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「美人だって言われませんか?」


僕がそう言ったとたん、彼女は声を立てて笑った。


「ありがとうございます。でも、特に言われたことはないかな」


口ではそう言いながらも、表情にはどこか余裕があり、まんざらでもなさそうだった。


ナンパなんて営業みたいなもので、声をかけるだけならバカでもできる。大事なのは、その先だ。相手を口説き落とせるかどうか。


「ひょっとして、この辺りに住んでるんですか?」


「ん? ぜんぜん違うところです」


「待ち合わせか何かですか?」


そう尋ねると、彼女は僕の予想もしなかったことを口にした。


「これから幼稚園に娘を迎えに行くところなんです」


「なんだ、結婚してるんだ」


ずっこけながら言うと、彼女はクスクスと笑った。


人妻だと分かっても、不思議と気持ちは冷めなかった。むしろ、男との距離の取り方を心得ているような雰囲気に、かえって魅力を感じた。


まだ昼過ぎだったし、僕はめげずに誘ってみた。内心の動揺を悟られないように、「どこかでお茶でもどうですか?」と続けた。


「今、してたところなんです」


彼女はそう言って、テーブルの上のカップにちらりと目を向けた。


「べつの店で」


僕が強めに言うと、彼女はまた笑った。


コーヒーを飲みきると、彼女は「これから本当に娘を迎えに行かなきゃいけないので」と言って席を立った。会計を済ませ、そのまま店を出ていった。


僕は諦めきれず、彼女の後を追った。


彼女はちらりと振り返りながら、通りを歩いていった。僕も懲りずに話しかけたが、なにせ人妻じゃ、乗り気じゃないのも無理ないか。もっとも、俺がモテないからかもしれないけど、そんなこと、いちいち気にしてられるか!


やがて僕は溜息をつき、肩を落として追いかけるのをやめた。


雑踏の中に消えていく彼女の背中を見送りながら、僕は一人取り残された。


こんなふうに、僕の頭の中はいつも女のことでいっぱいだった。なにしろ、三つのときから女が好きでさ。独学で女の研究に勤しんできたわけだが、だからといって、女性にまつわる何か特別な出来事が起こるわけでもなかった。


どこにいても、何をしていても寂しかったし、毎日がなんかつまらなかった。


いつも孤独を感じ、死を思いながらも、どこかで人生への望みを捨てきれずにいた。そして、他人が書いた物語ではなく、自分自身の物語を探していた。


現実から離れた物語ではなく、自己の内面的な要素に基づく物語を。



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