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・宇宙船式三角交易 - 略奪NG交易OK -

 新しい人生の第一歩は畑泥棒から始まった。鎌を片手に死んでしまった者の畑から実りを奪い、トラクタービームで上空に浮遊する船に積み込む。


 アムとリタは墓を掘り、運搬を指示されたポタモトリゴンがトラクタービームで遺体を墓穴に運ぶ。噂に聞く土葬というやつだ。彼女たちは故人に祈りを捧げ、死後の幸せを神に祈った。


 なぜだろう。信仰などドラッグと何も変わらないと思っていた海賊ギドの目にも、彼女たちのする弔いは尊く高潔な行いに見えた。


「ごめん、嫌な仕事させちゃった」


 俺たちは何も持っていない。旅立つにしても当面の飯や金が必要だ。


「そりゃこっちのセリフだ。俺だったら弔いなんてしねーで逃げ出してる。すげーと思うぜ、お前ら……」


「意外に素直」


「ヘッ、これでもドロボーには慣れてんだ。収穫のついでに金目の物も漁ってこようか?」


「それはダメ、赦されない」


 そこは絶対に譲れないところのようだ。宝石のように美しいオッドアイがこちらを鋭く睨んだ。宇宙生まれの俺にはわからないが、地上の民ってのは信心深くていけねぇ。


「そうか、なら止めだ。この際言っとくが俺は生まれながらの悪党だ、モラルに期待すんじゃねーぜ」


「ぷ……っ」


「なっ、何笑ってやがるっ!?」


「だって、ちんちくりんのボクくんに言われると……ぷぷぷ……」


 ボ、ボクくん、扱い、だと……?


「お、俺をナメると後がこえーぞ!! わ、笑うんじゃねぇーっ!!」


「よしよし……」


「撫でるなぁぁぁーっっ!!」


 そういったわけで俺たちは生きるために故人の畑から実りを横取りした。アムとリタが村の人たちに祈りを捧げると、俺の中にある罪悪感も少しだけだが薄れていった。


 船倉がいっぱいになると上空の船に戻った。大型の重戦闘機のコックピットには主操縦席に他に副操縦席が二つある。

 双子の姉妹が主操縦席左右のシートに腰を落ち着けると、目玉と髪以外は左右対称(シンメトリー)な構図に俺は笑ってしまった。


 そこには安堵もあった。親に売られた寄る辺のない孤児には夢にまで見た光景だった。


「で、どこに掠奪しに行くんだ?」


「そうなの? 掠奪、楽しそう」


「当たり前だろ、他に金を稼ぐ方法なんて知んねーし」


 戦闘、掠奪、密輸、恐喝、ハッキング。俺はこれまで真っ当な方法で金を稼いだことなんて一度もない。


「ダメです。掠奪なんてしても私たちと同じ不幸を抱えた人が増えるだけですよ」


「じゃあどうすんだ……?」


「それは、キッドががんばって収穫してくれた作物をこれから売りに行けばいいのです」


「売っちまうのか……? せっかく苦労して収穫したのに!?」


 何が面白かったのか、リタはおかしそうに少年と姉のやり取りに笑い声を上げた。


「お尋ね者になったら後が大変ですよ」


「キッド、今回はアムの案にしとこ。掠奪は、強くなってから」


「わかった、アムの言う通りにする」


 胸にくっついていたポタモをそっと撫でた。俺とポタモがこうしていられるのはこの姉妹のおかげだった。


「キッドに連れて行ってほしいところがあります。ええと……あっちに行けますか?」


「連れてくのは俺じゃねぇ、ポタモだ」


「ポタモ!」


 ポタモは俺の知らないうちにリタとアムになついていた。出発が決まるとアムにくっついて、立ち上がろうとするリタを俺は制止した。


「出発するから座ってろ、戦闘機の慣性ナメんな。絶対に立つんじゃねーぞ、おめーら」


 まずは慣らし運転だ。最小限の出力でほんのわずかにスロットルを傾けた。


「ヒャッッ?!!」


 たったそれだけでガクンと船が揺れ、慣性が俺たちを押しつぶした。それから遅れて船の制御システムが後ろへの慣性を相殺して、快適な航行が始まった。


「わっわっ……!?」


「な、なんて速いの……っ、ちょっと、怖いです……っ」


 この星の軌道上から太陽まで1日で行けるような船で、たった時速60キロを出しただけでえらい驚きようだった。


「もう立っていいぜ。隣で道案内してくれ」


 へっぴり腰のアムがゆっくりと隣にやってきた。


「怖いから、座ってもいいですか?」


「……は? いや今、俺が運転中だ」


「私の膝に乗って下さい」


「なっ、何言って……っ!? マ、マジで言ってんのか……?」


 美しいアムお姉さんが不安そうにシートにしがみついて、早く座らせてとこちらを見下ろしてきた。


「よかったね、キッド」


「よくねーよ」


 どうしてもというのでアムのしたいようにさせた。皮肉にもタッパの足りない少年にはアムの膝はちょうどいい高さだった。


「いいなぁ……」


「ポタモ!」


 リタはポタモを膝に乗せた。ポタモの保護者として、ポタモにやさしくしてくれるこの姉妹がますます好きになった。


「そうやって操縦するのですね」


「あ、あんま見んな……」


「水浴び、した方がいいですよ?」


「勝手に臭いを嗅ぐなぁっ!!」


 アムは甘い果物のような匂いがした。自分より体格のいい女性に胴へと手を回されて、やることなすことを観察された。


「あっ、あそこです。すごいすごいっ、私たちの丸一日かかる距離なのに……っ!」


「へっ、本気出すと1秒で3キロ進めるんだぜ、この船はよ!」


 ただし重力と空気抵抗のない宇宙に限る。この程度の鈍足航行だというのにエンジンの温度が出発前から3度も上がっていた。


「あのブィーンとする魔法で作物と私たちを目立たないところに下ろしてくれますか?」


 きっとトラクタービームのことだろう。実際こうしてこの星の民になってみると、この船の速度や武装がかすんで見えるほどに便利な装置だった。


「目立たないとこ? 町の真ん中が空いてんぞ?」


「アム、この子素で言ってる……」


「無理に目立つ必要はないでしょう? 取引にも影響しますから、こっそりでお願いします」


「わかった、要するに密輸の要領か」


 姉妹には言っていないが船は既にステルス状態だ。目立たないところで船を止め、トラクタービームで積み荷と共に地上へと降りた。船は艦船システムそのものとなったポタモに任せた。


「以前からここの男爵様と取引をしていたのです。どうしても里だけでは自給自足できないものが出てきますから」


「ボクはここで積み荷を見張る。アムよろしく」


「あ、ああ……アムは俺が守るから安心しとけ」


「ぷ……っ」


 小さなボディガードはお姉さんに手を引かれて村の往来を進んだ。


「不愛想な連中だ」


 道中、何人かの村人を見かけた。彼らは嫌に陰気な目でこちらを見て、かかわりたくないのか視線をそらす。


「仕方ありません」


「余所者だからか?」


「それもあります」


「ふーん……」


「嫌われているんです、私とリタは。だいたいどこに行ってもこんな感じです」


 こんなに美しい女性たちを相手に何を嫌う理由があるのだろう。アムとリタのオッドアイとシルバーブロンドは確かに珍しいが、俺には輝く真珠のように見えた。

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