・時を超えた遺産
それからというものアークトゥルスの手動運転が増えた。操縦はジェイに任せ、スキャンはリタに任せて、俺とポタモは小回りの悪いアークトゥルスがカバーできない脇をポタモトリゴンでスキャンした。
意外にポタモは乗り気だった。トゥルちゃんにお願いされたと言って張り切っていた。アークトゥルスの装備が充実すれば彼女がより強く鉄壁となるのだから、ポタモからしても悪い話ではなかった。
ゴンドゥが分析したポイントに船を運んではスキャンが空振りで終わって、それから近隣の町との交易に入った。
そんな生活を惑星カリオペイアⅢが13回転するほど繰り返すと、ようやく釣り竿に当たり返ってきた。
灯台下暗し。目当てのブツは幻想世界の砂漠の東部奥深くに眠っていた。
「間違いなくこの反応はピンポイントバリアー発生装置だよ! これが手に入ったら後は動力と武装だね!」
スキャンデータを共有するとゴンドゥが興奮した様子で保証してくれた。この位置ならば光臨の丘で暮らす仲間の助力も得られる。
一度引き返し、防衛線をしけるだけの戦力を整えた。
里の生活は目に見えて豊かになっていた。皆が綺麗な春着をまとい、十分な農具や道具を握って、庭付きの立派な家で暮らせるようになった。
酒場もある。子供が喜ぶ菓子屋やオモチャ屋もある。小麦の余剰ができたのでビールの仕込みも始まった。ヤギを使った牧畜もだ。
「天然醸造なんて不潔で非効率だよ」
その話をしてやったらゴンドゥはビールの製法を調べてこちらに送ってくれた。不潔と言いながらもいつか飲んでみたいと言っていた。
クイナ婆さんのところで一晩明かし、翌日から発掘を始めた。手順はアークトゥルス級の発掘と同じだ。白い砂を掘り、それを木箱や袋に積めてトラクタービームで運んだ。
副産物として天然ガラスが手に入った。そのまま売ってもいいが、ダゲのアズエルの民に頼めばガラスに精錬できるかもしれない。シリコンは宇宙開発でも欠かせない貴重な資源だった。
「キッドくんっ、大きな扉があったって! ねぇ、リリアもついてっちゃダメ……?」
「ダメに決まってんだろ、お子様は留守番だ」
「キッドくんの方がお子様なのに!」
「そういうのは思ってても言ってくれるなよ……」
代理オペレーターのリリアに呼び出されて着陸した。ポタモは母艦アークトゥルスに戻り、俺は護衛に前後左右を囲まれながら遺跡内部に入り込んだ。
「おっさんを連れてきてよかったのかね? 裏切るかもしれないじゃないかね?」
「人足りてねーし、そっちがここで裏切るメリットねーだろ」
具体的にはリタ、アム、ジェイ、騎士のおっさんを護衛にした。このおっさんは敵にするより抱き込んだ方がよさそうだった。
スキャンデータを元に通路を進み、迷うことなく目的の部屋を目指した。崩落で何度か遠回りすることになるくらいには老朽化していたが、スキャンではピンポイントバリアー発生装置は無事な状態だった。
目当てのフロアを訪れると、ど真ん中に目当てのブツが置かれていた。どうやらアークトゥルス級から取り外された物の一つだった。
室内に置かれていたコンソールを操作して何か情報は残っていないか確かめた。すると映像が自動再生されていた。
「ここの被害を君たちは見たか? これは我らの争いの爪痕だ」
忘れもしない、映像の中にいたのはあのタマハラ族と同じ遺伝的特徴を持つ男だった。
「ボクらの、ご先祖様……?」
「んなところだろうな」
その男はもう生きてはいない。俺たちのやり取りを無視して自分の言葉を続けた。
「ゲートウェイの閉鎖により我らの秩序は失われた。一つの政府だったものが分裂に分裂を繰り返し、主導権争いに発展し、結果はこの姿だ。我々は自らの手で自らの繁栄を台無しにしてしまった」
いわゆる内ゲバというやつだろう。下らない主義主張で本末転倒な争いを起こすのが人類のさがだ。
だったら支配階級と労働階級を遺伝子レベルで分けてしまえ、と考えるやつが出てくるのも自然な成り行きだった。
「我々の技術が生物学に偏っていたのが幸いした。彼らの爆撃は我らの目的を果たす後押しにしかならなかった。我らの目的は君たちにこれを残すことだったのだから、崩落はむしろ望むところだった」
涼しい顔で言ってくれるがとんでもない男だった。ピンポイントバリアー発生装置がインフラや軍事施設の一部として転用されている可能性があると、ゴンドゥが語っていた。
それが取り外された状態でここにあるということは、インフラや要塞のシステムを止めてまでして奪ってきたとしか思えない。相当に恨まれただろう。
「多くの者が我らを憎んでいる。技術を独り占めする呪われし者と呼ばれることもある。だが我らに迷いはない。アークトゥルス級が再び星の世界を旅するようになるには、この装置がどうしても必要だ」
我らとはタマハラ族の祖先のことだろうか。だから時が流れた今もタマハラ族は呪われた種族と呼ばれるようになったのだろうか。
「何、重く考えることはない。どちらにしろやつらはこれを戦争に転用するつもりだった。そうなればこの装置は戦火の炎の中に失われていただろう」
そういった流れで数多の技術が失われていったとでも言いたそうな顔だった。
「使ってくれ、宇宙には我らの仲間がいる。彼らと手を携え、この星を復興させてくれ。ゲートウェイは――まだ閉じたままなのだろう? そんな気がするな……」
映像が途絶えて大いなる贈り物だけが残った。彼らの決断がなければ俺たちは宇宙に出ることも叶わず、ゴンドゥ・カークらもおとなしく滅亡を受け入れる他になかっただろう。
呪われた種族? とんでもない。彼らだけが未来を見つめる大いなる慧眼を持っていた。




