・装着:ピンポイントバリアー
アークトゥルス級は中型用ピンポイントバリアーを3機搭載できる。となると残り2機が存在していたはずなのだが、あのタマハラ族の祖先は行方を教えちゃくれなかった。
とはいえ戦争をするわけではない。1機手に入っただけでも幸運だ。欲を言えばフル装備に戻してやりたいがそれは叶わぬ夢だろう。何らかの形で既に失われていると考えるべきだった。
今回の発掘では予定外の収穫もあった。目玉はこの星で開発されたと思われる小型の電動フォークリフトだ。これを使ってピンポイントバリアー発生装置を回収しろと言わんばかりに同室に用意されていた。
後は冷凍保存された種子だとか、暗号化されたデータだとか、電動ひげ剃り器や腹筋ベルトみたいなどうでもいいガラクタも手に入った。
暗号データの解析はゴンドゥに任せた。俺の方はピンポイントバリアー発生装置を船に搭載するために夜遅くまでジェイや若い連中をこき使った。
ガキの頃に整備士の手伝いをしていた頃の経験がこんな形で活きるとは思わなかった。口汚い技師たちに教わった通りにアークトゥルス級に装置を装着した。
仕事が片付くと若いタマハラ族の青年がこの装置の仕組みを聞いてきた。彼は工具や農具の自作を得意とする賢く器用なやつだった。
「あの、キッド様……? これはどういう仕組みの物なのですか……?」
「知らん」
「え……? いえ、知らないなんてことは――」
「アークトゥルス級が宇宙を飛び回っていた時代の人間に聞いたって、みんながみんな同じことを言うぜ。内部構造を知らなくても動くもんは動くんだよ」
「そんな乱暴な……っ」
壊れたら奪ったパーツと交換する。それが海賊の流儀だ。乱暴は褒め言葉だ。
「お前らみたいな技術者ががんばってくれるから、俺らが頭空っぽにして道具を使えんだ。どうしても気になるなら俺じゃなくてゴンドゥ・カークに聞けよ」
「た、太陽人の方と!? そんな恐れ多い!!」
「ふーん……お前、名前は?」
「シィールです。血縁上はリタやアムの従兄弟の叔父にあたります」
タマハラ族は個体数が少ない。皆が皆親戚みたいなものだと聞いた。
「明日の晩にでもブリッジにこいよ、俺の代わりにゴンドゥの相手しろ」
「えっ!?」
「アイツ男のくせにクソお喋りでよ、いいやつなんだがちょっと疲れんだよ」
約束を取り付けてその日はぶっ倒れるように船の床で寝た。翌朝目覚めるとなぜか自分のベッドにいたので、親切な誰かが運んでくれたんだと思う。
その日は光臨の丘に降りて休暇を過ごし、ゴンドゥの分析が終わるまでアークトゥルス級も地上に降下させて動力炉を休ませた。
「分析の方はもう一日待ってほしい。実は空調に不具合が起きて、今日は仲間とシステムを復旧させるので手一杯だったんだ」
「おい、大丈夫かよ……?」
「大丈夫、死人は出ていない。居住ブロックを一つ封鎖させることになったけどね……」
「そりゃ、急がねぇとな……。俺が用心深いばかりに――」
「それは言わない約束だろう? 俺たちからすれば君とアークトゥルス級がそこに存在していること自体が奇跡だよ。ん……んん……なんか今日は息苦しい気がするな……」
恒星基地の外は真空の世界だ。日向は灼熱、日陰は絶対零度、さらには放射線が飛び回る死の世界だ。死と隣り合わせの環境で彼らは今も生きている。
「おいおい、通信中に死んでくれるなよ……?」
「君に看取られて死ぬのも悪くない」
「バカ抜かせ。それより紹介したいやつがいるんだ、こいつの疑問に答えてやってくれよ」
「は、初めまして、太陽の人!」
シィールを紹介すると狙い通りこっちは少し楽ができるようになった。やがてリタとアムが迎えにきて『もう寝なさい』とか母親みたいなことを言ってきた。
ブリッジにシィールを残して部屋に戻り、リタとアムにシルクの寝間着に着替えさせられた。この格好は裕福になった証だ。リタとアムも同じ物をまとい、少年をベッドに引っ張り込んだ。
「俺に付き合わずに地上で寝てもいいんだぜ?」
「そうもいかない……」
「寂しがりなキッドを独りで眠らせるわけにはいきませんから」
「そういや昨日――」
「ああ、そのことですか? 騎士のガーウィルさんがキッドをおぶって連れてきてくれたんですよ」
全部言ってもいないのにアムはお見通しだった。
「『クソガキ落ちてた』って言ってた」
「へっ、実際クソガキだろ、あのおっさんからすればなおさらな」
てかそんな名前だったのか。明日の朝になったらもう忘れていそうだ。
「キッド、汗臭い……」
「明日朝一でお風呂に行きましょうか。首の後ろをちゃんと洗いなさいって言ったのに……」
「スンスン……」
「かぐなキメェよっっ!!」
「臭い」
「臭いならかぐなってのっ!!」
アークトゥルス級のシステムはピンポイントバリアー発生装置を正常に認識した。元々はこの船に搭載されていたものだ、ハードウェア上もソフトウェア上もなんの問題もなかった。
バリアーの展開を確認次第、ポタモにレーザータレットを撃ち込ませて動作確認をしたいところだったが少し問題がある。その話をリタとアムにした。
「そんなことさせたらポタモちゃんが可哀想です、ダメだと思います!」
「キッドは、ボクの顔を殴れって人に言われたら、できる?」
「けど検証が必要なんだよ、どれだけの防御力があるか確認しておかねぇといざという時困る」
同意は得られなかった。暑苦しいほどにくっついてくる大好きなお姉ちゃんたちに囲まれながら反論を諦めて寝た。




