・ブラックマーケットを求めて - 親切な恐いお兄さん -
三時頃になると全ての商品がさばけた。台車と売上金をトラクタービームで回収させて、金勘定は船で退屈しているアムに任せた。
「いくらになった?」
休憩がてらに人気のない海岸を散歩して、頃合いを見て空にそう聞いた。
「あ……ごめんなさい、まだ数えていません」
「そうか。意外だな」
あの金貨と銅貨の山を見せたらどれだけ明るく笑ってくれるのだろうかと期待していたのに、アムは稼ぎ以外の何かに意識を奪われていたようだった。
「何か珍しいものでもあったか?」
「え……!? う、ううん、なんでもない……なんでもありませんから……。わっ、こ、こんなにっっ!?」
今さら船倉を確認して稼ぎに驚いたようだ。鎖国国家相手の密貿易は雑に美味い商売だった。
「一度船に戻った方がいいか?」
「大丈夫、心配させてごめんなさい。ちょっと思いもしないものを見つけて、驚いちゃっただけだから、大丈夫です……」
人には話せないような出来事なのだろうか。アムはそれ以上説明しなかったのでこちらも追求は止めた。
そんなことよりもここからが本番だ。これから仕入れの品を探す商人のふりをしてさっきのバザーや店を回る。これだけ大きな商業都市だ、ブラックマーケットがどこかに必ずあるはずだ。
取っかかりを求めてプラチナム・コート市内を回った。
「酒、売ってねーな。武器屋もねぇ」
「ええ、そうですね……。武装している人は兵隊さんと水夫さんだけみたい。……あ、ポタモもそうだと言っています」
「なんか変な国だ。飾り気がないっていうか……なんでこんなに壁が真っ黄色なんだ?」
「後から塗ったのではないでしょうか。古い建物をズームアップしますと、どれも白い塗り残しが少しだけあります」
「ふーん……ますます変な国だな。白い方が港町には似合うんじゃねぇのか?」
バザーを離れて目星を付けておいた盛り場の方に移動した。まだ夕日も出ていないのに通りには商売女がちらほらと立っていた。景気がよくない証拠だ。
「ダ、ダメです……っ! キッドにはこういう場所はまだ早いですっ!」
「見た目はこんなんだが俺はガキじゃねぇよ……」
「同じことです! わ、私たちの清らかなキッドが汚れてしまいます!」
「いや俺のどこに清らかな要素があるんだよ……」
「とにかくダメですっ、キッドは私とリタ以外を見ちゃダメですっ!」
商売女たちはさすがお子様にはちょっかいをかけてこなかった。昔はうざったく感じられた客引きも、ガキ同然の身体になると恋しくすら感じる。
誰も相手をしてくれない盛り場を寂しく進むと、陰気な袋小路に行き着いた。崩れた建物が細い道をふさいで生まれた、いかにも政府の目が届いていない土地だった。
通行は出来ないが問題ない。こういった交通の便が途絶えた土地を好む連中を俺は知っていた。
「キッド、危ない人たちに近づいちゃダメですっ、そこを離れて!」
後ろ暗い問題を抱えているやつがこういった場所を好む。余所者に対しては好戦的で、縄張りを侵害されることを何よりも嫌うやつらが住み着く場所だ。
「どこから迷い込んだの、坊や?」
「あっち行きな、ここはガキが来るところじゃない」
「ひどーい、子供だけにはやさしくしてあげなよぉー?」
「黙れ、余所者もガキもここは立ち入り禁止だ!」
ここの者たちはそう悪いやつらではなさそうだった。危険な土地から子供を遠ざけようとする良いお兄ちゃんの警告を無視して俺は彼に近付いた。
「お兄さん、酒臭い」
「なっっ?!!」
「キャハハハハッッ、だから言ってるじゃん! バレバレだからちゃんとしなよってさーっ!」
この国では酒を売っていない。酒を振る舞う店も見かけない。なのにこの20代そこらのガラの悪い目付きのお兄さんからは酒の臭いがほのかにした。
「おいガキ、チクッたら海に叩き込んでやるぞ!」
「言わない」
この様子からして酒もご禁制のようだ。だとすれば、この恐いお兄さんはご禁制の品を手に入れるルートを知っていることになる。
「それよりお酒、どこで買ったの?」
「ガキが酒なんて飲みたがるんじゃねぇ!」
「そうだよ、坊や。コイツみたいなバカなっちゃうよーっ、キャハハハッッ!!」
酒は脳や内臓に悪い。だから禁止。宇宙では誰もが知っている常識だ。けれど人間ってのは愚かなもので、毒だとわかっているのにこれを飲みたがる。特に天然の醸造酒、ビールやワインが宇宙の悪い大人には大人気だった。
「俺が飲むんじゃないよ。仕入れて売るために、どこで売っているのか教えてもらいたいんだ」
「バカなところ言ってねぇでママのところに帰れ!!」
「ママ……? 俺の母親は俺を売り飛ばして、たった数十枚の金貨を握って笑っていたよ」
「うわぁ、酷……」
こういった場所に集まる若者はだいたい家庭環境に恵まれていない。お姉さんもお兄さんもあっさりと俺に同情してくれた。お兄さんも意外と素直だった。
「いくら金がないからって売人は止めとけ……バレたらガキでも処刑されるぞ……」
「どうしても大金を稼ぎたいんだ。俺が稼いで帰ってくるのを待ってるやつらがいるんだ」
嘘は言っていない。大金を稼いでどや顔でリタの前に帰るためにも、この町のブラックマーケットを特定したい。
「お前……将来とんでもない悪になりそうだな……。よし、見所はありそうだ、紹介してやる」
「え、教えるの!? まだ子供だよ、この子!?」
「口と根性だけは大人顔負けだ。俺についてこい、特別にポールさんに紹介してやる」
肩で風を切る恐いお兄さんの背中を追って町を進んだ。裏路地を離れて治安の良さそうな中心部に入って、そこにあった床屋さんを訪れた。
「通るぜ」
お兄さんはそうとだけ言って店のさらに奥に入って、我が物顔で住居のイスに腰掛けた。キッチンの方から魚の焼ける匂いがした。
「あ、トム、いらっしゃい」
「よぅリリア、ポールさんはいるか?」
「うん、夕日がオレンジ色になる頃に帰ってくる」
リリア。どこかで聞き覚えのある名前と甲高い声だった。
「紹介したいガキがいるんだ、待たせてもらうぞ」
「あっっ、その子っ、さっきのっ!!」
見ればその子はうちの露店にやってきた小柄な女の子だった。となるとこのキッチンから届く香ばしい香りは、あの時くれてやった塩漬け魚なのかもしれない。




