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・安寧と復讐 - リタは復讐を望む -

「で、どうやってソイツに落とし前を付けさせんだ? 仇の詳しい情報をくれよ」


「はぁ……やっぱりそうなるんですね……」


「当たりめーだろ。お前らに地獄を見せたやつがそこにいるのに、なんで見逃してやんなきゃなんねーんだよ?」


「キッド……!」


 リタが感激して貧相な少年を胸に抱き込んだ。妹を取られた上に復讐のシナリオが始まろうとする流れに、アムは大層不満そうな顔をした。


「サンクタム王国プラチナム・コートで、貴方が交易商人のふりをしてブラックマーケットを探していたあの日、私見たんです。盗賊オルブリスを」


「オルブリス、ソイツが親の仇か」


「そう。それと、ジェイのお姉さんの仇でもある」


 姉妹から詳しい話を聞いた。ちなみにクイナ婆さんは俺たちには干渉せず、気が散るだろうに算盤を叩いて自分の仕事を進めている。


 オルブリスは元貴族で、兄はアヴァロニアの子爵様だそうだ。家を継げなかったオルブリスはその後盗賊の長となり、アヴァロニアの街道を荒らし回った。平気で殺しや誘拐をする残虐な連中だったそうだ。


 オルブリスはなぜか国に捕まらなかった。兄が弟に情報を漏らしていたとリタとアムは分析しているが、実際のところはわからない。


 とにかくそいつらは幾多の旅人を襲い、積み荷を奪い、身柄を売り飛ばしてさらに力を付けた。


 そしてアムがサンクタムで手に入れた新しい情報によると、オルブリス盗賊団は傭兵としてゴルディ・サンクタムに渡り、そこで多大な戦功を上げた。


「街道の嫌われ者から一転、今ではサンクタム王国の軍団長オルブリス様。リリアちゃんの家に火を放ったのもオルブリスの軍でした」


 元盗賊の寄せ集め。浄化という汚れ仕事をさせるにはもってこいの連中だ。

 今日まで見つからなかった理由にも納得がいった。サンクタムは外部からの干渉を拒む鎖国国家だ。


「だからキレたのか」


「うん……。ダメ……?」


「フツーの反応だろ。そうか、ならますます生かしちゃおけねぇな」


「あ、あまり強引なことをしたら後に響きますよっ!?」


 今や敵は一国の軍団長様だ。ぶっ殺したとバレたら確かに後々面倒なことになりかねない。


「ボクに、いい計画がある」


「呪いか?」


「そう、アイツに、呪いをかける……」


 リタは以前から仇を探しながら呪いの準備をしていた。そんなオカルトで人を殺すだなんて、宇宙海賊をやっていた頃の俺だったら笑っただろう。


 だがこの世界には魔法や呪いが当たり前に存在している。竜と魂を同調させる竜使いだってここにいる。

 詳しい計画をリタから聞いた。呪いをかけるために『その者の身体の一部』、あるいは『その者が大切にしている物品』を手に入れる必要があるそうだった。


 それと確実を望むならば非常に希少な触媒も。


「約束する……。オルブリス、あいつにさえ復讐できれば、他の復讐は諦める……。アムと静かに生きるって、約束する……」


 リタの碧と金の目から揺らぐことのない強い決意を感じた。それは病的なものではなく、困難を乗り越える力を持った強い戦士の目だった。


「んじゃその条件でアムも手打ちでいいな?」


「はぁ……。納得したわけではありませんけど、はい……わかりました……。でも、危ないことは絶対しないで下さいね、リタ……?」


「それも今回限り」


「リタ! 貴女が死んでしまったら私は独りぼっちになってしまうんですよ!」


「ううん、今は、キッドがいる……」


 どちらにしろポールさんとの武器防具の取引もある。リリアを連れて行く約束もある。そのついでに仇を始末すれば片付く話だ。


「だったら少し予定を繰り上げて出発してぇな。確実に呪い殺すには特別なブツが必要なんだろ?」


「殺さない。地獄を見せるだけ」


「ふーん……。ま、どうするかはお前らが決めることだ。仕入れに行こうぜ、呪いの道具をよ」


 いったい今度は何に感激したのやら、リタがまたちっぽけな少年に飛び付いてきた。


「キッドが、頭おかしい人で、よかった……」


「へっ! もう姉妹ゲンカなんてすんなよ? 見てるこっちが悲しくなるからよ」


「ごめんなさい……」


 少年は左右の頬に双子から祝福のキスをもらうと、ニヤニヤするクイナ婆さんに後ろ姿を見守られて、とにかく恥ずかしいので外に逃げた。


 ちょうど外ではリリアが芋の入った籠を抱えて、タマハラ族の女性の荷運びを元気に手伝っていた。

 肺も喉も今では完治して、激しく走り回ってもリリアがセキを吐くこともない。本当によかった。早くポールさんに今の元気な姿を見せてやりたかった。


「あ、キッドくん!」


「よぅ、バカンスだってのに手伝わせちまって悪ぃな」


「ううん、楽しいよ! 町にいた頃は、お芋なんて掘らなかった! パパもジジここに引っ越したらいいのにね!」


「そうだな。だがそうもいかねぇのさ」


 旅の予定が早まったと伝えるとリリアは舞い上がった。その理由が自分の家に火を放った外道の親分に地獄を見せるためだとも知らずに、リリアは無邪気に笑ってくれた。


 それを見ていたらこう思った。

 復讐を忘れて安寧を選ぼうとしたアムの方が正しかったのかもしれない……と。


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