・父と娘 - 男性遍歴豊富な娘(10) -
その後暗くなってからアムとリリアが椋鳥のサエズリに姿を現した。タマハラ族であることを役人に見抜かれて免税書の販売を渋られたが、同行していた小さなレディに助けられたそうだ。
「すごかったんですよ、リリアちゃん。お役所の前で大泣きして見せてくれて、意地悪なお役人さんも慌てていました」
「えへへ……女の涙は武器! パパがね、いつもそう言ってた!」
「リリアちゃんのおかげで免税書が手に入ったようなものです。ありがとう、リリアちゃん」
悪いのは役人側だ。だがガキのヒステリックな絶叫を聞かされたかと思うと、役人の方に少し同情をしたくなった。
それから商売女にちょっかいをかけられながらの夕飯を終えると、目当てのブツも届いた。軍属か傭兵にしか見えないガタイのいい男が現れて、ジキタリスおばさんに小さな布袋を渡した。
「先にこっちにくれちまってていいのか? 裏切るかもしれねぇぜ?」
「アンタはそういうツラの男じゃないよ。裏切り者の末路を知っている男の顔さ」
「へっ、アンタとの今後の取引のためにもまあ最善を尽くそう。今後ともよろしく」
雷獣の髭は髭にしては太かった。質感はまるで猫の髭のように硬くしなやかで色は白かった。
魔法、呪い、竜との共鳴。この世界には物理学でも生物学でも理解できない得体の知れない力が当たり前に存在していた。
商売女が仕事に向かい、代わりに少し荒っぽい酔客が集まってくると俺たちは船に戻って寝ることにした。
「今日は、リリアの番! 甘えていいよ、キッドくん」
「お、おぅ……」
主操縦席のシートにリリアが入り込んできた。アムが俺たちに毛布を掛けると、リリアが幸せそうに微笑んだ。
「サムはもっとベタベタ触ってきたのに、キッドくんは何もしないね?」
「するわけねーだろ、さっさと寝ろ」
「サムってね、エッチなんだよ。もう別れたけど、この前のお泊まり会なんかねー」
「聞いてねぇよ、んな話……」
その晩はリリアの豊かで気まぐれな男性遍歴を聞かされた。俺は興味なかったがリタとアムには大好評で、隣で横になって語るリリアの笑顔が絶えなかった。
船はポタモによる自動航行で対岸のポート・ブルーへとゆっくりと、海面をはう快速船をたやすくぶち抜いて海を越えていった。
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ポート・ブルーでは積み荷の半数を卸した。クジラから採れる香料だとか、サトウキビを使ったラム酒だとか、砂糖や錫製品を販売したそうだ。
一方で仕入れは塩と可燃油と銀鉱石が中心になった。鍛冶種族の村ダゲでは民が自ら鉱山を掘り、高熱の炉で金属を精錬している。だから鉱山労働者による塩と油の消費量が多いと、アムが説明してくれた。
旅を重ねるたびにアムが美しく見えるようになった。真っ当な稼ぎ方なんて知らなかった自分には、アムが商売の女神そのものにすら見えた。
やがてダゲに到着するとリタとリリアは観光に。俺とアムは族長との取引を行った。みんなで相談して、ここには安く物資を提供することに決めていた。
「助かる。だが、こんな値段で、いいのか……?」
当然、族長は破格の取引に戸惑った。
「へっ、細けぇことは気にすんじゃねーよ」
「私たちからのダゲへの投資とお思い下さい。ダゲの産業が活発になりますと、私たちの取引先も喜びますので」
そういう打算もあるが根っこのところは善意だ。少数民族同士で手を取り合いたいタマハラ族の感情もあった。
「感動した……! 娘、あと20若ければ、お前にくれてやった」
「え、遠慮するぜ、さすがによ……」
「はい、キッド様にはお嫁さんがたくさんいますので」
な、何……?
「そうか、残念だ……」
「違うっ!! サクッと人を人間のクズにすんなっ!!」
積み荷を全て卸して、空いた船倉に武器と防具を過積載した。こちらの船倉に限りがあることを既に知っていた彼らは、より多くの防具を販売するためにもパーツをばらして省スペース化させた品を用意してくれていた。
「ふふふ……っ、健全な取引って素晴らしいものですね、キッド」
「向こうじゃご禁制のスーパーブラックなブツだけどな」
おかげで予定の倍の防具を仕入れることができてアムはいたくご機嫌だった。稼いだら稼いだ分だけ迫害されてきた仲間の助けになるのだから、そりゃ笑いが止まらないだろう。
積載が終わるとリリアとリタを呼び戻してすぐにダゲから出航した。目指すはサンクタム王国、旧洞窟寺院、シルバーマーケット。娘リリアと父親ポールの再会の舞台だ。
「リリア、帰りたくないなぁ……」
「んなこと言ったらポールさんが泣くぜ」
「パパは大好き。でも、お家は燃えちゃったし、帰るところないもん」
「ではポールさんにお願いしてみましょう。もうちょっとリリアちゃんをお借りしたいって」
「本当っ、お姉ちゃんっ!?」
どちらにしろ一度狙われた以上、リリアとポールさんは隠れて暮らすことになる。そんな生活をリリアにさせることをポールさんが望むとは考えにくい。
リリアから『もっとあっちに居たい』という言葉が出れば、極めて複雑なところだろうがポールさんも気が楽になるだろう。
重戦闘機ポタモトリゴンは13:30にシルバーマーケット上空に到着予定だ。
「ボクも一緒にお願いする。釣りと呪いの技、まだ教え切ってない」
「変なこと教えんな……」
「剣もね、教わってるよ! あ、色仕掛けも!」
「ソイツも言わねぇ方がいい気がすっけどな……」
親が望めばリリアは引き続きこちらで預かる。だがそれはリリアには見せられない裏の仕事を片付けてからの話だ。
「いいなぁ……キッドくんはお姉ちゃんたちとずっと一緒で……」
「いいだろ」
「あっ! キッドくんのお嫁さんになれば、お姉ちゃんたちと一緒にずっといられるかなぁ!?」
「リリア、お前はもう少し男をよく見た方がいいぜ……」
険しい山岳と狭路に陣取られた関所を越えて、俺たちはゴルディ・サンクタム王国に入った。寒冷な気候がもたらす深い森林が山岳の向こうに広がり、気がかりなエンジンルームの温度も順調に下がっていった。
それからまたしばらくするとシルバーマーケットの上空に到着した。洞窟寺院内部に隠されたこのマーケットは上空からでは営業状態がわからなかった。
先に目立たない俺が降りて、最悪は占領されている可能性もある洞窟内部に潜入した。入ってすぐの酒場は営業を再開していたが、奥のご禁制品を扱う店はほとんどが閉まっていた。




