・盗賊オルブリスに破滅を - 兵舎潜入 -
指定された3つの都市での政情調査が終わった。外国人の俺たちが言うのもなんだが、この国の内情に頭を抱えたくなった。
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プラチナム・コート
民衆の不満:大
政府の弾圧が激しく、先日は政府による異端者住居への放火が相次いだ。民衆の多くは異国の文化に通じており、密かにご禁制の品を楽しんでいる。
浄化を任される軍団長オルブリスの暴虐により民衆の翻意も高い。商業都市ゆえに貧富の差も著しいのが更なる不安定要素となっている。
聖都サンクチュアリ・ミスト
民衆の不満:中
本山だけあって大都市の中では最も安定している。敬虔な信徒も多く、町中で不満を口にするような者は少ない。
しかしその内情は厳しい密告社会により成り立っている模様。隠れてご禁制を楽しむ者や、小規模なブラックマーケットも確認できたが、多くが密告を畏れて互いに疑いの目を送り合っている。
エレクトラム市
民衆の不満:大
目に見えて憲兵隊が目立つ町。40年前に侵略、併合された背景から市民と憲兵の衝突が絶えない。
何者かが彼らに武器を流しているようだ。仕入れルートは不明。真っ先に反乱が起きるとしたら異民族たちのこの町だろう。
憲兵と市民の対立が深刻。平然と女性を襲う兵まで現れる始末。この町ではサンクタム人でなければまともに保護されることはない。
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この国で起きているのは、体制を維持したい国家と、抑圧や支配から逃れたい民のせめぎ合いだった。どれだけかかるのか知らないが、いずれは崩壊するのが見えている滅亡の道を進む国家だった。
「いつになったら人は人を支配するのを止めるのでしょう……」
「さあな。とにかくこれで義理は果たした。各地の相場やブラックマーケットの位置も把握できた。俺たちには損のない取引だった」
星から星へと渡る力を手に入れても人類は変わらなかった。変わらずに人を支配し、騙し、欺瞞にあふれる社会を妥協して受け入れた。
その前提から言えば人が人を支配することを止める日は決してこない。人が人を裏切るのは人類のDNAに刻まれた宿命だ。
「そうだけど、とても悲しい仕事でした……」
「ボクたちがこの船で戦えば、助けられるかな……?」
「この船はデリケートなんだ、正面対決なんて絶対にお断りだね」
「ポタモ、デストロイ!!」
「変な言葉覚えるなって言ってんだろ……」
とにかくこれで一段落だ。エレクトラム市からシルバーマーケットに船を進めた。陸路なら馬車を人が押さなければならないような山道を、空路からの一直線で駆け抜けた。
シルバーマーケットに到着したのは夕方だ。リリアの無垢な笑顔と大歓迎が俺たちを待っていた。
それからアムに誘われてリリアが席を外すと、同席していたポールさんから潜入の準備が整っていると説明を受けて、予定通りの明日の晩に奪還作戦を決行することに決まった。
リタとアムは復讐を望むものの、か弱い少年キッドに危険な仕事をさせることにためらいを抱えていたが、こちらは水を得た魚の気分だった。
海賊ギドは死のリスクという名のエーテルの海を生きた犯罪者だ。決行の夜が待ち遠しかった。
かくして朝日が昇り、夕日が沈み、決行の夜がやってきた。貧相な少年は衣装の上に鼠色のローブをまとい、トラクタービームで兵舎のバルコニーに降下した。
「本当に子供が空から振ってくるとは……。お前は魔術師、なのか……?」
間者は整った容姿をした浅黒い肌の若者だった。
「そんなところだ。案内を頼む」
「……こっちだ、邪魔者は排除してある」
「へぇ、アンタ強いんだな」
「薬を盛っただけだ」
「睡眠薬か」
「いや、小一時間便所から出てこれなくなるブツだ」
「おいおい……えげつねぇな……」
男に導かれて兵舎の奥に進んだ。入ってみると兵舎の内側まで真っ黄色の塗装で塗りたくられていた。調査を終えた今となってはダサいという感想よりも国の狂気を感じた。
「装備がなければ戦うこともできない。お前が何者かは知らないが感謝する」
「気にすんな、俺たちも金が入り用だったんだ」
兵舎にしては大きな建物だった。兵舎のくせに広い中庭があって、まるで貴族の屋敷のように華やかに管理されている。恐らくは元貴族であるオルブリスの趣味だろう。
「ここから先がやつらの根城だ」
「やつら?」
「オルブリスとその配下の盗賊どもだ。サンクタム人は中に入れない」
「へっ、アヴァロニア人でよかったと生まれて初めて思ったぜ」
男は鍵を取り出して奥へ続く扉を開くと、その鍵をこちらに投げ渡した。
「勇敢な少年よ、幸運を祈る」
「へっ、任せとけ。……ああこれ、処分しておいてくれ」
鼠色のローブを脱いで男に渡した。すると男はローブの下の衣装に目を広げて驚いた。
「お、女の子、だったのか……?」
「んなわけねぇだろ」
ここで働く小間使いに化けて盗賊どもの根城に忍び込んだ。中は薄暗く、きつい花の臭いが充満していた。
囲まれたらこんな弱い体では抵抗も虚しくやられてしまうだろう。牢獄行きならまだマシで、楽に死ねるかもわからない。そう考えるとスリルがゾクゾクとちっぽけな肩を震わせた。
奥から男たちのバカ騒ぎが聞こえてくる。スラングまみれで何を言っているのかどうも上手く聞き分けられない。
まあこんな北方の果てまでオルブリスに付き従ってきた連中だ。相当に頭のブッ壊れた連中なのだろう。
「ん……? おい、誰か女呼んだかぁ……?」
そいつらが廊下沿いにある休憩所で飲んだくれていた。オルブリスの部屋にたどり着くにはどうしてもここを抜けなければならない。
「おいおい、まだガキじゃねーか。ってことはおめーの仕業だな、シペー?」
「し、しらねよ……しらね、けど……。か、かわいいじゃねぇかよぉ、オマェよぉ……♪」
「シペー、やっぱお前フツーにキメェわ」
「おいで、おいでぇ……? どうしたのかなぁお嬢ちゃん、おじさんと遊ぼう……?」
太った小さい盗賊シペーに肩を抱かれた。そんな彼にいたいけな小間使いは指を3本立てた。
「銀貨3枚? へへへ、いいよぉ……おじさんの部屋においでぇ……」
「おい待てシペー、オルブリスにバレたらぶった斬られるぞ?」
「でもこの子アヴァロニア人だよぉ……? サンクタム人じゃないから大丈夫だよぉ……」
「変態が」
盗賊シペーに肩を抱かれて、突破したかった休憩所の奥にある彼の部屋に入った。
「恥ずかしい……」
「ぶっぶほっ、ぶほほほっっ♪」
「脱ぐから、あっち向いてて……」
小間使いのお仕着せに手をかけてそう変態にお願いした。
「うん、いいよぉ……あ、ところで、名前を聞いても――フゴッッ?!」
背中を向かせてもやっぱり振り返ってきた変態野郎に眠り薬を吹き付けた。
「えへえへ……ヤクキメるのはまだ早いよぉ……? あ、あえ……このヤク、頭、ふわふわすりゅぅ……」
「残念だったな、変態。俺は――」
「あっ、あっ、あっ……ほぁぁぁ……っっ♪」
残念賞にパンツの下を見せてやると変態は気持ちよさそうに白目をむいて幸せそうに倒れた。予想の斜め上を行くド変態だった。
「ガキの身体ってのはままならねぇな……」
「コドモ、大好きぃ……おふっ♪」
「お、恐ろしいやつだ……」
海賊ギドとして暴れ回っていた頃は考えもしなかった。相手を暴力でどうにかする方法を持たないというだけで、世界がこんなにも恐ろしくなるなんて。一歩間違えるだけで俺は――いや、考えるのはよそう。
触るどころか近付くのすら恐ろしかったが、我慢して変態を拘束して臭い部屋を忍び出た。




