・盗掘のすすめ
ゴンドゥのデータ解析はさらに難航した。電力不足により食料生産プラントを一つ封鎖したと疲れた声で報告してきた。
「喜ぶべきは俺たちが餓死する可能性が極めて低いことだよ……。可能性で言えば窒息死が6割、空調不良による熱死と凍死が4割。まあ大したトラブルじゃないよ……」
そういうわけで休暇が一日伸びた。ゴンドゥのデータ解析が終わったのはその翌日の深夜となった。
寝ていたところをシィールに呼び出されて、寝間着姿でリタとアムと一緒にブリッジを訪れた。
「朗報だ、反物質セルが見つかったよ、キッド!!」
「そうか、なら明日出航だな。場所は?」
「シィールに聞いてくれ。少しまずい場所らしいから」
「幻想世界の砂漠よりもか?」
シィールが立ち上がっていた艦長席に腰かけて、場所を隣の彼に聞いた。
「王都郊外です……」
「どこのだよ?」
「アヴァロニア王国です……」
「ふーん……」
シィールがやってくれたのか、既に座標データがマップに打ち込まれていた。アヴァロニア王都ケイロスの北西にある山林の中だった。
「おっさん、呼ぶ……?」
「いや止めとこう、あの人にも立場がある。しかしこりゃ、確かにめんどくせぇ……」
地上軍には詳しくないが騎馬ならば2時間前後で都からたどり着ける場所だ。アークトゥルス級で近付くべきではないだろう。
ポタモで密かに近付いて最低限の人員での発掘が理想だが、恒星系基地の状態からしてちんたらやっている時間はない。
「おい、ゴンドゥ、そっちは後どれくらいもつんだ?」
「明日死んでいるかもわからない状態だよ。今日も今日とててんてこ舞い、働かずにゲートウェイの再稼働に祈りを捧げる者までいるよ。そんなこと、絶対にあり得ないのにね……」
壊れた機械は祈っても直らんねぇよ。とはさすがに言えなかった。宇宙では恒星系基地の崩壊が始まっていた。
「やっぱりおっさんを呼んでくれ。アヴァロニア王家は信用ならねぇが、話付けるしかねぇ……」
「コッソリ、行ってくる……」
「でしたら彼に花を持たせるというのはどうですか? 騎士ガーウェルの説得に応じて、お金を王家に納めることにしたことにすれば、向こうも応じやすいのでは?」
結局世の中、金か。確かに金を支払うのが最も速くシンプルな解決方法だろう。どちらにしろやつらはこちらに重税を課すつもりだと、騎士のおっさんも言っていた。
「お前らのために必死で稼いだ金を、やつらにくれてやるっていうのか? 言っとくが半端な額じゃ向こうは納得しねぇぜ……」
「また稼げばいいことです。光臨の丘の開拓計画は後退してしまいますが、キッドが守りたい人を守れるなら私たちに不満はありません」
その言葉にシィールまで同意した。
「あ、あのっ、自分も同じ意見です! 正しいことをするべきです!」
タマハラ族の言葉に星の世界で暮らすゴンドゥが声にならない声を上げた。タマハラ族の心からの善意に言葉を失ってしまったようだった。
ブリッジの自動ドアが開き、予想より早く騎士のおっさんが現れた。風呂に入っていたみたいで髪もまともに拭いていない格好だった。
「セクシーだろ?」
「リタ、次はもうちょい丁重に連れてこいよ……」
「男湯に乗り込むの、楽しかった……」
「さすがはリタだ。……それでおっさん、大事な話がある」
艦長席を立つとタマハラ族の仲間が隣に並んでくれた。
「アヴァロニア王国に献金を……行いたい……」
自分で口にしておいて乗り気のしない話だった。
「おいおい、それはどういう風の吹き回しかね?」
「アンタに説得されて金を出すことにした形にしたい。全部説明するから協力してくれ……」
「手柄をくれるのかね? それは詳しく聞きたいねぇ」
中央のホロフラフ投射装置にマップを表示させた。アヴァロニア北西の山間にマークを付けたものだ。おっさんはすぐに察した。
「そこを発掘するなら話通すのが正解だぜ。そのポイントから5キロほど先に小さな砦がある」
黙ってりゃハメられたのに親切に教えてくれた。
「アークトゥルス級でここを発掘したい。表向きは献金と交易として王都で取引をして、夜間のうちに迅速に盗掘を済ませる。俺たちがずっと探していた物がそこにあると知られたら――」
「王家のことならおっさんが一番知ってるぜ。やつらは生まれながらのサイコパスどもだ、服従を強いてくるだろうよ。たとえば、そこのアムとリタを人質として差し出せとかな」
タマハラ族は無償の善意どころか金まで出すと言ってくれるのに、王家はそこまでの要求をしてくると騎士ガーウェルは言う。
タマハラ族以外の欠陥種族なんて、いっそ全て滅ぼしてしまえばいいと本気で思いかけた。
だが俺もおっさんもアヴァロニア人だ。おっさんに忠誠を誓う従者たちも悪いやつらではなかった。ここは腹をくくろう。
「頼む、後でどんな謝礼もする。今だけは協力してくれ、騎士ガーウェル……!」
プライドを捨てておっさんに頭を下げると他のみんなも同じようにしてくれた。
「へっへっへっ、気分いいねぇ。生意気なクソ坊主にそこまで言われちゃ、おっさんも取引しないわけにはいかないねぇ」
「あの……俺からもお願いします! 急がなければ俺たちはこのまま全滅してしまいます! せめて何も知らない子供たちだけでもカリオペイアの大地を踏ませてやりたいんです!」
おっさんにはゴンドゥのことを話していなかったが、おっさんはこの船に入り込んだ公式の間者だ。星の世界に人が住める基地があって、そこの連中を必死こいて救おうとしているこちらの事情を知っていた。
「お前らを見てると生きてるのが恥ずかしくなるぜ……」
おっさんはしばらく前から言葉づかいを崩すようになっていた。特にこういった喋り方をするときは本音を漏らす時だった。
「わかったよ、アヴァロニア人にも善意があったと証明するためにも計画に一枚噛ませてくれ。そいつらが今のクソッタレなこの世界に風穴に空けるきっかけになるかもしれねぇしな……」
盗掘計画が組まれ、王家を札束で殴れるだけの金貨を工面した。まとまった数の反物質セルさえ手に入れば宇宙に行ける。武装の調達はもう諦めるしかない。ポタモトリゴンという最強のナイトを頼ることにしよう。
「面白い話だったが湯冷めしちまった。坊主、一緒にもう一風呂どうだね?」
「付き合うぜ。……今日3度目になるけどよ」
おっさんも宇宙に連れて行く。風呂場で筋肉隆々のおっさんに貧相な体格の少年はそう約束した。
宇宙。海賊ギドが生きたエーテルの海。過酷で冷たく美しい世界が俺たちを待っていた。




