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・宇宙船式三角交易 - 俺の槍を磨け -

「なら俺の船にずっといろ。何があっても俺はアムとリタを嫌いになんかならないぜ」


「ふふ……キッドはまるで天使様です。空からやってきて、私たちを導いて下さるのですから」


「こんな素行の悪い天使がいるかよ」


 村の広場を抜けたさらに奥に一際大きな屋敷があった。屋敷の正門を訪ねると少しそこで止められて、気持ち横柄な兵士に広く立派な応接間へと通された。


「お目通りのお許しを下さりありがとうございます、クロム男爵様。名も無き村ドゥのアムでございます」


「おお、よくぞいらっしゃった、アム殿」


 クロム男爵は貴族の風格をあまり感じられないやつれたおじさんだった。体格は痩せ形で髪は茶髪と白髪が半々。俺には全く興味を持とうとしなかったが、アムには親切な笑顔を振りまいていた。


「なんと、そんなことが……」


「私とリタだけではもうあの村では生きていけません。そこでかき集めた収穫を男爵様に買っていただきたいのです」


「それは少し間が悪ぅございましたな。先日商人と取り引きしたばかりで倉庫がだいぶ埋まっておりまして」


 クロム男爵はどこか邪魔ったそうに俺のことを一瞥してから、馴れ馴れしくもアムに近付いた。


「そう、ですか……」


 アムは逃げなかった。近付く男をそのままにさせた。男爵はアムの手を取り、微笑みを浮かべた。


「呪われた種族タマハラなどと呼ぶ者もおりますが、ますます美しくなられましたな、アム殿」


「恐縮にございます、男爵様……」


 どうも怪しい雲行きだった。蹴り飛ばしてやりたい気持ちを堪え、頭上にある男爵の顔を睨んだ。だが悲しいかな、男爵は子供など眼中にすら入れなかった。


「実はアム殿に磨いてもらいたい槍があるのだ。少し奥で休んでいかないかね?」


「いえ、そういった話は困ります……」


「そこの少年ならこちらで面倒を見よう。槍を磨いて下さればそちらの言い値で取引をしよう」


「言い値で……?」


 拒むアムの言葉が揺らいだ。


「寄る辺を失ったタマハラ族が安住の地を見つけるには、元手はいくらあってもよかろう?」


「それは、そうですけど……」


「何、槍を少し磨くだけだ。それ以上は要求せぬよ。さあ、アム殿、こちらへ」


 アムは覚悟を決めて喉を慣らした。身を捧げればこれからの人生が少し楽になるとでも考えたのだろう。


 だが大きな勘違いがある。アムとクロム男爵は宇宙海賊がなんたるかをよく知らなかったようだ。


「なあおっさん?」


「ん、なんだね君? 君はもういいからあっちに行ってなさい」


 窓辺に寄って俺は男爵に問いかけ、窓の向こう側にある倉庫に指をさした。


「あのでかい倉庫、おっさんの?」


「言葉遣いのなっていない子だな。そうだが、それが何か?」


「アレ煙出てっけど、ヘーキ?」


 男爵が隣にやってきて窓から外を見た。


「なっっ!? かっ、火事だぁぁぁぁーっっ!!! 消火っ、消火を急げぇぇぇぇっっ!!!」 


 交渉の真っ最中に倉庫が焼けるだなんて、ついてない男爵様もいたものだ。……ま、俺が通信でポタモに空からレーザータレットをぶち込ませて引火させたんだが。


 男爵は一目散に応接間を出て行って、屋敷の者と消火活動に参加した。ふんぞり返らずに自ら前に立って働くところだけは評価してやってもよかった。


「ハハッ、ざまぁねぇな!」


「キッド、まさか……」


「もう二度と男のあんな言葉に屈っするな。俺も男だからアイツの気持ちも半分わかるけどよ、服従なんてする必要はもうねぇ。アムには俺とポタモいるんだからな!」


 俺はドヤ顔でそう言った。実際気持ちよかったし、これでもかとドヤってやった。


「キッド……」


「へっ、説教したってムダだぜ、俺は生粋の――」


「ああ……キッド……私たちの天使様……」


「……ぁ、ぁぁ?」


 アムの目に大粒の涙が浮かんだ。すがるように小さな少年を抱き締めて、身を震わせて泣き声を上げた。

 アムは色々と気持ちを語ってくれたが、言葉を突っ返させてばかりで要領を得なかった。


「弱いところを見せてごめんなさい。私もう、ああいう人には従わないことにします」


「おぅ、イラッとしたらいつでも言え」


 そうか。アムとリタは主人から逃げた奴隷だった。そこには廃棄処分に震えて生きたキッドとはまた異なる、屈辱と恐怖があったに違いない。


「商談は上手くいったも同然だ。一度、リタのところに戻ろうぜ」


「あ、それはいい考えです。向こうから出向かせて優位に立つのですね、さすがボク様です」


「ボ……っ?! あおってんのか讃えてんのかどっちだよっ!?」


 結論から言おう。商談は上手くいった。男爵はこちらが用意してきた収穫を言い値で買い取ってくれた。商人と取り引きしたという話は嘘だった。


 総額で小金貨12枚の稼ぎになった。具体的には銅貨1枚の芋が1200個買える程度の心許ない元手を手に、俺たちは森の奥に去ると見せかけてトラクタービームで戦闘機ポタモトリゴンに戻った。


「これが交易か。空っぽになった船倉ってのも悪かねぇ眺めだな」


「ふふっ、本当ですね」


 掠奪品は出所をロンダリングをする必要があったので、宇宙海賊時代はパイロットが品物を売って回るようなことはなかった。


「で、これからどうする?」


「シルクシティと呼ばれる町に行きたいです」


「なら案内しろ」


「はいっ、喜んで!」


 アムは主操縦席のシートに座った。それから不思議そうに、こっちにこないのかと少年を見る。


「や、止めようぜ、それは……」


「え……お嫌ですか……?」


「大丈夫、超喜んでる」


「勝手なこと言うんじゃねぇよっっ!?」


 元宇宙海賊のギドとしては耐え難い屈辱だった。しかしこれまで誰にも甘えられなかったキッドの目にはそうは映らなかったようだ。


「これで最後だからな……?」


「お膝へどうぞ、ボク様」


「ボク様は止めろと言っているだろっっ!!」


「ぷ……っ、超かわいい……」


 逃げた奴隷と廃棄処分に震えてきた竜使い。世界は俺たちにやさしくしてくれたことなんて数えるほどもなかった。世界は今も変わらずにクッソタレだった。


 だが俺たちは互いに助け合ってゆける。アムの膝に乗っていると、これまで受けてきた辛い仕打ちの全てを忘れられた。


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