・父と娘 - 可哀想なパパ -
「キッドくん……?」
「よぅ、無事だったか」
ポールさんを見つけた。リリアと会えると思ったのか彼は決して大人らしいとは言えない明るい笑顔を浮かべた。
「リリアはっ、僕のリリアはっ!?」
「落ち着け、娘が聞いたらドン引きするぜ。あん時の約束通り連れてきている。意識も戻ったよ」
「ああっ、リリア! 早く会わせてくれ! もう僕は心配で心配で……っ」
「今は商談どころじゃなさそうだな……。ついてきてくれ、船にご招待する」
外に出てトラクタービームでポールさんを連れて戻った。ポールさんは船倉のブツなんて目もくれずにリリアが待つコックピットへと駆け込んだ。
「リリアッ、ああリリアッ! 会いたかったっ、会いたかったよ、リリアーッッ!!」
「パパ!!」
いつものマセガキっぷりを披露してくれると思いきや、リリアは素直に父親の胸に飛び込んだ。
それを羨ましいと感じたのは俺だけではなかった。リタとアムも羨望の目で親子を見つめていた。
リリアは光臨の丘での生活や旅の話を父親にたくさん語った。父親はただやさしくそれに受け答え、微笑んで娘の言葉を受け止めた。
それからリリアは言った。父親よりも先に、この先のことを。
「パパ、リリアね、お願いがあるの」
「ああ、なんでも言ってくれ! ずっと寂しい思いをさせたパパに罪滅ぼしを――」
「リリア、もっとキッドくんたちと一緒にいたい!!」
「……え? え……な……な……な……何を…………リリア……?」
ブラックマーケットのトップとは思えないほどに情けなく、涙目を浮かべてポールさんは動揺した。
「タマハラ族のみんな、楽しくてやさしいの! キッドくんはいじりがいがあるしっ、リタお姉ちゃんは強くて知らないこといっぱい教えてくれるの! それにね、アムお姉ちゃんパパよりやさしいの!!」
「パ、パパよりもかぃぃっ!?」
リリアよりもポールさんが不憫になってきた。さすがに『パパよりやさしい』は相当にきついだろう……。
「ごめんパパ、ちょっと言い過ぎちゃった……」
「い、いいんだよ……それだけやさしくしてもらえたんだね、よかったね、リリア……」
「あー、傷ついているところ悪ぃんだがよ、こっちの仕事が一段落したら、俺たちの方でまたリリアを預かろうか?」
視界が俺たちが入り込むとパパは責任ある社会人に戻った。
「サンクタムに他の用事があるのかい? あまり目立つようなことをすると、憲兵にしょっぴかれるかもしれないよ?」
「どうしても片付けなきゃなんねぇ仕事なんだ。ポールさんにも関係なくもねぇ話たぜ」
彼はすぐに察した。リリアの前ではこれ以上は話せない内容であることに。
それからアムが前に出てリリアとの約束を果たした。バカンスを延長したいリリアのために父親を説得した。
「いいよ、リリアがそうしたいならタマハラ族の元でたくさん勉強してきなさい」
「いいのっ、パパッ!?」
「ああ、パパの心配はいらないよ。リリアがこんなに元気になって顔を見せてくれただけでも、十分さ……」
「ごめんね、パパ。こうするのが、リリアも一番だと思うの。ごめんね……」
この親子には他になかった。シルバーマーケットもレジスタンスの隠し砦も政府の浄化を受ける可能性があった。そうなると取引のためにリリアを連れてくる今の形が最善とも言えた。
「どうだい、僕の娘は賢いだろう?」
「んな痩せ我慢の半泣きで言われてもな……」
「つらそう」
「う、うぅ……っ、わかってはいたさ……僕だって……」
リリアの話が片付いたので商談に入った。といってもそっちはアムの専門で俺の出番はない。品物を船から降ろし、ポールさんと配下が検品を行って、販売の代金が船倉に戻ってきた。
それからリリアとリタがいない操縦室で標的・オルブリス軍団長の話をポールさんにした。
「ヤツが君たちのご両親の仇だったとはね……」
「これから俺たちはオルブリスに呪いをかける。しかしそのためには、ヤツの体の一部、あるいはヤツが最も大切にしている物品を手に入れる必要がある」
「何か知りませんか? 確実にこの計画を成功させたいんです」
ポールさんはレジスタンスの一員だ。特に浄化という汚れ仕事を担当しているオルブリスとその配下にはそれなりに詳しいはずだ。
「僕たちの出会いは運命だったのかもしれないな……」
「何言ってやがる、男に言われてもちっとも嬉しくねぇぜ」
「キッドくん、今の僕は傷心中なんだ。もう少しやさしくしておくれよ……」
「わ、悪ぃ……。ありゃきっついわ……」
「え、ええ……。親離れが早すぎる娘を持つと、とても大変ですね……」
あれは悪気のない本心だからこそたちが悪かった。
「聞いたことがあるよ。ある不気味な品をオルブリスが宝にしているって話を」
「不気味な品……嫌な予感しかしねぇな」
相当にヤバいブツのようだ。ポールさんは深い嫌悪に染まった顔でこう言った。
「目玉だよ。タマハラ族の」
思いもしない品にアムがか細い悲鳴を上げた。最悪も最悪のお宝だった。
「それはタマハラ族の、美しい女剣士の目だったらしい。手違いで殺めてしまったその女の目玉を彼はえぐり抜き、魔術師に水晶の中に封じさせてクライアントに届けた」
オルブリスは最低のサイコ野郎だ。そんなやつに異端者の弾圧をさせているなんて、この国もまた狂っていた。
「クライアントは悲鳴を上げてオルブリスに目玉を突き返し、前金の返金を要求しなくなったそうだ」
「キッド」
使命感にかられたアムの声が俺を呼んだ。
「おう」
「取り返しましょう」
復讐に反対していたアムもさすがに考えを改めたようだ。
リタに聞いた話とも一致する。その目玉はアムとリタが愛したスクア姉さんの目だ。オルブリスは過去の蛮行を恥じるどころか己の武勇伝にしていた。
「だったら力になれる。国軍に入り込ませた同志がいてね、彼なら軍兵舎への侵入を手引きしてくれるだろう」
「それは助かる。段取りにどれくらいかかる?」
「明日まで時間をくれれば完璧に手配しよう。ただできるのは手引きまでだ、奪取はそちらでやってほしい」
「へっ、そういうのは得意だから任せとけ」
これからの予定が決まった。今日明日はジキタリスの依頼をこなして、明後日にここへ戻る。そしてその晩に潜入し、スクアの目を取り返す。
「ごめんなさい、私たち、キッドに危険ばかり冒させています……」
「別に、危険が日常だった俺にはなんでもねぇことだ。天使様は天使様として、迷える民を幸せにしてやんねーとな」
あまり思い詰められてもこっちは困る。話がまとまるとリタを船に呼び戻して、リリアを父親に返した。
「君たちに幸運を」
「ごめんね、パパがどうしても一緒じゃないとやだって言うから、リリアはしばらくパパの相手をしてるね」
「ああ、こんなパパでごめんね、リリア……」
「もう、そんな顔してたらマーケットのみんなが不安になっちゃうでしょ! しっかりして、パパ!」
俺たちはシルバーマーケットを離れた。指定された最初の調査先はすぐそこの港町プラチナム・コートだ。
姉妹は空から。俺は町内部から。ジキタリスが望む情報を集めていった。鎖国する国の安定度が知りたいだなんてどうもキナ臭い取引だったが、今さらだ。
俺たちにはポタモトリゴンの高精度カメラと偵察ドローンがある。この仕事は俺たちだからこそ完璧に遂行できる興味深い仕事だった。




