・ゴンドゥ・カークとの奇妙な関係 - 星の民と太陽の民のファーストコンタクト -
「いよいよ俺も焼きが回ったな……お人好しのテメェらの病気が伝染っちまった……」
コンソールを操作した。ゴンドゥ・カークへの連絡先は消さずに大切に残してきた。ワンタッチであちらに双方向通信が届くところまで進めた。
「向こうに連絡入れて、助けるって言っちまうぜ……? 本当にそれでいいのか? 相手は一国を軽く征服するくらいの力を持ってるぜ? それでも助け――助けてもいいのか……?」
そう言っても誰も意思を変えなかった。リタとアムがやさしく微笑み、ジェイが膝を突いてうなずいた。
「助けましょう、キッド様」
「きっと喜ぶ……」
「ふふ……キッドの声が高くてゴンドゥさんは驚いてしまうかもしれませんね」
これからファーストコンタクトをしようって時にそういうことを言うな。
「……繋ぐぜ」
どちらにしろこれで多くの運命が変わるだろう。この星の民も、恒星系基地の民も、新たな時代を迎えることになる。
コンソールをワンタッチして宇宙の向こうに呼び出しをかけた。緊張のひとときが流れたが、ちょうどさっきまでゴンドゥもこちらに通信をたれ流していたばかりだ。すぐに繋がった。
「う、うわっ、グラスひっくり返したっっ?!! あ、いや、どうも、こんにちは、こちらはゴンドゥ・カークッ、通信をありがとう!!」
舞い上がって飲み物をぶちまけてしまった姿が目に浮かんだ。又聞きしているこっちの連中も微笑んでいた。
「よう、ストーカー野郎」
「あれ……っ? 君……君が俺の通信を聞いていた人……?」
案の定こっちの高い声に驚いていた。
「俺はキッド。姓はない。613号と呼ぶやつらもいる。今はタマハラ族と呼ばれる少数民族とこのアークトゥルス級で商売をやっている。タマハラ族のやつらは俺のことを天使だなんだと言うが、俺はただのガキだ」
「すみません、もっと成熟した男性をイメージしていたので驚いてしまって……」
「へっ、俺をガキ扱いしないとは見る目があるぜ、お前」
「キッドさんと呼んでもいいかな」
「おう、よろしくな、ゴンドゥ。んなことよりこっちの状況を伝えるぜ。このアークトゥルス級は宇宙には出れねぇ」
「え!? な、なんで……!?」
弱々しさの混じる動揺の声が返ってきた。メッセージではなかなか大した大物っぷりだったのに、相互の通信になるとダメなタイプだろうか。
「ピンポイントバリアが外されている。反物質セルも足りねぇ。武装もねぇ。まずはそこをどうにかしねぇとそっちには上がれねぇよ」
「あ、ああっ、それなら喜んで力になるよっ!!」
失望させるかと思いきや元気な返しだった。
「へぇ、宇宙から魔法の手でどうにかしてくれんのか?」
「忘れてないかい? 俺たちは祖先の時代からずっと宇宙から君たちを見下ろしていたんだよ?」
「つまり?」
「大まかに目星を付けられる。アークトゥルス級のスキャンシステムとこちらが持つデータを組み合わせれば、およそ8割の可能性で遺物として見つけ出せるはずだ」
2割の可能性で自分が宇宙空間でフリーズドライになるとは考えたくないだろうに、屈せずにゴンドゥは前向きに答えた。
「いいだろう。この船を残した男の口振りからして、他にもこの星には何か眠っていそうだ、協力して発掘しよう」
「だけど急いでほしい。こっちは生命維持システムがいつ止まってもおかしくない状況だ。もし俺からの返事が返ってこなかったら全滅したと思ってくれ」
「そりゃ悪ぃことしたな」
「とんでもない、君は賢いよ。呼びかけておいてなんだけどね、君の立場からすれば宇宙からの呼びかけを無視するのが正解だった」
相手がこういった男でなければ助ける気になんてならなかったろう。信頼に値する男だと思った。
「明日の航路を聞いてもいいかな? 明日の朝までにデータをまとめてそちらに送るよ」
「明日はゴルディ・サンクタム王国南東の無人島に停泊する。大口の取引をしたばかりなんだが飛ぶように売れるそうでな」
「わかった、望遠レンズからの心ばかりの監視をしよう。昼間の間は頼りにしてくれ」
太陽の軌道上に浮かぶ基地からは夕暮れから朝方にかけてはこちらを観測できない。彼の言葉は本当に彼らが恒星系基地で暮らしている証拠だった。
「そろそろ通信を切るよ。発電パネルの老朽化も深刻でね、節電しなきゃいけないんだ」
「おう、無事にこっちの船に移動できたら一緒に風呂でも入ろうぜ。この移民船使用のアークトゥルス級には公共浴場が付いてんだぜ」
「もちろんご一緒するよ! ありがとう、本当にありがとう、キッドさん!! 君が差し伸べてくれた手を俺たちは忘れない!! 必ず恩義に報いるよ!!」
通信が切断され、ブリッジに静寂が戻った。間違ったことをしているはずなのに、暖かな感情が胸の中に広がっていた。
「ってわけだ。この船を発掘した時のこと、覚えてんよな? あれをまたやることになるかもしれねぇ、力貸してくれよな?」
トラクタービームを使うにしたところで土砂をまとめるのは人力だ。タマハラ族の助力がなければ彼らを救うことはできない。
「はい、喜んで」
「やっぱりいい人だった……」
「我らは貴方に救われた民です。貴方が救わんとする民を救うのは当然の義務と言えましょう。ああ、我らが天使キッド様、なんと美しく慈悲深――ウッッ?!!」
一人だけ長ったらしいやつがいるので膝を蹴ってやった。
「俺はもう寝るぜ、お先」
リタとアムに左右を囲まれながらブリッジを出た。これじゃお姉ちゃんたちと一緒に寝ると言っているようなものだったが……もう諦めた。
船室が余っていると言ってもこの二人が1人で寝かせてくれるはずもないのだから。
「ア……!」
「ようポタモ、話片付いたからあっち戻っていいぜ」
コンソール画面にピッタリとポタモが張り付いていたようにも見えるが、ま、よくわかんねぇし見なかったことにした。画面の中に入りてぇ年頃なのかもしれねぇ。
「キッド……」
「なんだ、ポタモ?」
「セキュリティホール、モット、増ヤシテ……?」
「いいけど次はどこでデートしてぇんだ?」
「オ風呂!」
実体を持たない電子データだけの彼女とお風呂デートをしたいとポタモはわがままを言ってきた。
「それやったらよ、こっから風呂のぞき放題になっちまうぜ……?」
「むふ、面白そう……男湯に、繋ぐ……?」
「女湯はダメですよ! キッドが見ていいのは私たちの裸だけです!」
素でヤベーこと言うやつらをスルーして俺はポタモに笑った。
「わかった、男湯にも仕込もう、セキュリティ・ホール」
「キッド、好キ! ポタモ、キッド、大好キ!」
邪魔とか言いやがりながらも現金なやつだ。ポタモは男湯に彼女を連れ込むところになんの疑問も覚えていなかった。
「むふ……」
「ふふ……」
リタとアムの笑顔がちょいと不気味だったが詳しくは聞かずにベッドに横たわった。徹夜漬けでデータを準備するゴンドゥ・カークの姿をイメージしながら、当然のようにくっついてくるお姉ちゃんに囲まれながら寝た。
「むふ、むふふ……」
「ジェイではありませんが、私たちの天使様は世界で一番かわいいですからね。ふふ、ふふふふ……」
その晩、魔女に縛られて鍋にぶち込まれる見た。魔女は『むふ』『ふふ』とおかしな笑い声を上げていた。




