戦いが終わらなくても
滝さんは寂しいだろう、辛いだろう、1人だけアジトに連れ去られて
知らない場所で1人で生きるのは大変なことだ
俺はずっと1人だったから身に染みて分かっているつもりだった
「……この街は元々、平和な街だったのに どうしてこんなことに」
滝さんが連れ去られたあと、俺は思わずボソリと呟いてしまった
「私が戦いを止められないでいるのだ」
小さくつぶやいたつもりだったが、司令官に聞かれてしまった
「ハッ…ごめんなさい!」
俺は慌てて司令官に謝った
「この戦いは、早々早くに終わらないだろうと覚悟しているんだ 1番最初の敵、カルテー二と戦っていた時から覚悟していた」
「カルテー二…?」
司令官室の中には沢山の資料がある 司令官は棚の中からファイルを取り出した
「カルテー二のいたアジトの本拠地が、沈まない限り、いつまでもこの街には平和が来ない」
そう言いながら司令官は俺と傍にいた雅人、翔月にカルテー二の写真を見せる
「これが、カルテー二… 」
「中々しつこい敵だった 今は沈黙しているよ 敵も私と同じ透明な体をしている 物理的な攻撃は効かないのだ」
「でも、滝さんは棍棒ですよ?」
俺が不思議に思うと、司令官は椅子から立ち上がった
「まあ、各自各々、得意な武器はあるからな ……滝、武器を取らずにジャヤに攫われたか」
司令官は棚の端にたてかけてある長い棍棒を見て驚いていた
「じゃあ、滝さんはピンチじゃないですか!!」
「滝は自分の中にある敵の力で倒そうとしているな… そんなことをしたら…貴明の二の舞になる…!」
「親父さんと同じく、破滅の道を!?」
雅人も心配している
「――3人とも、力を貸して欲しい 最悪、滝と対決するかもしれない敵の力が残っているからな アジトには、滝の生まれ変わり、トヴァースを行かせている」
「了解しました!!」
司令官は俺をじっと見た
「大胡、滝を…よろしく頼む」
「……助けてみせます、必ず」
俺は滝さんと知り合って短いけれど、1人になんてさせない 滝さんはきっと、孤独で、寂しい人
俺たちがテレポートでアジトに向かっている間、司令官室には純さん、智嬉さんが後から入ってきた
「……俺も行くよ 司令官」
「純 滝に会ったら、棍棒を渡して欲しい」
棚に立てかけてある棍棒を純さんに迷いなく手渡した
「これ今までと使ってるやつと違うじゃないですか?」
「ああ、能力者に必ず効き目があるように私が仕込んだ 今まではただの木製の棍棒だが、今回は違う 黒く透明な棍棒だが、まあ見ていれば分かるよ」
司令官はそう言うとにっこりと笑った
「戦いを、終わらせたいだろう? 長く苦しい戦いを終わりにして、お前たちを解放させたいんだ」
「……司令官…」
「可能性はゼロに等しいんでしょう?」
「智嬉?」
智嬉さんは司令官の言う事を信用していなかった
「あのカルテー二時代からあるアジトは、貴明でさえも潰せないのだ だから平和が来ない…!!」
「俺たちが、力を合わせたら潰せるといいのですが」
するとモニターから悲鳴が聞こえた
『あぁぁぁ――!!!』
「この声は!?」
「アジトにいる滝の声だ!!」
「純、行こう!!」
「滝、待ってろよ、すぐ行く!!」
司令官は慌ててモニター画面を確認した
(あれは滝の姿…滝の紫のオーラが増幅している…このままでは滝の身体が大変なことになる!! )
「まずいな、私も行きたいがここを留守にする訳には…」
その時、ある1人の男性が司令官室に現れた
「司令官 遅くなりました 入ります」
「おお、君は蒼山圭介!!」
蒼山圭介 滝さんの弟 圭介さんも能力者である
「司令官、ここは俺が待機します 話はすべて瞳さんから聞きました 兄貴が多大な迷惑を…っ!」
圭介さんは深々お辞儀をした
「気にするな、私たちは大丈夫だよ 圭介、しばらくの辛抱だ 私はアジトへ行って、君の兄を救ってくる 必ず」
「……司令官、兄貴をよろしくお願いします!!」
司令官も俺たちのいるアジトへ向かった
「……兄貴 司令官が向かったから、頑張って耐えてくれ…」
そして、過酷な戦いがはじまる――