・アークトゥルスを手に入れた者へ - 太陽の民 -
ブリッジに戻るとドアの前でアムが待っていた。アムに手を引かれてオペレーター席である彼女のシートに腰掛けた。
「また消しちゃうんですか……?」
「説明しただろ、こういうのは開かずに捨てるのが一番なんだ」
「でもでも、何度も送ってきていますよ……? すごく急ぎの用事なのかもしれませんよ……?」
「そう思わせるのが詐欺師の魂胆かもしれ――ん? いつもの形式と違うな……?」
これまでは受信能力を持つ全ての者を対象にした広域通信だった。それがどうしたことか、今回は正規の通信形式でこのアークトゥルス級を宛先にして音声メッセージを送ってきた。
この船の個別名称である[ホワイトホウェールⅡ]までキッチリと宛先に指定してあった。
「消しちゃうんですか……?」
件名は『至急:アークトゥルスを手に入れた者へ』だった。至急と付いていると開きたくなる人間のさがを利用しているのか、あるいは本当に至急の用件なのか。
「開けちゃえ……」
「うおっ!?」
迷う少年の耳元にリタがささやいた。イタズラが大好きな困ったお姉ちゃんだった。
「迷うくらいなら開けてしまったらどうですか?」
「そそのかすな。一時の好奇心を満たすために、この星の未来を天秤にかける気はない」
そう思いながらも削除を迷う自分がいた。宇宙が今どうなっているのか、この通信を聞けばわかるかもしれない。相手は俺たちがアークトゥルス級を手に入れたことも知っていた。
「えいっ!」
「あ、ああああーーっっ?! な、なんてことするんだよ、アムッッ!」
アムが勝手にその音声データを開いてしまった。二重のウィルススキャンが行われ、遅れてデータが再生された。
「これが記念すべく50度目の通信になる。やあ、アークトゥルスを手に入れた君」
予想外にも相手の声は若々しかった。声変わりを迎えてない若者の声で、明るく闊達に言葉を投げかけてきた。
「そろそろ俺の言葉を聞いてくれる気になってくれたかな? お願いだから俺たちの話を聞いてほしい」
本当に至急のメッセージだったのか、声が真剣なイントネーションに変わっていった。
「俺たちは宇宙から君たちに声をかけている。天にそびえる太陽の近くから、君たちの星を基地の望遠レンズで見つめている」
「すご……星の世界の人って、太陽の近くで暮らしてるの……!?」
「恐らくは恒星系基地だな。星から星へと旅する者たちの貿易港にして軍事基地だ」
そこには人が暮らせる環境がある。半永久的に基地を維持するシステムがあったはずだ。
「俺はゴンドゥ・カ-ク。宇宙基地で暮らす、君たちと同じ人類だ」
「カーク……?」
俺にとってカークという姓は特別なものだ。俺たちが忠誠を誓う海賊公爵にして叔父貴と呼ばれる男、バンドゥ・カークのホームネームがカークだった。
「俺たちは今、危機に瀕している。基地がもう老朽化で限界なんだ。動力炉の不調、空気漏れ、太陽風や宇宙嵐からの保護。滅びずに今も生きているのが不思議なくらいさ」
アムとリタが説明を求めたので、音声データを止めてざっくりと説明してやった。
「え、それって助けなくて、いいの……?」
「助けられるなら助けましょう! キッドなら必ずできます!」
感情に任せて気楽なことを言ってくれるものだった。宇宙に出るリスクも手段も頭に入れないで、善意だけで助けようと言ってくれた。
だが俺はアヴァロニア人だ。善良なリタとアムとは違う。音声データの続きを聞いた。
「ところが滅びを黙って受け入れるしかない俺たちの前に君たちが現れた。アークトゥルス級……宇宙を旅することのできる船を君たちはどこからともなく手に入れた!!」
だからバンドゥ・カークはストーカーも顔向けの通信を送ってくるようになった。恒星系基地に閉じ込められた自分たちを居住可能惑星に運ぶ力を持つ船に、辛抱強く呼びかけた。
「どんなお礼もする! お願いだ、助けてくれ! せめて子供たちだけでも君たちが暮らす星の大地に移住させてくれ!!」
助けてと言われても今のアークトゥルス級に大気圏離脱能力がない。装甲を熱から守るバリアーが外されてしまっているし、反物質セルも宇宙旅行となると心許ない。
ポタモに限っては元より大気圏を行き来を想定していない宇宙用だ。アークトゥルスを手に入れたからって星の世界には戻れなかった。
「君がこの通信に応えなくても、俺は通信を送り続けるよ。こちらの基地のチャンネルは――」
アムがチャンネルの番号を自分のコンソールにメモした。ボイスメッセージはそこで終わりだった。アムが立ち上がり、リタと左右から立ち尽くす少年を囲んだ。
「お前らの幸せが最優先だ。コイツの言ってることが真実とは限らねぇ、とんだ詐欺師かもしれねぇ」
「私たちは騙されてもかまいません」
「助けよ?」
「お前まで何言ってんだよ、リタ。そんな簡単な問題じゃ……」
「助けてって、言ってる……」
「難しいことは私にはわかりません。ですが、救いを求めている以上は助けるべきだと思います!」
この二人がこういうやつらでなかったら、森で倒れていた少年が拾われることもなかった。俺はこの二人の慈悲に運命を与えられた。だがそれでもこの件は……。
「もう、頑固な子ですね……。だけどこのゴンドゥさんはこの先も諦めずにキッドにメッセージを送ってきますよ。私はそのたびに貴方のコンソールに送ることにしますから、ちゃんと話を聞いてあげて下さいね?」
「タマハラ族はキッドのお願いならなんでも聞く。宇宙に行くなら一緒に行く。宇宙からきたキッドの仲間を助ける」
次のゴンドゥ・カ-クからのメッセージを待つことにした。慎重に相手の言葉を分析して嘘か誠かを見定めることにした。
リタとアムは嘘のわけがないと言う。だがもしこの通信相手が悪党で、宇宙時代の技術を持った強敵だったとしたら、この惑星の民全てを奴隷として差し出すことにもなりかねない。
ゴンドゥ・カ-クの次のメッセージを待った。叔父貴と同じ姓を持つ、どことなく親しみを感じてしまう彼の声を。




