・成り行き任せの結末 - お姉ちゃん大好き -
朝、紹介状を手にプラチナム・コートの問屋を訪ねた。そこで木炭と木材を空っぽになった船倉いっぱいに買い込んだ。アムが言うには驚くほどに安い単価だったそうだ。
「発信だポタモッ、今日中に手配してポールさんを驚かせてやるぞ!」
「アイアイサー、ヨーソロー! バカヤロー!」
「バカヤローなんて言っちゃダメですよ、ポタモ」
港町にばかりに停泊するせいだろうか。日に日にポタモの言葉使いが荒くなっていっている。
「今日はスピードを出すのですね?」
「おう、寒い地方はエンジンの放熱がいいからな」
エンジンルームの温度を監視しながら船を南下させた。サンクタム王国の森は深く、森や山々が育む湖も多かった。
快速で山を越え、険しい山岳と関所が阻む国境を越え、ものの二時間ばかりでアヴァロニア王国上空へと帰還することになった。
「西の空ばかりを見ていますが、リタが恋しいのですか?」
「な、何言ってんだよっ!? 別にアイツが何してるかなんて考えてねぇよ!」
「リタなら心配いりません。少しでも光臨の丘に物資を持ち帰れるよう、私たちは旅に集中しましょう」
リタは剣士だ。モンスター相手に剣を振り回して大ケガをしていないか心配だった。
「それよりオーホールド、見つかりそうですか?」
「わからない。地図ではこの道をたどれば目的地のはずだが……」
「地図を頼りすぎると遭難しますよ。地図が正しいとは限りませんから」
「原始人どもめ……」
一度たどり着いた土地ならばポタモのオートマッピング機能が目的地に導いてくれる。今日までポタモが測量してくれたデータと、羊皮紙の地図を見比べると頭を抱えたくなるほどにデタラメだらけだった。
だから俺たちは街道や海岸線をたどる。この街道を進んでゆけばいずれはどこかに、学術都市オーホールドと呼ばれる町があるはずだ。
そこでは学徒たちが生活のために写本を作っている。紙の生産も活発で、指定の本を手に入れるならばここが一番よいそうだった。
「少し休憩しましょう。サボってしまいましょう」
「お前、仕事中の人間になんてこと言いやがる……」
「今日はまだキッドにくっついてません……」
「よ、夜にしろよそういうのはっ!?」
「あっ、夜ならいいのですねっ!」
「よくねぇ!!」
アムも双子のリタがいなくて寂しいのだろう。周囲に町がないか目を配らせながら街道の上空を進んだ。
「嬉しかったです……寝言であんなことを言ってくれるなんて……」
「な、何……!?」
「私、自信が付きました……! これからも堂々とキッドを甘やかします!!」
「悪ぃが記憶にねぇな。し、知らねーよ、そんなん……っ」
副操縦席を離れて寄り添ってくるお姉さんと、モニター越しに監視を続けた。やがて学術都市オーホールドが無事に見つかった。
たどる街道は合っていたが、地図上の位置は全くのデタラメの反対側だった。
俺たちは木材と共にオーホールド大学の敷地に降下し、いやに若い学長との商談に入った。
「お嬢様はその値段では取引できないとおっしゃっている」
「いや、こんな押し売りのようにやってこられて、そのようなことを言われても困りますよ……」
アムはこの遊びがいたく気に入っていた。絹のロープで身を隠し、ヴェールで目元を隠したアムは再びやり手のお嬢様となった。
「勘違いしているようだな」
「お、脅しには屈しないぞ! オーホールドの独立精神を舐めるな……。いや、舐めない方が、いいですよ……? こちらは別に脅しで言っているわけではありませんから、勘違いなきようお願いします……」
先代と交代したばかりだという若い学長に、お嬢様は首を静かに左右に振った。
「お嬢様はもっと高く買うとおっしゃっておられる」
「え……!?」
「この値段で指定の写本全てをいただこう。構わないな?」
「あ、ああなんだ……そういうこと……。あ、ありがとう……売る、売るよ!」
頼りない学長に木材を売り込み、写本を仕入れるとトラクタービームで船に戻った。アムは交渉相手には一言もしゃべることなく取引を成立させた。
「ふふふ……っ、あの学長さん、元奴隷の私を大物の貴婦人か何かのように見ていましたねっ」
「実際その格好をすると気品を感じる。アムは元から言葉づかいも上品だしな」
「嬉しい……。そんなふうに言ってくれるのはキッドだけです……」
どうせ見つかったら焼かれてしまうので、サンクタムでは写本も原本も価値はそう変わらないそうだ。
「しかし買い叩いてもよかったんじゃないか?」
「ダメですよ。次の取引のことも考えませんといけませんよ」
「ま、出した分だけ在庫の復活は早くなるだろうな」
「それに学者さんたちは迫害されがちな方々ですから、他人事とは思えず……情が出てしまいました」
「学長からしてあのていたらくだ、無理もないな」
これで学術都市オーホールドがマッピングされた。次からは頭を悩ませることなくここにたどり着ける。
「ポタモ、シルクシティに向けて発進しろ。操縦はお前に任せる」
「ポタモ! ダイスキ、オネエチャン!」
「へ……? 何言って……はっ!? あ、ああぁぁ……っっ?!!」
「ふふふっ、ポタモも覚えてしまったんですね」
まさかこれが、アムが聞いたという俺の寝言……なのか……?
「ダイスキ、オネエチャン! ダイスキ、オネエチャン!」
「や、止めろ……っ、言ってねぇっ、止めろ、止めろよぉっっ?!!」
アムが幸せいっぱいに微笑んでこちらにうなずいた。
嘘だ、嘘だ、信じたくない。寝言でこんな生き恥をさらしただなんて認められない。
「私、幸せです……。もっと大好きなお姉ちゃんに甘えて下さいね……」
「ああああーっっ、何も見えねーし聞こえねぇ!! ああああーーーっっ!!」
「貴方に大好きって言ってもらえて嬉しかったです……」
男子の尊厳が悲惨なことになっても旅は続く。ポタモの自動操縦システムが船をシルクティへと運んでいった。
メチャクチャな羊皮紙の地図からはとても想像もつかないが、シルクシティはここから30キロばかし向こうにある山岳の反対側だった。
「思ったより早くこれたし、俺が降りて情報収集でもするか? あの問屋のおっさん、仇の盗賊と繋がってたはずだぞ?」
「その必要はないです……」
「アムはリタの復讐に反対か?」
「いえ……とにかくもう必要ないんです。シルクシティを調べても意味はありません……」
「……つまり、何か情報をつかんだのか?」
「知りません」
アムが不機嫌になるのでそれ以上は止めた。それからまた街道をたどり、鍛冶種族の村ダゲを探した。
地図の地形を信じずに枝分かれする街道の名前だけを信じる。街道から町へ、町から街道へとたどってゆくと、深い山脈と森に道が飲み込まれていった。
やがて黒煙が上がる拓けた土地を見つけた。村と呼ぶよりも町の方が正しい鉱山町がそこにあった。
「取引を始めましょうか、キッド」
「お、調子が戻ってきたな?」
「はい……。帰ったら、キッドにだけは全部お話しします。でも今は――アムお嬢様と呼んで下さいね」
「では参りましょう、アムお嬢様」
「ふふふ……」
楽しそうにアムが笑い声を上げた。俺たちは石炭と残りの木材と共に、鍛冶種族の村ダゲに降下した。
そして普段通りにアポも取らずに代表の元に押し掛けて、品物を見せつけて交渉のテーブルにつかせた。




