・密告者 - 力なき姉妹は海賊に願った -
それから2時間ばかしでシルクシティに到着した。だがトラクタービームによる降下のために船倉に移動すると、リタとアムが少年にくっついて離れなくなった。
「離れろ……」
「怖い……」
「なら残れ」
「キッド一人に行かせるわけにはいきません! こ、怖いですけど……」
「だったら堂々としてろ。こっちがキョドッてたら向こうの様子がわからなくなるだろうが」
海賊式ならどやしたりケツを叩いてやるものだが、リタとアムにそんなことが出来るわけがない。
だから俺はリタを正面から抱き締めた。頼りない少年がこんなことをしても励ましにならないかもしれないが、アムにも同じことをした。
不思議と二人の震えが止まっていった。
「守らなきゃ……」
「私たちが怖がってる場合じゃありませんでした。私たちがキッドを守らないと」
「サンキュー、ちょー勇気もらった」
「へっ、笑ってくれんなら理由はなんだっていいぜ……」
積み荷はそのままにしてまずは3人で町に降りた。取引をするのは相手の様子を見てからだ。
夕刻もあってか町は先日に輪をかけて辛気くさかった。フードロープのおかげで避けて通られるようなことはなかったものの、景気の悪い顔をしたやつらが重い足取りで街を歩いていた。
標的は既に上空から居所をつかんでいる。問屋の敷地で積み卸しの指示をしていることを確認済みだ。そこにアポなしで押し掛けて、どんな顔をするのか確認する。
計画通りに裏口から門を越えて入り込み、問屋のおっさんの背中に立った。
「こんにちは、ハリスさん」
「ん? どちら様です――ハッ、ハァハッッ?!!」
まるで幽霊でも見たような顔で、ハリスとかいう問屋はひっくり返りそうになった。この反応からしてどう見ても黒だった。
「突然押し掛けて申し訳ございません」
「ア、アムくん……町をまだ出ていなかったのだね……? 私はてっきり……」
「てっきり、なんですか?」
「おお、そちらはリタくんだね? こちらも美人になったものだ」
アムの質問をハリスははぐらかした。リタの成長をやさしい笑顔で喜んだ。しかしリタは笑わなかった。ただただ真顔で、何も言わずにハリスを凝視した。
「な、なんだね……? 私のことを忘れてしまったのかね……?」
「覚えてる」
「そ、そうかい……」
「今度は、聞かないの?」
「な、何をだね……?」
「『次はポート・ブルーに行くのかい? 他の町には寄らないんだね?』って」
「うっ、うぅぅ……っっ?!!」
やはり黒だろう。ハリスはあまりの動揺に後ずさり、バランス感覚さえ失いかかった。
「お、お前たちっ、この者たちをっ、この者たちを囲めっ、絶対に敷地から逃がすなっっ!!」
リタとアムは失望した。まだ心のどこかで彼を信じていたのだろう。ところが彼は、タマハラ族のキャラバンを襲った者たちと全く同じだった。
「こいつらはコンスウェル様の奴隷だ!! コンスウェル様に差し出せばそれだけで大金が舞い込むぞ!!」
「6年前、私たちのキャラバンを盗賊に売ったのは、貴方なのですか……?」
「貴様の父はタマハラ族の分際で私から値切ろうとしたのだ!! だから腹いせに情報を売ってやっただけのことだ!!」
酷い世界だ。どいつもこいつもクソったれだ。信じられるのは一握りの人間だけで、それすら自分を裏切るかもわからない仁義なき世界だ。
「キッド……」
「なんだ?」
アムとリタが俺の名を呼んだ。失望と諦めと、静かな怒りを感じた。
「もういいです……貴方のやり方で、もういいです……」
「殺して」
力なき姉妹は海賊に願った。己を虐げた者の死を。
「当然の権利だ。ならここからは、宇宙海賊の流儀でやらせてもらうぜ。我が竜ポタモトリゴンよッッ!!」
腕を掲げ、天空に身を潜める重戦闘機にして混沌の竜ポタモトリゴンの名を呼んだ。
既に命令は下してある。俺がこの動作をして名を呼んだとき、レーザータレットの照準を全ての敵に合わせろ、と。
「ガキは殺しても構わんっ、捕らえろぉぉぉーっっ!!」
そして腕を振り下ろしてこの言葉を叫んだ時は――
「ポタモ、フルブッパだっっ!!!」
全タレットを使って敵対者全てを焼き払え、と命じていた。
「あ、ああっっ!?」
駆逐艦用のレーザータレット12門の赤い光が降り注ぎ、俺たちを囲む外道どもを消し炭すら残さずに焼き払った。
コイツは対人用じゃない。対艦用だ。レーザーにそって大地が融解し、水蒸気を含む熱風が俺たちを包み込んだ。
後に残ったのは煤と悪臭と静寂だけだった。天を見上げると12門の砲門が発熱し、その熱が陽炎となって空を歪ませていた。
「つよ……」
「わ、私たちが乗ってた船って……えっ、えっ!?」
「ポタモめ、いくら俺たちのピンチだからといって張り切りすぎだろが……」
さすがに派手にやり過ぎた。シルクシティのあちこちが大騒ぎになっている。
「ここでの商売はしばらく止めとこうぜ。ポタモッ、俺たちを回収しろ!!」
迅速なトラクタービームで俺たちは重戦闘機ポタモトリゴンに戻った。リタとアムは何も言わなかった。親や仲間の仇のうち一人を討ったというのに、いつまでも放心したままだった。
それからしばらく待つと二人は落ち着きを取り戻した。交易の計画が台無しになって、アムは軌道修正に難しい顔をした。
「ありがとう、スッキリした……」
「モラルには反しますけど、ずっとここにあった胸のつかえが、取れたみたいです……。両親と仲間の仇を討って下さり、ありがとうございます……」
俺たちはクソったれなこの世界から数名の悪党を焼き払った。良い人かと思ったのに、まさかあんなやつだったなんて……。正直、宇宙の無法者をやっていた俺ですら、疑心暗鬼に陥ってしまいそうな出来事だった。
この世界の住民は平気で人を裏切る。信じられるのはアムとリタだけだった。




