないかね?」
「ない、うさんくさい」
リタが即答で否定するとおっさんは渋い顔をした。
「ま、散々禁止エリアに入り込んできたやつを信用しろと言われてもな」
「しょうがねぇだろ、どんな手を使ってでも船を奪えって言われてたんだからよ。そいつを散々阻止されて、おっさんの立場も限界だったのよ。いやいや、ありがたいねぇ……っ」
これから金貨3万枚を失うってのにクイナ婆さんはニコニコと微笑んでばかりだ。俺の視線に気付くとやっと婆さんが口を開いた。
「ふふ……この軽さがリタとアムを狂わせるのかもしれませんね」
「うん、キッドは小さくて軽いところがいい……」
「おいおい、女ども、そりゃ男に聞かせる言葉じゃねぇぜ。お世辞でも『お、でかくなったな?』と言ってやれ」
調子がよくてイマイチ信用し切れないおっさんを連れて、三時間半ばかりの航海で王都入りした。王の城の真上から先におっさんをトラクタービームで降ろして、話を付けてもらった。
おっさんは俺たちを裏切らなかった。忍ばせた盗聴器がその事実を証明し、その1時間後には王への謁見が許された。
「素晴らしい……よくぞ話を取り付けてくれたな、ガーウェル卿」
金貨の山と共にバルコニーに降下すると、細くやや小柄で尊大そうな男が木箱入りの金貨に駆け込んで中を確認した。
金。それはどんなに時が流れようとも宇宙共通の潤滑剤だった。
「おお、クイナ殿、よくぞ開拓の重責を果たされた。そしてそちらは――」
「キッドだ。アヴァロニアの逃げた竜使い、613号のキッドだ」
「聞いているよ、天使キッド殿。それに、リタくん……久しぶりだね……」
リタはこの地で暮らす大物貴族コンスウェルの元奴隷にしてお気に入りだった。どこかで面識があってもおかしくない。
「うん、会いたくなかった」
「ククク……さあ国王陛下がお待ちだ!! 者共、金を運べ!! 賓客の金をくすねたら首が飛ぶと思え!!」
兵士たちが木箱入りの金貨を運び、その後を追う形で謁見の間へと通された。国王もまたえらく上機嫌だった。何せ、星の船強奪に失敗したとはいえ金貨3万枚の朝貢だ。取り巻きの僧侶たちまで笑顔だった。
王への挨拶はクイナ婆さんが上手くやってくれた。そこから引き立てる形でタマハラ族の救世主キッドが紹介された。
「うむ、この金は王宮の修繕費用として有効活用させてもらおう」
要するに王家の懐に入れるってことだ。俺たちが提供する大理石を使って自分の像を建てさせると王は言った。
遅れてやってくるアークトゥルス級を使っての貿易に王は同意してくれた。
「感謝します。タマハラ族の管理はどうか同じアヴァロニア人のこのキッドにお任せ下さい」
「うむ、次の朝貢を期待しているぞ。次はこの3倍を期待する」
「ご冗談を」
「お前たちならばそう難しくはあるまい。金貨9万枚……期待しているぞ」
なぜこのような醜い種族が地上にあふれ、タマハラ族のように善良な種族が虐げられるのか。膝を突き、頭を下げながら憤慨した。
善良さは生存競争に寄与しない。むしろ邪悪なサイコパスほど競争では有利になる。これがホモサピエンスの限界なのか。
ともあれ謁見の間で裏切られることもなく、俺たちはバルコニーからポタモトリゴンの船内へと帰ることが叶った。
「金貨9万枚だってよ、どうすんだ坊主?」
「くれてやるかよっ、こんなもん今回限りだ!!」
「そう上手くいくかね?」
「クソ……ッ」
今回の朝貢で相手は味をしめた。何かしらの形で支払わざるを得ない状況を作り出してくるのが見えた。
「おっさん、なんであんなのと、つるんでるの……?」
「なんでだろうな……。ま、しがみってやつだ、今さら逃げられねぇのよ……」
「逃げられるよ……。ボクとアムがその証拠……ボクたちは、逃げた奴隷……」
リタは自由の証に少年に抱き付いてそう主張した。
「できねぇよ、家族親族従者たち、全てに迷惑がかかんだよ……。自由なんて俺らにはねぇ……」
簡単な話ではない。俺からは口をはさまないでおいた。
不快な思いはしたがこれでアークトゥルス級を王都に近付けることができる。日が完全に沈むまで王都に停泊して、盗掘の決行は日没の後だ。
ここまでしてもなお、発掘ポイントが都に近すぎるところが気がかりだった。
「大丈夫ですよ、キッドさん。貴方とわたくしたちには、太陽の民という仲間がいるではないですか」
気をもんでいるとクイナ婆さんに励まされた。
「おう、そうだったな。……あいつらも無条件で信用できるとは限らねぇけどよ」
「ふふ……疑っていては助けられるものも助けられませんよ」
人を信じるというのは難しいことだ。裏切られないように目を見張らせ、その上で信じなければならない。それでも時に騙されることになるのだからままならないものだった。




