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・ゴンドゥ・カークとの奇妙な関係 - 真空で隔たれた二つの人類 -

 その日からゴンドゥ・カークとの奇妙な関係が始まった。彼はなかなかしたたかな男で、あのメッセージは開封した時点であちらに通知がゆく形式のものだった。


「俺のプロファイリングが正しければ君はかなり慎重な男性のようだ。とても頭がよくて、実利を重視する人物像が見えてくるよ」


 そう人を分析したゴンドゥ・カークは手順を変えた。こちらの信頼を勝ち取るために、一方通行のコミュニケーションから着実に進めることにしたようだ。


「あらためて自己紹介させてくれ。俺はゴンドゥ・カーク、ブルーホライズン恒星系基地のリーダーだ。年齢は16歳、性別は男。同世代より背が少し低くて声が高いのを気にしている」


「はっ、16歳でリーダーか、大したもんだ」


 彼からのメッセージに俺は返す気のない返事をアークトゥルス級のブリッジで吐く。こちらが返信をするのは彼の真意を確かめてからだった。


「16歳でリーダーだなんて驚いただろう? だけど俺は『なります』と答えてリーダーになったわけではないんだ。俺はある偉大な男のDNAをベースにして製造された――その人の弟のようなものなんだ」


 恒星系基地では今でも高度な宇宙時代の技術を保っているようだ。彼はかつての宇宙ではそう珍しくもない培養カプセル生まれの子供だった。


「ええと……こんなことを言うとますます警戒されてしまうかもしれないけど、君の信頼を勝ち取るためにあえて明かすよ。俺たちの祖先は元々、ある宇宙の公爵様に仕える一団だった」


 彼のその決断は正解だった。こちらは彼らが赤の公爵騎士団の通信コードを使っていることを知っていた。


「その公爵はバンドゥ・カークという。海賊公爵だなんて呼ばれていた人だけど、敵からも味方からも愛される素晴らしい人物だったらしい」


「当然だろ、俺の叔父貴だぜ。バンドゥ・カークこそでかくて強い男の中の男だ、叔父貴以上の男なんてこの銀河にはいねぇ」


 つまり宇宙から救いを求めているのはかつての同胞のその末裔だった。彼らは恒星系ブルーホライズンの防衛を任され、そして基地に取り残されてしまった一派だった。


「銀河を股にかける大戦が起きてしまったんだ。人類星間共同体も赤の公爵騎士団も中立を保てなかった。50を超える星間国家が参戦し、人類が過去に体験したことのない熾烈な争いとなったと聞いている」


 ゴンドゥは俺が欲しくてたまらない情報を隠すことなく提供してくれた。彼は言葉を交わしてもいないのに相手の欲しい情報を選び抜ける優秀なプロファイラーでもあった。


「残念だけど大戦の結末は俺たちも知らない。銀河の歴史書はゲートウェイの停止と同時にインク切れを起こしてしまったようだ」


「ま、そうだろうな。どれくらいの時間が経ったか知らないが――」


「君たちの星が恒星ブルーホライズンを500週した今となっても外からの接触がないということは、ゲートウェイの向こう側に希望を持つべきではない。君は賢いよ、君が思うとおり銀河の状態はあまりよくないと俺も思う」


 まさか船のシステムを乗っ取られていないかと左右を見回した。念のためシステムにスキャンをかけておこうか。彼の分析は完璧だった。


「そういうわけで俺たちの祖先はこの基地に取り残された。君たちは俺たちが暮らす恒星ブルーホライズンを見上げ、俺たちは青く輝く惑星カリオペイアⅢを見つめるようになった」


 そう、この星の名はカリオペイアⅢだ。地上では俺だけしか知らない名前をゴンドゥ・カークは知っていた。


「ねぇ、こうは思わないかな? 真空で隔たれた二つの人類を再び一つに統合する。それが俺たちの義務だとは思わないか? 文明を大きく衰退させてしまった君たちと、技術を持ちながら滅び行く寸前の俺たち。巡り会うべきではないかな……俺と君は」


 ゴンドゥはいちいち詩的なところ以外は好感を持てる男だった。ゴンドゥ・カークに会ってみたいと思わせるだけのスピーチだった。


「もしその気になったらいつでも通信を送ってくれ。君は送らなくても毎日俺は送るよ。君を動かして仲間と生き残るためにね」


「へっ、せいぜいがんばりな」


 こうしてゴンドゥ・カークとの奇妙な関係が始まった。叔父貴と極めて近い遺伝子情報を持っているだけあって大した話術と頭のキレだった。


 こっちもアークトゥルス級を運行させながら毎晩付き合った。結果、少なくともゴンドゥ・カークは信頼できるという結論に至った。


 ちなみにポタモだが人を『邪魔』『邪魔』と言ってしつこいので、俺の部屋に移動させた。部屋からメインシステムに入り込めるようにしてやったら、お部屋デートをする口実ができてポタモはウキウキだった。



 ・



 それからまた少しの時が流れ、雪解けが始まり春がきた。タマハラ族の多くが船を降り、光臨の丘の開拓や作付けに力を入れるようになって船内が寂しくなった頃、深夜のブリッジに人が集まってきた。


「キッド、少しいいかしら?」


「なんだよ、パーティでも始めんのか?」


「ボクたちの話、聞いて」


「キッド様、今晩は我々の意思をお伝えしにまいりました」


 リリアの姿はなかった。これはタマハラ族の意思ということなのだろうか。船に残った若い連中が真剣な眼差しをこちらに送っていた。


「お願いします、アム姉」


 ジェイがそう言うとリタとアムが目の前にやってきた。こっちが立ち上がろうとすると、二人はかしこまるように膝を突いた。


「キッド、私たちは貴方の行く場所ならどこにでも付いていきます」


「お、おう……」


「命じてくれたら、なんでもする……。ううん、わがままを、言ってほしい……」


「酒飲ませろ。キンキンに冷えたビールくれ」


「ダメ」


 ガキの味覚というのは苦みに強く反応する。客の飲み残しをちょろまかしてみたことがあったが恐ろしく苦く感じた。だがそれでも俺は風呂上がりにビールを飲みてぇ、あまりの苦さに涙が出てもだ。


「キッドは宇宙に行きたいのではありませんか?」


「助けたいんでしょ、ゴンドゥ・カークを」


「私たちなら大丈夫です、彼との通信を繋いで下さい」


「ボクは会ってみたい……。面白い人だと思う……」


 彼からのボイスメッセージをリタとアムと一緒に聞くこともあった。ジェイもだ。ジェイもゴンドゥ・カークに好感を持っていた。


「我々にわがままを言って下さい」


「宇宙に行けと命じてくれたら、私たちも少し気持ちが楽になれます」


「キッドに恩返ししたい……」


 タマハラ族は善良だ。人を信じて、騙されて、リタとアムに至っては奴隷にまでされたというのに、彼らは手を差し伸べるべきだと言う。


「やつらを助けた結果どうなるかなんてわかんねぇぜ? やつらは数こそ少ないが高度な技術を持っている。みんながみんなゴンドゥのように誠実なわけじゃねぇぜ?」


 自分でそう口にしておいて言い訳がましいと思った。ゴンドゥ・カークがしばしば語る、隔たれた人類を再び統合するという夢を実現したくもあった。


 地上の民と太陽の民の接触がどんな結果を引き起こすかわからない。残酷な言い方をすれば、彼らを見捨てることが最良の秩序維持だった。


「だから言ってるでしょう? 私たちに、わがままを言って下さいと」


「理屈とかいらない。本音、言って」


 艦長席に腰掛けたままの人前で抱き付かれた。無条件の庇護をくれるリタとアムがわがまま言えと言っている。その誘惑は逆らいがたく、抑え込んでいた感情が胸の中で膨らんだ。


 秩序。今の秩序になんの価値がある……?


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