・発掘:星の船アークトゥルス - 「今でも覚えている。」 -
幻想の砂漠での発掘は傷ついた者たちの傷が癒えるのを待ってからにした。暴徒に家を焼かれた者たちのために突貫工事の住まいを建て、荒らされた畑を整え、不足した食糧や医薬品を買い入れる必要があった。
リリアは率先してタマハラ族のために働いた。発掘にも加わりたいと無茶を言ってくれた。リタは傷ついたジェイの代わりに里を守り、アムは少しでも多くの物資を手に入れようと果断に品物を値切った。
幻想世界の砂漠上空におもむき、アークトゥルス級の座標もマーキングした。不気味なほどに白い砂だった。その砂の奥底に船は隠されている。
その土地には馬よりも巨大なサソリがいた。血のように赤くドロドロとしたアメーバーいた。人間に似た顔を持つ狼たち、砂の中に潜む芋虫が生息するこの世の地獄だった。
「そんなに難しい顔をして何を考えているのですか、キッド?」
「こいつらの出所」
「モンスターはモンスターですよ、難しく考えても答えなんてありません」
「この星はテラフォーミングされた惑星だ。こんなおぞましい者が最初から存在するわけないだろ」
氷に包まれた惑星を科学の力で暖めて海の豊かな惑星にテラフォーミングしたと聞いている。だとすればこのモンスターたちは後から生み出されたと考えるべきだろう。
文明衰退の一因と見ても間違いない。こんなのが人里離れた土地に跋扈していたら、地域と地域の繋がりも寸断される。流通が成り立たなくなるってことだ。
幻想世界の砂漠の放射能測定値に異常なし。何が彼らをこの地に引き寄せているのかイマイチわからない。そもそも生殖活動を行っているのかも疑わしい……。
「キッド……」
「後にしてくれ、敵の生息域の分析に集中したい」
「クイナ様と相談したのですが……アークトゥルスが見つかったら……」
「おう」
奇妙なのは怪物たちの関係だ。観察したところ怪物たちには味方と敵と捕食対象が存在しているようだ。
芋虫とアメーバーは同盟関係で、サソリと人面狼も食いあったりせずにつるんでいるのを見る。まるで馬鹿げた戦争のようだった。
「結婚しましょう!!」
「…………へ?」
「タマハラ族は今後、ありとあらゆるものを貴方に捧げると決めました。手始めに私とリタを貰って下さい」
「いいんだよ、もうお前らには山ほど貰ってる」
「でもっ、でも私たちお礼をせずにはいられないんです!! 何かを貴方にあげたいんですっっ!!」
お姉さんに横から抱き締められながら分析を続けた。もうちょっとこの身体が成長していたら、気持ちを受け取る方法もあったのだろうが、俺は悲しいほどにガキだ……。
「あの日、森に倒れてた汚ねぇガキを拾ってくれたのはそっちだろ?」
「でもでもっ、何かを支払いたいんですっ、商人として!!」
「取引って発想から離れろよ、こっちは打算でやってんじゃねぇ。お、お前らが……お前らが何よりも大事だから…………なんでもねぇ!!」
「ああキッドッ、私とリタはもう我慢できません!!」
「何がだよ!?」
その時、船内に小さな通知音が響いた。ちょうどコンソールをいじっていた俺は話をごまかすのもかねて通知から通信データを受け取った。
送信元はこの白い砂の下。文字データだけの極めて古典的な通信だった。これだけ古典的だとウィルススキャンの必要すらなかった。
「なんか砂の下からメッセージが届いた。画面に出すぜ」
メインディスプレイに受信した文字データを表示した。そこにはこうあった。
『今でも覚えている。あの日、貴方が私を守ってくれた日を。』
どうとでもとれる一文だった。
「わかります、私もわかります。今でも覚えています」
「差出人不明のメッセージに同調するな」
だがこれでほぼ確定だ。アークトルゥス級は自らが発掘を望んでいる。
「ロマンチックですね……」
「はは、ポタモに恋する合金製のお姫様でも眠ってるとでも言うのか?」
「あ、イイですねっ、きっとそうですよっ!!」
「んなバカなことがあるかよ……」
とにかく掘り返してみないことにはわからない。安全に発掘できるように防衛ラインをしこう。この地のモンスターたちの攻撃方法や同盟関係も戦士たちに予習させておきたい。
「親としては複雑なんだが……彼女、欲しいか、ポタモ?」
「ポタモ……彼女、イラナク、ナイ……」
「自分の数百倍もでかい女でもか?」
「ウ、ウウーン……ワカラ、ナイ……」
宇宙船同士の恋愛。チョウチンアンコウの雄と雌どころではない体格差。さすがに冗談だろうと笑い飛ばした。
・
襲撃から数えて10日目。一通りの準備が整ったので発掘作業に着手した。ジェイとリリアが手伝いたがったが、背中を切られた男と預かったお姫様を連れてゆけるはずもない。
代わりにクイナ婆さんがタマハラ族の指揮を取った。リタとアムは護衛として発掘に加わり、幻想世界の砂漠のヤバいモンスターたちに睨みを利かせた。
トラクタービームは砂のような小さな粒子を運ぶのには向かない。地上の労働者に一度袋や箱に詰めてもらわないと、持ち上げるという挙動にはならない。
戦える者が労働者を護衛し、労働者が砂を袋や箱に詰め、それを俺とポタモがトラクタービームで運び出す。アークトゥルス級を無傷で手に入れたいなら、これが最も無難な方法だった。
「キッド、マタ、クル!」
「く……っ、またかよ! アムッ、リタッ、迎撃だ!」
リタもアムも人より動けるというだけでそう腕が立つというほどでもない。タマハラ族の男たちには元傭兵もいるが、それだって幻想世界の砂漠の怪物を相手にした経験なんてない。直接ぶつかったら押し負ける。
「ぶっ放せポタモトリゴンッッ!!」
「デデデデッ、デストローイ!!」
だが俺たちにはポタモトリゴンがいる。駆逐艦仕様12門のタレットから、迫り来るサソリだのアメーバーだのに赤い閃光を放てば、防衛線にたどり着けるのはほんの少数だ。
そのくらいならアムや戦士たちでもどうにかなった。それよりも問題は――
「ポタモ、出力を20%まで下げろ。このままじゃ操縦してる俺がもたねぇ……」
コックピットの温度が50度を超えていることだ。汗まみれのパンツ1枚で船を操縦することになろうとは思わなかった。
「キッド」
「あ? なんだよ……?」
「セクシー」
「何言ってんだかわかんねーよ!」
襲撃の頻度がおかしかった。いったい何が怪物どもを突き動かすのか、数十分刻みで襲撃が繰り返された。まるで俺たちの発掘を邪魔しているようにすら感じられた。
「ありましたっ、ありましたよ、キッドッ!!」
「白い鉄、埋まってる! これがアークトゥルス!?」
リタに持たせた通信機から二人の喚声が船に届いた。ポタモが底部カメラを使ってサブディスプレイにその映像を映し出してくれた。
「見たところ腐食はないな。とんでもない時が流れたというのに塗装に剥げ一つなしか。妙だな……」
実はそんなに時が流れていないのか。あるいは保存状態がよかったのか。長期間船を保管するには、乾いた砂の中はそう悪くない場所だ。
ともかく船体が見えたことで労働者たちの士気が上がった。予定通りハッチ付近の砂を除去してもらった。
「暑……っ!?」
「よう、当艦のサウナルームへようこそ。操縦は任せたからな」
「おっぱい……」
「見んな」
ハッチまで発掘してもらうと船をリタに任せて降りた。当然服は着た。




